第41話「荒野の絶体絶命」
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今回から予告は気分次第の掲載となります。
よろしくお願いします。
(2016/04/20・予告は全て削除しました)
夕焼けが美しい港町の路地裏で、ヤバイ連中に道を塞がれて、気がついたらナイフを突きつけられていた。
金貨をばら撒いて気を逸らそうとしたが、彼らは目もくれずに俺に突っ込んできた。
鈍く光る刀身が俺の腹に刺さる。
「ぐぎゃぁ!」
熱い血が飛び散った。俺の顔が赤く染まる。
……あれ? 俺、悲鳴なんて上げてないよな?
腹を触ってみるが痛くない。でも身体は血だらけだった。
それもそのはず、目の前の男が胸からビュービューと血を噴き出しているのだ。
生臭く生温かい血を浴びているのだとようやく気がつく。
「うぉおおああああああ?!」
俺はようやく悲鳴を上げて地面に倒れた。腰が抜けたのだ。
俺を囲んでいたのは4人いたのだが、気がつけば全員が血を胸から吹き出しながら倒れていく。
何が起こったのか。
「アキラ、無事か」
独特のイントネーションで話しかけられる。
「や、ヤラライ」
ぶんと巨大なエストックを一振りして血液を飛ばして俺の横にやってきたのは、ネイティブ・アメリカン装束のエルフ、ヤラライだった。
俺はガクガクと震える足を押さえるのに手一杯だ。
「街中で強盗、めずらしい」
人が死んだ。
ヤラライは人を殺したというのに、何も動じていない。口調もコンビニでたまたま出会った程度の感情すら乗っていない。
ばら撒いた金貨を拾い集めて俺に渡そうとしてくれるが、頭はそれをちゃんと理解出来ていない。
「こ……ころ……」
俺は死体を指差す。
「衛兵、呼ぼう」
ヤラライは俺の言葉を待たずにさっと大通りに抜けていってしまった。
俺は4人……いや4体の死体としばらくその空間に取り残されることになってしまった。
どのくらい時間が流れてたのかよくわからないが、3人の兵士を連れてヤラライが戻ってきた。
「アキラ、襲われてた」
兵士の一人が死体を軽く見聞したあと呟いた。
「ふーむ。見ない顔だが、スラムの人間か?」
「どうでしょう、服装の割に武器がいいですよ」
「確かに、ゴロツキが持つ武器にしては質がいいな」
二人の兵士が話し合う、もう一人は死体をゆっくりと検分していた。
「おい、そこのお前、なんで襲われたか思い当たることはあるか?」
兵隊が俺に怒鳴る。
「え……あ……」
うまく言葉が出ない。
身体にこびりついた血液が気持ち悪い。
「どうした、それともお前がこれをやったのか?」
「ち、違う……あ……たぶん……」
喉がカラカラだ。
「最近……ヴェリエーロ商会に……お世話になってる……だから……」
兵士二人が顔を見合わせる。
「もしかしてお前が噂の……?」
兵士は俺をマジマジと見下ろす。
「なるほどな、恨まれる理由には事欠かなそうだ。しかし運が良かったな4人に囲まれて死ななかったとは」
まったくだ。
「精霊が、教えてくれた」
「さすがエルフだな。……しかしいい腕だ。全員一撃かよ」
「俺、戦士。朝飯前」
もう一人の兵士がうへぇと眉を顰めた。
「事情はわかった。クジラ亭に泊まっているヤラライとアキラだったな。何かあったらまた話しを聞きに行く、その時は協力するように」
ヤラライは頷くと、俺に手を差し伸べてくれる。
その手を取ろうとしたが、自分の手が血まみれであることに気がついた。そしてヤラライには血液の一滴すら身に浴びていないようだ。これが戦士というものだろうか。
俺が躊躇していると、ヤラライかまわずに俺の手を取り引き起こしてくれた。
「歩けるか?」
立たせてもらったので、なんとかなりそうだ。膝は相変わらず笑っているが。
「なんとか……な」
「うむ」
彼は俺に肩を貸して宿まで連れて行ってくれた。
――――
宿に入る前に清掃の空理具で血液を綺麗にした。一瞬で赤茶色い粉になってちょっとビビった。それを手で強くはたくとウソのように汚れは落ちた。
ヤラライの薄い革ジャケットにも同じように空理具を使うとやはり汚れは簡単に落ちた。
部屋に戻るとハッグが待っていたが、今日はトンカツを作る気分にはなれず、カツサンドで我慢してもらった。
ヤラライが仕舞っていた金貨を返してくれる。お礼にそのまま渡そうとしたのだが固辞されてしまった。
俺は水をあおってようやく落ち着きを取り戻した。
「ヤラライ、本当に助かった」
「気にするな」
「しかしよくあんな場所に来てくれたな。偶然か?」
「違う。精霊、変な動きした、気になって行った、人よけの理術使われてた。そしたらアキラいた」
「そうだったのか……なんであれ助かったぜ。本当にありがとう」
「いい。弱い者助ける、戦士の義務」
ぅおーう。弱い者って断言された。
いや否定出来ないな。俺にはあんな極太の鉄棒を振り回すことなんて出来ないし。それ以前に子供扱いされてる気がするが……まぁ気のせいだろう。
「おいクソエルフ、ちゃんとそいつらの頭はかち割ってきたんじゃろーな?」
「詰めの甘い、ドワーフと、一緒に、するな」
会話が怖いわ。
「しかし……ああいうガラの悪いのって結構いるのか?」
「ガラの悪い人が多いのは南の地区が多いよお兄ちゃん」
「そうか」
「ここ数年でスラムも広がってるしねー」
「それは怖いな」
「そのせいでお客さんの入りもどんどん減ってるよ」
「そりゃ気の毒……ってなんで当たり前に会話に混ざってんだよお前は! それよりいつの間にこの部屋に入ったんだよ?!」
当たり前のようにナルニアは会話に参加していた。自然すぎて気がつかなかったわ!
