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第17話「最強商人と新たな日常」


 店内の改装は、急ピッチで進められていた。

 最初、資材はアトラント皇都内で集めようと思ったのだが、ほとんどの商会が釘の一本すら売ってくれなかった。

 早速嫌がらせが始まったようだ。


「どうするんじゃ、アキラ?」

「ハッグは建築も出来るよな?」

「うむ。楽勝じゃな」

「建築ならば、我々エルフも手伝いますよ?」

「ん? ザザーザンたちはみんなエルフの戦士だろう?」

「悲しいことに、戦士一本で生きていける時代では無いですからね。ほとんどの戦士は狩人兼業ですよ。狩人は手近な物でキャンプ道具を揃えたりしますからね。普通に大工経験を持つ者も多いですよ」

「なるほど。じゃあハッグの指示で動いてくれ」

「ぬ……」

「ヤラライは警備で」

「了承」


 ほんとこの二人は仲が良いのか悪いのか判別つかんな。


 俺は裏の倉庫に行くと、建築用木材や工具一式をSHOPから購入して並べていく。

 上司の車庫を1から作らされた時の事を思い出すぜ。

 セメントにコンクリ、耐震用の筋交い。発電機に電動ドライバー、電動丸鋸、電動釘打ち。

 などなどを、倉庫の片隅に積み上げていく。


 準備が終わり、ハッグと、手伝いのエルフ戦士10人ほどが入ってくる。

 既に俺の能力の事を知っているザザーザンは、呆れたように苦笑するだけだったが、残りの戦士たちがポカンと口を開けていた。


「皆さん。細かい事情は話せませんが、この件は、長老やグーグロウ団長を交えて、内密にするべきと判断しています。仲間であるあなた達に事情をお伝えできないのは心苦しいですが……」

「なに、アキラに不思議な力があるってことは聞いてるさ。流石に、ちと度肝を抜かれたけどな」

「てっきり、新しい品物を考える能力かと思ってたぜ」

「ああ、俺もだ。しっかし……ギフトって奴か?」

「詮索しないって約束だろ?」

「わかってるって。さて、ドワーフ殿。まずは何を手伝えばよろしいか?」

「ふむ。では……」

「おっと、ハッグたちには最初にやって欲しいことがある」

「なんじゃ?」

「まず、根本的な建物の補強。どの部屋もある程度の重量に耐えられるようにして欲しい」

「お安いご用じゃが、一度内壁を引っぺがす事になるぞい?」

「かまわない。アッガイの許可はもらってる」

「なら任せい」

「それで、特に屋上なんだが、真っ平らにしてほしい、少なくとも日照方面にひらけるよう頼む」

「ふむ? 天窓でもつけるんか?」

「逆だ。屋根の上に設置する物がある」

「ならば、日陰が出来るように作った方がいいんはないんか?」

「いや、最大限、太陽光を受けられる角度が望ましい」


 そこでハッグがニヤリと口元を歪めた。


「なるほど、なんぞまた面白い物を出すつもりか」

「ああ。折角だから、とことんまでやってやろうかってな」


 俺とハッグで悪い笑いを買わしていると、ザザーザンが苦笑した。


「事情はわかりませんが、やるならば、とっとと始めてしまいましょう」

「そうだな」

「うむ」


 こうして、もと貴族の別荘を、徹底的にリフォームする事から、俺たちの仕事は始まった。

 生コンの作成も、ドワーフとエルフの強力体制で楽々だ。

 とても大規模改修とは思えないスピードで、屋敷は立派な商会へと変貌(リフォーム)されていった。


 商会は、すでにちょっとしたオフィスビルになっていた。

 元の外観をある程度残しつつも、オシャレな四階建てのコンクリ建築へと変わっている。


 これをリフォームと言い切るにはちょっと無理があるかも知れないが、ハッグと体力に自信のあるエルフ戦士たちの大活躍で、想定の10倍以上の早さで作業が進むもんだから、思わず、あれもこれもと頼んでしまったのだ。


 反省はしてない。


 一階は大量のガラス窓を採用、外からオフィスの様子がうかがえた。

 また、ガラス窓の内側に商品を並べて、ショーウィンドウを楽しめるようにしてある。

 夜は建物を覆うようなシャッターを閉められるようにしてあるので、簡単に手は出せない。


 プランターを利用した観葉植物。

 磨き上げられた人工大理石の床。

 オーク材の天板と、メタリックな表面加工を施した、正面カウンタ−。


 左右に個別商談用の、ミニカウンターがズラリと並ぶ。

 カウンターの横を抜けると、馬車用の荷揚げ場だ。

 ここは、完全にコンクリで加工済み。

 地下の井戸水をポンプでくみ上げた水道を使えば、動物の汚物もすぐに洗い流せる。


 従業員用の簡易シャワー室も完備。


 もちろん倉庫もある。

 俺とハッグが悪のりして、内フレームを鉄骨メインに変更し、天上に移動式のレールと巻き取り式チェーン吊り上げ機まで設置してしまったのは、まあ愛嬌の範囲だろ?


