第52話「荒野のレッツタコパーリィィー!」
「またタコですか……」
「あと2品あるって言ったろ? これがその一つだ。まだ偏見があるのか?」
「簡単には抜けませんね。タコの刺身はまぁまぁでしたが」
「あれとは味の方向性が全く違う。ちょっと驚くぞ」
「アキラ、唐揚げとはさっきのキモい魚と同じ料理か?」
「まあ同じ料理法だな。細かくは違うがその辺は気にするな」
「あれは美味かったからの、さっそくいただこう」
相変わらずハッグはどんな食材でも躊躇なく箸を出す。種族的な理由なのかハッグが変人なのか気になるところだ。
「ふむ。おお! これは美味いぞ! 表面はカリッと、中はプリっと! 味付けは濃い目だがタコとのバランスが絶妙じゃ! 酒が進むの!」
相変わらずの速度で酒と唐揚げを飲み込んでいく。唐揚げは飲み物ですよね。
「俺も……うん。美味」
「私もー! ……んん~~! これも美味しい! 私これ好き!」
「これが先ほどと同じタコとは思えませんね。しっかりと味付けされた表面の味と、タコの味が噛みしめるほどにお互いを引き立て合います。これは嫌いという人間は少ないでしょう」
「そうだ、このレモンを絞ってかけるとまた別の味わいがあっていいぞ」
「どれどれ……ほう、後味がさっぱりするの」
「これ、良い」
「んー、ちょっとすっぱい」
「これは素晴らしい、上質な油なのであまり気になりませんでしたが、レモン汁をかけて食べるとなるほどやはり油が舌にしつこく絡んでいたことがわかります。後味に残る油が流されて爽やかな風味が残り、いくらでも食べられそうです」
「えー? レモンなんて掛けなくてもいくらでも食べられるよ~」
「おこちゃまはそうかもな」
「お兄ちゃん酷い!」
事実だろう。
「……」
「んで、また食べないのか?」
「違います、その……」
「香りを楽しんでいたと」
「そう、そうです!」
さもありなん。
「……フーゴ。これは美味なのですね?」
「先程の刺し身は好き嫌いがあるでしょうが、これは万人受けするかと」
「わかりました……」
彼女は意を決してフォークを運ぶ。そんな決闘に行くような表情せんでも……。
「はふ……。うん、ああ、これは食べやすいですね。わざわざソースを掛けずに最初から味がついているのも良いです。これはワインにも合いそうです」
「こりゃあエールじゃろ」
「いえいえ、これならどの酒でも合うと思いますよ、ナルニアさま、こちらの果実汁と一緒でも美味しいと思いますよ」
「ありがとうございます。……このジュース美味しい! うん、唐揚げともとっても合いますよ!」
幼女なりに気を利かせたのか飲み物との相性を語っていた。
「やはり。これは……食堂や酒場で出せば大変な事になりそうですね」
「そうですね、しかしこれも醤油なのでは?」
「穴子に比べれば遥かにハードルは低いですよ」
「良いですね。価値のなかったタコが売れたら大変な事になりますよ」
新しい商売のタネを見つけて嬉しそうなチェリナ。
「おおっと、この程度で驚いてもらっては困る!」
「まだ何か?」
俺はふっふっふと笑いながら魅惑のアイテムを取り出した。テーブルの端に置いてあっただけだけどよ。
「……どろどろですね」
「まだ完成じゃないからな。まあ見てろ」
俺はガスコンロの上に半円状のくぼみが並んでいる鉄板をその上にセットする。油を布で丁寧に鉄になじませた。
十分に温まったのを確認してからドロドロ……小麦粉の生地を流し込む。
「何が始まるんですか?」
「たこ焼きパーリィーだ!」
俺はニヤリと笑った。
――――
「俺の上司に関西出身のヤツがいてな」
たこ焼き鉄板に流し込まれた生地の中に、大きくぶつ切りにしたタコを放り込んでいく。冷凍じゃない生タコというだけでヨダレが出そうだ。
「カンサイ?」
「なぜか良く呼び出されてはたこ焼きパーティーでタコを焼く係にされていたんだわ」
「たこ焼きパーティー……」
俺は力なく突っ込みを入れるチェリナを無視して話しを進めた。
「無理やり俺に作らせる割にダメ出しばっかりでな、おかげでたこ焼きは生地作りからかなり鍛えられたもんだ」
ヒョイヒョイと玉をひっくり返していく。いきなり全回転しないのがコツだ。いきなり外側を全部焼いて塞ぐと外はカリッと、中はトロッとならないのだ。
俺のピック捌きが面白いのかナルニアが目を輝かせていた。
「ワシャこの鉄板が気になるの」
「ふん、さすが、鉄臭い、ドワーフだ」
「お前さんにはこの鉄がなかなか良い鉄とはわからんだろよ」
「興味、無い」
「無くて結構じゃ」
お互い別の方向に顔を向ける。子供かあんたらは。
