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第32話「最強商人と巨大な式典」


 皇国の用意してくれた会場は格式高く、大きい建物だが、日本で言えば、よく中規模の市役所に併設されている市民向けのホール程度だ。

 小学校の行事とかで、たまに使わなかった?

 まぁ、イメージはしやすいだろう。


 俺はゆっくりと壇上に立ち、ミニコンポに繋げられたマイクを手に取る。

 ミニコンポはアーティファクトと押し切っている。会場は大きいが、最大音量にしてあるので、肉声で叫ぶより隅々まで聞こえるだろう。


 ここをステージと考えたとき、観客席の正面中央に大きなスペースを、皇帝陛下と各宗教のお偉いさんたちが陣取っている。

 国のトップ同士、軽く会話を楽しんでいるようだが、その中身は想像出来ないほどに腹黒いんだろうな。きっと。


 ちらりと視線を横に移すし、チェリナとラライラを確認する。

 それだけで、緊張がほぐされていくようだ。

 俺は、マイクに電源が入っていることを確認すると、意を決して開会を宣言する。


「皆様、大変お待たせいたしました。これより、アキラ商業ギルド結成式を始めたいと思います」


 すると、会場から拍手をもらうが、このあたり、完全に形式化されているらしい。

 めんどくせーぜ。


「最初に、アキラ商業ギルドの設立に至った状況を説明いたします」


 それから俺は、可能な限り今ある商業ギルドを持ち上げつつも、新しい商売の仕組みが必要なのではと、疑問を投げかけるような形で説明していく。


 ギルドへ参加を決めている商会などは、嬉しそうに頷いているが、初めてこのギルドのことを知った商会などは、一言一句にうなったり顔を赤らめたり、青ざめたりを繰り返している。


「それでは次に、アキラ商業ギルドの活動内容を説明いたします」


 俺が手を上げて合図をすると、会場の明かりがすべて消され、明かり取りの窓もすべて閉められていく。


 突如暗くなっていく会場に、招待客が慌て始める。

 逆に悠然としているのは、お偉方だ。


「静粛にお願いいたします。これから理術を使用しますが、危険はありませんのでご安心ください」


 本来このような場所での理術の使用は厳禁だが、皇帝陛下をはじめとしたお偉いさんが何も言わないので、予定されていたことだと気づいた招待客が落ち着いていく。


「ラライラ、頼む」

「うん」


 エルフのドレスで着飾ったラライラが、ゆっくりと壇上にあがると、会場からため息が漏れ聞こえてくる。


 ふん。俺のだからな。


 横に来たラライラに頷くと、彼女は小声で詠唱を始める。

 彼女が使っているのは精霊理術ではなく、空想理術のほうだ。


 ラライラの理術が発動し、空中に大きな白い横長の長方形の板が出現する。


 効果は単純で、空中に白い板を幻術で浮かび上がらせただけだ。

 これだけだと、ただの白い看板と変わらない。


「今から使うのは幻術の一種です。ご注目ください」


 再びラライラが詠唱を始めるが、これはフェイクだ。

 俺はこっそりとポケットのリモコンスイッチをいじる。

 会場の天井に設置しておいた、プロジェクターが起動し、色鮮やかな映像を、理術で作られた板に、映し出す。

 最初に映し出したのは、真輝皇国アトランディアの王城を中心とした、首都アトラントの遠景だ。

 ドローンでゆっくりとパン撮影(正確にはトラック撮影かも)しておいた動画が流れ出すと、途端に会場が騒ぎになった。


「「「おおおお!」」」

「なんだあれは!?」

「幻術だと?」

「あんなに鮮明に映し出される物なのか?」

「それよりも、まるで本当に飛んでいるような見事な幻影だな!」


 実際に飛ばして撮影したからな!

 なんてことは言えず、全部ラライラの腕ってことですます。

 実際、彼女なら、やってやれないことはないのだ。

 ドローンの映像は何度も見ているし、それだけの腕前もある。

 ただ、疲労がしゃれにならないのでやってないだけだ。


 なので、完全な嘘でないのが、今回のポイントである。

 さて、別に驚かすのが本題ではない。

 俺はリモコンを操作し、グラフや表の映像に切り替える。


「アキラ商業ギルドは今までのギルドと大きく形態が異なります。まず第一に、扱う商品は、他のギルドや商会に与えられた特権を除く、すべての商品を扱うことになります」


 俺は画像を切り替え、取り扱い予定商品を表示する。

 そこに映し出された代表例を見て、招待客がざわつき始める。

 中にはギルドへの参加を決めている商会も混ざっている。

 すまん。これが決定したのはつい数日前で、連絡が行き届かなかったんだ……。


「生活用品、建築資材、宝石、貴重品、空理具などの販売物だけでなく、工房と提携し、独自の商品開発、製造、販売をいたします」


 俺が口にすると、会場が爆発したかのように、大騒ぎになった。

 皇帝陛下や教皇などのお偉方がいるにも関わらずだ。

 彼らにとって、この発表はそれを忘れるだけでの衝撃なのだ。


「し! 失礼! 質問をよろしいだろうか!? 私はロダック・ダイムン公爵である!」


 慌てて立ち上がったのは貴族のようだ。

 席の位置からして、かなり立場のある貴族だろう。でもなければ発言しようなどとは思わないだろうが。


「はい。もちろんです。どうぞ壇上にお越しください」


 ダイムン公爵は途中、皇帝陛下や猊下連中に簡易的な挨拶を交わしたあと、壇上へと上がってきた。


「これは声を大きくする空理具……アーティファクトです。このように口の前に構えてお話ください」


 ダイムン公爵は素直にマイクを受け取る。珍しい道具だと思うが、今の彼はそれどころじゃないのだろう。

 血相を変えて、質問を投げかける。


「では、単刀直入に聞こう。まず、商品の開発製造とはなんだ!? 商業ギルドが、生産ギルドのまねごとをしようというのか!?」


 どうやら、かなり衝撃的なことらしく、彼はずいぶんと興奮している。


「まねごとではありません。完全に商業ギルドと同じ……いえ、それ以上をやります」

「なん……だと?」


 俺はプロジェクターの画像を切り替える。


「現在の商売のやり方はこうです。まず、生産ギルドがあり、そこに所属する工房があります。……そうですね、例えばタンスの工房があるとしましょう。タンス工房は、生産ギルドに指示されたタンスを作ります」


 プロジェクターにわかりやすく、生産ギルドとその下に所属する工房がイラストで表示される。


「まず、ここが最初の問題です。現状のシステムだと、タンス工房は自分たちの好きなタンスを作ることができません」


 ダイムン公爵が不思議な顔をする。


「当たり前だろう? 好きな物を作ってどうする?」

「何がだめなのですか?」


 俺の逆質問に、ダイムン公爵が眉をゆがめる。


「指示したもの以外の物を作られたら困るからだ」

「なるほど」


 俺が頷くと、それを同意だと取ったのか、ダイムン公爵が満足げな表情を浮かべる。


「ではおたずねしますが、ダイムン公爵はタンスのプロフェッショナルなのでしょうか?」

「な、なに?」


 ダイムン公爵は、意味がわからないのか、頬を引きつらせている。


 お前たちは、自分の矛盾に気づいてないんだよ。

 本当にいい物が欲しいなら、職人の自由にやらせるべきなんだ。

 もっとも、その悪い仕組みを作っているのが、各々ギルドという組織なわけだが。



お待たせしてしまって申し訳ない……m(_ _)m

久々の更新です。


来月10月24日、コミカライズ3巻発売です!


次の更新はその前後には出来るはず!

頑張ります!

応援よろしくお願いします!!

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