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第26話「自由人とエルフの記憶」


 ボクはエルフの戦士、フェローロ。

 この村では一番若いエルフだ。

 エルフの社会は大きく様変わりしている最中だった。

 それまでどちらかというと閉鎖的だったが、人間たちとの貿易が始まり、人族の文化がゆっくりと浸透していた。

 良い意味でも、悪い意味でもだ。


 ただ、ボクのいる村は、エルフの村の中でも、ミダル山脈に近い奥地であり、比較的古い生活様式のままだった。

 だからボクはエルフの戦士になった。

 もっとも戦士と言うよりは、狩人と言った方が良いかも知れない。

 獣から村を守り、獣を狩り、食糧とした。

 それでも先輩にあたる戦士たちは尊敬していた。


 そんなある日、信じられない警告がもたらされた。

 正体不明の獣に、エルフの集落や人間の集落が滅ぼされているというのだ。


 人間の村ならばまだわかる。かれらの小さな村に戦士がいることは滅多に無いからだ。

 だが、エルフの村は違う。

 どんなに小さな村でも一人二人は戦士がいるものだ。

 そして僕たちエルフの戦士は強い。獣に負けるなど信じられなかった。


 最初は誤報だろうと思っていたが、近隣の村が滅んだのを先輩戦士が確認したという。

 被害の無い地域から、戦士団が派遣され、各村に常駐。さらに本体が交代で巡回を始めた。


 なんと、憧れの戦士、グーグロウが団長となり、この村にも寄ってくれたのだ。


「皆を守り、そして自分の命も大切にしろ」


 グーグロウはボクの頭を撫でてくれた。

 本当に大きな戦士だった。

 だからボクは安心してしまったのだ。


 実際それからしばらく、獣は出なかったようだ。

 グーグロウが巡回しているのだ。獣とて逃げ出したのだろう。

 そう思っていた。


 だが。

 その日はやって来た。

 騒ぎも沈静化していたので、狩りにでも行きたいなと、先輩戦士と雑談していた時だった。森から一斉に鳥が飛び立ったのは。

 間違い無い。何か来る。

 ボクは先輩に指示され、すぐに村中に危機を知らせて回る。

 緩んでいたとは言え、警戒していたのだ。村人はすぐに集まると、補強していた村の集会所へと集合した。


 戦士のほとんどは村の柵に沿って防衛位置につく。

 中央から派遣されてきた、生え抜きの戦士が10人もいるのだ。たとえ相手が巨大なバジリスクだろうが、瞬殺だろう。

 ボクはあらかじめ決められた、集会所の護衛だ。

 実際には後方に下げられたのだろう。敵がここまでやって来ることはあり得ない。


 だが。

 だが!


 それは想像を超える集団だったのだ!

 見た事も無い異形の巨体!

 爬虫類を思わせるが、ほとんどは二足歩行で疾走してくる。

 その巨体に似合わぬ俊敏さで迫り来る様子は、集会所の屋根から見ていてすら恐怖だった。


 それでも戦士たちは果敢に戦った。

 弓を放ち、精霊理術を放ち、念の為用意してあった火の罠まで発動させた。

 それでも、倒しきれない!

 たった一体が倒せないのだ!

 あれは害獣なんかじゃない。

 害獣・危険害獣・大型害獣・大型危険害獣の四種類に当てはまらない、分類不能の危険生物。噂に聞いた怪獣って奴に違いない!


「フェローロ!! 集会所に避難している住民を逃がせ! 西側が手薄だ! そのまま林道を突っ切れ!」

「え!? でも!」

「馬鹿野郎! お前がみんなを守って逃げるんだ! 戦士だろう!?」


 先輩は卑怯だ。

 そう言われたら、行くしか無い。


「くっ……、みんな! 隣村まで移動するぞ!」


 あらかじめ、何かの時に逃げる事も想定していた住民たちは、無言で頷くと、ボクについてきた。

 そうだ。ボクは戦士なのだ。

 見捨てるんじゃない。戦えない彼らを守るんだ!

