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第26話「最強商人と最強ギルド」

あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!


<side:アルベルト・アラバント>


 商売というのは水物だ。

 安易に高きから低きに流れる物だし、状況だけでなく、運にも左右されるものだ。

 だが、先を見通す目と、それを生かす資金力があれば、大抵は力ずくで勝利をもぎ取れる。


 アラバント商会次期当主である、アルベルト・アラバントはそのどちらもが備わっていた。

 さらにいうなれば、先を読むだけでなく、先を自ら生み出して財を得るという、現当主であるアストラ・アラバントよりも大きな才能と実績もある。


 そんな私がだ。

 現在、商業ギルドの連絡会で、脂汗を隠してふんぞり返っているのだ。

 これはいったい何の冗談だ!


 アトランディア商業ギルドに所属する、世界有数の商会のみが参加することの出来る、商売の頂点であり、世界の経済を牛耳り、金貨をかき集める神のごときこの機構において、私はその最高責任者だ。


 それは、この世界の経済において、最高位である事を示す。

 もし、商売の神というものが存在するのであれば、私の事だろう。


 つい先日まで、ここに居並ぶ巨大商会の長たちが私を見る目は、まさに神を見る目であった。

 それが、今は苦笑交じりか、憐れみか。救いを求める意志もあるが、なかには侮蔑を含んだものまである。

 どれも、商売の神である私に向けて良い視線ではない。


「アルベルト……今の状況を良しとするのか?」


 口火を切ったのはデマール・ベデルデール。

 ベルデール商会の前商会長の初老だ。現会長ではないが、その影響力は絶大だ。アラバント商会に次ぐと言って良いだろう。この場において、発言できる数少ない人間だ。


「今の状況とは?」


 私は内心のいらつきと焦りを隠し、偉そうに質問で返す。商人は舐められたら終わりだ。


「それを言わせるのか? 良いだろう。望むのであれば、現状認識もやぶさかではない」


 私の父アストラよりも歳上だというのに、デマールの声はハッキリと力強い。

 デマールは出席者全員に資料を配る。

 それを見て、私の片眉が持ち上がってしまった。

 私が自慢する、鉄のポーカーフェイスが眉根だとはいえ、崩れるほどの衝撃だった。

 他の人間はわからないが、少なくともデマールには気付かれただろう。


「どういうことだ? デマール」

「アトランディアの物流に関する資料だが?」

「なにを白々しい! 私は資料に和紙(・・)を使っている理由を聞いている!!」


 デマールが配った資料は、にっくきヴェリエーロ商会の主力商品である、和紙を束ねたものだったのだ。


「理由だと? この会議に出席する商人で、この和紙の価値がわからぬ者がいるなどとは言わせぬぞ? それとももうろくしたか? アルベルト」

「価値だと!? あいつらは商業ギルドに加入していない! その商品を使うとはどういう了見だ!?」

「ふん。仕入れたのは旅商人……行商人どもからよ」


 一応な。という心の声がハッキリと聞こえてきそうだ。


「まさか居住権をもっておらず、商業ギルドに加盟できない、流れの商人との取引まで禁止するわけではなかろう」

「詭弁だ! こちらとて、調べはついている! 流れの商人に大金を渡して代理で購入しているだけではないか!」

「商会ギルドの規約に反してはいなかろう」

「これが許されるなら、商業ギルドの意味がなくなる!」


 万事冷静沈着をモットーとする私が、怒鳴り散らしてしまうほどの裏切り行為。許される物では無い。


「……アルベルト、お前にしては視野が狭くなっているな」

「なんだと?」

「ギルド以外による代理購入。なぜこれが今までなされてこなかったのか、考えて見ろ」

「なに?」


 私は沸騰した頭を、急速に冷やしていく。


「それは……代理購入ともなれば、ギルドに反する……だけではないな。当然資金のない流れの商人に頼むのだ。当然先に現金を渡さなければならない。それは……途方もないリスクだ」

