第33話「最強商人と慌てる商人」
俺は壇上に上がっている、ダイムン公爵に向かってこのように尋ねた。
「ダイムン公爵がタンスのプロであれば、より使いやすい、より流行のデザインで、より安くなるよう、発注出来ますよね?」
すると、怒るように答える。
「な、なにを言っているのだ? それを考えるのは生産ギルドの仕事ではないか!」
どうやらやはり、自分の矛盾に気づいていないようだ。
俺は画像を切り替えながら説明を続ける。
「先ほど説明したと思いますが、その権限が工房にはないのですよ。プロフェッショナルだというのに」
「……む」
どうやら気づいたらしい。
指示された商品を、指定数以外に作るなと言われて、どうやって新しいデザインが生まれるというのか。
「続けましょう、完成したタンスは生産ギルドに納められます。これは工房が直接取引を禁止されているからです。これも大きな問題ですが、いったん進めます」
プロジェクターの画像が切り替わり、大きく生産ギルドと商業ギルドの二つのやりとりが図解される。
「タンスは生産ギルドが、商業ギルドに販売します。ほとんどの場合は、商業ギルドがあらかじめ注文したタンスを、生産ギルドが引き受けています」
ダイムン公爵は「それが普通だろう?」といった表情だ。
「ここで大きな問題が発生しています。生産ギルドはこの時点で販売するわけではなく、商業ギルドに金を払っているのです」
ダイムン公爵だけでなく、招待客も不思議そうに話を聞いている。
「商業ギルドは、所属する商会にそのタンスを売ります。さてこの時点で、商業ギルドは発注しているだけなのに、差額が手に入っています」
中間業者、問屋、言い方としてはその辺りが妥当だろう。
昔の日本の商売そのものだ。
流通をおさえたところが結局強い。
「そこで! アキラ商業ギルドでは、この枠を取っ払います!」
画像を切り替える。
「アキラ商業ギルドに所属する工房は、好きな商品を好きなだけ作り、好きな商会に直接売ることが出来ます! もちろん、直接販売してもかまいません!」
ざわ……ざわ……。
どうやら、とてつもないことが起きていると、招待客の、特に商会連中は顔を青くしている。
「アキラ商業ギルドは「こんな商品を開発して欲しい」と願う商会の話を、工房に伝え、やる気のある工房と繋げます。そして新商品を積極的にアピールし、販売していきます!」
ダイムン公爵が震えながらマイクを手にした。
「そ……それでは工房が強くなりすぎではないか……」
「今までが不当に扱われていたのですよ。技術を持つ職人は宝です。ただ、彼らは商売が得意ではない人も多いでしょうから、それを助けるのがギルドの役割です。ギルドはこのような時に利益を得ます」
今までなら、商売をやりたいなどと言う工房があれば、生産ギルドが締め上げて終わりだ。
だが、アキラ商業ギルドに加入すればそれはない。むしろガンガンやってほしい。
「さらに、受注生産にしても、商業ギルドが請け負ったものを、直接工房に注文するわけですから、発注者の値段は下がり、工房へ渡す金額は増えます」
ここに工房の人間がいたら、喜んでくれただろうか?
「さらに、所属商会は、ギルドを通さずに、直接工房に発注するのも自由ですし、価格も好きに決めてかまいません」
ざわ……ざわ……!
