第20話「最強商人とまったり日々」
「聞いたか?」
「ああ。馬鹿な奴もいるもんだ。だが、本当にヴォーレント通りに商会を開いてんのに、商業ギルドに加入してないのか?」
「間違いない。そもそもこの情報は非公式に商業ギルドから回ってきてる」
「なるほど」
ニヤリと、髭面の男が下卑た笑みを浮かべた。
場所はヴォーレント通りから少し外れた裏路地。
ローブ姿の二人の男性。
ぱっと見、堅気には見えない。
もっともこの世界、こういう奴は沢山いるので、あまり見た目で判断するわけにもいかないのが困りものだが。
俺は、リモコンを少し操作して、二人から距離をとった。
「うーん。それ、凄いよねぇ」
ラライラが感心したような声を漏らす。
俺たちは、商会の会議室にいる。時間は深夜だ。
俺が手にしているのは、スマホを挟み込んだ、リモコンだ。
画面には先ほどの男が上空から映し出されている。
「えっと、ドローンって言うんだっけ?」
「そうだ。便利だろ?」
「空を飛ぶだけでも凄いのに、離れた場所から動かせる上に、その場の映像まで映せるなんて、反則だよ」
「流石にこれはアッガイたちには見せられないな」
「今さらだと思うけどな」
「そうか?」
画面の中で二人が動き出したので、ゆっくりとドローンでその後を追う。
見廻りをしていたエルフが、不審な男がいると教えてくれたので、ドローンのテストがてら、指定の場所に飛ばしてみたら案の定だ。
「集音マイクは便利だな」
「便利なのはそこだけじゃないよ、アキラさん」
「そうか?」
どうせ異世界。免許の必要も無いので、業務用のハイモデルを購入したのだが、流石に業務用。映像も音声もばっちりだ。
ドローン自体も静音タイプなので、少し離しておけばまず感づかれない。
仮に気がつかれても、この暗さだ、変わった動物くらいにしか思われないだろう。
「外は真っ暗なのにこんなにハッキリ……」
「業務用だからな」
男二人が、その身体能力を使って、商会の屋根へと昇っていく様子がスマホ画面に映し出される。
「どうするの?」
「俺、いつでも、行ける」
「ちょっと待て。こいつらの狙いが知りたい」
側に控えているヤラライに待機してもらう。
お、何か話してるな。
「おい見ろ、本当に屋上にガラス板を並べてあるぞ」
「いったい何のまじないなんだ?」
「さあな。だが、これだけのガラスだ。無くなったらさぞ落胆するだろうよ」
二人は小声で会話しているようだが、高性能マイクはその声を残らず拾う。
「しかし、こんなでかいガラス、どうやって……ん?」
「どうした?」
「いや、そっちの小屋に何か影が……うわっ!? なん!? ぷぎゅっ……」
「なんだ? どうした!?」
相棒の悲鳴に、身構えるもう一人。
外は暗闇なので、何があったのか理解出来ていないのだろうが、ドローンのナイトモードで見ている俺たちには丸わかりだ。
「あー……」
「俺の、出番……」
「必要なさそうだな」
盗人をぷぎゅっと潰した犯人。
グリフォンのクックルが闇に紛れて、もう一人の後ろに回り込んでいた。
「おいっ! どうした? 敵か!?」
短剣を抜いて、辺りをうかがう盗人だったが、どうやらクックルの気配に気付くよう様子は無い。
そのまま忍び寄ったクックルが、再びぷぎゅりと盗人をはたき付けた。
「むぎゅう……」
「クケ……」
クックルは二人を咥えると、バサリと飛び立った。
ファフの特訓のおかげで、二人の重量でも楽々と抱えて飛べるようになっていた。すべるように滑空すると、ぺいと、街の外に二人を捨てて、小屋に戻ってアクビをしていた。
「……大丈夫そうだな」
「そうだね」
「ぬう……」
時々、似たような手合いが現れたのだが、その全てはクックルかヤラライ、またはザザーザンの手によって、さくさくと処理されていった。
噂が広がると、商会に手を出す悪党はいなくなっていた。
◆
「なあチェリナ、もう少し仕事をおさえたらどうだ?」
俺たちがアトランディアにヴェリエーロ商会を構えて、ある程度の日付が過ぎた頃の話だ。
チェリナのお腹も大きくなってきたというのに、彼女は今日も精力的に働いていた。
「そうですよ、チェリナ様。少しはゆっくりしてください」
と、ナルニアが言った。
