第58話「荒野のラッキースケベ」
キャッサバ1万本(300万円)
とうもろこしの種85万粒(197万2000円)
チェリナに金を受け取って並べた量は、なかなか壮観だった。種は大きな麻袋に移したのでそんなに場所を取らなかったが、枝1万本はかなりの量だ。もっともジャガイモと比べればはるかに少ない量ではあったが。
このキャッサバという植物、実はとんでもないチート植物なのである。まず育成条件なのだが乾燥地、酸性土壌、貧栄養土壌でも育つ。それだけでもとんでもないのに、育て方は簡単でなんと枝を地面に刺すと勝手に育つのだ。これがチートでなければなんだというのだ。
たまに読む内政チート物だとよくジャガイモが出てくるが、キャッサバ芋こそが真のチート芋だろう。
本来であれば欠点として皮や芯のあたりに毒が含まれているのだが、SHOPの能力でその欠点まで無くなっている。
さらにヤラライに確認してもらったところ、この地域の気候であれば3ヶ月で大きくなり6ヶ月もすれば芋が収穫できると教えてくれた。これもおそらくSHOPで品種改良されているのだろう、実際は1年近くの育成期間が必要になる。
そんなただでさえチート芋であるキャッサバがスーパーチート植物になってしまっていた。
……それを見て触っただけで理解してしまうヤラライもとんでもないが。……どうやら精霊に聞いたらしい。便利だな精霊。
「ヤラライ、明日にでも商会に育て方を教えてやってくれよ。お前が教えてくれれば安心だ」
「了解」
ヤラライが軽く頷く。
「ありがとうございますヤラライ様。ハッグ様にもヤラライ様にもなにかお礼を考えなければなりませんね」
「ならワシャ珍しい金属か美味い酒がよいの」
「俺、荒野を開拓、十分」
「それではハッグ様にはお酒と……金属は倉庫を探してみましょう。ヤラライ様にはお気持ちをお包みさせていただきますわ」
「うむ」
「しかしこれで全てが枯れてしまったら、商会は無くなってしまうかもしれませんね」
クスリと笑う。笑うところじゃないと思う。
「なあ、やらせといてなんだが、本当に良かったのか?」
考えてみたら堆肥の確保の他にも土地の確保や水の確保だって金が掛るのだ、もしかしたら日本円で億に届くような事業になるかもしれない。
「もちろんです。わたくし共は……保守的になりすぎていたのかもしれません。ここで食料が大量に作れるようになれば、たとえこの国が現状のままでもまた栄えることが可能かもしれません。それは最終的に商会の発展と同じことですからね。今は勝負の時なのです」
チェリナの紅い瞳が燃えている。
「親父さんに相談しなくていいのか?」
「父はもうそろそろ戻る予定なのですが、今回はかなり長い行程を予定していますから、日程のズレは必ず発生します。いつ戻るかわからない父を待っていたらアキラ様が旅立ってしまう可能性もありますし、何より父の留守中は全ての運営をわたくしに任されております」
「そうか……」
俺はチェリナの決意を見て取り、それ以上何も言わずにタバコを取り出した。
「ああそうだ、ライターはどうする?」
「そうですね、もう実験も終了しましたし、この場で出してもらって良いですか?」
「ああ、だが本当に1万個も買うつもりか? 一千万円だぞ?」
「即金で問題ありません。ライターに関しては100%利益になります」
「大丈夫かよ……売れなくて潰れたりしないだろうな?」
「2ヶ月で元を取ってみせますわ」
ニコリと微笑むチェリナ。うん。大丈夫そうだわ。
チェリナの指示で大量の真輝大金貨を運んできた小僧が倉庫の中を見て目を丸くする。チェリナがその唇に指を一本立てると小僧は顔を真赤にして首を何度も上下に振った。
残金990万9949円。
【神格レベルが8に上がりました】
【コンテナ容量が45個になりました】
おおう、上がったな。
金額の割に1しか上がってないが……。最近鍋とかでコンテナ容量が圧迫されてたから増えるのはありがたい。
しかし一気に金持ちになったもんだ。そしてその額をポンと出すチェリナのヴェリエーロ商会が恐ろしい。ようやくナルニアの言っていた意味がわかってきた気がするぜ。
日本でこれだけ稼いでいたら、あの会社速攻で辞めてたな……。
「わかった。じゃあ出すぞ」
約束の100円ライター1万個を取り出して倉庫の隅に積み上げる。
まぁ1万個と言っても所詮ライターなので、大きめの段ボールで2~3箱分と言った量で済む。
「火気厳禁だな」
俺たちは倉庫の外に出てからタバコに火を点けた。ハッグとヤラライも吸い始める。チェリナの視線がどこか羨ましそうに見えたのは気のせいだろうか。
「俺の故郷じゃ身体に悪いって言われてるから吸わないほうがいいぞ」
チェリナに念を押しておく。吸わないに超したことはないのだ。
「そうなのか? ワシらに取っては薬扱いなんじゃがな」
「へえ、そうなんだ」
「うむ」
所変わればってやつか。いや、地域は忘れたけど地球でも昔はタバコを薬として扱っていたって話も聞いたな。コーヒーなんかも薬扱いだったし似たようなもんなのだろう。
「アキラ様は毒だとわかっていて吸うのですか?」
「うーん、正直言って毒っていう認識は薄いんだよな、吸ってないと落ち着かないし。俺が思う最大の害悪は匂いだと思うんだわ。吸わない人間はタバコの臭いに敏感だからな。向こう……俺の住んでいた地域じゃその辺は出来るだけ気を使ってたぜ」
こっちに来てからは適当だけどな!
