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第5話「自由人とまた大司教」

 大地母神アイガス教総本山で、教皇さんとの面接を終えた。

 山にあるわけでも無いのに本山とはこれいかに。


 たぶんメルヘス神からもらった翻訳能力が俺にわかりやすいように翻訳してくれているんだろうな。


 チェリナとユーティスとファフ一緒に宿に戻りつつ(帰りは教会が馬車を出してくれた)余っていた聖印を取り出し、指で弄んだ。


「神木ねぇ……二人とも聞いたことあるか?」

「いえ、わたくしはありませんね」


 チェリナはそう言いながら、胸元から同じ形の木彫りの聖印をとりだした。

 そこそこ大きさがあるのに、挟まる(・・・)のか。


「私は少し……」

「知ってることで良いから教えてくれるか?」

「はい。場所は知らないのですが、教会が保有する、聖域と呼ばれる場所があるらしくて、そこで育つ木々の一部に、神の力をわずかに宿す神木が生えると聞いたことがあります」

「聖域に神木ね……神社みたいなもんかな?」

「ジンジャ?」

「あー、俺の生まれた国の、教会的な所だ。文化が違うから、かなり差はあるけどな」

「少し興味があります」

「いや、忘れてくれ」


 ユーティスにいらん興味を抱かせてしまった。


「理由はわからんが、とにかくこの聖印が神木って奴だったから、あの偉そうだったラマサイノスの態度が激変したんだな」

「恐らくそうだと思います。偉いお方であれば聖別できるのではないでしょうか?」

「なるほど」


 まぁその辺りは深く考えてもしょうがないだろう。

 宿に到着すると、周りの人間を驚かせてしまった。気にするな。

 若干妙な視線を受けつつも、宿の一階で休憩しようと、飲み物を注文した時だった。


「おお! 戻って来たか! 早速だがあの馬車の取引をさせてもらえないかね!」


 もちろん、アラバント商会のアッガイだった。

 待ち伏せでもしてたのかこいつ?


「あー、アッガイさんだったか。悪いがあの馬車を売る気は……」

「ああ、わかっているとも。どうだろう、まずは馬車以外の取引から始めるというのは?」


 その瞬間、酒場スペースが小さくどよめいた。

 恐らく、彼らは商人で、大陸イチの商会から取引を持ちかけられるという、夢のような状況に、全員がこちらを注目していた。

 確かに所持金は心元無いので、商売する手はあるのだが……。

 大陸イチの商会に、物珍しい物を売りつけたらどうなるか、そうするだけで胃が痛くなると言う物だ。


「すまないが、この街で商売する気は無いんだ」

「何? それではせめてあの馬車だけでも……もちろん金だけではなく代わりの馬車も!」

「そういう問題じゃないんだ。あれは売れない。頼むからわかってくれ」

「ふーむ。君は存外吊り上げ交渉が上手いのだな。いや、流石に私がそれだけ欲しがってるとわかってしまうか。ははは!」


 はははじゃねぇっての!

