第16話「最強商人と新天地」
「と言うわけで、我が輩はここでお別れになる」
旅支度を終えた緑のおっさん、スポーンが挨拶にやってきた。
「そうか、でも仕事が上手くいって良かったな」
「うむ。アキラが手伝ってくれた恐竜のイラストのおかげだな」
「恐竜騒ぎに関して続報は?」
「国や冒険ギルドが完全に確認できたわけではないからなぁ。仮として害獣の一種、恐竜種という形で注意喚起を促すと聞いているぞ」
「なるほど」
「それで我が輩はその指導などで、各冒険ギルドをまわらねばならなくなったのだ」
「そうか。寂しくなるよ」
「がははははは! 問題ない! 我が輩は風来坊だからな! また近いうちに遊びに行こう!」
「そうだな。何かあったら、ヴェリエーロ商会を尋ねてくれ」
「うむ。では、達者で」
スポーンは後を濁さずに、さっと消えていった。
「ちょっと寂しいね」
「そうだな」
ラライラの言葉に賛同する。
ああいうおっさんは嫌いじゃ無かった。
「よし、それじゃアトランディアに行きますか」
「うん!」
中規模キャラバンとなった、俺たちヴェリエーロ商会一団は、アッガイとそのお供数人と一緒に、アトランディアの首都であるアトラントへと、シフトルームで旅立った。
「こりゃまた……」
「やっぱり凄いなぁ」
「これは、見聞だけではちょっと想像もつかない規模ですね」
「チェリナも初めてか」
「はい。流石にここまでは。父や母から話は聞いていましたが」
「まさか時計台まであるとはな」
俺の視線の先には、尖塔に大きな鐘のついた時計台が建っていたのだ。
やはり世界最大の国家であり、世界最先端の都市という事だろう。
「私も久しぶりの帰郷だよ」
「アッガイも? シフトルームを使えば一瞬だろ?」
「こちらの担当はアルベルト兄だからね。下手に来るわけにはいかないんだ」
なるほどね。
だが、今回アッガイは、そのアルベルトと明確に敵対するのだから、その辺に気を回す必要は無いと。
「そいうことだ。さて、とりあえず、私の屋敷へ招待するよ」
「頼む」
予定通り、アッガイの持ち家へと移動を開始する。
大通りを進んでいると、予想通り、ひそひそ声が耳に届く。波動を鍛えていなければ絶対に拾えない声だったろう。
「おい、エルフだぞ」
「ああ、けったいな服だが、間違いなくエルフだ。それも二十人はいるぞ?」
「ふん。浅ましいエルフたちが一体なんの用だってんだ」
「そうだ、また襲ってやろうぜ」
「ばーか。よく見ろよ。鎧じゃ無いがありゃ、絶対どっかの戦士だぞ」
「どうしてわかるんだ?」
「ああ、俺は一時期兵隊をやってたんだが、まずあの揃いの黒い服だな。同じ服を揃えるのは、軍隊と相場が決まってる」
「こけおどしじゃ無いのか?」
「あほ。腰の剣を見て見ろ、どれもこれも業物だぞ。それにあの隙の無い視線と足運び。俺たちが束になったって、一人にすら怪我も負わせられないぜ」
「そんなにか?」
「ああ、長くこの街で暮らした腑抜けエルフとは大違いだ。恐らく森からやって来たんだろうぜ」
「じゃあこの辺の事情は知らない訳か」
「だろうな。じゃなきゃ今の時期にエルフが大通りを堂々と歩くものか」
アッガイにある程度の事情を聞いていたが、これは酷いな。
正直、この国でどの程度やらかすか決めかねていたところもあるが、全力で良いだろう。同情の気持ちも無くなった。
俺がやるのは商売だ。
だが、SHOPの能力全開の予定、かつエルフの名誉回復という二つの状況を同時に改善させるほどの商売となると、この国の経済を引っかき回す可能性が高い。
そうなると、目標のアラバント商会本店だけでなく、少なからず住民への影響も出る懸念があった。
が……。
「エルフだ……怖いよぅ!」
「ダメよ! エルフは子供を食べるんだから!」
「くそっ。群れてなきゃ俺が追い出してやるんだが」
進む先、進む先でそんな言葉を聞いていれば、手加減する気持ちなど欠片も残らないというものだ。
