第49話「でこぼこファミリーと真実の布石」
観念してうな垂れるシマウマの悪党ども。
この集団のリーダーは髭面っぽいので、キュライスを尋問することにする。
「まず、今回のラライラ……そこのエルフの娘を誘拐したのはお前らか?」
「……違う。最近この街に流れ込んできた新参の組織だ」
「新参?」
「ああ、本来なら相手にしないタイプなんだが、金回りが良くてな……」
キュライスは、吐き捨てるように唸った。
「だが、お前らラライラを受け取るために来たんだろ?」
「……ふん。ここまで来たんだ。調べてきたんだろうよ。その通りだ」
確定か。
金髪ドレッドエルフのヤラライが、ピクリと片眉を揺らした。
「理由は?」
「……」
「ヤラライ。どうする? 喋らないなら……殺っちまう手もあるぞ?」
「……悪党、喋れ、そうしたら、警護隊に突き出す、それで、我慢してやる」
「ぐ……」
静かに語るヤラライだったが、その瞳は、いつでもお前を八つ裂きにしてやるぞと訴えかけていた。
「……わかった。エルフの娘は……デジオン・サンデルっていう貴族に売るつもりだった」
「なんだって?」
おいおい、話が違うぞ?
「そういう契約だったのか?」
「違う……ただ、デジオンのエルフ好きは有名だ。いや、女癖の悪さと言うべきか……。だから話を持ちかければ必ず買うと踏んだ」
「そんなに評判悪いのかよデジオンの野郎」
「非合法ギリギリの橋を渡る、人材斡旋と繋がってる時点でお察しだろ」
「だが、それだとおかしく無いか? その人材斡旋の組織からお前らがエルフを買ったんだろ? なぜ直接売らない?」
「……」
「人間……言え」
「今回の件、完全に違法だ。斡旋組織から直接購入すると、色々問題が出る。うちらの組織は斡旋組織に結構な貸しがあってな。今回まとめて返してもらう形で、エルフを内密に売ってもらう事になった。向こうからしても、足が付かないからな」
少し状況が読めてきたな。
だがわからないことも多い。
「斡旋組織と誘拐組織ってのはどうなってんだ?」
「誘拐組織は、新しい斡旋組織の仕入れ先だ。今まで使ってた仕入れ先は、その誘拐組織に潰された」
「そんな所と取引するのかよ……」
「誘拐組織じゃ無いが、田舎からぎりぎり合法で人材を仕入れてきていた小さな組織が、軒並み潰されたからな。あいつらとしても、組むしかなったんだろう」
悪党ってやつぁ……。
ちとまとめるか。
「つまり、誘拐組織から、斡旋組織が人を買い、それをさらにお前らが買った訳か」
「そうだ……」
もう一発くらい殴っておこうか?
いや、話が重要だな。
「ラライラの件に関してはわかった。それ以前の商品に関して、知ってることを何でもいいから教えろ」
「何? あいつらは新参だっつったろ。詳しくは知らねぇよ」
「じゃあそいつらが来たのはいつぐらいだ?」
「大体ふた月くらい前……か?」
ゴブリンハザードの時期と一致するな。
「そいつらは、やって来てすぐにその斡旋組織と繋がったのか?」
「まさか。新参をいきなり受け入れるわけがねぇ」
「なるほどな。じゃあそいつらの最初の客に心当たりは無いか?」
「そんなの……」
そこでキュライスは言葉を切って、考え始めた。
「そういやぁ……いやでもまさかな……」
「なんだ? 言えよ」
「これは……あくまで噂なんだが」
「ああ」
「誘拐組織がこの国に入ってきた理由が、三老会に呼ばれたから……なんて話があってな」
三老会?
ああ、この国の政治組織のトップか。
「なんでそこで三老会なんて名前が出てくるんだ?」
「知らねぇよ。ただ三老会に商品を納品した後、拠点をこの国に変えたって話が流れてる」
「信憑性は?」
「んなもんねぇよ。……ただな」
「なんだ?」
「1つ変な話があってな。その誘拐組織の野郎、このスラムで好き勝手やってるわけだが、捕まる様子がねぇんだよ。俺たちゃギリギリ越えちゃ行けないラインってのを守ってたんだが、そいつら軽く踏み越えてきやがる」
「取り締まる側が無能なだけじゃねぇのか?」
「いや、あいつらは明らかにやり過ぎてる。にも関わらず警護隊が動かないってのは……ずっと不信に思ってた」
もしかしてそれは、三老会が商品を買ったことを、脅しに使ってる……?
