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第23話「最強商人と最新ファッション」


 あれからしばらくたち、エルフ縫製工場は様変わりしていた。現在は工場あらため、エルフ縫製部と呼んでいる。

 ヴェリエーロ商会アトランディア店の隣にオープンした縫製工場は、当初、ミシンの宣伝をかね、建物中にミシンを並べ、ショーウィンドウから縫製の様子が見えるようにしていた。


 しかし、質の良い布と、注文から完成までが凄まじく早く、かつエルフの繊細で独特な仕立てとデザインが貴族や金持ちの間であっと言う間に話題になり、燎原の火のごとく噂が広まり、客が殺到するようになった。


 あまりにも、問い合わせが殺到したため、エルフのご婦人方やチェリナと相談して、店の方向性をがらりと変えた。とにかく客層を絞る方向で高級路線への転換だ。


 現在のエルフ縫製部は、立派な調度品を揃え、サンプルとなる様々なデザインの服を並べた、ブティックとなっている。

 わざとらしく、ミシンが一台置いてある。

 もちろん、ガラス張りのままなので、外からは丸見えだ。


 そして今日も立派な馬車が、エルフ縫製部の前へとやってくる。


 執事らしき男がさっと馬車を降りると、恭しく貴族が降りるのを待つ。

 偉そうな貴族が地面に降り立つと、もう一人、奥方をエスコートする。

 さらに元気そうな少年も馬車から出てきた。

 家族三人が並ぶと、貴族がわざとらしく懐から懐中時計(・・・・)を取り出した。


 パチンと音を立てて銀色の蓋を開け時間を確認すると、満足げに店舗へと足を運こぶ。


「いらっしゃいませ。ゼクセンダール様でよろしいですか?」


 出迎えたのは、動きやすいドレス姿のラライラだ。ゼクセンダールとかいう貴族と奥方が「ほう」とため息を漏らすがその気持ちはわかる。まさに妖精だからな。

 少年にいたっては、頬を染めて「ふわー」とか呟いていた。


「ああ。私がゼクセンダールだ。予約した時間で合っているかね?」


 再びわざとらしく懐中時計で時間を確認するゼクセンダール。よほど気に入っているらしい。

 もちろん、その懐中時計は俺がSHOPで購入したものだ。

 この世界基準の時間が刻まれる、一万円ほどの懐中時計である。

 千円でも作れたが、流石にちゃち過ぎたので、質を上げた。


 チェリナの意見で、服の単価を上げ、客層を絞ることになったのだが、それでもかなりの予約待ちが発生してしまう。

 そこで、採寸待ちの全員に、この懐中時計を渡して、採寸予約日の指定した時間に来てもらうよう頼んだのだ。


 流れとしてはこうだ。

 まず、ヴェリエーロ商会に貴族や金持ちの下っ端がやってくる。そこでいくつかの条件を飲んでもらった上で、採寸日を予約。手付金と交換で懐中時計を渡す。

 採寸日に服を作成する本人に来てもらう。

 デザインを決め、見積もり。完成日と引き渡し日を確定。

 引き渡し日にもう一度来店してもらい、微調整してお渡し。代金をいただく。この時点で懐中時計はプレゼントとなる。


 本来であれば貴族の仕立ては本人の屋敷に出向くのが普通だが、来店してもらうのが条件なのだ。


「それではゼクセンダール様、どのようなデザインの服をお仕立てしましょうか?」


 ラライラはこの大陸を周り歩いたと言うだけあり、このような貴族相手の対処もそれなりにこなす。

 チェリナの指導もあり、昼は縫製部、夕方からは会計その他と大活躍してもらっていた。


「うむ。私は貴族として恥ずかしくなく、かつ少し斬新な物を。妻と息子は……ああ。もう勝手に見本を見ているようだから、個別に聞いておくれ」


 苦笑いするゼクセンダールをよそ目に、すでにサンプルを物色し始めていた奥方と息子さん。


「それでは先にゼクセンダール様の採寸を始めてしまいましょうか。その間に、お二人のお話をお伺いしてきます」

「そうしてくれ」


