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第20話「荒野の腹ペコアンドロイド」


 夕暮れの港で紫煙を曇らせる。

 相変わらず活気の良い港を一人で見下ろしながら吸うタバコは格別だ。それが大商談を成功させた祝いの一服なのだからことさらだろう。


 長い商談の末に決まった金額は120万と、幾つかの試作品。

 最低でも今日見せてもらった全5種類は渡してもらえることになった。


 もちろん完成しない可能性もあるので、そのときは通常の空理具(くうりぐ)で渡してもらう約束をしてある。しっかりと証書を交わしてあるので間違いない。


 ちなみにこれも普通に日本語だった。


 名前も日本語で署名したのだが、相手は何も言わなかった。

 さらにその時、苗字があることを伝えると少々驚かれたが、自分がいた国では平民でも全員持っていたと伝えるとそんなものかと納得していた。


 それとは別に清掃の空理具(くうりぐ)をサービスでもらってしまった。大変にありがたい。


 ハロゲンの言い分だと、空理具(くうりぐ)は使えば使うほど扱いが上手くなるので、これでも使っていれば風の空理具(くうりぐ)など渡した時に威力が上がるかもしれないと言っていた。そういう事もあって渡してくれたのだろう。


 ちなみに120万という金額と長い商談のほとんどはチェリナ女史とハロゲンの独壇場だった。

 俺は時々口を挟む程度でほとんど言値だ。

 だが二人の熱い会話から適価を支払ってもらった感触がある。


 残金137万8169円。


 一気に増えた。

 自分でも驚くほど。


 そして神格レベルも上がった。

 ただ1しか上がっていない。


 大取引だったというのに……この辺の基準がよくわからない。まさかと思うが次のレベルは一千万円台の商談が必要とかじゃないよな?