「他に知ってることは?」
「もうねぇよ」
「そうか……、ヤラライ。こいつらどうする?」
もし、ヤラライがどうしても許せず皆殺しにするというのなら、俺は今回見なかったことにする。
言い訳は何とでもなる。襲われたから返り討ちにしたとかな。
「……警護隊に突き出す」
「良いのか」
ヤラライはゆっくりと頷いた。
ラライラには……聞くまでもないな。
「じゃあ縛り上げて車に乗せてくれ。積み上げてかまわない」
「わかった」
ヤラライは、手際よく悪党どもを車に荷詰めしていく。いくら大型のキャンピングカーといっても、さすがに30人はおおい。
無理矢理積み重ねるようにして、身動きを取れないようにしていた。
後輪タイヤをみたら、重さでぺたんこになっていた。
帰りはパンクしないように、ゆっくり戻るしか無いな。
「アキラ様、少々良いですか?」
「なんだ?」
チェリナが横に来て耳打ちする。
「三老会が、若い女性を買い集めたという可能性、あるかもしれません」
「なんだって?」
俺はヤラライ以外のメンバーを集めて、チェリナに説明してもらう事にした。ヤラライは見張りだ。
「これは可能性の話なので、それを前提に聞いてください」
「わかった」
「まず、この荒野の国の形態を簡単に説明します。基本的に、東の国と違い、ほとんどの国は国境というものを持ちません」
「ああ、都市国家が乱立してるって話だったな」
「はい。ただ、別の都市国家を配下に置くという話が全くない訳ではありません。それに城壁や市壁の無い町などは、近隣の都市国家に従属することもあります」
「ふむ」
「これは噂ですが、ここセビテスは領土欲があり、兵力を集めている……という噂を聞いていました」
「そうなのか?」
「聞いたときは良くあるデマの一種かと思っていたのですが、この国にきて最初の印象は、確かに兵力が充実していることでした」
「来たばっかりだろ? よくわかるなそんなこと」
「その辺はコツがあるのですよ。景気の良さも、傭兵など集めている影響もあるのでしょう」
「人が集まれば景気は上がるってか」
「そうです」
「まぁ兵力を集めているってのはわかったが、それがどう繋がるんだ?」
「アキラ様が救ったというハンション村なのですが、市壁こそないものの、立地など考えても、これから大きくなる可能性が高い町だと思いました」
「大分荒らされてたろ」
「すでに復旧が始まっていましたからね。町を捨てずにすぐ復旧出来るほどの規模とも言えます」
「なるほどな」
資金に関してはアデール商会経由でかなり行ってるはずだが、資金があっても、人がいなけりゃ復興なんぞありえんか。
「またセビテスからの距離も余り離れていませんからね、セビテスが欲しがっても不思議ではないでしょう」
「つまり?」
「あまり考えたくは無いのですが……もしセビテスが、ハンション村を窮地に立たせる為にゴブリンハザードを起こしたとしたらどうでしょう?」
「……なんだって?」
「国家に従属すると言う事は、逆に守ってもらえる立場でもあります。今回の件、従属を条件に兵の出兵を考えていたとしたら……」
チェリナ自身も、顔を顰めての発言だ。
本人とて、そんな事がありえるのかと考えているのが、手に取るようにわかる。
「もしそうだとしたら……」
ダメだ。ちょいと許せねぇよそいつぁ……。
「ククク……そうだとしたらどうするのじゃ?」
楽しげにファフが聞いてきた。
「真実を……公表する」
「ククク……面白いの」
「ボクも協力するよ!」
「わたくしもお手伝いしましょう」
ハッグは無言で頷いた。ヤラライには……まぁ聞くまでもないだろう。あいつは熱い男だからな。
こうして俺たちは、この件を調べるべく、セビテスへ戻っていった。
来週、7月21日(金)に「ぽにきゃんぜん部」への出演が決まりました!
皆様良ければ、ニコ生などでご視聴ください。
また、その日は出演の為、神さまSHOPの更新は、次の土曜か日曜になる予定です。
ご了承ください。