 二階は会議室や、応接室。

 少し大きめの食堂も用意した。料理研究も出来るように、システムキッチンを導入してある。

 ラライラの母親、ルルイルが料理上手で、最近はほとんど彼女に作ってもらっている。

 そのうち飲食ギルドにも喧嘩を売ることになるかもしれない。


 三階は従業員などの住居スペース。

 狭い個室と、三段ベッドを並べた大部屋。

 最初、これは詰め込みすぎじゃ無いかと思ったが、チェリナ曰く、これでも贅沢すぎるとの話だった。

 まぁ狭いが個室も結構用意したので、見込みのある奴にはどんどん移ってもらおう。

 部屋が足りなきゃ、社宅を借りればいいのだ。


 そして四階は、俺たちの自宅になる、住居スペースだ。

 普通、この世界では、身分が下なほど上の階になるのが普通らしく、ちょっと呆れられた。

 なーに。

 隠し部屋にエレベーターを設置したから、問題ない。

 チェリナにあまり階段の上り下りをさせたくなかったからな。


 根本的にこの世界、上の階ほど崩れやすいという事らしいが、ハッグと一緒に、徹底的に基礎から耐震構造を作り直したのだ。

 直下型地震でも来ない限りはまず大丈夫。


 そして屋上。

 そこにはずらりとソーラーパネルが並ぶ。

 もうひとつ、小さな小屋が二つ並んでいた。


 一つは、住宅用蓄電システムと、非常用のガソリン式発電機が納められた小屋だ。

 コンクリでガッチガチに固めてあるので、ハッグが波動を使って鉄槌を振り下ろすでもしなければヒビも入らない。


 もう一つは。


「くけー!」

「おう、クックル。住み心地はどうだ?」

「くおぅ!!!」


 嬉しそうに俺にほおずりするグリフォンのクックル。


「時々遊びに連れてってやるから、大人しくしてるんだぞ」

「くけっ!」


 流石、ヴェリエーロに献上されたグリフィンだけあって、若いが躾が行き届いていた。

 ちなみに運動不足は全く心配していない。

 なぜかって?


 そりゃ、毎夜ファフの特訓に、なぜかクックルも参加させられてんだ。むしろ痩せる心配をするべきだろう。

 最近、クックルがファフに怯えるんだよな……。まぁ気持ちはわかる。


 ちなみに特訓は夜。

 場所は冒険ギルドの特訓場を借りている。

 スポーンのおっさんが紹介状を書いてくれたおかげで、無料で借りられることになった。

 見返りは、戦士として高名なヤラライと、ハッグの特別指導を定期的に開催することで、お互い協力し合うことになった。


 ヤラライとハッグだけでなく、俺とラライラも加わることで、精霊理術と空想理術を含む、オールラウンドの訓練が出来ると、冒険ギルドは大喜びだった。


 それにしても、発見や調査がメインの冒険ギルドで、そんなに訓練が必要かと聞いたら、むしろ前人未踏の地に行くのに、訓練しない方がおかしいだろうと答えられ、なるほどと納得するしか無かった。


 一番最初の合同訓練時、冒険ギルド100名(!)vs俺たち四人で模擬戦をしたのだが、その時の彼らの感想は。


「お前らおかしい!」

「途中から本気だったんだぞ! なんで無傷なんだよ!?」

「やべぇ……ドリルやべぇ……」

「黒針怖い……黒針怖い……」

「鉄槌はもう嫌だぁ……近寄れねぇよぅ」

「ラライラ可愛い。はぁはぁ」

「嫁に手を出したらぶっ殺すぞ」

「ドリルはいやぁああああ!!!」


 まぁ大体こんな感じだ。

 ユーティスの治癒神威法術にならぶ冒険野郎ども。

 鼻の下伸ばしながら、文句垂れてんじゃねーよ。


 それにしても、クエストの件もどうにかせにゃな。

 先日殴り飛ばしたいタイミングで発生したクエストに、頭を抱えるしかなかった。

 要約すれば。


『メルヘス教の教会を作って、そろそろ布教してね、ダーリン♪ あ、面倒だからユーティスちゃんを法皇にしちゃっていいからね〜』


 と言う物だった。

 とりあえず、まだ誰にも相談してない。

 ほんと、どうしよ?



10月24日、コミカライズ単行本発売ですよー!

刮目して待てw

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