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第29話「自由人と煌めく長槍」


 もう少しで、村外れにあるヤラライの家に辿り着くという所だった。

 ぞわり。

 背中に得体の知れない氷のような冷たい何かが走った。


「っ!」


 ヤラライも同じ物を感じたのか、自らの得物、黒針と呼ばれる極太のエストックを構えた。

 スナイパーライフルの弾はとっくに尽きている。


「なんだ?」


 俺の中で渦巻く波動が、正体不明の危機感を訴えてくる。

 間違い無く、何かがいる。

 グーグロウの「ヤバいのに抜けられた」という言葉をイヤでも思い出した。


「どこだ?」


 なんだ。では無く、どこだ。

 ヤラライの視線がせわしなく辺りを探っていた。

 俺も同じ様に姿の見えない誰か(・・)を探すが、その気配を感じ取れない。イヤな予感だけは確実に感じているというのに。


「しゃがめ!!!!」


 ヤラライが弾けるように叫んだ。

 俺は一切の躊躇無く、思い切りしゃがみ込んだ。


 ドヒュッ!

 という鋭くも重く空気を切り裂く音を認識したのと同時に、ガインという、金属どうしが激しくぶつかる衝撃を感じた。

 顔を上げると、歯を食いしばって黒針を手にする細マッチョエルフの姿があった。


 一拍おいて、すぐ横に金属製の槍が回転しながら地面に突き刺さった。


「投げ槍!?」

「警戒! しろ!」

「ああ!」


 返事と同時に、視界にチラリと輝くものが。

 波動を全開する事で、どうにか視認したそれを、竜槍で弾く。

 高速回転するドリル部分が無かったら押しきられていたかも知れない。

 ヤラライも両腕で押さえ込むように投擲された槍をはじき返していた。

 生半可な武器でははじき返す事も出来ずに折られていただろう。


「……まさか俺の投擲が三度も防がれるとは思わなかったぜ」


 奥から姿を現したのは、動きやすそうだが、細かい装飾の施された青い鎧を身に纏った背の高い男だった。

 手には蒼く輝く長槍。間違い無く業物だ。

 それだけでなく、何本もの槍を背負っていた。こちらは地面に刺さっているのと同じ、投擲用のものだろう。


「それにしても、お前らなんなんだ? ……ああ、腐肉の連絡にグーグロウを引きつけたってあったが、お前らのことか」


 ゆっくりとした足取りで近づいてくる。

 こいつ……間違い無い。とんでもない波動使いだ。

 ハッグとの訓練を繰り返したことで、俺でもそのくらいは感じ取れるようになっていた。


「しかしそれだと話が合ねぇんだよな? ああ、そういやさっきグリフォンがいたな。お前らも飛んできたクチか」


 カッと頭に血が上る。

 チェリナの周りをぐるぐると嬉しそうに回るグリフォンの姿がよぎった。


「お前が、ファーダーンって奴か?」

「あん? ふざけんな。金色(こんじき)のババアなんかと一緒にすんじゃねぇよ」


 つまり、ファーダーンは女で別にいると。

 この木人形を操ってるのか?


「しかし、腐肉に拷問でもしたのか?」

「勝手にぼろぼろ喋ってたぞ?」


 俺が皮肉をたっぷりと塗り込めた笑みを向けてやると、槍男は片眉を上げた。


「あー、腐肉ならやりそうだなぁ。どうせいつもの独り言でもやってたんだろ。それにしても怪獣どもに見つからずに、よくもまぁ腐肉を見つけられたもんだ」

「あの、トカゲども、全部、倒した」

(あっ! 馬鹿!)


 ヤラライが挑発なのかも知れないが余計な事を言う。

 クソッ! こいつも大分冷静さを欠いてるな!

 相手の反応が激変することを警戒したが、特に興味なさげに「ふ〜ん?」と呟くだけだった。

 それどころか、つまらなそうに、手にした槍を肩に背負い、両腕をそこに絡める。

 ちょうど二つの桶で水を運ぶ、天秤棒でも担ぐように。


 俺とヤラライが同時に動いた。

 舐められているのはわかっていたが、このチャンスを逃すほどのアホじゃねぇよ!