メイドとして最低限の修行が終わったとかで、テッサからの荷物と一緒にやってきたのだ。
子供の成長は早いと言うべきか、少しばかり身長も伸びていた。
将来は大変な美人になりそうである。
今まではルルイルがチェリナに付きっきりであったが、今は寮母的な仕事をしてもらっている。
住み込み従業員の食事や掃除などだ。
もちろん、チェリナの健康管理もしてもらっている。
のんびりした性格だが、とても仕事の出来る方だった。
ラライラの母親だと実感する。
代わりにナルニアがチェリナ付きになったのだが、一時も休まないチェリナに振り回されているようだった。
「大丈夫ですよ。無理はしてません。それにこのパソコンのおかげで、立ち仕事はほとんどありませんから」
「いやいや、チェリナお前、会計に仕入れだけじゃなく、商談までやってるだろう!」
「慣れてますから。それに商談は相手が女性の時だけですよ」
「それは知ってるが……」
商業ギルドに所属していなくとも商売すると宣言してから、たまに女性がやってくるようになったのだが、まだまだ男尊女卑の風潮が強いこの世界だ。妊婦のチェリナが出て行くことで、相手も安心するのである。
また、女性で商売を始めたいという相談にものっているようで、噂を聞いた女性が少しずつ増えているのだ。
「ま、大丈夫じゃろ」
「ハッグ?」
「嬢ちゃんはそこそこな波動の使い手じゃ。女ドワーフも出産直前まで動き回っておるが、波動のおかげじゃしな」
「そうなのか」
「アキラは意外と心配性じゃの」
「いや、だって、ほら……」
心配するだろう!?
お腹おっきいんだぞ!?
「流石に戦闘は控えた方が良いと思うがの」
「論外すぎるわ!」
「ふふ……、本当に大丈夫ですよ。聞いていたよりも身体が軽いのは不思議でしたが、波動のおかげだったのですね」
「うむ。あの紅い鎖を自在に操れるほどの腕じゃ。安産間違い無しじゃろうよ」
「いい事を聞きました」
「うぐ……」
俺としては、そろそろチェリナにはのんびりしてもらいたいのだが、とにかく猛烈に優秀なので、なかなか代わりになる人間がいないのだ。
計算やら在庫管理やらはラライラがこなしているが、やはり商売の機微の部分では、俺もまったく敵わない。
「アキラさまぁ~」
完全に「お兄ちゃ~ん」の口調で俺を見上げてくるナルニア。
「……任せたぞ」
「そんなぁ~」
幼女……とはもう言えないな、少女ナルニアは涙目であった。
頑張ってくれ。
「ククク……アキラよ、暇じゃ」
唐突にあらわれたのは、褐色で額に角を持つ露出度の高い少女だった。ちょうどナルニアと同じくらいにみえるが、その中身は強力なドラゴンだったりする。
この世界のドラゴンは、害獣などと一線を画す生き物であり、まさに神と同等の生物らしい。
どういう訳か一緒に行動している。
最近商談やら商売やらに精を出しているせいか、ドラゴン少女ファフは自由気ままに遊び回っていた。
「こないだ映画を沢山渡してやったろう?」
「ククク、もう全部観たのじゃ」
「もうかよ!?」
SHOPで何でも買えるようになったので、ブルーレイで映画を色々買ってやり、前に使ったプロジェクターを貸し出してやったのだが、どうやら、暇なファフは全て見終わってしまったらしい。
「ククク、映画のドラゴンは強いのも弱いのもいて面白いのぅ」
「お仲間が退治される映画が面白いのかよ」
「ククク、そんなもの、弱い方が悪いからの」
「そんなもんか」
ファフがお気に入りなのは、ドラゴンが出てくる映画だ。
ただ、大半が最終的に退治されるので、怒るかと思ったのだが、そんなことはなかった。
「ククク、暇じゃから、相手をしてやろうぞ」
「それは夜にな」
「なんじゃ、別にワレは今からただれた生活でもかまわんぞ」
「訓練な、訓練」
「ククク、ウブじゃのう」
「お前は嫁の前で何を言っているんだ」
ファフの冗談は下世話で困る。
「ククク、割と本気なんじゃがのぅ」
「なお質が悪いわっ!」
しかし、世話にはなってるから、なんかお返ししてやらんとな。
「ククク、身体で返してくれればいいぞ」
「それ以外でな」
「つまらん男よな」
「つまらなくて結構だっつーの」
どこにでもいる一商人だっつーの。
「え?」
なぜかナルニアが奇妙な声を上げた。
なんでだよ。




