第14話「自由人と里帰り」
「お父さん~」
むぎゅーっとヤラライに抱きつく、ラライラ母。
「帰った」
「うん。うん~。お帰りなさい~」
嬉しそうに頬を寄せるラライラ母。ヤラライとラライラを一緒に抱きしめる姿は、何かむず痒い。
しばし、ほっこりするような情景が続いた後、ようやくママンがこちらに気付く。
どちらかというと、降りてきたグリフォンのおかげのようだが。
チェリナが青い顔をして、木の根元へと移動。見なかった事にする。
「あら〜ラライラちゃん〜。あの方たちは〜?」
「あ、ボクと父さんの友達で仲間だよ」
「沢山ねぇ〜。そうだ。皆さんぜひ泊まっていってくださいな〜」
そりゃありがたいんだが、流石にこの人数は難しいのでは?
「長老に、挨拶行く。アキラ、来い」
「ん? わかった」
「他の者は、ルルイル、頼む」
「わかったわ〜」
なるほど、奥さんの名前はルルイルと言うのか。3人ごっちゃになりそうだぜ。
残りのメンバーを置いて、ヤラライと二人で森の奥へと進む。
よく手入れのされた森で、自然と一緒に生きているのが見て取れた。
「おお! ヤラライじゃないか! 帰ったのか!」
「ああ」
「ヤラライだって!? 久しぶりだなぁ!」
「修行はどうだったんだ?」
「隣の奴は?」
「今年は新たにサトウキビを育てたんだ。あとで持って行くよ」
「ヤラライ、土産は?」
「おーい、誰かルルイルさん家に材料運んでくれー!」
「他に客はいるのか? 何人だ?」
「よし、俺の秘蔵の酒を持ってってやるか。夜には家に戻るだろ?」
すれ違う全員が、笑顔でヤラライに話し掛けてくる。
軽く挨拶を返しつつ、彼らの質問に答えていくヤラライ。
それにしても、ほとんどのエルフの服装は、ファンタジーっぽかったんだが。
視界の半分を覆い尽くす大木だが、淡い光を放っているので圧迫感は無い。壁と間違う幹に掘られた入り口の前に立つ。
「長老、俺だ。ヤラライだ。帰った」
「ほう? 入れ」
「うむ」
「よう帰ったな。50年……いや100年ぶりか?」
「100年は、たって、無い、はずだ」
「そうかそうか。して、そちらの人族は?」
「アキラ。友だ」
「ふむ。ワシはこの村の長老をしておる、ドラーランじゃ。よろしゅうにな」
「ああ、よろしく。アキラだ」
ドラーランと名乗ったエルフの長老の服装は、なるほどヤラライの服装に似ていた。
草を編み込んだ座布団に座り、木のカップにワインを注いでくれた。
「長老、害獣」
「ああ、その話か。森のミダル山脈側で、大型の害獣が出ておる。現時点では詳細は良くわかっておらんのだが、いくつか人の集落が滅んでいるらしい」
「手助け、する」
ヤラライの言葉に、俺も一緒に頷く。
「お主が協力してくれれば百人力じゃが、帰ってきたばかりじゃろ。しばらくはゆっくりするとええ」
「だが……」
「なに。各村から戦士が集まって討伐隊を編制しておる。仮にお主がいなくとも、問題無いじゃろ。今のところ、害獣の出るタイミングなどがわかっておらんから、待っておれ」
「わかった」
「しかし、なんでそこの人族を連れてきたんじゃ?」
「アキラ、頭が回る。もし、難しい話あったら、相談出来る」
「ふむ?」
「買いかぶり過ぎだが、協力は惜しまないぞ。何と言ってもヤラライは命の恩人だからな」
「ほう」
「それは、忘れて、いい」
「そう簡単に忘れられないっての」
「なるほど、なんとなく関係がわかってきたわい。客人はヤラライの家に泊まるじゃろ?」
「そうなると思うが」
部屋が足りないようなら、キャンピングカーだな。
「あとで、酒でも持って行かせよう。ワシはここにいるから、何かあったら遠慮無く尋ねるといい」
「ああ。そうさせてもらうぜ」
挨拶を終えて、ヤラライ宅に戻ると、随分沢山のエルフが集まっていた。
家の前の空き地に、沢山のテーブルが置かれ、その上に沢山の料理や酒が並んでいた。
「おー。久しぶりだなぁ! 元気だったか!」
「ああ」
「10年物のワイン持ってきてやったぞ! お前、赤好きだろ?」
