第42話「荒野のモーニングセット」
たまには朝食を作ろう。
昨夜は水しか口に出来なかったので、きちんとした朝食を食べたかった。
ヤラライと一緒にいつもの港が見える高台につくと俺は準備を始める。ガスコンロやガスボンベを興味深げに眺めているヤラライを無視して俺は準備を進めた。
一昨日の卵が4つほど残っている。
ならば作るのはアレだろう。
俺は承認だけされて購入していなかったヤカン2800円と、新規に承認された。
【ベーコン=376円】
【醤油=265円】
【食パン=135円】
を購入した。
残金92万7316円。
温めたフライパンにベーコンを並べる。美味そうな脂がジュクジュクと溢れだした所に卵を2つ落として火を弱める。
焦げ付かないように注意しながら半熟に焼きあげると食パンに乗せてヤラライに渡した。本当はトーストしたいところだが流石にトースターは無い。電気がないから承認を試すつもりもないが。
ヤラライは無言で受け取る。
「塩コショウでもいいが、醤油……これをちょっと垂らしても美味いぞ」
「そうか」
彼は躊躇無く醤油を選び目玉焼きの上に垂らしていく。かけ過ぎてしまうかと心配したが、器用に適量だけ掛けたようだ。
「……美味い」
それは良かった。俺は自分の分も焼く。
「なあヤラライ、サンドイッチとどっちが好きだ?」
「……甲乙、つけがたい、が……温かい飯、落ち着く」
確かにこの荒野の国の朝はまだ肌寒かったりする。これから一気に温度が上がって立ってるだけで朦朧とするほど暑くなるとは思えないほどに今の気温は低いのだ。
「じゃあ明日からはこんな感じにするか」
二人で朝食を平らげて食後のコーヒータイムと洒落こむ。今度は水をヤカンで沸かしてコーヒーを点てているのでヤラライもそこまで疑問に思わないだろう。
ヤラライはマイ・アイテムバッグから取り出したマイカップを使ってインスタントコーヒーを一口すする。
「苦い、な……薬か?」
「昔は気付け薬として使ってたって聞いたけど……まあ目覚ましだな、目がシャッキリする。なんなら甘くするか?」
「出来る、のか?」
「ちょっとまて」
そういえば砂糖はチェックしてなかったな。……うん問題なく承認された。
【砂糖(1kg)=603円】
……いやまて、コーヒーに使うのには不向きだろう。
【スティックシュガー(3g×100本)=208円】
うん、こっちがいいな。
ついでに減っていた水を20リットルほど購入、10リットルはバケツに、残りはペットボトルに分散しておいた。
残金92万7106円。
ヤラライのカップに砂糖を1本入れてスプーンでかき混ぜてやる。
「足りなければ教えてくれ」
「……今の、砂糖か?」
「ああ、沢山あるから遠慮するな」
「……そうか、うむ。……もう一つ、頼む」
「あいよ」
俺はもう一本入れてやった。
「……美味い」
「そいつは良かった。ああそうだ、今日の分を渡しておかないとな」
俺は金貨を1枚、1万円分をヤラライに手渡した。
「確かに」
残金91万7106円。
彼が金貨をバッグに放り込んだ辺りでいつものように真っ紅な髪と真っ紅な服装に身を包んだ、おてんばお嬢様であるチェリナがやってきた。
「おはようございます」
「おっす」
「……」
ヤラライは相変わらず反応が薄い。
チェリナが来るといつも去っていたヤラライがその場に残っている事に、少々疑問の表情を浮かべつつもチェリナは俺に挨拶をしてきた。
「おはようございます。アキラ様」
「おう、おはよう。それでちょいと事情があってな。今日からヤラライに俺の護衛を頼む事になったんだ。よろしく頼む」
「護衛……ですか?」
あからさまに彼女は眉を顰める。
「昨日商会から帰る途中に物取りにあってな、用心の為だ」
正確には物取りで無かった可能性が高いが、それをチェリナに伝える必要もないだろう。
「襲われたですって?!」
そんなに驚く事か? その数時間前に仲良く一緒に襲われたばっかりだろうに。
「誰に? どんな方でしたか?」
「いや……よくわからん。あんまり裕福そうではない服装って程度しかわからなかった」
そもそもこの世界の普通や標準を理解出来ていないのだ。説明が難しい。
「ゴロツキ、だが、体術を知っていた。人よけの、理術が張られていた。普通では、ない」
俺が言い淀んでいるとヤラライが的確に説明してくれた。
「それはただのゴロツキとは思えませんが……」
「だから、俺、護衛やる」
「そうですか……」
「ま、チェリナも狙われやすい立場みたいだからちょうどいいだろ、お前ってなんでか街中で護衛を付けるの嫌がるだろ?」
「……今日からは街中でも護衛付きです」
彼女が視線をやった先に、昨日俺たちを守ってくれた護衛の二人が遠巻きにこちらを窺っていた。
「護衛ならそばに置いとけよ」
「……」
なぜか睨まれた。
「あー……飲むか?」
俺は空になった保温ステンレスカップを差し出す。
「はい?」
すかさずインスタントコーヒーと砂糖を2本ぶち込んで、お湯と一緒にかき混ぜる。
「熱いから気をつけろよ」
「……はい」
ため息混じりにカップを受け取って口を付ける。
「苦甘いですね」
「甘いのは砂糖を入れているからだ、俺はブラック……砂糖を入れない苦いコーヒーが好きだ」
「口の中が複雑な味に翻弄されます……、この鼻腔をくすぐる独特の香りは紅茶にない力強さがあり面白いですね」
「的確な食レポありがとう」
「これは……」
「あー、売るほど量はないぞ」
「わかりました」
暗に売らないぞという意思はチェリナにちゃんと伝わったようだ。こういう時は頭の良い女は楽だな。
「しかし、砂糖ですか……」
もしかして貴重品なのか?
「俺の故郷じゃ余剰生産品だったんだよ」
「砂糖がですか?!」
「ああ、サトウキビとか沢山あったし、さらに安い砂糖が輸入出来る環境だったからな、塩も砂糖も安かったぞ」
バターなんかは値上がりしてたけどな。
「ぜひ貿易したいところです」
「場所がわからんからなぁ……」
そこまでこだわりは無いがやはり戻れるなら戻りたい。
「まあいいや、とりあえず、洗おう」
バケツに水を入れた状態で取り出して、汚れたカップなんかを放り込む。全体的に軽く油を流してから、清掃の空理具で一気に残りの汚れと水分をすっ飛ばした。全部を麻袋経由でコンテナに仕舞う。
「んじゃいこうぜ」
今日もお仕事始めましょう!
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