一段とざわめきが強くなる。
商会は、そのメリットがどれほどのものになるか、瞬時に計算したのだろう。
商会 > 商業ギルド(1) > 生産ギルド(2) > 工房
今まで、この1と2に中間マージンを吸われていたのだ。それがなくなる意味がどれほどでかいか、彼らの顔を見れば簡単に理解できるというものだ。
ダイムン公爵が我に返って、疑問を投げかける。
「だ! だが! 商業ギルドの許可を得ても、生産ギルドの業務はできんだろう!」
どうやら彼も、皇国の法律を間違って覚えているようだ。
「そもそも……この国の法律で、商売をするのにギルドへの加盟が義務ではないのですよ」
「……な、なに?」
「加入するのが当たり前になりすぎていて、誰も疑わなかったのでしょう。それだけでなく、加入しない場合のデメリットがでかすぎた」
俺は一拍おいて続ける。
「始め、私の商会は、商業ギルドに加盟せずにずっといこうと思ってました。ですが、この国で、ギルドに所属せず商売する難しさも知りました。私の商会のみで商売をするのであれば、それでもいいのでしょうが、商売とはつながりがあって初めて成り立つものです」
そう。
いくつもの工房や商店などが絡まり合って作り出すものだ。
「ですが、今の商業ギルドは、私のやり方とは合いません。ですから、新しくギルドの設立を思い立ったのです」
ダイムン公爵が目を丸くする。
「ずいぶんと……好き勝手をしているようにも感じるが……」
「好き勝手? ははは。こんなのはまだ序の口ですよ。続いてこちらをご覧ください」
俺は画像を切り替える。
そこに映し出されたのは、不動産関係、衣服関係、飲食関係と並んだのだ。
「……な……な、な!?」
ダイムン公爵の驚きは尋常ではない。
俺は涼しい顔で続けた。
「土地や建物の売買は、そのつど国に書類を提出すればいいので、それをすべてギルドが代行。この国で眠っているすべての不動資産を活性化させます」
会場が静まりかえっている。
「衣服に関しては、いくつかのサイズを設定し、量産することで、低所得者にも新品の服が買えるよういたします。逆に今までどおりのオーダーメイドも受けますが、今までと違い、直接商会やお気に入りの店舗に注文してもらってかまいません」
ヴェリエーロ商会としてはすでに始めているが、改めて、ギルドに組み込む。
「最期に、すぐに結果をだせるという意味ではコレが目玉になるでしょう。レストランや食品を扱いたい商会や商店を一気に誘致します!」
ダイムン公爵が慌てて叫ぶ。
「ま! まて! さすがに飲食店は許可がいるだろう!?」
「はい。ですが、その許可も本来飲食ギルドが出すものではないのですよ。単純に飲食ギルドが代行していただけです。ただ、現状では、飲食ギルドを無視して個別に申請し、許可を取ったところで、食材は手に入らなくなり、物件も金も借りられず、さらには謎の嫌がらせがおきたりする」
俺はチラリと、アルベルト・アラバントに視線を向ける。
飲食ではないが、ギルドに入らないものへ、当たり前のように嫌がらせをする人物だったからつい。
「アキラ商業ギルドに加盟する飲食店には、無料で申請手続きをするだけでなく、国から求められている条件を親切丁寧に教えます」
日本人からすると当たり前のことばっかりなんだけどな。
衛生管理とかその辺。
そうそう、一つこの世界独特な決まりがある。
それは、使用するパンは絶対に認可されたパンギルドから購入するというものだ。
「言い忘れていました。国に定められている数少ない認可制のギルド……パンギルドの資格も、当商業ギルドは取得しました」
そのとき見せたダイムン公爵の驚いた顔と言ったら……。
「そ……それはパンギルドを経営するという……ことか?」
「パンギルドもですね」
これで、飲食ギルドと提携しているパンギルドの嫌がらせを受けることもなくなる。
それだけでなく、パンかどうか判別の難しい商品ももう存分作れると言うことだ!
例えばピザとか、ナンとかな!
ダイムン公爵の声が震えていた。
「そ……それでは……逆にこのアキラ商業ギルドにしょぞくしなければ……この国でまともな商売を出来なくなる可能性すら……」
俺は顔を横に振った。
「当ギルドでは、他のギルドや無所属の商会との取引を一切禁止しません」
「……それは……なおさら……」
それ以降の言葉はかき消えていた。
そう。
俺はこう宣言したも同じなのだから。
アキラ商業ギルドで、衣食住のすべてを牛耳ると。
会場は、熱気と冷気が渦巻いて、竜巻のようであった。
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