第44話「でこぼこファミリーと新たなトラブル」
明日17日、神さまSHOPでチートの香り2巻発売です。
太陽が沈みかけ、荒野の都市国家は、夕暮れに赤く照らされていた。
教会の鐘の音が響き渡り、それまで仕事に従事していた人々が手を止め、店じまいを始める。
「……なんかラライラの奴遅くないか?」
ラライラが買い出しに飛び出したのは昼前の事だ。
前に、荒野の街では、薬草が手に入りにくいと零していたことがあったので、それで遅くなっているのかもしれないが……。
「街の、外に、薬草を、取りに、出たか?」
「その可能性はありそうだが……」
「さすがにちと、遅いのぅ」
比較的治安が良い街だと油断したか?
「なあヤラライ、お前の精霊理術で、ラライラの場所とかわからんか?」
「やって、みる」
小さく呪文を唱えたヤラライが、ゆっくりと歩き出したので、慌ててユーティスに依り代だった彼女たちのことを頼み、慌てて細マッチョエルフの後を追った。
無限の水瓶近くの露天商が並ぶ地域へと、まずは向かった。
ちょうど無限の水瓶は水を止め、立派な装束の衛士が、うやうやしく水瓶を仕舞っているところだった。
「……む?」
「どうした?」
「精霊……混乱、してる?」
「どういうことだ?」
「わからん」
それまで比較的、迷う事無くこの場まで案内していたヤラライだったが、急に、動きがおかしくなる。
右に行きかけると思ったら、キョロキョロと辺りを見回し、今度は逆方向に歩き出すのだ。
そしてしばらく行くと、足を止め、また別方向に歩き出す。
「ヤラライ?」
「これ……精霊よけの、何かが、使われた。たぶん」
「なんだって?」
「ふむ? そんな事が可能なんか?」
「理術か、空理具で、存在する」
「それが使われた可能性が高いと」
「おそらく」
精霊理術がおかしくなるような状況があり、ラライラが行方不明。
「ちょっと待て! それはラライラが狙われたんじゃないのか!?」
「可能性、ある」
「なんと……」
「ククク……手の込んだ事よの」
「言ってる場合か! 全員で手分けして探すぞ! 二時間くらいして見つからなかったら、一度キャンピングカーに集合してくれ!」
「俺、行く」
ヤラライは返事ももどかしく、駆け出した。精霊が使えない状況で大丈夫なのか?
「ふん。鍛冶仲間に声を掛けてくるわ」
「拠点に戻るなら、自治会の連中にも探すよう頼んでくれ!」
「了解じゃ」
返答するなり、駆け出すハッグ。
足が短いくせに速ぇな……。
「ファフも頼む」
「ククク……良かろう。どこを探せばよい?」
「そうだな……俺は東スラムあたりに行ってみようと思う。ファフはこの広場を中心に頼む。俺たちが見落としてるだけかもしれん」
「ククク……。頼まれてやろう」
「頼んだ」
いまいち良くわからん奴だが、仲間を探すことまで手を抜いたりはしないだろう。
俺も全力で駆け出す。向かうのは小悪党軍団である、<新月を駈けるシマウマ>だ。
犯罪の事は犯罪者に聞くのが一番だ。
長年の経験から、俺は脇目も振らずに<新月を駈けるシマウマ>のアジトへ乗り込んだ。
のだが……。
「なんだ? 妙に……静かだな?」
夜だから。そんなわけは無いだろう。
概ね犯罪者って奴らは、この時間帯から活発になるもんだぜ。
ちょうどアクビをしながら歩いていた、シマウマの一員である、ストッドとクードを見つけたのでとっ捕まえる。
「お前は!」
「あ。砂糖玉の兄ちゃんだ」
「お前ら! ラライラを……前に俺と一緒にいた、エルフの娘を知らないか!?」
「え? え?」
「あの美人のエルフさん?」
「そうだ!」
「い……いや、知らねぇけど」
「見てない」
「そうか……まあいい。それよりシマウマの連中どこいったんだ?」
「そんなん言える訳ねぇだ——」
ごばぁん!
俺は無意識に取り出した、螺旋竜槍グングニールで近くの壁に大穴を空けた。
子供相手に大人げないとは思うが、時間が無い。許せ。
「もう一度聞くぞ? シマウマの連中はどこに行った?」
「あ……う……」
「兄貴ぃ……」
俺はわざとらしく二人を見下ろすと、お互いに震えながら抱き合った。
「よ! 良く知らねぇんだよ! なんかデカい取引があるとかで……!」
「なんだと?」
取引?
