第18話「自由人と力の意味」
ネイティブアメリカン装束の男エルフ……といえば、ヤラライの事だと思ってたのだが、馴れ馴れしく肩を組んできたエルフは、ヤラライ以上のマッチョ野郎だった。
「行商人アキラよ、流石にヤラライをエルフの普通だと思われるのは心外だぞ」
「ああ。やっぱりそうだったのか」
「ぬ」
「こいつは子供の頃から長老たちにべったりだったからな。考え方が古い上に独特なんだよ」
「一つ聞いて良いか?」
「なんだ?」
「その格好は、エルフの戦士の正装かなにかなのか?」
グーグロウとヤラライ。それに長老も近い格好をしていた。
「そういうわけでは無いが、古い格好なのは認める。最近は人族のデザインも入ってきてな。こんな格好をしているのは俺らくらいだろう」
「グーグロウ、俺の、師だ」
「もうとっくに抜かれているがな。若手最強どころか、エルフ最強を名乗っても良いぞ」
「若手……そろそろ、やめて、欲しい」
「ははは! 確かに! なかなか子が生まれないからついな!」
「それに、まだまだ、修行中」
「そういうところは謙虚なんだがなぁ」
なるほど。ヤラライの格好は、師匠の影響も大きそうだな。
グーグロウ、相当な戦士なのだろう。
「しかし、アキラよ。お前が行商人だって? 一体いつから人族の行商人は戦士になったんだ?」
「さあな。護身用だと、アンタの弟子とあそこの筋肉ダルマに毎日鍛えられてる」
「なに? ドワーフにもか?」
「ああ」
「なるほど。あそこまで波動を使いこなせるのはそういうわけか。しかし……」
「なんだ?」
「いや、ここからはヤラライの出番だろう」
そうだ。今回の模擬戦。ザザーザンをあおるためだけだとは思えない。流石にやり過ぎだ。
「半分は、そう、半分は、アキラ、お前の、ため」
「俺の?」
どういう事だ?
「アキラ、ザザーザンの、強さ、どう思った?」
答えづらい事を聞いて来やがるな。
「ヤラライにラライラ。それにハッグと毎日訓練してるんだ。おかげでなんとかなったぜ」
そう。俺たちが合流してから、ほぼ毎日、朝晩と訓練しているのだ。さらに実戦も舞い込む。
嫌でも鍛えられるってもんだろう。
「そうじゃ、ない。ザザーザンの、強さを、聞いてる」
「そう言われてもな。基準がなさ過ぎて」
「ピラタス王城の、兵士とは?」
「ザザーザンの方がはるかに上だろうよ」
「ゴブリン、とは?」
「比較したら失礼だろ」
「スポーン、とは?」
「ザザーザンの方が上だろうな」
緑のダンディ冒険家、スポーンのおっさんとも、何度か模擬戦をやった事がある。
強いっちゃ強いが、ヤラライやハッグに比べりゃな。
力任せのおっさんの攻撃に当たる方がどうかしてる。素手でも楽勝だった。
……ん?
「気がついた、か?」
「ん? え?」
ちょっと待て。兵士よりも、ゴブリンよりもはるかに強く、優秀な冒険家のおっさんよりもさらに強いエルフの戦士と、ガチの勝負をして、完勝した?
「ふん。どのタイミングで教えるのか、ちっと迷ってはいたんじゃがな」
会話に加わったのはハッグだ。
「お主、すでに尋常では無い力を身につけておる」
「ククク……」
な……に?
「ワシとエルフとの模擬戦で、お主、グングニールを使えば、ワシらとそれなりに戦えておるじゃろ」
「グングニールを使い始めてから、たしかに試合らしい試合にはなってるな」
ラライラとの模擬戦では武器は禁止。逆にヤラライとハッグとの練習では全力で使っている。
たまにファフが混じるのだが、その時は弄ばれる。
「それじゃお主。ワシらとまともに戦えておるんじゃぞ?」
「まともに? あしらわれてるだけだろ?」
「ふん。どうしてお主は自分の事になると、そう見えなくなるのか不思議じゃな。たしかに加減はしておるが、決して手は抜いておらんわ」
「アキラ、お前、強い」
「仮に、そうだとしても、それは武器が良いだけだろ?」
「違う、お前、恐ろしいほど、成長、してる」
俺が?
「あー、口を挟んで悪いが、それは俺も保証しよう。エルフの戦士団長としてな」
「グーグロウ」
「まったく、ヤラライはどんな教え方をしたのやら。どうしてこれほどまでの力を持って自覚出来ていないんだ?」
「それ、俺も、わからん」
「ワシもじゃわい」
「ククク……。恐らくそ奴の生まれや育ちに関連しておるんじゃろ。だが、流石に少しは自覚したのではないか?」
俺は手を何度も握りしめる。
エルフの戦士隊長を、言い方は悪いが子供扱いしたのだ。
間違い無い。俺は尋常じゃ無い力を持っている。
背中に冷気が上がる。ゾッとした。
それは人の分を超えた力じゃ無いのか?
