第57話「荒野の秘密の告白」
街に戻った俺達は、ヴェリエーロ商会に戻っていた。
「お嬢、先ほど伝令が来てモルモレ商会と面談の約束を取り付けました。明日の午前であればいつでも良いと。また向こうからこちらにおいで頂けるとの事です」
「こちらからの申し出です、それでは義理を欠くのでは?」
「問題ないかと、普段も仕事を回している状態ですので」
「わかりました、それでは明日来ていただけるよう調整してください」
「はい」
伝令を出してからここまで来るのにあまり時間はたっていないのにもうアポイントメントを取り付けたのか。手際がいいな。
「これからアキラ様と用事があります。開いてる倉庫はありますか?」
チェリナはとっとと話を進める。切り替えの早い女である。
「倉庫ですか? 2番と6番が空ですね」
「わかりました。6番に人を近づけないようにしてください」
「はい」
メルヴィンとは別の側近がやってきてが手際よく手続きを進めてくれる。ヴェリエーロ商会は腕利きが多い。前の会社にいたらさぞ活躍してくれたろう。もっとも彼らほど優秀なら俺と関わる部署にはいなかっただろうから、俺との接点は出来なかったろう。
「では行きましょう」
チェリナは俺だけに言ったようだが、当然俺の護衛であるエルフのヤラライと、暇そうなハッグも付いてきた。
「あの……」
チェリナは何か言いかけたが、俺がそこに割り込む。
「ああ、ハッグは大丈夫だ。ヤラライは……」
数秒考えるがすぐに決断した。この男は信用出来る。いや、信用したいというべきか。
「ヤラライ、今から俺の秘密を見せる。誰にも言わないと約束してくれるか?」
「アキラ様?!」
「チェリナ、ヤラライなら大丈夫だ、どうだ?」
「うむ。ようやく、アキラ、俺を、友と認めてくれた」
え、どういうこと?
「アキラ、秘密がある、気づいてた」
マジかよ!
ヤラライが鋭いのか、俺がダメだったのか。どちらにせよちょいと凹むな。
「そ、そうか、それを見せるから他言無用で頼む」
「無論」
ヤラライが大きく頷く。その横でチェリナが「ハッグ様も知っていたのですか……二人だけの秘密じゃなかったんですね……」と呟いている。あんたの草も知っているだろうに。
「じゃあやるか」
チェリナの案内で6番倉庫に向かった。そこは豚王……この国の国王であるピラタスⅡ世国王陛下の謀略によって必要になったジャガイモをこっそりと取り出したあの倉庫だった。
「ここか」
数日前の事なのに妙に懐かしく感じる。こっちの世界に飛ばされてからもう10日は過ぎてるんだよな。
俺はしばらく腕を組んで考える。
「さて、チェリナ、前も言ったがとうもろこしとキャッサバを出そうと思うが、予算は?」
「そうですね……最大で500万までなら大丈夫でしょう」
「そりゃ心強い」
俺はキャッサバととうもろこしを値段を確認する。もちろんキャッサバは毒無しを意識してある。
【キャッサバ挿木(10本)=3000円】
【とうもろこしの種(500粒))=1160円】
「さて、まずはキャッサバだが、一気に1万本いくか!」
「一万本ですか?!」
「おう、半分の5000本を即植えて、残りの5000本は少しずつ時期をずらして植えていけばいいと思うぞ」
「だ、大胆ですね」
「本来農業なんてのは試行錯誤を繰り返すんだろうけどな……植えたから生えるなんて甘いことは考えていないが、なんでか成功するイメージしか沸かないんだよな……なんでだろ?」
俺ってこんな脳天気な性格をしてたっけ?
「……いいでしょう、しかしまず、見本を見せてください」
「それもそうだな。ほれ」
俺は10本束になったキャッサバの枝を取り出した。枝の長さは30cmほどだろうか。
「! アキラ、何した?!」
アイテムボックスを通さずに直接俺の手から商品が出てきたことに、ヤラライが声を上げた。
「これが俺の能力。SHOPっていう能力らしいんだが、俺が住んでた地域の品物や、条件付きでこっちの世界の品物を……神さまから購入して出し入れする力だ」
俺はコンテナ……、SHOPと一緒に使える能力である、アイテムボックスと似た力を持っているコンテナに枝の束を出し入れする。手に触れると消えて、また手から飛び出す枝にヤラライが絶句していた。
「……使徒……」
ボソリとヤラライが呟く。
ああ、やっぱりその厨二病っぽい名称が出てくるのね、やだなぁ。
「いや、ギフト、か?」
ん? 聞いたことない単語が出てきたぞ?
「ギフトってなんだ?」
お歳暮か?
「生まれつき持つ、特殊な、能力」
「……まんまだな。それってどんな能力があるんだ?」
「アキラ様、ギフト持ちはその能力を隠すのが普通です。正確にはわからないのですが、一説には物を透視する能力や、未来を知る能力があると言われています」
「何だそりゃ、使い方次第で無敵じゃねーか」
「はい、なのでギフト持ちは徹底的に秘匿されると言われています」
「はっきりしねーな」
「そもそもギフト持ちが実在するかも怪しいですからね」
「ふーん。まあその辺はどうでもいいか、取り敢えず神さまからもらった力だってのは間違いなさそうだぞ、声だけだが会話したしな」
「使徒……」
ヤラライは考え込んでいる。ファンタジーな世界なんだから神さまなんぞ珍しくもないだろうに。
「ああ、そうだヤラライ、このキャッサバの栽培方法とかわかるか?」
ヤラライは思考を中断して枝を手に取る。
「……問題無い」
「この地域で育ちそうか?」
「水はけ、水没、この2つ、注意すれば」
「おお」
「ならば雨期に備えて排水用の水路と、水やり用の用水路の2つの整備が必要ですね」
「水やりは、しばらく人力で、排水路先」
「わかりました。これは……もう隠しての作業は無理ですわね、大々的に農夫を集めましょう」
「んじゃこっちはどうだ?」
俺はとうもろこしの種500粒の入った袋を取り出してヤラライに渡す。
「とうもろこし! これは良い種」
「知っているのですか? ヤラライ様?」
「これ、荒れ地に強い。連作強い。美味い。ただ植える前、植えた後、2度堆肥ないと育ちにくい」
「う……」
チェリナはまだ堆肥に抵抗感があるようだ。
「使うことを決心したんじゃないのか?」
「……条件反射です」
まあわかるわ。
「なあヤラライ、堆肥を使わなかったらどうなる?」
「この種、きっと育つ、収穫量激減、身も細くなるが」
「育つことは育つのか」
「河沿いの土なら、悪くない、荒野は、堆肥必要」
「ふむ……」
「大丈夫ですアキラ様。すでに堆肥を使うことは決意しております」
「そうか……それじゃあキャッサバととうもろこし出して平気か? いや待てまだ堆肥の取引が終わってないんだよな」
「大丈夫ですよ、その程度の取引は簡単に成功させますから」
チェリナがコロコロと笑う。その表情を見る限り大丈夫なのだろう。
「じゃあ出してくから、うまく積んでいってくれよ」
「なんじゃワシも手伝うんか?」
ハッグがつまらなそうに呟く。
「お手伝いいただいたら夕飯とお酒をご馳走しますわ」
「おう! なら手伝ってやらんこともないの!」
ハッグの腕まくりが作業開始の合図になった。
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