「わたくしは気になりませんね、旅商人で吸う人も多いですから」
「そうなのか? 結構高いって言ってたよな」
「はい。それが良いのかもしれませんね、商人として箔付けという部分もあるのでしょう」
「ああ、なるほどな」
値の張るタバコを吸えるほど、俺は腕の良い商人なんだっていうアピールになる訳か。
「そんな風に考えるのはヒューマンだけじゃわい」
ハッグがぷかーとキセルを咥えたまま煙を吐き出す。
「ああ。見栄が、多い」
ヤラライも長く煙を吐き出した。WHOが怒り狂いそうな絵面である。
「辛辣ですね」
「人は意味のないことに力を入れ過ぎなんじゃ」
「あまり否定は出来ませんね、そろそろ夕食ができた頃でしょう、食堂に行きましょう」
「おお! アキラ! 急ぐんじゃ!」
「……吸い終わるまで待てよ」
高いんだからよ。
一服終わるとハッグにせっつかれて食堂に向かった。
――――
夕飯は前日の料理にインスパイアされた料理が並んでいた。どれも料理長フーゴの力作である。
メニューは多種に及んだが、特に鯛しゃぶとフライに力を入れているのが見て取れた。味付けの方向性は違うがなかなかに美味な食事に舌鼓を打って宿に帰宅した。
そしてナルニアに愚痴を言われた、ぐちぐちと。
「お兄ちゃんたちだけ美味しいご飯を食べてきたんだね……あの唐揚げお刺身たこ焼き……ああ、どうせ私は能のない宿屋の看板美少……むぐー! んむぅ!」
鬱陶しいから口に飴玉を2つ放り込んでやった。別々の味を同時にだ! ふはは! 鬼畜の所業よ! ……どうでもいいが自分で美少女って言いかけなかったか? 幼女ナルニアよ……。
残金990万9933円。
俺は幼女を部屋から追い出して、服を全部脱ぐ。もちろん変態的な行為をするためではなくて、清掃の空理具を使って洗濯をするためだ。
洗濯といっても水や洗剤を使ったものではなく、理術という魔法を使うのだ。物を綺麗にする理術を発動できる空理具「清掃」に服が綺麗になるイメージを送ると対象である服が軽い発光現象を起こして今日一日の汗や泥を砂として浮かせるのだ。
最後にその砂を軽く払えば洗濯終了である。不思議な事にその砂は軽く払うだけで残ること無く地面に落ちるのだ。
床に落ちた少量の砂は明日宿の従業員であるナルニアが掃き掃除をしてくれるので気にすることはない。
清掃の理術は身体にも掛けられるのだが、正直全然さっぱりした気がしない。なので俺は水と熱湯をブレンドし適温のお湯をバケツに溜めて取り出す。
残金990万9930円。
お湯で絞ったタオルを使って体中を拭う。
「風呂はいりてぇなぁ……」
いやまてよ、明日には耐熱レンガも木炭も出来上がるのだ。しかも水は茶色いとはいえあの場所なら水も豊富だ。
「……作っちまうかな?」
それはいいアイディアかもしれん。
風呂に入れると思ったら鼻歌でタオルで身体の汚れを拭う。そして股下を拭くタイミングで。
「お兄ちゃん! お小遣いをもらったから飴玉を売っ……ひああああああ!」
……。
またかよ。
ノック一つしないで飛び込んできたナルニアは俺のガニ股に開いた臀部を真正面から拝む形になり、悲鳴を上げて飛び出していった。
俺は部屋の鍵を閉め、心の中でナルニアに謝罪した。
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