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第30話「最強商人と新たなギルド」


「まず、新しい商会の設立目的ですが、それは中小の商会や個人商人の保護を目的とします」

「保護だと?」

「はい。商業ギルドが本来やらなければならないのは、体力が乏しい商会が潰れないよう支援することです」

「な、なに? そんなのは自己責任だろう?」

「どうやらあなたたちは、私が解説した経済というものを理解していないらしい。自由経済に必要なのは、自由に商売出来る土壌と多様性です」

「それは聞いたが……」

「いいですか? 新しい商売というのは、未知のものなのです。それまで理解されていない商品やアイディアを形にしようというのですから、最初から金になるわけがないでしょう?」

「……」

「もちろん新しい商売だけではありません。既存の商売もです。これは商業ギルドの管轄ではなく、飲食ギルドの管轄になりますが、例えばレストラン……食事処を開業したい方が現れたとき、やれ親方株だの、上納金だの、みかじめ料だの、既存の店と近いからこの場所への出店は認めないだのといって、新規の商売を叩き潰してきたのがギルドという組織です」


 ブロウの言葉には力があった。

 だから参加者たちは反論出来ずに、ただ聞き入るしか出来ない。


「私が提案するギルドは、それらとは逆です。その商人が希望する店舗、またはそれに出来るだけそう場所を探してやり、商人が希望する仕入れ先を斡旋し、必要な資金を貸し出してやる組織ですよ」

「……その資金はどこから出すのだ?」

「無論、新規でギルドを設立するあなたたちですよ」

「待て! なんの利点もないではないか!」


 慌てて否定するベデルデールたちに、ブロウは深く深くため息を吐いた。


「はぁ……、本当にあなたたちは私の講義を聞いていたのですか? 店が沢山増え、人の往来が増え、関係する仕事が増えます。それはつまり金が回ると言うことです。経済の原則は、金をいかに回すかの一点に集約されます。今まであなたたちが10の商会に金を貸し、100の利益を得ていたとします。今度から100の商会に金を貸し、10の利益を得てください」

「薄利多売と同じ事をしろと言うことか」


 納得しかかる彼らを、ブロウはあっさりと叩き切る。


「全然違いますよ。店を増やし、商会を増やす事で、従業員は増え、雇用が増えることで賃金を上げることが目的ですよ」

「待て待て! 賃金を上げるのが目的だと!?」

「そうですよ。たしかにアトランディアは比較的経済状況は良い方かもしれません。ですが、貧富の差が激しく、経済に理想的な環境とはとてもいえません。まずは、低所得層の底上げが必要です」

「貧乏人に金を配れというのか!?」


 ブロウは額をおさえて、三度ため息を吐く。それはもう、鉛のように重いため息を。


「あなたたちから出る金は、新設するギルドの維持費と、借り入れがあったときですよ。そもそも金を貸すというのは、金を消費すると言うことではありません。増えて戻ってくるのですから、配ったことにはならないでしょうに」

「いや、だが、金が必ず戻ってくる保証などないだろう? 特に複数に貸し出すのだから、マイナスになる可能性の方が高いではないか!」

「少々マイナスになっても問題ありませんよ。別にまったく見込みのない商売に投資しろと言ってるわけではありませんし。保証人がいるならそちらから、全額回収は無理でも資産の没収などあれば、そこまで目減りするものでも無いでしょう」

「それはそうだが……」

「考えてみてください。今まで邪魔だからと一等地を独占し商売していたレストランがあったとします。場所の利便だけで金が転がり込んでいるのですから、そのレストランはたいして努力をしません。いえ、ギルド経由で近隣に飲食店を作らせない努力はするでしょうが」