 先輩戦士たちが命がけで、西の森へ続く道を切り開いてくれる。後ろ髪を引かれる思いを振り切り、ボクの先導で村の西側を抜け、森の小道へと逃げ進む。

 謎の巨大生物たちの囲みを抜けて、少しだけ安堵した。

 そのまま僕たちは小道を進む。

 可能であれば、隣村に女たちを任せ、その村の戦士たちと一緒に助けに戻りたい。その為にも急がなければならない。

 その時だ。小道の先からとんでもない速度で走ってくる馬無しの白い馬車が現れたのだ。


「なんだ!? 馬車!?」

「俺だ! ヤラライだ!」

「なんだって!?」


 馬車の上に立っていたのは、確かにヤラライだった。

 ボクよりも年上だが、それでもかなり若い部類に入る。


「こっちはダメだ! 戻れ!」

「村が襲われてるんだ!」

「こっちも……くそ! 来た!」


 ヤラライが叫ぶと同時に、馬車の背後から怪獣の叫び声が聞こえた。

 ちくしょう! こっちにもいたのか!

 やるしかないと、弓をつがえようとしたら、白い馬車から人間とドワーフが飛び出して来た。

 そして人間が言った。


「ヤラライはそいつらと村に向かえ! すぐに追いつく!」


 ダメだ!

 人間が敵う相手ではない!

 だが、エルフでも若手最強の呼び声高いヤラライは、即座にそれを了承したのだ。


「……了解! 行くぞ!」

「しかし……」


 まさかと思うが、この人たちを捨て石にするのか!?

 ドワーフの方はかなりの腕前のようだが……しかし……。


「俺が必ず助ける! この道は待ち伏せされている! 森の中から襲われたら防ぎ切れん!」


 だが、ヤラライは躊躇無くそう言い放った。

 ボクはそれに対して頷くことしか出来なかった。


 女たちを連れて、再び村への道を戻る。

 一度だけ、背後を振り向いたが、すでに木々に隠され、彼らの姿は見えなかった。

 せめて、無事に逃げていることを祈るしか無かった。


「こっちだ、ヤラライ!」

「おう!」


 久しぶりに見るヤラライは、ボクが知る彼と比べても、はるかに成長しているように見えた。

 彼を取り巻く精霊は、常人では扱いきれないような、獰猛な精霊ばかりだったからだ。

 しかし、あんな獰猛な精霊を彼はどうやって扱うというのだろう?


 村に戻ってくると、被害は拡大していた。戦っている戦士が半分しか残っていないのだ。


「荒巻く風の精霊よ……我に力を!」


 ヤラライは、信じられない事に、獰猛な精霊を身体に纏わせて、走り出したのだ。


「なっ! 身体がひん曲がるぞ! ヤラライ!」


 ボクの叫びも虚しく、ヤラライの身体に巻き付く精霊。ボクは彼の身体がずたずたになるのを幻視した。

 だが……。


「うそ……だろ?」


 彼の身体は曲がるどころか、まるで踊るように村の中心部まで土煙を上げて走って行ったのだ。


「聞け! 生き残りは集まれ! 防衛線を張る!」

「ヤラライ!? 来てくれたのか! だが……」

「大丈夫だ! すぐに応援が来る!」


 ボクはそれを聞いて、すぐにピンときた。

 きっと、グーグロウ団長率いる本隊がやってくるのだと!


 先ほど、逃げることが出来なかった怪我人や年寄りが残る集会場に、女たちを避難させ、ボクも防衛に立った。


「いいか! 倒さなくてもいい! とにかく近づけさせるな!」

「「「おお!」」」


 僕たちは矢を、精霊理術を、さらには石を投げつけてでも、怪獣を近づけさせないように動き出した。

 驚いたのはヤラライだった。

 彼は鉄で出来た謎の弩で、怪獣たちを寄せ付けなかったのだ。

 そして。


「……来た!」


 とうとうグーグロウ団長が来てくれた!

