第34話「自由人と反撃の決意」
4章完結です
「あの、先ほどアキラ様の行動がおかしかったのも、この力と関係があるのですか?」
「ふむ? ああ、子供をいきなり養子にするとかいう、とち狂った事か」
「そ、そこまでは……」
「簡単じゃ、あの娘、アキラと同じ種類の魂を持っておった。アキラの中で領域を得る寸前まで高まっていた力と共鳴したのじゃ」
「同じ種類の魂?」
「答えを言ってやろう」
ファフがクククと視線を上げた。
「その世界の禁忌……アキラがいた世界で”親殺し”は非常に魂に負担を掛ける概念じゃ」
ファフの声が、俺の心臓を掴んだように、どくんと大きく響いた。
「ヌシよ。幼き頃から、一片の曇り無く、親を殺してやりたいと願っておったじゃろ」
「っ!」
それは!
どうなんだ!? 俺はそう思っていたのか!?
この世界に来てから、社会人になってから、少しは薄れていた感情……。
少なくとも、学生時代、そう思わなかった日は、無かった。
「が、ガキの頃の話だ。実際に行動したわけじゃねぇ!」
「ククク! そこが肝要よ! もし! 実現しておったら! お主の魂はそこまで純粋に黒くはならなかったからの!」
「っ!?」
「そして! その魂の色は! ワレが大好物の色じゃ! ワレの魂の色と、一部が同じ色なのじゃからな!」
「あー、そういう事ですかー。どうりで簡単に抜かれたわけですよー。とほほ」
「ククク、ヘルメスよ。あんまり残念がっているようにはみえんぞ?」
「あ。わかっちゃいます? 流石ドラゴン理不尽ですー」
「あれじゃ、予想以上に商売という領域が強大だったんじゃろ」
「そうなんですよ−。この世界の神さまは、一部すら使ってない概念領域だったんですよー。むしろ商売と神を結び付けるのは下劣って考えてたみたいですねー。その割りにお金は好きみたいですけどー」
「ククク、そんなもんじゃろ」
話が一気に進んで、理解出来ないことも多いが、つまり。
「俺の根底に、復讐の心があって、メルヘスは商売だけでなく、復讐の神になるところだったのか?」
「そーでーす! 失敗しちゃいましたが。てへ」
「いや、それは良いんだが、そうすると俺は、今後怒りを感じなくなるのか?」
「ククク、そんなことはないのじゃ。感情は感情。それにヌシは今、親を殺したいなどと思っておらんじゃろ?」
「ああ。どっちかってーと忘れ去っていたと言うべきかもしれんがな」
「じゃから、もうその魂は育たんよ」
「そうか」
どこか、スッキリした気持ちがあった。
「俺が、サリーに対して抱いた思いは、偽物だったのか?」
「いや、魂が共鳴したことで、あの娘の悲しみや辛さを一瞬で理解してしまった弊害はあるのじゃが、本来時間を掛けて理解する状況が短縮されただけで、同じ結論になったじゃろうよ」
「そうか」
この情報も、俺をホッとさせるものだった。
あの時の俺は、確かに長年彼女を苦しみを見続けていたような錯覚に襲われていたからだ。
だから、絶対に助けるのだと、決意した。
だが……。
サリーに突き離れた時、どうしてあの手を掴めなかったのか。
自分を許せない。
「アキラ」
近くに来たのはヤラライだった。
「ヤラライ! もう平気なのか!?」
「ああ、問題、無い」
「ラライラ! ユーティス! 本当か!?」
「なぜ、二人に、聞く?」
「強がりだったら困るだろうが!」
「う、む」
「大丈夫だよアキラさん。精霊に聞いたけど、もう大丈夫」
「はい。触診と神威法術で確認しました」
「そうか、良かった。そういえば、ユーティスは神官だったんだな。針子で旅人じゃなかったのか」
「あ……」
「いや、事情はそのうち聞かせてくれ、今は一杯一杯だ」
「はい……ありがとうございます」
「それよりヤラライ、何か言うことがあるのか?」
「ああ、ラライラに、話、聞いた。金鎧の女と、少女、一緒に家を、出てきたと」
「あ、ああ」
「あの女、あれ、危険。あれを前に、動けなくても、恥では、ない」
「だが! 俺は家族になると言った舌の根も乾かないうちに!」
「なら、取り戻せば、いい」
「え?」
「家族、取り戻す。当たり前の、事」
「あ……」
そうだ……、なんて単純な事がすっぽ抜けてたんだ俺は。
失ったら取り戻せば良い。この世界で学んだ事だろう。
「ふーむ。じゃが、どうするんじゃ? 奴らの正体すらわからんというに」
ハッグが髭を撫でながら思案する。
「サリーは言っていた。自分たちがアトランディアの特殊部隊だと言っていた」
「ほう? 真輝皇国か」
「ああ」
「偽情報という事は無いんか?」
「直感だが、真実だ」
「ククク、それに関しては真実じゃろ」
「なぜそう言えるんじゃ?」
「簡単な事よ、アキラが娘に感じていたように、娘もアキラに謎の共感を抱いていたはずじゃからな。アキラほどでは無くとも、共鳴の影響を受けていたのじゃ、もし嘘だったらアキラが気付く」
「神の理はよくわからんが、間違い無いんじゃな?」
「はーい。間違い無いとおもいまーす」
「ぬう……これがあの美味い酒を出す神かと思うと、崇めて良いのか、呆れるしかないのか悩むところじゃな」
「そこは思いっきり冷たい目を向けてやれ」
「やん! アキラ様のいけずぅ!」
「うるせー」
「か……神と使徒様が口げんかを……」
ユーティスがカルチャーショックを受けていた。
「え? アキラ様は使徒じゃないですよ?」
「「「え?」」」
おい、チェリナやラライラはわかるが、今ファフも声を上げてなかったか?