 参加者たちは眉間に皺を寄せるが、ブロウはあえて無視して話をすすめる。


「しかし、新しいギルドは違います。良い場所だと思えば、料理が優れていると思えば、むしろ協力して出店を手伝います。するとどうなると思いますか?」

「今まであった店が潰れるだろう」

「それで潰れるなら潰れてしまえばいいのです。それが自由経済なのですから」

「……」

「ですが、今まであった店が努力すればいいのです。場所の良さだけにあぐらをかくのではなく、料理の味で、値段で、サービスで。そうして客を確保しなければなりません」

「そんな簡単な事ではないだろう」

「努力もなく、顧客を金を運んでくる道具のように思っている店など潰れてしまえばいいのです。そして潰れた店に、別の新しい料理人が入ればいいのです」

「なに?」

「新しく入った店は、近くの店に負けないよう努力するでしょう。結果的に、今まで必要とされていなかった店が潰れ、素晴らしい店が2つに増えるのです。誰しもが喜ぶでしょう」

「それは……」

「潰されるのがあなたたちと思っているのであれば、やはりあなたたちは自由経済というものを間違って理解しています。努力なく儲かる方法とでも思っていましたか? 今は既存のギルドから抜けた利益が大きく気付いていないかもしれませんが、この先より努力しなければ、あっと言う間に潰れますよ。ああ、それこそが自由経済です。ようこそ新しき商売の世界に」

「……」


 絶句する参加者たち。

 ここにいるのはすでに商業ギルドをぬけたものたちばかりだ。潰れると断言されれば、そりゃあ言葉が出ないだろう。


「り……利点を。私たちが新規のギルドに投資する利点を教えてくれ」

「簡単ですよ、そうして店が増えたらどうなります? 店が次々に建設されるでしょう? あなたたちの商会では建築資材を取り扱ったりはしてないのですか?」


 あっという表情を浮かべる彼ら。


「別に建築だけじゃありませんよ。次から次へと店が出来れば、従業員は当然足りなくなるでしょう? 労働者は取り合いになります。結果、今まで職につけなかった人間が職につけるようになります。それらの人たちは日用品を買いませんか? 金に余裕が出来たら、生活必需品以外にも手が伸びるでしょう。必ず、あなたたちが商う商品につながるのです。直接でなくても間接的に必ず」

「なるほど……ようやくわかってきたぞ」


 ブロウがようやく頷く。


「それは重畳。中小商会の保護は、つまり未来の取引先を、未来の顧客を増やすことになるのです。実際には金の貸し借りが発生した時点で通貨の総量が変化するなどありますが、その辺は気にしないで良いでしょう」


 ブロウは用意されていた水で喉を潤す。


「新しい商業ギルドは、中小を保護し、対等の商会を育てることで、結果的に巨大な市場を作り上げ、切磋琢磨し、経済を回すことが目的となります。ご理解いただけましたか?」


 俺は、なんとなく投資家と株式会社を連想した。

 中小の商会や商人を株式会社と仮定し、ギルドがその株主となるのだ。そう考えるとしっくりくる。

 やっぱブロウは天才だわ。


 ただ、一つブロウはわざと大事なことを語っていない。

 それは、この理論が商人の理ではなく、国家の理ということだ。

 ブロウにどんな過去があったのかはよく知らない。キモ男爵の商人だかアドバイザーだかをやっていたが、豚王に引っこ抜かれ、酷使されていたという話くらいか。


 もしかしたら、今ブロウが語っているのは、彼が目指していた国家理想像なんじゃないだろうか?


 ただ、その根底に、国民全員、貧困層の幸せを内包しているのだから、俺は何一つ口を挟むつもりはない。


 その後、何日にもわたる勉強会を経て、ベデルデール商会とヴェリエーロ商会を中心とした、新しい商業ギルドが設立されることになった。


 その名もアキラ商業ギルド。


 え、なんで?

 どうやら、ブロウのわずかばかりな仕返しらしい。

 どうやってみんなを丸め込んだの!?

 解せぬ……。


 慌てて取り消させようと思ったが、すでに全ての下準備は、ブロウの手によって終えられていた。

 畜生……覚えてやがれ!