 俺はチェリナに助け船を求めるように視線を振ったが、彼女は複雑そうな表情を返してきた。

 ちょっと気になったのでアッガイに聞こえないように小声で会話した。


「なんだ?」

「いえ、あの馬車が売れないのはわかりますが、アラバント商会と商売出来る機会まで潰してしまうのは、いささかもったい無いのではと思いまして」

「あー。そういう事か。商売人としてのチェリナの気持ちはわからんでも無いがな、俺の立ち位置を考えてくれ。間違い無く碌なことにならん」

「まぁ、そうですよね」


 チェリナは苦笑を返してきた。

 なるほどヴェリエーロ商会としては繋げておきたい縁なのだろう。

 だが……。


「すまん。仮に取引するとしても、準備期間が欲しい。今考え無しに商売を始めたら、きっとボロが出る」

「確かに。相手はあのアラバント商会ですからね」

「そんなわけで理解してくれ」

「別に反対していたわけではありませんから」

「助かる」


 チェリナとの内緒話を終え、改めてアッガイの話を断ろうと思った時だった。

 再び酒場スペースがどよりとざわめいた。

 なんだと顔を上げたら、宿の入り口に、立派な神官服の男性が、何十人も立っていたのだ。

 一瞬、馬車の付き添いの人が戻ってきたのかと思ったが、どうもアイガス教の神官服とは異なるようだった。


「歓談中失礼します。少々よろしいでしょうか?」

「これは大司教ではありませんか。お久しぶりです」

「ああ、ご無沙汰しております、アッガイ様。ご壮健ですか?」

「ええ、大司教様も壮健のようでなりよりです」

「ご商談のようでしたが、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「それは構いませんが……」


 アッガイが大司教と呼んだおっさんが俺に視線を向けてくる。


「失礼いたしました。私は太陽神ヘオリス教の司教でフォス・イネオドロスと申します。アキラ様でお間違えありませんか?」

「え? あ、ああ」


 なるほど太陽の刺繍が施されているな。

 しかし大司教って事は、かなり偉いさんなんじゃ無いか?


「突然の訪問、まずはお詫びいたします。実はセビテスの教会から連絡を受けまして、アキラ様の事をお伺いしております」

「ああ、そういう事か」

「はい。セビテスからの書簡によれば、アキラ様はこれからアトランディア皇国の総本山までおいでくださるとの事。そのお礼をかねて、ぜひわたくしどもの教会へご招待したいと思い、厚かましくも来訪させていただきました」

「ヘオリス教の大司教が直々に?」


 眉をひそめて呟いたのは俺では無くアッガイだった。

 良く聞けば野次馬たちも似たような事を漏らしていた。


「おい、あいつは何者なんだ?」

「アラバント商会から熱心に商売を持ちかけられて、さらにヘオリス教の大司教が直々に訪問に来るだって?」

「どこかの王子なんじゃないか?」

「それにしちゃあ、見ない民族だな」

「馬鹿、だからどっかの小国の王子なんじゃ無いかって言ってんだよ」

「ああ、なるほど」


 勝手に人を王族にすんじゃねぇよ。

 俺は頭を掻きながら断ろうとして、いや待てよと思い直す。

 その場で聖印を渡したら、そのアトランディアくんだりまで行かなくてすむんじゃ無いかと。ついでにアッガイから逃げられるしな。


「あー……じゃあ少しだけなら」

「おお! ありがとうございます! 外に馬車を用意させておりますので、ささこちらへ!」

「連れもいるんだが」

「もちろん皆様一緒にお越しください!」

「じゃあお言葉に甘えて。そうだアッガイさん。そんな訳だから、失礼するよ」

「あ、ああ。大司教の直接のお誘いだからな。話は戻ってからにしよう」

「いや、話自体を終わりにしたいんだが」

「はっはっは!」


 ダメだこいつ、なんとかしねぇと……。

 とにかく俺たちはアッガイから逃げるように馬車に乗り込んだ。

 馬車では改めてお互い自己紹介しているあいだに、教会に到着した。


 流石に総本山であるアイガス教と比べれば見劣りはするものの、普通に巨大な教会だった。

 こういう時は、るねっさーんす! とか叫べばいいんかね?


 流石に一番偉い大司教と一緒なので、ノンストップで謁見室まで案内された。

 フォス大司教から改めてお礼を述べられると、本題に入ることになった。


「お噂は聞いておりました。アキラ様があたらしき神の使徒であると」

「いや、たぶん違うと思うんだけどな」

「いえいえ。神の声を聞けるのは、いにしえより使徒か巫女であると決まっております」


 巫女なんてのもいるのか。

 紅白の巫女服しか思いつかねぇな。


「それでアキラ様にお願いがあり、こうしてお呼びだてした次第であります」

「お願い?」


 嫌な予感がするぜ。


「はい。ぜひ、私どもと共にアトランディア皇国に赴き、教皇さまとお会いいただきたくお願い申し上げます」


 やっぱりか。

 俺は眉間を摘まむように、首を横に振った。




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