「むしろ私を産みだしたのですから、創造神に近いんですけど、実際には色んな偶然が重なったので、領域を司る神として、神域担当が私、地上担当がアキラ様って感じですー」
「……は?」
「ククク、どうりで魂がどでかい訳よ。生半可な運命では殺せん訳じゃなぁ。ヌシが神を生んだのはわかっていたが、あくまで別の要因が大きいと思っておったからのぅ」
ファフはファフで何言ってるの?
「領域ってなんだよ」
「あ、領域っていうのはイメージが固まっていて集中しているゾーンですねー。さっき出てきた、復讐とか商売とかー」
「イメージ?」
「はい。そのイメージが領域で、無数にある領域を、それぞれの神が担当することによって、上がってくるエネルギーを得るんですー。例えば太陽の領域だと、ヘオリス神さまとか、大地だとアイガス神さまとかですねー」
「あー、なんとなくわかった。それで、今まで復讐とか商売っていう、漠然としたイメージ部分を担当する神さまがいなかったわけだな」
「そうですそうですー。私が三神に掛け合った時も、商売なんて下劣な領域、新参者には相応しいと」
「そ……それはアイガス様もでしょうか?」
「ううん、ヘオリス神さまねー。力関係としては、ヘオリス神さまがちょっとだけ上みたいだったわ」
「そうなのですか……」
ああ、神官なんてやってんだから、そりゃ自分の神さまが格下なんて言われたら、複雑な顔にもなるわな。
「大まかに理解した」
「神の……理を……私が……」
「ユーティス。深く考えない方がいいぞ、所詮新参神さまって自分でも言ってるだろ」
「あ、でも、そろそろ三神に並ぶくらい力ついてますよ?」
「は?」
「思ってたより、商売の領域が広くて強力だったんですよー」
「おいおいおい……」
「あ!」
突然メルヘスが叫びを上げた。今度はなんだよ!
「時間みたいですー」
「は?」
「そこのロリババアドラゴンが、私に流したエネルギーが切れちゃいましたー」
「え? ちょ」
「っていうか、この世界に具現化出来た事自体、今でも信じられ無いんですけどねー」
「いや、ちょっと待て、まだ聞きたい事は山ほど……」
「ごめんなさい、またなんとかクエストという形でなんとか意思疎通したいとおもいますー。さよーならー」
「え! おいこら! 逃げるな!」
チェリナの胸の上で光っていた聖印から、スッと光が抜けて、パタンと倒れた。
「「「……」」」
「あ、あの野郎! 言いたいことだけ言って逃げやがった!」
「あの、アキラさん、逃げるというのは」
「ユーティス。事実はどうあれ、俺は逃げたと判定する」
「そんな、相手は神さまなのですよ」
「そんなのは知らん」
「あああ……」
俺は大きくため息を吐き出した。
気持ちを切り替えなけりゃならん。
「みんな、聞いてくれ」
全員が俺に視線を投げてきた。
「これからの予定を考えた。まずはエルフの森の復興を手伝う」
「悪くはないが、留まるということかの?」
「最後まで聞いてくれハッグ。復興をしつつ、真輝皇国アトランディアの情報を集めるつもりだ」
「なに? そんなことができるんか?」
「俺たちの明確な敵は、きんきら騎士のファーダーン。それにスカした槍野郎のレイドックだ」
「うむ」
「そいつはアトランディアの軍事に絡んでいる」
「殴りこむんか? 流石にピラタスの時と同じにはいかんぞい?」
「図らずも、今回武力という力に頼って負けたわけだが、良く考えろ別に同じ武力で勝たなくても良いだろ?」
「ふむ?」
「あっ!」
「なるほど」
どうやらラライラとチェリナは気がついたようだ。
流石だな。
俺はニヤリと笑いながら、聖印(大量コピー品の方)を取り出した。
「折角だ。俺たちの土俵に引きずりこんでやろうぜ」
「それならお手伝いできますわ」
「ボクだって!」
「ふん。護衛くらいはしてやるわい」
「俺、あいつら、許せない、なんでも、手伝う」
「ああ。頼りにしてるぜ」
「ククク、ワレは手伝わんぞ?」
「そんな気はしてた。ただ、なんで手を貸せないんだ?」
「ほう? 貸さないではなく、貸せないと見たか」
「違うのか?」
「ククク、鋭いの。ワレが武力で干渉するとな、世界の理が歪んだり、時間軸が捻れたりする可能性があるのじゃ」
「無茶苦茶じゃねーか」
「それがドラゴンという生き物よ。ククク」
「楽しそうに笑いやがって。だが、一つだけ手伝ってもらうぜ」
「あの金髪を倒せというならお断りじゃ」
「俺たちを鍛えてくれ」
「ほう?」
俺の武器は剣でも槍でもドリルでもない。
だが……。
あいつらとは最後に直接対決になる。
そんな確信じみた予感があった。
—— 第四章・完結 ——
これにて4章完結です!
感想や作品に対する評価などいただけたら嬉しいです!
章が新しくなりますが、普通に来週更新します。
来週も、可能で有れば、二日連続更新したいと思っております!
よろしくお願いします!




