第28話「自由人と薪束」
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ちょうど、朝日が昇ろうという、薄ぼんやりした光が森を包んでいる時間。
走っているのが奇蹟というキャンピングカーから見えたのは、淡い雲を赤く染める風景だった。
「くっ!」
アクセルをそれ以上踏み込めない苛立ちに、ハンドルを思いっきりぶん殴ってしまう。
間違い無い、高い位置に伸びていた、世界樹の枝に茂る葉の裏が、煌々と明かりを反射している事から、村が燃えている。
森を抜け、村の入り口を抜けた瞬間、腹に響く太鼓に似た音と共に、エンジンルームから黒煙が上がった。
エンジンがぶっ壊れたのだ。
(良く保ってくれた!)
俺たち4人は車から飛び降りると、先ほどから気になっていた物体に目を向けた。
村の周りに、かかしの様な影が並んでいたのだ。
「人形?」
それは木製の人形だった。
糸操り人形か、デッサン人形を思わせる、木人。それが一番適当な表現だろう。
そんな人形が何十体とその辺を徘徊しているのだ。
目も鼻も無い、のっぺりした頭部が、カクンとこちらを向いた。
しばしの沈黙。
カクカクカク!
突然周りの人形たちと同時に、襲いかかって来たのだ。
「そうだろうよ!」
「アキラ! これはいったい何なんじゃ!?」
「知るか! お前らこそ知らないのかよ!」
最初から敵なのは確信していたが、てっきりまた恐竜でもいると思いきや、まさかの人形だよ!
「空想理術ってのは何でもありかよ!?」
「こんな術、聞いたこともないわぃ!」
「クソ! こいつら恐竜よりよっぽど厄介だぞ!」
無言でせまってくる人形どもなのだが、機敏な上に、きっちりチームワークを組んで来やがる!
一体一体の強さは大したことは無いが、それぞれに手にした武具が厄介だった。
剣、槍、弓、盾、短剣、棍棒。
それぞれが己の役割を理解して、フォーメーションを組んで襲ってくるのだ。大口開けて突っ込んでくるだけの巨体の方がよっぽど楽だ。
「クソッ! とにかくヤラライの家まで血路を開くぞ!」
「おうよ!」
「承知!」
チェリナ……ラライラ!
厄介な木偶人形どもだが、俺たち三人が揃ってる状態の敵では無い。
約一名、スマホ片手に瞬間移動じみた動きをしている奴もいるが、完全に無視だ。
たまに、絶好の撮影ポイントに人形がいると、その手甲についた鉄の刃でみじん切りにしていたので、時々発動するオプションだと思う事にした。
ヤラライの家は、ちょうど村の反対側だった。
そもそも村の外れにある家なので、敵がこちらから侵入したのなら、無事な可能性は高い……はずだ!
「クソッ! 火までかけるか!」
「見た目ほど、広がって、無い。精霊の、痕跡、ある」
「延焼が抑えられるのなら一安心だな」
「うむ! しかし、この邪魔な人形は何なんじゃ?」
「俺が知るか!」
今まで炎の巻き上がる音のせいで聞こえなかった喧騒が耳に届くようになった。
「あれは!?」
「間違いない! 戦闘の音じゃ!」
「良かった、まだ生き残ってんだな!?」
「助ける!」
「当たり前だ!」
エルフ独特の、自然を流用した村の作りで、見通しは悪いが、剣撃や精霊理術が生む騒音のおかげで、向かうべき方向を悟る。
大樹をくり抜いて作った家屋を抜けた時、その姿を発見した。
「炎の精霊よ! 渦巻け!」
なんと空に浮いたグーグロウが、炎の精霊理術をばらまいていたのだ。
「おいおい! 放火魔の犯人は、グーグロウか?」
いや、違うな。蠢く木人形どもを効果的に倒すために、被害を度外視して選んでるな、ありゃ。
誰かを守る為に、住み慣れた家すらも、犠牲に出来る男と言うだけだ。
「グーグロウ!」
「ヤラライ!? アキラ!」
「ワシの名前も呼ばんかい!」
「ヤラライ! 奥だ! 家に向かえ!」
「ここは! どうする!?」
「俺が何とかする! それよりもヤバいのに抜けられた! そいつらを何とかしてくれ!」
「承知! 行くぞ!」
「ああ!」
「おうよ!」
大量の木人形がグーグロウの精霊理術で燃え上がる。その隙に俺たちは奥へと進む。
背後から、わらわらと人形が集まってくる気配があったが、無視して進むしか無かった。
村の中央を少し行ったあたりだろうか、大量の木人形が破壊され、辺り一面を覆っていた。
一体どんだけの数がいんだよ!