俺は初めて、全力を言うものを出す決意を固めていた。
ちなみにヤラライを含めて、戦士エルフは全員黒スーツだ。
俺のスーツとデザインは変えてもらっている。
本当は全員にサングラスを掛けさせたかったのだが、それは却下された。視界が悪くなると言う理由で。ちょっと残念。
ただ、全員に持たせてはある。
服を統一した理由は簡単で、この世界の人間から見たら、制服の一種に見えるだろうから。
一人を襲えば、漏れなく仲間の報復があるだろうことを連想させるため。
もう一つは威圧感を出すため。
さらに、鎧でなく服なので、下手な言いがかりを抑えやすいというメリットもある。
俺が身につけている、特製世界樹スーツではないので、防御力に不安はあったが、戦士たち全員から問題ないと太鼓判を押された。
武器に関しては、ぶら下げて歩くのは割と普通なので、そこは問題ない。
その得物に関しても、全てハッグ特製の物になっている。
特にヤラライの<黒針>だが、とんでもない事になっていた。
まぁこの辺はまた今度だな。
その日はアッガイの家でゆっくりさせてもらった。
もちろんやることは山積みだ。
◆
アトランディアが首都アトラントで、最も高級な路地だと紹介されたのが、ヴォーレント通りだった。
何でも昔に活躍した将軍の名前らしいが、そんな事はどうでもいい。
日本人の感覚からしたら、銀座の一等地と言ったところだろう。
「入札に成功して良かったよ」
「じゃあ正式に手に入れた物件なんだな?」
「もちろんだ。約束通り一年分の家賃は取らない。二年目からは相場を払ってくれるとありがたいが」
「ああ、努力しよう。しかし、年の賃料が億を超えるって、ちょっと信じられねぇ……」
「嘘偽り無く、それがこの通りの相場だぞ」
「疑ったわけじゃねーよ。一応チェリナに調べてもらうが、どっちかってーと相場調査だな」
「アキラは良い商人になれるな」
「なんだって?」
「時々あるのだよ。信頼という言葉の意味を勘違いしているやからが」
「ぜひ続きを聞かせてくれ」
「良いとも。つまり、信頼しているから、チェックしない。というのは、むしろ責任をあやふやにする行為だ」
「ほう」
「良いかね? 例えば私がアキラに馬車の部品を売るとしよう。アキラがそれを『信頼しているからチェックしなかった』となれば、問題が起きた時どうなる? 簡単だ。私は『正当な品を納めた。問題はそちらにある』と答えるだろうさ」
それを聞いて、今日本の抱える問題は、まさにそこなのではないかと思ったが、すでにどうでもいい国の話だ。教訓以外の感情は無い。
「俺もそう思うぜ。信頼しているからこそ、チェックするし、信頼しているからこそ、問題が出たら修正してもらうさ」
「それでいい。正直この国の商会のほとんどは、アラバント商会相手だと、その愚か者に成りはてる奴が多いからな。それこそ兄の思うつぼだというのに」
「やるべき仕事をやる、それだけだろ?」
「その通りだ」
アッガイは、ニヤリと、それでいて嫌味の無い笑みを浮かべた。
「それで、元貴族の別荘と言うこともあって、広さは充分だし、厩も完備。内装工事もすぐにでも入れる。商会にはうってつけというわけだアキラ。良い物件だろ?」
「ああ。想像以上だ。助かるぜアッガイ」
なんて話をしていると、どことなくアッガイに似たイケメンがこちらにやって来た。
間違いなく兄ちゃんだろう。
適度に挨拶を交わすと、案の定商業ギルドへの加盟を迫ってきたが、それは丁重にお断りしておいた。
そもそも商売をやるのに必要な手続きは、全部終わってる。
三下のような捨て台詞を吐いてから、アルベルト兄ちゃんは、大通りを挟んだ向かいの建物へと戻っていった。
それにしても、正面がアラバント本店とは、運命なのかね?
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