【神格の上限を超えた余剰領域が、肉体に変換されました】


 え、なにそれ?


 ◆


 神さんの不穏な通告が気になり、戦闘訓練中ヤラライとハッグに、俺の肉体になんらかの変化がないか聞いてみたのだが、特に気になる事はないらしい。

 ただ、そのときファフが妙に意味ありげに「クククククク……」と笑っていたのが気になる。すっごい気になる!


 ただ、いつも通り笑うだけで、答えを教えてくれる気はないらしい。

 うーん。強くなる以外の肉体変化?

 想像もできんが……今のところ実害もないので、忘れることにした。


 そんななか、とうとうアキラ商業ギルドが始動することになった。

 結成式は盛大におこなわれる。


 もともと派手にやるつもりだったのだが、義理で送っただけの招待者が軒並み参加することになり、当初の予定より、さらに大規模になったのだ。いちギルドの結成式ではありえない、とんでもない規模になってしまった。


【アキラ商業ギルド結成式概要】

 場所:王城敷地内、公式式典会場

 出席者(一部抜粋)

 ・皇帝:ブリデイツ・アド・アウグティオス・アトランディア

 ・太陽神ヘオリス教・教皇:アファ・ヴォフォル・マルファス

 ・太陽神ヘオリス教・大司教:フォス・イネオドロス

 ・月の女神テルミアス教・教皇:イェンユァ・ユィチュー・ルェイジー

 ・月の女神テルミアス教・大司教:ユエ・ファゴウ

 ・大地母神アイガス教・教皇:ダマグレウス8世

 ・大地母神アイガス教・大司教:ブレン・フォン・ラマサイノス

 ・空間神カズムス教・教主:クロソス・イタム

 ・空間神カズムス教・神官:トキ・ジンカ

 ・アストラ・アラバント

 ・アルベルト・アラバント

 ・アッガイ・アラバント


 ……うん。こうやって並べるとアラバント商会の面々が浮いてら。

 実際には、それに付随する護衛もいるし、書き切れないほどのお偉いさんも参加を表明してきた。

 そりゃ国王が参加したらそうなるだろ。

 ちなみにこの国の王様、正確には皇帝なんだが、普通に国王呼びでもいいらしい。陛下をつけておけばどっちでもいいんだと。


 ちなみに国王陛下に直接招待状を送ったわけじゃないぞ?

 あくまで国に対して、儀礼的に送っただけだ。大臣の一人でも来てくれれば箔がつくだろう程度の気持ちだった。


 だから、参列者の名前を見て、アキラ商業ギルドのメンバーがどれだけ慌てたことか。

 書状をもってきた大臣に懇願し、護衛の用意ができないなどの理由でお断りしようとしたが、あらかじめ想定していたのだろう、場所と護衛がすでに用意されていた。

 そして、それを知った諸侯たちもこぞって参加表明してきたのだ。


 それにしても……この世界の三大宗教のトップ全員と、カズムス教のトップまで参加である。

 もちろん理由はある。

 いよいよ商売神メルヘス教を立ち上げるのだが、その見届けをしてくれるらしい。

 こちらも盛大な式典が企画されている。まだ市民には知らされていないが。


 初代教皇になるユーティスは、現在その調整で寝る暇もなく動き回っている。

 ヴェリエーロ商会やエルフからも手伝いを出しているが、やることが多すぎるみたいだ。


 そんな嵐のような忙しさをこなし、ようやく結成式が始まったのだが……。

 うん。平穏に終わるのかね、これ?



本日、コミックブーストにて、コミカライズ最新話公開です!

無料で読める期間があるので、お早めにどうぞ!!

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[一言] ここにいるのはすでに商業ギルドをぬけたものたちばかりだ。 →此処に居るのは既に商業ギルドを抜けた者達ばかりだ。
[一言] あぐらをかく → 胡坐をかく
[一言] またはそれに出来るだけそう場所を探してやり  →又は、それが出来るだけの場所を探して遣り
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