「ああ」
「ラライラはべっぴんになったなぁ」
「おいおい、ラライラはこないだまでいただろう」
「そうだっけ?」
「いやでも、確かにこう、色気が出たような……」
「わはは! いつまでも子供じゃないって事だろ!」
男のエルフたちはこんな感じだ。
「料理足りるかい?」
「多すぎるくらいだよ。みんな何か持ってくるから」
「そりゃあ村のほとんどが集まってきてるからねぇ」
「長老は?」
「祭りになるとしんどいから家にいるって」
「ははは! 歳だねぇ!」
「ラライラ! 良くあの風来坊を見つけられたね!」
「あそこのアキラさんのおかげだよ」
「アキラ? あの黒髪の?」
「ほー。なかなかいい男じゃ無いか」
「でも人族だろ?」
「人族でも、やるやつはやるさ。それにあのヤラライが一緒に連れ回してるんだ。よっぽどの男だろうさ」
「それもそうだねぇ」
「そっちのお嬢ちゃんは、具合は良くなったのかい?」
「すみません。おかげさまで」
「この果実絞りを飲むと良いよ。酸味が強くて、乗り物酔いに効くんだよ」
「ありがとうございます。ああ、これは美味しいですわね」
「遠慮しないで飲んでおくれ!」
「ありがたくいただきますわ」
女性陣はこんな感じである。
さて、エルフと仲が悪いはずのドワーフはというと……。
「ええい! わかったわかった! 片っ端から直してやるわい!」
「さっすがドワーフだねぇ。鉄を弄らせたらうちらじゃ敵わないよ」
「ふん。ワシはドワーフの中でも凄腕じゃからな。ただし酒はもらうぞ!」
「おうともよ! はち切れるほど自慢の酒を飲んでくれ!」
「わはは! ならば鍋でも剣でもいくらでも持ってくるがええわい!」
あっちはあっちで楽しそうだな。
「おうアキラ、戻ったか」
「ああ。長老に挨拶してきた。例の害獣の件も少し話したんだけど、戦士団が出てるらしくて、緊急性はそこまででは無いらしいな」
「ふん。つまらんな」
「もともと害獣の動きを掴めてないらしいからな。むしろここで待機していた方が情報は早いかもしれないぞ?」
「なるほどのぅ」
頷きながら、簡易炉に炭を放り込んでいくハッグ。
「誰かふいごを手伝ってくれぃ!」
「私がやろう」
「うむ。あと、炭が足りんわい! 鉄もじゃ!」
「はいよ!」
穴の空いた鍋や、折れたレイピアなどに混じって、古い釘などが運び込まれる。
「これな治せるな。こっちは無理じゃ。材料じゃな」
グビリと酒をあおりながら、手際よく選別していくハッグ。
「おほほ! こりゃブランデーじゃな! こういう強い酒をもっと持ってきて欲しいのぅ!」
「ククク……ワレも相伴に」
「こりゃああ! それはワシの酒じゃ! まったく目利きだけは確かじゃな!」
「ククク。褒め言葉と取っておこう」
「ははは! ラライラの客はうちらの客だよ! 沢山持ってくるからじゃんじゃん飲んでおくれ!」
「ククク。遠慮無くいただこうかの」
「まったく」
よく見ると働いてないのはファフと俺とヤラライくらいか。
ヤラライはエルフに囲まれているので、俺とファフだけが働いてないように見える。
……なんか手伝うか。
だが、エルフたちの手際が良すぎて、手を出す隙がなかなか無い。
「アキラぁ! カツじゃ! とんかつでこやつらの度肝を抜いてやれぃ!」
「またとんかつかよ。ワンパターンだろ」
「ええい! ブツクサ言うでない! つくるんじゃぁ!」
そういや最近、残金を理由にあんまり作ってやってなかったな。
「すまない、材料に豚肉ってあるか?」
「ああ! 今日はあるよ!」
「少し譲ってもらっていいかな。俺も料理するんで」
「へえ。男なのに料理? 人族なら珍しくないんだったっけ?」
「料理人以外だと珍しいみたいだな」
「そこに積んであるから、好きに使うと良いよ!」
そんなわけで、俺はとんかつを揚げまくった。
カツは男性陣にやたら好評だった。
ハッグがドヤ顔だったのが解せぬ。
「そろそろ俺にも、エルフ料理を食わせてくれ」
なぜか大受けだった。
解せぬ。