「リスクの内容は?」

「大きくは二つ。一つは持ち逃げ。単純明快だな」


 デマールが頷く。

 悔しいがその落ち着いた態度に、こちらも冷静さを取り戻していた。


「もう一つは、仕入れ価格の詐欺が起こりえない……」


 代理購入は極端な例だが、普通に他の商会へ仕入れを頼むことは日常茶飯事だ。

 例えば、私のアラバント商会でサンゴを販売しようと思っても、在庫がない。

 ならば、サンゴを取り扱う商会から買い付けることになるだろう。

 代理購入……別名「仕入れ」


 仕入れにおいて、もっとも注意しなければならないのは、どれだけ相手が「抜いている」かだ。

 商品というのは、右から左に流すだけで、必ず利益がなければならない。

 だから、相手が利益を確保するのは当然事だが、その割合が問題なのだ。


 このサンゴの例であれば、仕入れ先の商会も、当然漁業ギルドやそれに類する場所から「仕入れ」る。

 仮にここでの仕入れが金貨一枚だったとする。

 だが、この仕入れ取引の金額は、知ることが出来ない。それは商会の秘密であり、生命線だ。

 仕入れ価格がわからないから、商談があり、駆け引きが発生する。


 そこまで考えて、私は背筋が凍り付いた。


「仕入れ価格が……明示されているから……中抜きが発生しない……」


 和紙の購入方法はこんな感じだろう。

 街にやってきた行商人をとっ捕まえる。

 ここに集まる商会の名前であれば、誰だって話を聞くだろう。


 行商人に金貨の詰まった革袋を渡してこう言うのだ。


「今すぐヴェリエーロ商会に行って、和紙を買えるだけ買ってきてくれ。報酬は仕入れた和紙の1割を渡そう」


 耳ざとい行商人であれば、和紙やペットボトルを仕入れに来ているだろうし、仮に知らなくとも、トップクラスの商会が金に物を言わせて欲しがる商品なのだ。よほどの商品であることはすぐに理解出来る。

 出来なければ商人などやめてしまえばいい。


 その魅力的な商品が一割。

 自らの資産ではケツの毛まで差し出したって、購入出来る量ではない。

 しかも手数料をもらうのではなく、現物支給だ。

 つまり、和紙をどれだけの現金に出来るかは己の腕にかかっている。


 これで燃えない商人はいないだろう。

 商業ギルドに加盟している商会は自分たちで使う用がメインであり、どの程度販売するかは不明だ。つまり行商人からすれば、値上がり確実な商品を現物でもらうのだ。

 己に自信のある商人なら必ず首を縦に振る。

 もちろん、自信が無く、手間賃を要求するようなつまらない奴もいるだろうが、そこは問題ではない。


 そして、行商人はヴェリエーロ商会の大行列に並び、野心の一つが皮算用だったことに気付く。

 あわよくば商談で、少しでも安く仕入れ、金貨をちょろまかしてやろうと意気込むが、手渡される和紙には、仕入れ価格が明確に表記されているのだ。


 行商人は、そちらは諦めるしかない。だが利益は十分。文句などあるわけが無いだろう。


「……そういうことだ。特に目新しい商品を扱う商人は駆け出しが多いこともあり、商業ギルドに所属していない小さな商人も多い。そんな所から仕入れる事に制限はなかろう? そういう意味では、あのヴェリエーロ商会も、新参商人と同じ扱いと言えなくもない」

「流石に詭弁が過ぎるだろう!」


 いったいどこの世界に、新参商人が、アトランディア商業ギルドを手玉に取れるというのか。

 忌々しいが、資金力も商品力も尋常では無い。


「そろそろ本題に戻ろう」

「何?」

「もう一度問うぞ、アルベルト。今の状況を良しとするのか?」

「……」


 私はとうとう、言葉に詰まってしまった。

 良いわけがない。

 今すぐ解決しなければならない問題だ。


 だが、私の考える解決策と、ここに居並ぶ商会の代表たちの望む解決策が同じであるはずが無い。


「一番の解決策は、あの……ヴェリエーロ商会にギルドに加盟させることだ」


 言い淀んだのは「あのにっくき」と言いそうになってしまったからだ。


「それが出来るのであれば、今までどおりアラバント商会についていこう」


 デマールは断言した。参列者も全員が頷いている。

 少し違和感を覚えた。


「難しい」


 私はボソリと答えると、デマールは「だろうな」とボソリと頷いた。

 デマールがゆっくりと立ち上がる。


「こちらからの提案は、ヴェリエーロ商会との取引を解禁していただくことだな」


 彼らからしたら、喉から手が出るほど欲しい商品を扱っているヴェリエーロとの商談を禁止されているのだ。当然の要求だろう。


「それは出来ない」

「なぜだ?」

「商業ギルドに銅貨一枚すら納めていない商会と、我らが取引すれば、他のギルド加盟商会に示しが付かない」


 これは、絶対原則と言って良い。


「ならば、行商人を使った仕入れは黙認してもらおう。そもそもギルド規約に反しているとも思っていないが」


 デマールは堂々と、その手口を明かして見せたが、それはベデルデール商会の前商会長だからこそ言える事だ。

 ここに参加している商会で、それをやろうとして、決断しているところは少ないだろう。

 本来、ギルドから追放されるリスクと天秤にかけられるものではないのだ。


「このまま行商人経由で仕入れをすると言ったら?」

「ベルデール商会と言えども……商業ギルドの意向に逆らうというのであれば、然るべき処理をおこなう」


 ここまで言えば、デマールも引き下がらざるを得ないだろう。


「……然るべき処理とは?」

「なに?」


 食い下がってくる……だと?

