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第11話「自由人と新たな旅立ち」


 朝一でチェリナはヴェリエーロ商会のキャラバンと落ち合い、そのままカズムス教へと引継ぎに向かった。

 残された俺たちは急いで旅の準備だ。

 もっとも、キャンピングカーとSHOPの能力のおかげで、さして苦労もない。

 ハッグは少々の金属類を補充し、残りはSHOPで購入出来ない生活必需品を買いに行った。


 今回はスポーンのおっさんが一緒なので、能力に頼りきりというわけにはいかない。すでに必要な物はキャンピングカーに放り込んである。

 残金はかなり心許なくなっていたが……。


「ほう、これがアーティファクトの馬車か」

「ああ。なかなか便利だぞ」


 すでに飲み会で移動手段は説明してあったので、興味津々でスポーンが車を覗き込んでいた。

 それにしても、緑色で統一した派手な衣装は傾きすぎだ。


「うーむ。我が輩は職業柄、人よりもアーティファクトを見る機会が多いのだが、これはそのどれとも違う気がするな」

「そうなのか?」

「うむ。なんというか、まるで別の世界から持ってきたと言われた方がしっくりくるな。そんなわけは無いが。がははははは!」


 陽気に笑うスポーンだったが、俺は内心ぎょっとしていた。

 こいつ、勘所が良すぎるだろう。


「太古には今よりもはるかに進んだ魔法文明があったというのも、これを見たら納得だなぁ!」


 すまん。それこの世界の品じゃないんだ。

 おっさんの考古学知識に誤った認識を刻み込んでしまいそうだったが、訂正するわけにもいかないからなぁ……。


 馬車置き場からキャンピングカーを動かすと、早速野次馬が集まってきた。

 人口が多いせいか、集まる人数も多かった。


「なんだこの馬車、今勝手に動いてなかったか?」

「誰かが押してるんだろ?」

「箱みたいな馬車だなぁ」

「荷物はあんまり入らなそうだな」

「見ろよあれ! 御者台にガラスが貼り付けてあるぞ!?」

「いやいや荷台にまで?」

「ちょと中を除いたんだが、椅子やテーブルが乗ってたぞ?」

「嘘だろ? じゃあこれは貴族の馬車か?」

「豪商かもしれないが……どんな金持ちが乗っているんだろうな?」

「うーん。俺もこんな馬車欲しいなぁ」

「それは私が買う予定になっている」

「買うったっていくらするか……って!?」


 野次馬の会話に聞き覚えのある声がしたので顔を向けると、もちろんアッガイ・アラバントだった。


「なんだアッガイさんか」

「アキラ。旅立つとは聞いていたがもうなのか?」

「ああ、昼までには出る予定だ」

「なんと。滞在中に少しでも話ができないかと、昼食を誘いに来たところだったのだが」

「あー、悪いな。気持ちだけ受け取っとくぜ」

「いや、商人は神速を尊ぶものだ。己の仕事を優先してくれたまへ」

「それ、兵士の話じゃ無いのか?」

「商談は戦争だろう?」

「なるほど。たしかに」

「忙しいところ邪魔をしたな。必ず戻ってこい」

「ああ。ちゃんと考えておくよ」


 現れた時と同じ様に、さっとその場を立ち去るアッガイ。扱い方を覚えたら、あんがい良い商売相手になれそうだな。

 ……そもそも大陸イチの商会の人間なのだ、商売相手としては最高か。


「おいアキラ、今のはアラバント商会の支店長じゃなかったか?」

「ああ。この馬車を買いたいと伝手が出来たんだ」

「お前は凄いな」

「そうか?」

「考えて見ろ。仮にこの馬車が欲しいからと、本人自ら何度も足を運ぶか? 大陸最大の商会の責任者なんだぞ? 普通は優秀な部下に任せるもんだろ」

「うーん。たまたま発見したのが本人だったからだろ?」

「どうもお前は世間ズレしている気がするぞ」

「自覚はあるが……そんなにズレてるか?」


 少しだろう?