 一気に距離を詰めようと姿勢を低くした瞬間、背中に絶対零度の悪寒が走った。


 今まで俺の命を救ってきた、嗅覚が危険だと絶叫していた。


(違う!)


 槍男がやっていたのは、アクビ混じりに槍を背負ったように見せかけて……その背の投擲槍を掴んでいたのだ!

 両手に一本ずつ槍を掴み、そこから全身の膂力をバネに、二本同時にぶん投げてきたのだ。


 それは閃光だった。


 奴の背中に二筋の光が輝いた瞬間、目の前まで迫る死の秒針。


「うぉおおおおおおお!!」


 勘に任せて身体を捻り、地面に背中から倒れつつ、ドリルを立てて強引に地獄への招待状を弾き飛ばした。

 衝撃が身体を抜け、地面に叩きつけられる。


「ごはっ!?」


 頭を貫く衝撃に、一瞬意識が飛びかけたが、辛うじて神経をつないだ。

 見ればヤラライも似たような状態だった。


「おいおいおい、冗談だろ? 最大威力の出る距離だぞ? ちっとショックだわ。こりゃあの怪獣軍団を倒したってのもブラフじゃなさそうだな」


 そして、残忍な本性をあらわすように、ニタリと笑った。


「俺はレイドック! ”蒼槍”レイドック! 久しぶりに楽しめそうだぁああああ! ひゃほう!!!」


 獣じみた動きで、蒼い槍と共に突っ込んでくる。

 そこに、俺の視線を遮るようにヤラライが身体を滑り込ませてきた。


 俺が弱いから、庇うために。


 などとは欠片も思わなかった。

 それが証拠に、流れるように動いたヤラライは、レイドックの蒼槍を受け流しつつ、わずかに身体をずらして、敵の姿をわずかに晒した。


 俺は迷わず手をそこに向けて突き出していた。そこにはわずかな瞬間でコンテナから取り出した、空理具(くうりぐ)が握られていた。

 もちろん、光剣の空理具だ。


「マシンガン光剣!!!!」


 あれだけ技名を叫ぶのは嫌だと言っていた自分をぶん殴りたい。

 命の掛かったこの場面、間違い無く、確実に発動させるという意志が、無意識に叫ばせていた。


「うをおおおおおおおお!?」


 アクション映画御用達の、巨大なマシンガンをイメージしたその発動は、普通の光剣とはまるで違う破壊活動を発揮する。

 本来の光剣であれば、数本の光の剣が飛んでいくだけだが、俺の発動した光剣は、親指ほどの光弾が、数えられないほど連発されるのだ。


 それまで自信満々だったレイドックも、流石に予想外だったらしく、噛みしめた奥歯が見えるほど唇を歪ませながら、真横に走って避けようとした。

 もちろん逃がさねぇ!


 レイドックを追って、右手が動くと、光の射線も追随する。


「ぐうううううぅ!!!」

「おおおおおおぉ!!!」


 精霊を纏ったヤラライ並みのスピードで射線から外れようとするレイドックが、歯を食いしばりその場で足を止めた。

 今までの俺だったら、そこで光剣の発動を止めてしまったかもしれないが、こいつが死ぬ事にためらいはない。

 そのまま渾身のマシンガン光剣をぶち込んだ。


 だが。


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 突き出した蒼槍の先端がぶれて消え失せる。

 レイドックに喰らいつこうと襲いかかっていた光弾が、槍の先端あたりで次々と砕け散り、光の破片となってまき散らされる。


「クソが!」


 身体中の力が吸い取られそうな勢いで、光剣の空理具が震えた。

 やばい!

 これ以上は空理具が保たない!


 しかしこの隙を逃すヤラライでは無い。

 それこそ、ドラグノフから放たれた弾丸の様に突っ込んでいくヤラライ。


「ぐぅ! 舐めるな! 牙突爆円土砕槍撃!!!!」


 振り上げた槍を、そのまま地面に叩きつける。

 大地が閃いたように、大量の土砂を噴き上げた。


 土砂が壁となって、ヤラライの突撃を妨げる。


「くっ!」


 突進を諦めるヤラライと、その場から数歩飛び退くレイドック。


「楽しませてくれる!」


 その表情は……本当に楽しげだった。



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