まさかラライラを捕まえたのがシマウマで、それを取引するのか!?
「クソッ! その場所は!?」
「だからマジで知らねぇんだよ!」
「っ!」
こいつら二人とも、下っ端ってわけか。
俺はその辺を歩いてる奴をとっ捕まえては、シマウマの連中の行き先を、丁寧に聞いて回ったが、関係無い人間か、組織の人間でも末端しか捕まらなかった。
「この動き、偶然とは思えねぇ……くっそ!」
情報が。情報が欲しい!
俺がその場を離れようとしたとき、正面から神官服の男が歩いているのに気付いた。
偶然かと思ったが、真っ直ぐに俺に向かって歩いていた。
どうやら俺に用があるらしい。
「こんばんは、アキラ様」
「……記憶に間違いがなければ、あんたとは初見のはずだが?」
「これは、申し遅れました。私はアイガス教のウメサ・クラと申します」
緑がかった神官服は、なるほど大地母神を崇めるアイガス教だろう。
「すまないが、ちょいと忙しくてな。話なら後日に……」
「恐らくですが、その用事に関して、お話出来る事があるのでは無いかと思いまして、探しておりました」
「なんだって?」
「教会というところは、救済が目的ではありますが、その性質上、色々な情報が集まるものでして……」
「ごたくはいい。もしかしてラライラの居場所を知ってるのか?」
「いいえ。ですが、信者の一人が偶然ラライラ様の事を目撃いたしまして」
「なんだと!」
「どうにも、柄の悪い人たちとトラブルになっていたようで……人目の付かない場所へ移動したらしく、その後のことはよくわかっていません」
「そうか! その場所に案内してくれ!」
少しでも手がかりがあるのなら!
「いえ、私どものその後精査しましたが何もありませんでした」
「それは有り難いが、俺は俺で調べる。場所を……」
「それなのですが、ラライラ様の居場所に、少々心当たりがあるのです」
「なんだって?」
「確実ではないのですが……、ラライラ様は最近、街道沿いに出没するという、人さらいの組織に目を付けられたのではと考えております」
「なんだと!?」
人さらい?
依り代たちをさらった連中か!?
「その組織を教えてくれ! 頼む!」
「いえ、それには及びません」
「なん、だと?」
どういう意味だ?
「私ども、アイガス教を通じて、コンタクトを取り、ラライラ様を取り戻す交渉ができるかと」
「なに?」
ちょっと待て。ツッコミ所が多いぞ?
教会がそんな伝手を持ってるのか?
それ以前にラライラだけ??
混乱する俺をよそに、アイガス教のウメサが続ける。
「全力で動きます故、アキラ様に一つだけお願いが……」
「なんだ?」
お布施か?
場合によっては手持ちを全部渡してもかまわんぜ。
「教会は、基本的に、信者の為に動きます。ですので……はい。入信いただけたら、全力を持って動くことをお約束いたします」
妙に人なつっこい笑みを浮かべた、ウメサの顔が、妙に歪んで見える。
それが怒りによるものだと気付いたのは、数秒経ってからだった。
「おい……そりゃどういう事だ?」
「いえいえ! 形だけでも構わないのです! 入信が無理というのであれば、他の宗教施設を訪れないという約束さえあれば……」
何を言ってるんだこいつは?
俺は、無意識に螺旋の波動を纏っていた。
怒りが、こみ上げる。
「ククク……妙な話じゃのう」
「ファフ!?」
唐突に、真横に立っていたのは、褐色角娘のファフだった。
「ククク……。聞くが、その話、確かなのかの?」
「と、言いますと?」
「ククク……。もちろん、人さらいの組織にエルフの娘が攫われたという話よ」
「それは……、確実ではありませんが、状況から」
「ククク……。ならば、これ以降はこちらで調べるから手出し無用じゃ」
「いえ、しかし……その……」
「ククク……。ヌシよ。いくぞ」
「あ、ああ」
その場を離れた路地裏。
「ククク……、約束通り、止めてやったぞ」
「……すまん。ちょいと冷静さを欠いていた」
「ククク……、貸しじゃ。それより人さらいの組織を探すのじゃな」
「そうだな。ファフも手伝ってくれ」
ファフは頷くと、一緒に走り出した。
待ってろラライラ。すぐに助けてやるからな!
いよいよ明日の17日、神さまSHOPでチートの香り2巻発売です。
すでに、手に入れてくれた方もいるようです。
流通の関係で前後するかもしれません。
不安な方は本屋さんで予約などしていただけたら嬉しいです。
今回もイラスト神がかってますw