「がはははは! その服装! 生き様! そしてこの馬車! エルフとドワーフの友! 美人の商会長! 一つでも普通の物があるならむしろ教えてもらいたいものだ!」

「う……」


 的確な指摘に、チェリナは商会長じゃねーよというツッコミすら入れられない。

 おっさんに車に乗る際の注意点など説明していると、買い出しに出ていた皆が戻ってきた。


「目的の物は買えたのか?」

「何度か手伝った事のある鍛冶工房の伝手で、なかなか良い鉄を譲ってもらったぞ」

「それは何より」


 実はハッグ、全員の武具の点検だけで無く、最近は車の補修にまで手を伸ばし始めたのだ。

 最初はハラハラしたが、本人はどこ吹く体で、荒れ地でへたった車のバネなど打ち直したりしているのだ。

 金属ってそんな簡単に元の性能が出せるもんじゃないんだけどな……。


 とにかく鉄に魅せられた種族という言葉に偽りは無く、電子部品やプラスチックなどを除けば、元の部品を打ち直してしまうのだから、洒落にならない。

 おそらく日本の技術者が聞いたら、理解不能過ぎて頭を抱えることだろう。


 最初はゴブリンハザードの激走で、バンパーを止めているネジが金属疲労で折れた事が始まりだった。

 そりゃあ軍用車でもないのに、あんな走りをしたらネジの一つくらいイカレるだろう。


 ハッグは無事だった同じネジを参考に、あっと言う間に複製してしまったのだ。

 うーん。ドワーフ恐るべし。

 いや。ハッグが飛び抜けて凄いのか。

 そんなわけで現在、ハッグには整備関連で世話になりっぱなしだったりする。

 もっとも本人が喜んでやってるので、助かってると言えば助かってるが、頼む。エンジンをばらそうとするのだけはやめてくれ……。


「みんなも必要な物は買えたか?」

「もともとそんなに買わなきゃいけないものってないからね。準備は万端だよ!」


 元気に答えるラライラに、同意して頷くユーティス。

 女性特有の品物とかあるだろう? などと聞いたら、セクハラで訴えられるかも知れないので、それとなく時間を作っているだけだ。


「あとはチェリナが戻るのを……」

「その必要はありませんよ。ただいま戻りました」

「早かったな」

「ヴェリエーロの商隊を任される人間に無能はいませんわ」

「なるほど」


 さすが西の国を支える商会って所か。

 国の制約を受けなくなった今、きっと近いうちに大商会にのし上がることだろう。


「それじゃ出発しますか」

「おお! 我が輩とても楽しみだ!」

「じゃあ助手席に座るといい」

「ボクも助手席がいいな」

「じゃあおっさんとラライラだな。残りは後ろに」

「そろそろクックルが拗ねるので、わたくしはグリフォンで行きますわ」

「わかった。それじゃあ行くか」


 そんな訳で、自由人である俺たちは、早速エルフの国。緑園之庭に旅立った。


 ◆


「そうだラライラ。折角だからお前の故郷の事を少し教えてくれ。特にやっちゃいけない事とか、嫌われる事とかな」

「うーん。昔は知らないんだけど、今のエルフは人間とあまり変わらないよ?」

「そうなのか?」

「うん。別に閉鎖的ってわけじゃないんだ。ただ、広大な森に、小さな集落が点在してるから、他国も交渉しにくいんじゃ無いかな。逆に集落単位でなら、交流は活発なんじゃないかな?」

「ふむ」

「そんな感じだから、大規模な話になりにくいのも事実だから、その辺が閉鎖的と勘違いされてる要因だと思うよ」

「なるほど。だが、そんな状態と、誰かに攻められたりしないのか?」

「エルフは何か問題が起きると、代表者が集まって対抗策を考えて、それで全部族が協力するんだ」

「ほう?」

「たとえば戦争なら、各村から戦士が集まって、戦士団を結成して、事に当たるから」

「ああなるほど」


 普通に考えたら臨時編成の軍なんて役に立たないんだが、ヤラライやラライラを見てると、同族の協力関係は強いと見ている。

 また個々の能力も高いわけだから、かなりの戦力になるのか。


「昔の話なんだけど、人間の軍隊が攻めてきた時、大軍勢だったけどエルフが勝ったのも影響しているのかも」

「へえ?」

「ボクはよく知らないんだけど、人間の大軍が森に入ってきたんだけど、突然統率が取れなくなったのを、エルフの戦士たちが減らしていったんだって」

「もしかして、エルフの森って大規模な道とか無いんじゃないか?」

「あんまりないね」

「なるほどな」

「なんだアキラ、何がわかったんだ?」


 興味深げにおっさんが聞いてきた。


「いや、優秀で有機的な運用の出来る遊撃部隊でのゲリラ戦。そりゃあ勝てるわけが無いなと」

「……あん?」

「えっと?」

「いや、何でも無い。忘れてくれ」

「アキラは軍事にも詳しいのか?」

「いや、ただの素人の戯れ言だ。ほんとに忘れてくれ」


 ジャングルでのゲリラ戦。アメリカ軍だって手を焼いたのだ。とは言えないよなぁ……。

 話を逸らすべく、ラライラに話を促し、キャンピングカーは地煙あげて、二人の故郷に爆走するのであった。


 そして。

 俺は自分の不幸体質を思い出すことになる。



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[一言] 推敲 >「どうもお前は世間ズレしている気がするぞ」 「自覚はあるが……そんなにズレてるか?」 世間擦れ(せけんずれ) 世間の世知辛さにあって苦労し、悪賢くなっていること。 浮世離れ(うき…
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