「ぬおおおおお!」
「ぐう……光……剣!」
そこは地形的に狭まり、ちょうど村を二分する境目だった。
二軒ほどの民家に挟まれた通路。
そういえば、この通路、村の中を行き来するには、必ず通らなければならなかったはずだ。
迂回路がありそうで無い、そういう通路だ。
最初はたまたまそうなっているのかと思ったが、何人ものエルフの戦士たちがその場で呻いているのを見て、計画的なものだと直感した。
つまり、こういう時の為に、防衛戦力を集められる場所だったのだ。
だが、通路だけでなく、崖と大木から生えるように建てられた民家の屋根にも、大量の壊れた木人形があり、よじ登ろうとした姿勢のまま動きを止めている木人形も大量に目に入った。
幸い、エルフの戦士たちに死者はいないようだったが、ほぼ全員が怪我をして、通路の真ん中で、防衛戦を繰り広げていた。
ほとんどの戦士は身動きが取れないようだったが、二人ほどが、彼らを庇うように、木人形に立ち向かっていた。
広場に転がる木人形の数から、恐らく相当数減らしたことが窺える。
「のぅりゃああああ!!!」
「はぁ……もう……理術は……無理です……」
「動けるなら……弓でも……撃ってくれ!」
二人のうち、一人がずるりと尻をついた。
エルフの隊長ザザーザンと、スポーンのおっさんだった。
緑のおっさんが剣を振るい、木人形の一体が吹っ飛んでいく。
「おっさん! ザザーザン!」
「おお! アキラ! 間に合ったか!」
俺はSHOPから水入りのペットボトルを購入しながら、全員に投げつけた。
時間が無いから乱暴なのは許してくれ。
「おっさん! チェリナは……、女たちは!?」
「奥だ! ヤラライ殿の家に集まっておる!」
「わか……!?」
背後から聞こえてくる、カタカタというイヤな音。
「クソが!」
恐らくグーグロウが討漏らした木人形と、別方向からやって来た木人形が合流したのだろう。数百を超える木人形がカクンカクンと不気味な動きで集まってくるところだった。
「グーグロウ殿が……先頭で、かなりの数を減らしてくれていて……これだ。我が輩たちでここを死守しなければならんかったというのに……!」
なんでグーグロウが一人で戦ってるのか意味が不明だったが、広場で数減らしをしていた訳か!
なるほど、強敵に抜けられたような事を言っていたが、それでもその場を動けなかったのか。
むしろ一人でよくもまぁ、これだけの数を減らしていたと感心するべきだろう。
「アキラ! ヤラライ! ここはワシに任せて進めぃ!!!!」
怒鳴りながらハッグが鉄槌を構えた。
振り返って脚を踏ん張るハッグの正面には、数百の木人形が迫っていた。
「……っ!」
俺は言葉を発しかけて、それを飲み込んだ。
この先に避難しているのは、チェリナであり、ラライラであり、ルルイルたちだ。
誰が進むべきかは明瞭だろう。
「頼む!」
「うむ! まかせい! 動ける戦士がいるのであれば、家を超えようとする奴らだけで良い! 少しでも足止めするんじゃ!」
水を飲んで、辛うじて立てるようになった、数人のエルフの戦士たちが、頷いて答える。
「正面は……ワシに任せておけいぃ! 我は鉄槌! 全てを打ち砕く鉄槌じゃああああああああ!!」
巨大な鉄槌を振るっているとは思えない速度で、人形たちが木片へと変わっていく。
「ふん! しばらくは薪に困らんの! 破片になりたいもんは掛かってこんかぁ!!!」
俺とヤラライは、背中でハッグの咆哮を聴きながら、全力で村の奥へと向かった。
途中、ばらばらと抜けていた人形どもを薪にしながら。
本日2018年4月17日
神さまSHOPでチートの香り 3巻
発売です!
ピラタス(テッサ)からの旅の途中のエピソードを書き下ろし!
さらにアキラの過去……会社の謎に親の謎が!?
あと、ファフのクククは少々カットされておりますw
応援よろしくお願いします!
また、デンシバーズ様にて、コミカライズ2話が更新されました!
素晴らしい出来ですのでよろしくお願いします!




