第18話「最強商人とビフォーアフター」
俺は、チェリナやラライラ。二人の面倒を見てくれていたルルイルと、彼女たちを預かってくれていたアッガイに、その警備に当たっていたエルフの戦士10人を招いて、新しいヴェリエーロ商会、アトランディア本部を案内していた。
もちろん、ファフとユーティスもいる。残りのメンバーは警護と、商品の運び込みだ。
「ラライラとチェリナは、もう電気の事は知ってるよな」
「仕組みは良くわかりませんが、ニホンで使っていた便利な機器を動かすのに必要な何かですわよね」
「ボクもチェリナさんも、待ってる間ずとパソコンの練習してたからね」
「わたくしは、会計ソフトというものを使えるようになった程度ですよ」
「むしろ、プログラムをこの短期間で習得したラライラがとんでもないと思うぞ」
妙にパソコンに興味を持ったラライラに、リフォームが終わるまで暇だろうと、プログラムの本を渡していたら、いつの間にやら、とんでもないプログラマーになっていた。
会計ソフトや計算ソフトのマクロを組みまくって、使いやすく便利に改良していた。
それだけで無く、レジスターを中心にしたPOSの集計システムすら、組み上げたのだから、ちょっと尋常じゃない。
「うーん。プログラムって、ちょっと理術の考え方に似てるんだよね。だからじゃないかな」
「いやいやいや。絶対違うって。でもおかげで、最初から全部投入出来る。助かったぜ」
「えへへ」
嬉しそうに答えるラライラ。
やっぱ天才なんだな。
「電気のコンセントも、全部の部屋に引いてあるぞ。それはそれで、そろそろ案内しようか」
俺がまず案内したのは入り口。
流石に自動ドアはやり過ぎかと思い、普通の手動ガラスドアにしておいた。
「「「……」」」
アッガイ、チェリナ、ラライラが絶句する。
「中に入ると正面に総合カウンターだ。邪魔な中央階段は取っ払って、広く使えるようにした」
「「「……」」」
「左右で役割の違うカウンターだな。こっちは商談用だ。奥に行くと荷下ろし場」
どうも、三人の表情が引き攣っているように見える。
「馬車をそこにつけて、倉庫から直接荷物を詰めるようにした。ほら、スチール製のローラーコンベアを引いてあるから、この上に木箱なんかを滑らせれば、楽に素早く奥から運べる」
「おふ……」
アッガイが妙な声を上げた。
何か変だったろうか?
「もともとあった、井戸から水を汲み上げて、必要な場所で使えるようにしてある。あ、そこが従業員用のシャワールームな」
面倒だから、ユニットバスをそのまま嵌め込んだ、手抜き設定だ。
「授業員……用?」
「ああ、申し訳ないが、シャワーだけの簡単なやつだな。ボディーソープとかは用意してある」
「おぅ……」
実は地下に、浄化槽を埋め込んである。完全に綺麗になるわけでは無いが、垂れ流しよりはいいだろう。これのおかげで、下水も完備されている。
「トイレは各階に用意してある」
「おい、アキラ、なんだこれは?」
「便座は適温にあったまって、尻を洗う水がシャワーのように出る様になってる。ああ、そこのボタンを押せば、流れるぞ。一応全ての部屋に、説明を貼っておいた」
「汚物を……水で流し、尻を水で清める……?」
諸処の事情からトイレットペーパーは置いていない。
代わりに温風乾燥が強い機種を設置してある。
ようやく、人類らしいまともなトイレが使えるぜ。
工事を手伝ってくれたハッグやエルフたちには、大変好評だった。
こんなものを使ったら、二度と普通の便所に入れないと、悲鳴を上げていたが、同意する。
キャンピングカーが手に入るまで、どれほど辛かった事か。
清掃の空理具が無かったら、ほんとやばかったぜ。
「二階が会議室だな。使いやすいようにホワイトボードとか置いてある」
「こ……これは」
アッガイがマジックで消しては書いてを繰り返している。
黒板に似たものは存在してるんだから、さして珍しい物でもあるまいに。
「こっちがキッチン。料理研究が出来るように、この階には大型の物が置いてある。業務用冷蔵庫もあるぞ」