 ならば、現実を教えねばなるまい。たとえベデルデール商会と言えど、避けられない処理を。


「当然。罰則金を徴収のうえ、商業ギルドから永久追放だ。ここアトランディアでの商売は決して許さない」

「そうか……。了解した」

「ああ。脅しでは無い」


 わかってくれたらしい。

 なぜデマールがこんな当たり前の確認をしたのか、意図は不明だったが。


 もっとも。

 次の言葉で、その意図は明確になったわけだが。


「罰則金は今月中に支払おう。今まで世話になったな」


 デマールはその言葉置いて、部屋から退出しようとする。


「……まて。今なんと言った?」

「今月中に罰則金を支払うと」

「違う! その意味だ! それではギルドから脱退するようではないか!」


 デマールはニヤリと凶暴な笑みを見せつけてきた。

 とても商人の顔では無い。いや、ある意味で商人らしい笑みかも知れない。ただ、けっして他人には見えない本心という顔なだけで。


「そう言っているのだが?」

「な……! ばっ! バカか!? とうとう呆けたのか!? 歳には勝てぬか! デマール! 一時の感情で物を言うなど、貴様らしくないぞ!?」

「一時の感情だと? バカはお前だろう。当然、現会長だけでなく、親族みなで決定済みの内容だ。もっとも、お前の言う最善策が取れていれば、それで良かったのだが」

「な……な!?」


 事前に! 決めておいただと!?

 世界で二位であろう大商会が抜ける?

 ばかな……ばかな!


「ベデルデール商会が、商業ギルドから得られる利益を全て捨てるだと!? 正気か!?」


 並みの利益ではないのだ。それこそ小国を動かすことが可能なほどの利益であり、ここアトランディアにおいても、教会権力はびこるこの国ですら、揺るぎない地位を約束される。

 アトランディア商業ギルドは、そういう組織なのだ。その地位と利益を捨てる?

 ありえない……ありえない!!


「もちろん正気だ。今まで世話になったな。では、さらばだ」

「……!」


 デマールは言い放って会議室を今度こそ出て行った。

 そこに躊躇は無かった。


 私は思考が停止して動けなかった。

 正気に戻った私は、慌ててデマールを追いかけた。


 冗談では無い!

 ベデルデール商会の真意はわからないが、抜けられたらギルドの損害は計り知れない。


 すでに屋敷の外に出ていたデマールは、馬車に乗り込む所だった。


「まっ! 待てデマール!」

「なんだ? アルベルト? 私はもうギルドの人間ではないぞ」

「ギルドを抜けてこれからどうするつもりだ!? こちらの意地にかけて優遇などせんぞ!?」

「必要ない」

「な、なに?」

「ギルドの特権は必要ない」

「な……」


 このセリフ、どこかで聞いた覚えがある。

 どころか忘れるものか!


 あの! 忌まわしい! 黒髪の! ヴェリエーロの若造が! 発した言葉ではないか!


「私は新しい商売の形を知った。自由競争……経済。私には資本がある。だから、ギルドの特権は足かせにしかならんのだよ」

「資本? 自由競争? 何を言っているのだ、デマール?」

「すまないがこれから経済の勉強会でね。人を待たせているんだ。失礼するよ」

「まっ!」


 待てと、止めようとして、馬車の中に座る人物に気付いてしまった。


 一人はアッガイ・アラバント。不出来な弟である。

 私に気づいて、わずかな笑みを見せた。商人らしい、なんとでも取れる感情の無い笑みだ。


 そしてもう一人。


「よう。久しぶりだな」


 軽く手をあげ挨拶を投げてきたのは。


 黒いスッキリした上下の商人。ヴェリエーロ商会の若旦那。アキラ・ヴェリエーロだった。



あらためて、あけましておめでとうございます!


更新遅れてすみません!

その分、増量しております。


なろうデビューにして、神さまSHOPの連載開始から4年目が始まりました!

小説家になって3年目!


これからも面白い物語を紡ぐべく、頑張って参ります。

皆様応援よろしくお願いします!


同時連載の冒険クビ錬金も今月30日に発売となります。

合わせて応援よろしくお願いします!


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