「さっきからいたよ?」
「……この宿にモラルは存在しないのかよ」
「モラルってなーに?」
存在しないらしい……。
「ああもう、どうでもいいや。それよりも想像以上に治安の悪い街だったんだな……、まさか今日だけで2回も襲われるとは思わなかった」
俺はベッド横の壁に体重を預ける。
ちなみにベッドの上は俺とちゃっかり娘のナルニアがいて、床にハッグとヤラライがあぐらで座っている。だから狭いんだっての!
「……まて、2度じゃと?」
「ん? ああ、最初は俺じゃなくてチェリナの馬車が襲われたのに巻き込まれたんだけどな」
「それは偶然なんか?」
「変、だな」
言われてみると少し変な気がする。
「おぬし、狙われておるのではないか?」
「俺が? チェリナじゃなく?」
「うむ。どうも……きな臭い」
「ゴロツキ、人よけの理術、使えない」
「空理具でも持ってたんじゃねーの?」
人除けの空理具なんてもんが存在するか知らねーが。
「そんなもん持てるならゴロツキをやるより、誰かに雇ってもらったほうがええじゃろ。空理具を貸し出せば最低限の暮らしはできよう」
なるほど、理術を使えるとしても、空理具を持ってるとしても、どちらも普通は職に困らないわけか。
「……じゃあマジで俺が狙われてんの?」
「可能性、ある」
「マジか」
「お兄ちゃん死んじゃうの?」
ナルニアがフラグっぽいことを言った。
「いや、不吉なこと言わないでくれ。死ぬつもりはまったくない」
だが、現状身を守る手段がない。現在製作中の空理具「光剣」の試作品が貰えれば最低限の武装になるかもしれんが……いやアレを人間にぶち込むとか無理そう。ちょっと躊躇してる間にナイフで刺されそうだわ。今日だって刺されたと錯覚したしな。
「護衛を雇ったらどうじゃ? ワシがついてやりたいところじゃが……鍛冶ギルドとの契約がまだ続いちょる。無理に断る事もできるが、出来れば不義理はしたくないんじゃ」
そりゃ当然の話だな。
「俺、護衛するか?」
ヤラライだった。
「いいのか?」
「護衛代は、もらう」
ヤラライなら強さは十分だろう。ちょっと思い出すのが怖いレベルで。
「相場ってどのくらいなんだ?」
「1万で、かまわん」
「え?! エルフの戦士さんが一日たったそれだけ?!」
ナルニアがベッドの上で飛び上がった。藁が潰れるからやめろ。
「知り合った縁だ」
随分と安いらしい。そのくらいならしばらく出せる。今日の出来事で、所持金を全て放り出していた可能性を考えると全然安い。それ以前にヤラライには少しでも恩を返しておきたい。
「本来の相場はどのくらいなんだ?」
「それ、気にするな」
「かまわんじゃろ、そいつはお人好しじゃからな、別に無料ってわけじゃないんじゃ、その金額で雇ってやれ」
グビリと酒を流し込むハッグ。
「じゃあすまんがヤラライ、明日から頼む」
「任せろ」
お互い握手を交わした。
「……そうだ、それと別に朝食はごちそうさせてくれ」
「それ、嬉しい。楽しみ」
「私も食べたい~!」
「金を持ってくれば売ってやるよ」
「お兄ちゃんのケチ~!」
俺はナルニアの口に飴玉を突っ込んでやった。
残金93万0892円。
3人が部屋から出て行くと急に部屋が静かになる。
ロウソクの火を消すと部屋は真っ暗だ。
窓から外を見上げると相変わらずの満天の星空が広がっている。
この世界は過酷だが、星は最高だな。と商売神メルヘスに報告しておいた。