「「……」」
キャンピングカーの冷蔵庫を知っている、チェリナとラライラも無言だった。
なぜだ。
「三階は従業員用の宿泊施設。まだリフォーム段階の時にチェリナには一度見てもらったな。アドバイス通り、このサイズの部屋には六人暮らせるように、三段ベッドを2つ入れてある。それだけじゃ可哀相だからな、各スペースには小型の荷物スペースとLED照明を設置してあるから、本くらいのんびり読めるだろ」
「「……」」
今度はアッガイとチェリナが無言だ。
ラライラは興味深そうにベッドを覗き込んで、ライトのスイッチを入れたり切ったりしていた。
「四階が俺たちのスペースだな。俺とチェリナとラライラの私室は割愛。元が広いからな、結構広く取らせてもらった」
三人のスペースだけで5LDKくらいあるのだ。
元の広さが知れる。
「隣にヤラライとルルイルさんの部屋。2LDKくらいあるから、十分だと思う」
「うわ〜、広いですね〜」
「ルルイルさんにはチェリナの面倒も見てもらってますから」
「うんうん〜。家族なんだから当たり前よ〜」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
他にハッグの部屋とゲストルームも用意してある。
「屋上にはクックルが住んでる。後で遊んでやってくれ」
「「「……」」」
なぜか黙り込むアッガイにチェリナにラライラ。
何か不満があったんだろうか?
「物足り無かった?」
「やり過ぎです!」
「やり過ぎだよ!」
チェリナとラライラがハモった。
「これが……商売神の使徒の力か……」
「アッガイ様……」
「わかってる。他言はしないが……」
「ええ。時間の問題でしょうね」
頭を抱えるチェリナ。
別に誰かに見せびらかす訳じゃないんだから、自宅くらい便利にしちゃまずかったか?
「ボク、アキラさんの故郷に行ってみたい気持ちと、絶対行きたくないって気持ちが半々だよ」
「とても、わかりますわ。ラライラさん」
「アキラの故郷……どんな魔境なんだ」
なんだか酷いことを言われている気がする。
◆
「それで、今日は商品を見せてくれるんだったよね?」
気持ちを切り替えたアッガイが、商談ルームのチェアに腰を掛ける。
その座り心地に驚いているようだった。
この部屋は、他の部屋のパイプ椅子と違い、かなり良い物を揃えている。
「ああ、まず、主力になるのはこの二つだ」
テーブルの上に置いたのは、エルフ製ペットボトルだ。
これは、エルフの里、緑園之庭に滞在中、物作りを得意とするエルフの総力をあげて完成させた品物だ。
ハッグの手伝いもあり、専用の型を用意して、緑園之庭でしか育たない植物から取れる、プラスチックに似た樹液、パルペレ樹液で作られた物だ。
材料の組み合わせから、型作りまで、開発は困難を極めたが、短い期間で量産できる目処がたつまでになった。
そして、そのエルフ製ペットボトルを、SHOPの能力でコピーして購入している。
流石に、量産の目処はたっても、実際に量産するまでにはいかなかったからだ。
現在、必至で増産して、レイクレルの中継地点に運び込んでいるはずだった。
「こ……これは!?」
「割れず、水漏れせず、透明で中身が確認が出来る、エルフ特製の水入れだな。こっちはエルフ産ワインを入れてある。これも販売するが、こっちはそれほど数が用意出来ない」
「ガラス瓶……では無いのか。パルペレとは名前だけ聞いたことがあったが、とうとうエルフはこれを外に出す決心をしたのか」
「恐竜っていう謎の害獣が暴れたって教えたろ? その被害が大きくてな。どうしても外貨が必要になったんだ」
「なるほど! レイクレルに倉庫を貸してくれと頼まれていたが、これを……」
「アッガイが良かったら、エルフ関係の輸送を任せたい」
「無論だ。喜んで」
金の話は後回しにする。
「それで? これだけでも革命的だが、まだ私たちを驚かす品物があるんだろ?」
「ああ、それはこれだ」
俺はテーブルに、和紙を滑らせた。