「アキラ様。大丈夫ですよ」
「え?」
「アキラ様なら、大丈夫です」
「そ! そうだよ! アキラさんなら大丈夫!」
ああそうか。この二人は、俺の下らない恐怖心を見抜いていたのか。
「そう……だな。上手く使えば良いだけだな」
「うん!」
「私は心配しておりませんわ。それにもし貴方が間違った力を振るったら、わたくしが頬を打って差し上げますよ」
「え? ボ、ボクは注意するよ! うん!」
「はは……頼もしいな」
そうだな。この二人がいれば、大丈夫かもしれん。
俺は、力に対して、過度な恐れがありすぎたのか。力なんてうまく使いこなせば良いだけだ。
ああそうか。
今まで、何かを間違った時、それを注意してくれる友がいなかったのか。
そして、それを信じられるほど、俺は、他人を信じられるようになっていたのか。
ハッグ、ヤラライ、ファフ。それにラライラに……チェリナ。
順番に見渡して、ああ、俺はもう一人じゃ無いんだと、その瞬間、唐突に理解してしまった。
ならば、強くなる事に躊躇する必要は無い。
俺の力は、こいつらの為に振るえば良いのだから。
「そうか。折角鍛えてもらったんだ。大事にしないとな」
「うむ」
「ほう、その言葉が出るんか。ちったぁ吹っ切れたかのう」
頷くヤラライと、嬉しそうにヒゲを弄るハッグ。
「一段落ついたようだな。邪魔するようだが、ドワーフよ、エルフの森にまで名の伝わる高名な鉄槌殿とお見受けする。良ければこれから一手どうだ?」
おおい! ヤラライだけで無く、グーグロウも脳筋かよ!
まぁ、見た瞬間わかってたけどな!
「ほう! エルフの戦士団長とは面白い! いいじゃろ! 手合わせしてやろうぞ!」
「がははははははは! これは良い見世物だな!」
なんでスポーンのおっさんが嬉しそうなんだよ。
気持ちはわかるけどな。
「楽しそうだな。俺も見学するか」
「アキラ様にしては珍しいですね」
「そうだな。もう、力を忌避するのはやめるよ」
「はい」
「うううー……ふぐー、ふぐー」
なんかラライラが頬膨らませてるんだが。
チェリナも妙に勝ち誇ってるんじゃ無いよ。
その後、酒のツマミには脂っこすぎる、白熱した模擬戦が行われ、エルフの里は多いに盛り上がった。
ちなみにハッグの圧勝だった。
グーグロウは強がっていたが、誰が見ても落ち込んでいるのは明白だった。
うん。
筋肉エルフのいじける姿とかいらん。
他にも、エルフの奥さん方(見た目が女子大生くらいの美女が多いので困惑してしまう)に、背広一式を珍しがられて、一セット買われた。
俺の戦闘服みたいなもんだと言ったら、妙にはしゃがれた。エルフのツボがわからん。
購入された、背広一式に群がるエルフ奥さんたち。何がそんなに楽しいやら。
「売ってくれたお礼に、何か考えておくよ!」
「別にかまわないぜ。むしろ食事のお礼に無料で渡すべきだったくらいだ」
残金がだいぶ怪しい事もあって、向こうの好意に甘えてしまったのだ。
「いやー! これウチのダンナに着せたくてねぇ!」
「素材にしたら、いいんじゃないかい?」
「この一見無意味なネクタイってのがいいね!」
「ネクタイの柄を伝統的なエルフ柄に替えたら、みんな気に入るんじゃ無いかな?」
奥様方はこんな感じである。
ま、気に入ったのなら何よりだ。
トンカツを量産している時に気がついたのだが、エルフの里は食材が豊富だった。
家畜の豚肉だけでなく、調味料も揃っている。
特に驚いたのが、砂糖と卵だ。
なんとこの卵、生食可能らしい。
「そういえばヴェリエーロでも生食用の卵があったな」
「ニワトリに専用の薬草を食べさせることで、生食が可能なのですよ」
「アキラさん、その薬草はエルフが伝えた技術なんだよ」
「へえ」
「昔はそれが外貨獲得の手段だったらしいんだけど、今はあちこちの地域で育ててるから、外でも普及してるんだ」
「そうですね。西の果てであるテッサにも、レイクレル産の薬草が届いていましたからね。もっとも距離の問題もあって、それなりに高級品になっていましたが」
「人族はあんまり生で食べないよね」
「どちらかというと、安全な卵を育てる薬草として使われていましたね」
なるほどな。
それでヴェリエーロには生食可能な卵があったのか。さすが西の大商会。
「さて、それではわたくしはそろそろ中座させていただきますわ」
「あ、ボクが部屋に案内するよ!」
「ありがとうございます」
「それじゃ俺も寝るかな」
「がはははは! 我が輩はもう少し馳走になるぞ!」
「少しは遠慮しろよおっさん」
「祭りは全力で楽しむのが礼儀だろ! がはははははは!」
エルフらも頷いているから、大丈夫か。
「それじゃおやすみ」
その夜は、エルフの空き家に泊まらせてもらった。
エルフの欲し草ベットは、持って帰りたくなるほど快適なものだった。
俺は聖印を取り出して、ぼそりと言った。
「……この世界に連れてきてくれて、ありがとな」
そのまま深い眠りについたが、朦朧とする頭に、何かの声が聞こえた気がした。
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またコミカライズに進展ありました!
詳しくは活動報告にて報告させて頂きます!