「しかし見事な手際ですね。これでご商売をされていた訳ではないんですよね?」
フーゴが俺の手付きを真似して聞いてくる。イメージトレーニングをしているのかもしれない。
「さっきも言ったが上司の趣味に突き合わせれてただけだ。だが自慢じゃないが関東だったら店を開けるレベルだと思うぞ」
たこ焼きに関しては関西人お墨付きまでレベルアップしたからな。
「その手つきが素晴らしい。私が作ろうと思っても習得に時間がかかりそうです」
「これは要修行だからな」
作るのなら精進したまへ。
「さて、こんなもんか……」
手早くピックで陶器の皿にたこ焼きを並べていく。
「ではさっそく」
「まてまて、まだ完成じゃねーよ」
ハッグはえーよ。
「ええ、ならば早くせい! 先ほどからずっとおあずけなんじゃ!」
「……今日は散々食ってるだろうに」
「それはそれ、これはこれじゃ、目の前でじうじうされたら膨れていた腹とて縮んでいくわい」
「はいはい」
俺は手早くソースを塗って、青のりと鰹節をばっと掛けた。
「おおう……なんじゃこれは……鉋で削った木のカスか?」
「違うわ! 魚の……あー、燻製を削ったような感じかな」
いざとなると鰹節ってのは説明しづらいな。世界一堅い食品というのはおっさん御用達のうんちくである。
「まあええ、このトンカツソースの匂いがたまらんわい!」
ハッグはフォークで2つたこ焼きを貫くと躊躇なく口に放り込む。
「おい、出来立ては熱いぞ」
「ドワーフがこの程度で熱がるわけがなかろう! これは! 美味い! きょうの料理はどれも美味いが上品な味が多かったからな! こういうガッツリした味付けはたまらん! うーむタコの唐揚げと穴子丼と甲乙がつけがたいの」
言うなり、次々とフォークでたこ焼きを消費していく。
「ちょっと! また一人で食べるおつもりですか!」
「早いもの勝ちじゃい」
「これなら見た目で惑わされる事もありませんわ!」
「私も!」
「では」
「いただく」
「あ、待て、いきなり口に入れたら……遅かったか」
4人同時にたこ焼きを冷まさずに口に放り込んで噛み締めた途端に、口を押さえて立ったり座ったりする3人。ヤラライだけは座っていた。脂汗をかいてはいたが。
「あー、こうやってな、ハフハフしてみろ、熱いのが和らぐぞ」
俺は見本を見せてやると4人共真似して口を半分開けながらハフハフと空気で冷ましていく。
「あひゅいあひゅい」
「人の話しを聞かないほうが悪い。まぁ熱々を食べるのもたこ焼きの醍醐味だな」
「おほひふほひ」
「……無理してしゃべるな」
ようやく4人がたこ焼きを飲み込み終わる。
「熱いけど、美味しい!」
「ええ、私は普段このように火傷をするような温度の料理を出すことはありませんが、熱い料理が美味い事もあるのですね」
「ううう……」
「口の中火傷したか? 取り敢えず水飲めよ。口内の火傷はすぐ治るから」
「はひ……」
「俺、戦士、大丈夫」
本当かよ?
「……む? たこ焼きは?」
ヤラライの呟きに皿を見るとそこにはソースと鰹節が僅かに残っているだけだった。
「なんじゃ? その目は」
「……ドワーフ……死にたい、らしい」
凄まじい眼光を宿してヤラライが部屋の入口に立てかけていた黒針……極太のエストックをハッグに向けた。
「うぉーい! 何やってんの! 人ん家を血だらけにするつもりか!」
「……構いません、やってください」
「わぁーお! 何を言ってるのかなこの紅いお嬢さんは!」
「私もエルフさんを応援するよ……」
「目がダークネスだぞ幼女!」
「私に剣の才能があれば……」
「歯を食いしばって悔しがらない! フーゴさんには誰にも真似できない料理の腕があるから!」
「ふん、返り討ちにしてくれるわ」
ハッグが近くのろうそく台を構える。(ハンマーはエストックの隣にあったので)
そうして血で血を洗う争いが始まった。後に鮮血のたこ焼きパーティーと呼ばれることになる。
ならなかった。
「アホか! パーティーって言っただろ! 材料はまだたっぷりあるわ! すぐ作るから大人しくまってろ! 間違ってもお前らその武器を振るってみろよ、二度と作ってやらねぇからな」
「命拾い、したな、ドワーフ」
「ふん、貴様こそな」
お互い自分の席に戻るとどっかりと腰を下ろした。
やばい、たこ焼き戦争とか勘弁して欲しい。
これは市場に出さないほうがいいんじゃないのか?
大いなる不安を抱きつつ5人の為にひたすらピックを動かした。
あれ? 関西上司のたこ焼きパーティー並に忙しくね?
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