 そう思って、ヤラライがチラ見した方に目をやったのだが、現れたのは、先ほどの白い馬車だった。


「……え?」


 馬車から飛び出したのは、先ほどの黒髪の人間と、巨大な鉄槌を担いだドワーフだった。

 よく見ると、子供のような女もいたが、あれは何なんだ?


 しかし、その疑問はすぐに吹っ飛んだ。

 人間とドワーフが、無謀にも怪獣たちに突っ込んでいったのだ。


「ヤラライ! 止めなくては!」

「あいつらなら問題無い!」


 自信たっぷりに答えるヤラライだったが、とてもじゃないが正気では無い。

 だけれど、それは正しかったのだ。


 黒髪の人間とドワーフは、信じられない事に、まるで竜巻の様な勢いで、怪獣たちを挽肉へと変えていったのだ。

 ドワーフの方はまだわかる。あの巨大な鉄槌を操れるのだ。きっとドワーフでも名のある武人に違いない。

 だが、もう一人の人間が異常だった。

 見慣れる槍を振るうたび、怪獣たちが、ばっかんばっかんとミンチされていくのだ。

 戦い方はドワーフの方が上のようだが、あの謎の槍による一撃が尋常で無い威力だった。

 巨大な恐竜の頭を、苦もなく弾けさせるのだから。

 矢も理術を喰らわせても、まともにダメージを通せなかったあの怪獣の頭をだ。


 ゾッとした。


 あの人間……尋常じゃ無い。

 ヤラライもそれがわかっているかのように、謎の弩で二人をフォローしていた。

 その弩だって、理術よりもよっぽど強力なのだ。一体何だというんだ!


「俺たちは今から逃げた獣を追う、お前たちは怪我人を頼む」

「なんだって!? だったら俺たちも……!」

「気持ちは買うが、邪魔だ」

「ぐ……」


 先輩の戦士が一言で言い負かされる。

 ああ。

 わかってるよ。この3人と一緒に行っても、役に立たないことくらい。


「……わかった。村は任せろ」

「ああ」


 そして、白い馬無し馬車に戦士三人と、謎の少女が飛び乗ると、凄まじいスピードで去って行った。

 まるで夢を見ていたかのようだった。


「大丈夫だったか、フェローロ」

「はい。ヤラライに助けられました」

「俺もだ。……ところであいつらはなんなんだ?」

「わかりません。ただ、ヤラライは連れとだけ……」

「そうか」


 先輩戦士と、わずかに残る馬車の残した土煙を振り返った。


「もう一つだけいいか?」

「なんでしょう?」

「とんでもない動きで、人間とドワーフを、四角い板を向けながら、追いかけ回していた少女……いや。何でもない」


 首を横に振って言葉を止めた。

 ボクに答えられないことがわかっていたからだろう。


「……怪我人を集めましょう」

「そうだな」


 ボクたちは、考えるのをやめて、動き出した。

 それにしても……ヤラライは一体どんな旅をしてきたというのだろう。

 落ち着いたら、聞かせてもらう。


 今は……怪我人を助け死者を弔うこと、村の防衛を再構築することに専念する時間だった。



いよいよ三巻の発売まで2週間を切りました!


購入の準備はOK?

予約はしたか?

よろしい、ならばコミカライズだ!


そんなわけで、4/17は3巻の発売と同時に、

特別、コミカライズの更新も通常より早い17日となります!


よろしい。

ならば同時に楽しむが良い。


書籍版では、ファフの「ククク」が大幅に減っております。

書き下ろしで、四人の道中エピソードの追加。


さらに、とうとう、アキラの上司が!?

詳しくは3巻でご確認ください(´ω`)

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