第33話「荒野の花火」
さて、現在俺はチェリナと側近のメルヴィンと一緒に街を出たところにいる。
ギリギリ城門が見えるくらいの距離で馬車でやってきたのだ。
時間は夕暮れで空は茜である。
「ここなら良いでしょう……さてアキラ様、まずはこれを」
馬車を操車していたメルヴィンは腰の剣に手を添えて俺の横に立った。なんか怖いんですけど。
手渡されたのは空理具だった。
「これは?」
「光剣の空理具です」
見ただけじゃなんの空理具がさっぱりだな。
ちゃんと管理すればいいんだろうけど、間違って落として他の空理具と混ざったら大変だな。
「へえ、これが」
清掃の空理具と重さも見た目も変わらんな。
「光剣の効果は覚えていますか?」
「ええと、なんだっけな、たしか光の剣を作り出して飛ばして攻撃するんだっけ」
「……」
チェリナは無言だ。
間違ってるなら教えてくれよ、記憶力も自信がないんだ。
「それでは……そうですねあそこの大岩を攻撃してください」
チェリナが指差したのは俺の身長ほどの大岩だった。この辺は岩が多いがその大岩はひと際大きくわかりやすかった。
「空理具を使えって意味だよな」
彼女は頷く。
「んじゃま……」
えーと、たしか光の剣が何本も飛んで行くんだったな。最低でも一本は必ず出るって話しだから、普通は沢山出るんだろう。
しばしイメージを固める。
一本ってのはつまり単発って意味だよな。つまり何本もってのは連続で矢継ぎ早に打ち出すんだろう。正直光の剣ってのがイメージ出来ないんだが、映画に出てくるマシンガンとかなら想像しやすいな。
そうだ。街を通ろうとしたが警官に邪魔され、意地でも通過するために一人で戦争始めちまった有名な映画の主人公が持ってた巨大なマシンガンとかいいかもしれない。
あれ?
マシンガン抱えてたのはその後のシリーズだったかな?
上半身裸で弾丸を両肩から十字に吊るしている印象が強い。細かいことはいいや、あのイメージでいこう。
俺は空理具を岩に向ける。
そして空理具そのものを銃の引き金に見立てて……引き絞った。
俺がイメージしたのは弾丸である。剣ではない。
高速で回転しながら空気を切り裂いて突き進む鉛の弾丸。
引き金を引けば毎分……500発だったか、とにかく大量の弾丸を吐き出し、ちょっとした建物なら一瞬で石材にしてしまう狂気の兵器。
映画の印象が大きいのか常識はずれな威力を持って瞬く間に大岩を粉砕してしまった。
もうもうと砂煙があがる。
粉々に砕けた大岩は小さな石片をあたり一面にばらまいていた。
「うん。イメージ通りだな」
俺もやっぱり男の子、銃とか撃ってみたい願望はあるのだ。
そこ、いい歳してとか言わない。
しかしこんな凶器をそれなりの値段とはいえ免許も無く売り買いして良いのだろうか。普通に考えたら警察……この国だと軍隊かな、国家権力が管理すべき道具だろ。これは。
色々と試してみたいのだが、指示された事は終えたので感想を聞こう。
ヘボいとか言われたら凹むな。
振り返るとチェリナは微動だにせず直立していて、メルヴィンは……なぜか腰を降ろして恐ろしい物でも見た恐怖の表情を浮かべている。まるで腰でも抜けたようではないか。
「チェリナ?」
どうも反応のないチェリナに呼びかけながら肩を揺すると、抵抗なく真後ろに倒れた。
慌てて地面に衝突する前に抱えて止めたが何が起きた?
「おい、チェリナ!」
しゃがんで彼女を抱えて揺らす。どうやらチェリナは目を開けたまま気絶しているようだ。
「……は……」
気がついたか。ふう、ちょっと焦ったぜ。
「大丈夫かチェリナ、何があった?」
俺が遊んでる間に二人して幽霊でも見たか?
幽霊の目撃例が多いのは逢魔時って話しだしな。
「げ……幻覚……ではありません……ね」
あれ、これは本当に妖怪でも見たパターンか?
彼女は頭を振ってこちらを見上げた。
「あ……アキラ様。……あなたは自分の行ったことの意味がわかっていますか?」
「は?」
あれ? 妖怪の話じゃないの?
「あっ! もしかしてこの世界だと婚姻前の女性は男性に触れるべからずとか! すまん!」
俺は慌ててチェリナをその場に座らせるが、彼女は仏頂面を浮かべた。
「違います! 光剣のことですわ! ……そのままでも良かったですのに」
後半が小声でよく聞き取れなかったが、それより光剣の話だな。
「あー。使い方が違ったか? もしかして攻撃に使うものではなかったとか。だがそれならちゃんと説明をだな……」
なんとなく馬鹿にされそうで妙に予防線を張ってしまった。俺の性根の小ささが伺えるな。
「……普通、光剣を使うと……メルヴィン! いつまで腰を抜かしているのですか立ち上がり見本を見せなさい!」
真っ青な顔でへたり込んでいたメルヴィンが無言で首を左右に振るが、紅い瞳に睨まれるとぷるぷると生まれたての子鹿よろしく震えながら起き上がり、俺に近寄ってくる。
空理具を手渡そうとしたときあからさまに身体と顔を引き攣らせたが知ったことではない。
そもそも見本を見せてもらえるのなら先にやって欲しかった。そうしたら変な使い方をしないですんだというのに。
メルヴィンは恨めしげにこちらをひと睨みしてから、光剣の空理具を構える。
「虚空に生まれし光の剣よ、我の敵を打ち砕かん……光剣!」
うおーう。
なんだあの厨二テイスト溢れる文言は!?
俺のどうでもいい驚きを横に、メルヴィンの突き出した空理具の周りに光の剣……ちょうどメルヴィンが腰に吊るしている片手剣くらいの光の剣が3本現れて、間髪入れずに近くの岩へと飛んで行く。そして岩の表面を3箇所削って剣は細かな光の粒子となって砕け散った。
なるほど。
つまりこれは岩を砕けと指示されたわけではなく、あのパーティクルが美しい破壊エフェクトを作り出せという意味だったのだろう。
「そうならそうと先に言ってくれ」
俺はメルヴィンさんから再び空理具を受け取り(彼は俺が近づくと恐怖の表情を浮かべていた。失礼な)同じように光剣を3つ作り出し、岩に向かって飛ばそうとして、それではつまらないなと、ちょいとやり方を変えてみた。
パーティクルといえばやはりゲームのエフェクトだろう、アクションゲームなんかで敵を攻撃すると無駄に飛び散る美しいパーティクル。
さらに日本人なら一度は見たことがある夏の風物詩も足してやろう。
すでに岩に向かって飛んでいた光剣を上方に軌道修正して、真上に飛ばす。
速度が速いのですぐに俺は光剣を破裂させて、花火とアクションエフェクトを混ぜたパーティクルを生み出した。
ぶっつけ本番にしてはなかなか良い出来だ。
ただ花火と違って爆発音が無いのが寂しいね。花火は音も楽しむものだからな。
それに夕暮れというのもいただけない。やはり花火を楽しむのは日が落ちきってからだろう。
夜空に映える色とりどりの花火こそが芸術だ。
「今度はいいだろ」
俺は割りと満足していたのだが、振り返ると、チェリナは唖然と、メルヴィンは泣き出しそうな面をしていた。
失礼な。