 ラライラが頷くと、主婦エルフがゼクセンダールの上着を脱がして採寸していく。

 失礼にならない程度に、礼儀を学んでもらった。

 身分にこだわらない彼女達なので、初めは戸惑っていたが、最近はそういうものかと割り切ってくれている。


「うわー! これ格好いい!」


 少年が真っ先に飛びついたのは、厨二系アニメの主人公にインスパイアして作られた、黒を基調に謎のベルトがあちこちに生えている痛々しいロングコートだった。


「あら、良いじゃない」

「お母様! これがいいです! この服が欲しいです!」

「では、それを元にして、もっと素敵なデザインにしてもらいましょう」

「はい!」


 ああ……またコスプレが増えるのか……。

 なんかしらんが、若い奴らに大人気なんだよな、それ。


「エルフのデザインって聞いたから、少し不安だったんですが、どれも素晴らしいです! お母様!」

「こら。エルフさん達は別にもう(・・)敵じゃ無いと説明したでしょ? 申し訳ありません」

「いやいや、気にしないでくださいな!」


 エルフ唯一の太っちょおっかさんが気安い口調で応える。

 取引条件の一つに、エルフを差別しないことと、彼らのフレンドリーな態度を受け入れてもらうという項目があった。

 奥方が息子に対しての言葉はそれが前提だろう。

 もっとも、すでにこの国でエルフは敵という空気はほとんど残っていなかったが。


「それじゃあ坊ちゃんは、ダークコート系でデザインしようかね! 奥さんはどんなのが良いんだい?」


 元の性格が明るいせいか、軽い口調で話し掛けるおっかさんエルフに、一瞬目を丸くする貴族夫人だったが、すぐに笑顔になると、飾られた見本を見回っていく。


「これとか素敵ねぇ……でもちょっと派手かしら?」


 奥さんが手にしたのは、よりにもよって、エルフたちが魔法少女物にインスパイアされてしまった、この店で一番ヤバイ(・・・)服だった。

 あんた三十代くらいだろ?

 ……やめろ……やめろください……。


 俺の魂の叫びは、おきらく商売神には届かなかったらしく、奥方が身体に当てて、鏡で確認していた。

 ちなみにアトランディアで姿見の鏡は大変高級品ではあるが、少量流通している。

 ほとんどがアラバント商会の独占状態らしい。


「ほほう? 変わったデザインだな」

「ですよね。流石に少し私には派手かしら?」


 採寸しつつ、妻の様子に気付いたゼクセンダールが声を掛ける。よし、そのまま別のデザインに変更させるんだ!


「良いじゃ無いか! この間のパーティーでは他の夫人がここのドレスを着ていたのだろう? それを上回るには少しくらい冒険しても!」


 おうまいがっ!


「そうよね! これなら次のパーティーで主役になれそうですわ」

「うんうん! お母様にお似合いですよ!」


 たしかに貴族の嫁というだけあって、かなりの美人ではあるが、可愛い系とは違う系統だから、その服は地雷になるというか……。


「決めました。これを元にもっと素敵なデザインにしてもらいましょう!」

「ははは! 私も早く決めないとな!」

「僕もはやくこの服が欲しいよ!」


 和やかに笑い合う家族たち。幸せそうなのは良いんだけど……コスプレ家族……。

 いや、この世界では新しいファッションという意味合いしかないのはわかってるんだが……。

 こう、なんていうか、痛い。


 あちこちに設置した防犯カメラで、それらのやり取りを確認していたのだが、頭を抱えるしかない。


 その後、採寸やらデザインやらの打ち合わせを終えて帰っていく彼らは、とても満足そうだった。


 おい神さんよ、どうしてこの世界はこんなに厨二が受けるんだよ……。



神さまSHOPのコミック完成しました!

まだ手元には届いてませんがw


発売日は24日です!

もうすぐです!

ぜひぜひご予約お願いいたします!

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