 そしたらもう上がることはないだろう。


 とにかく神格レベルは6になり、コンテナ容量も35個に増えていた。


 金額に余裕も出来たし、かなり色々な物が出せるようになったんじゃないだろうか。色々試すのが楽しみだ。


 俺は短くなったタバコを海に向かって指で弾いた。日本じゃ出来なかった事の一つだ。


――――


 宿に戻るとえらい不機嫌な小柄なジジイ……ではなくドワーフのハッグがいた。


「ええい! 遅いぞアキラ! 何をしておった!」


 ハッグが野球のミットみたいな手で、ダンと床を叩くと横の椅子が宙に浮いた。


「近所迷惑だろ、落ち着けなにかあったのか?」

「一つはお主が遅いこと。腹が減ったからじゃ!」


 そうだね。お腹が減るとイライラするよね。ご飯を食べないとアンドロイドだって困っちゃうよね。


「もう一つは?」

「ぬ……うむ……」

「言いづらいなら無理しなくていいぜ」

「いや、ちと嫌なやつと顔を合わせてな」

「ああ……気の合わない奴ってのはどうしてもいるよな」


 俺の場合、会社の同僚取引相手両親親戚一人残らず気が合わなかったが。


「うむ。どうしてか其奴とは行き先が同じになることが多くてな」

「へえ」


 あまり興味がないので俺は普通に食事にする事にする。


「そうだ、今日は商売が上手く行った上に、神格も一つ上がったんだ。カツサンドくらいなら奢るぞ」

「おお! それは良かったの! では早く出せ、2つ……いや3つよこすんじゃ!」

「はいはい」


 カツサンドを3パック取り出してハッグに渡す。流石に俺はパンとおにぎりは飽きていた。神格が上がったんだから色々出せそうだな。そうだ、コーヒーが飲みたい。


「……インスタントコーヒーと卓上ガスコンロ、それ用のガスボンベと、ヤカン。保温タイプのステンレスカップ」


 ボソリと呟いたらあっさりと【承認】された。


【インスタントコーヒー=1000円】

【卓上コンロ=2890円】

【カセットボンベ=170円】

【ヤカン=2800円】

【ステンレスカップ(保温)=1050円】


「おお……これでコーヒーが飲める……いや、ちょっと待てよ? ……熱湯」


【承認いたしました。SHOPの商品が増えました】


 しまった。ガスコンロだのヤカンはいらんかった。いやまだ買ってないから問題ないな。


【熱湯(99℃1リットル)=1円】


 お茶より大分高いな。それでも1円だけど。燃料代考えたらすっごく安い気がする。相場がさっぱりわからんな。


 購入したのはカツサンド×3、インスタントコーヒー、ステンレスカップ、お湯(余りは捨てた)合計で3188円也。


 残金137万4981円。


 朝からは信じられない所持金だ。


 お湯の入ったステンレスカップにコーヒーの粉をふりかける。スプーンがないなと気づいたのですぐに購入する。問題なく【承認】された


【ティースプーン=100円】


 残金137万4881円。


 先に粉を入れておけば良かったぜ。


「なんじゃそれは」

「コーヒーっていう飲み物だが、こっちにはないのか? 紅茶は昼に飲ませてもらったんだが」

「一口よこせ」


 カップを渡すとグビリと飲み込む。熱くないのかね?


「随分苦いな」

「そういう飲み物なんだよ。人によっては砂糖やミルクを入れるが俺はブラック党なんだよ」

「ま、ワシはこれがあればよい」


 昨日と同じ陶器の酒を見せつける。この辺じゃ大分いい酒らしい。そういや美味い酒を出す約束をしてたな。

 某高価だが大変美味いウイスキーの名前を想像してみたが無情にも【神格不足】と突っぱねられた。


 この神格も謎だよなぁ……。


 美味そうに酒とカツサンドを交互に咀嚼するハッグを見て、急にとんかつ定食が食べたくなってきた。

 定食がそのまま出てきたら便利だな。「とんかつ定食」とSHOPに頼んでみた。いやこの場合神さまに頼んでるのか?

 よくわからんな。


【協議中……却下されました】


 ダメらしい。定食はダメなのか……、じゃあ「とんかつ弁当」ならどうだ?


【承認いたしました。SHOPの商品が増えました】


 おお、こっちは良いらしい。じゃあさっそく食べるか。


【とんかつ弁当=680円】


 弁当にしてはちょいお高め。だが出してみるとさくさく衣の大変美味しい弁当だった。


 残金137万4201円。


「それはこの中身と同じなのか?」

「ん? ああ、そうだな。同じ豚のカツだ」

「それも美味そうじゃなそれもくれ」

「有料だぞ680円」

「ぬ……ケチくさいの……まったく商人という生きもんは……、なら今度でええ」

「あいよ」


 命の恩人だし金もあるからおごってもいいのだが、せっかくなら酒をやったほうが喜ぶだろう。承認されたらそっちをプレゼントするつもりだ。


 そんな感じで夕食は終わり解散した。


 だが夜になってもそんなに眠くならない。そもそも夜といっても日が沈んでしばらくたっただけだ。

 まだ8時にもなっていないだろう。眠くなるわけがない。


 なので空理具(くうりぐ)の練習がてら、いろいろ清掃していこうと思う。


 俺は着ていた服を全て脱いで、さらに仕舞っていた下着なども全て取り出す。

 それら一つ一つに理術を掛けて綺麗にしていった。

 どれも洗濯したてのように綺麗になっていくのが面白い。


 しかもきっちりイメージするとシワも伸びるのだ。クリーニングいらずだね。


 テストがてらキャリーバッグや買ってきた袋に靴。こっそり廊下の床なんかも試してみた。


 コツがわかるとかなり広範囲でも綺麗に出来ることが確認できる。

 ただ複数の物をいっぺんに綺麗にするのにはかなりのイメージ力が必要になるようなので、出来るだけわかりやすく分類したほうが良いかもしれない。


 楽しくなってそこら中綺麗にして回ってしまったが、汚しているのではないので問題はないだろう。


 満足したので部屋に戻り木彫のシンボルを取り出す。

 いつの間にか【商売神メルヘス】とか名前がついていたので、メルヘスのシンボルか。


「さてメルヘスさんよ、とりあえず今日は色々うまく行ったぜ、感謝しとくわ」


 俺はパンツとシャツだけになると布団に潜り込んだ。ちなみに自前の毛布を追加してかぶっている。夜は寒いのだ。


 おやすみなさい。


 ……。


 さて。

 この時はまったく気がついていなかった。


 大量の品物や広い面積を休みなく綺麗にし続ける、つまりは空理具(くうりぐ)を連続で使い続けてまったく疲労していないという事がどれほどの異常事態なのかを知るのはもう少し後の話しなのである。


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