表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/289

第32話「でこぼこファミリーと深夜の特訓」


「お?」


 ねぐらにしている西スラムの基地へと戻ってきたら、ちょっとした変化が起きていた。


「こりゃ凄いな」


 なんと、キャンピングカーが壁に囲まれ見えないようになっていたのだ。


「これなら目立たないな」


「ふんっ。そこの唐変木の意見じゃよ。そやつのアイディアを実行するのは業腹じゃが、悪くない意見じゃったからな」


 面白く無さそうにドワーフのハッグがエルフのヤラライを睨み付けた。


「ヤラライの?」


「ちょっと、今日、皆で、遠出したい」


 どういうことだと片眉を上げてみせると、ヤラライはキャンピングカーを指してから、俺の腕当たりを次に指した。


「車、仕舞って、外に行く」


「ああ、なるほどね」


 俺とヤラライは残っていた炊き出しと、ラライラが気を利かせて作っておいてくれた、余った芋の炒め物をいただきながら話を聞くことにした。


「今日、訓練、アキラと、ラライラでやる」


「ラライラと?」


 想像もしない話に思わずラライラに顔を向ける。


 エメラルドブルーが美しい髪を、ばっさりとショートに切り揃えた、地球のアイドルが束でも敵わない美貌の持ち主が、瞳をぱちぱちと開閉した。


「ボク?」


「ああ、ラライラ、ゴブリン狩り、志願していた、つまり戦士、ならば親として、鍛えるの、義務」


「まぁ……そうなんだけど……昔も結構教わったよ?」


「あれは、子供向け、今度は戦士向け、特訓やる」


「う……」


 ラライラには珍しい呻きが漏れる。うん、その気持ちは良くわかる。


「なあヤラライ、それは必要な事なのか?」


「必要」


「そうか……」


 ここまで断言されてしまうと、擁護する隙が無い。まぁ自分の娘だ、無茶はさせないだろう。


「それでは、移動、しよう」


 キャンピングカーをコンテナに仕舞い、留守と依り代を未亡人ビオラにお願いして、ヤラライの案内で市壁の外へと連れて行かれた。


 ◆


「精霊よ! 乾き飢えたどう猛な大地よ! 舞い踊れ土煙! その身を奮い立たせその存在で敵を討て!」


 俺の目の前で唐突に地面が盛り上がったと思ったら、土砂が天高く舞い上がった。反応がコンマ1秒遅かったらその噴火のような土砂に巻き込まれ、天高く舞っていただろう。


「くそっ!」


 一気に距離を詰めようとダッシュしたのが悪かった、いらっしゃいとばかりに精霊理術のウェルカムである。波動を全開に速度をゼロに落とし、半回転しながら吹き上がる土砂を躱した。


 土砂を迂回し、ラライラの姿を捉えたと思ったら、視界いっぱいに炎の塊が迫っていた。


「なっ!?」


 土砂が舞い上がる爆音で詠唱が聞こえなかったのか、そもそも唱えていなかったのか、完全に不意を突かれた。体勢的に避けるのは不可能だ。


「クソがっ!」


 俺は防御の波動を全開に、そのスイカ大の火球を拳で弾いて、なんとか直撃を避けた。


「え!?」


 今度はラライラの方が驚きの声を上げた。悪いがこの隙に距離を詰めさせてもらう!


 弾丸のように飛び出し一気に距離を縮めようとした。が!


「精霊よ! 荒ぶる風の精霊よ! 吹き荒れて!」


 あと少しでラライラに手が届くという距離で、身体を打ち付ける強風が横から俺を吹き飛ばした。


「ぐあっ!」


 速度が速すぎて、もんどり打つと、そのまま荒野の乾いた大地に打ち付けられ転がっていく。いてぇ。


 30mは転がっただろうか。普通に交通事故と変わらない。俺の身体能力はいったいどうなってしまったんだ。


 慌てて身体を起こしたが、ラライラの目の前には三本の光剣がゆらゆらと浮いていた。


「そこまで!」


 それまで審判として立っていたヤラライが声を上げた。


「はあ」


「ふう」


 俺と同時にラライラもため息を吐いて、光剣を消した。


「ククク……精霊理術と空想理術を両方使いこなすとは器用な娘よな」


 スマホを手にした褐色角娘のファフが気配も無く俺の横に立っていた。


「ヤラライ……そろそろ……限界だ」


 そう、すでにこの訓練を10回以上繰り返しているのだ。200mほど離れた場所からスタートしての模擬戦。これがヤラライの出した訓練内容だった。


 俺は理術士との戦闘方法を、ラライラには戦士との戦闘方法を学ばせるのが目的らしいが……スパルタにも程がある。最初の数回など、ラライラが俺に対して手加減していたのを叱っていた。


 いや、普通に考えて、模擬戦で使う魔法……じゃない理術じゃないからだろう。だがハッグ、ヤラライ、ファフが口を揃えて「そのくらいじゃこいつは死なない」とか言いやがって、結局全力の戦闘になってしまったのだ。


 最初の6回までは俺が勝っていた……、ラライラの頭をぽんと叩いて終わりだったのだが、ヤラライの叱咤もあり、残りの4回はマジで死ぬかと思った。


 ってかラライラ俺を殺す気かという理術を連発してきやがった。理術やべぇ。


「アキラ、これがそれなりの腕を持つ精霊使いとの戦いだ。お前ではまだこの距離は死を招く距離だと覚えておくといい」


 現在ヤラライはエルフ語である。久しぶりの流暢な喋りにやや違和感を感じてしまう。


「こんなに……距離があるのに……アキラさん凄いよ……」


 息を切らせたラライラが寄ってきたので、ペットボトルを渡すと、くぴくぴと水を飲み干した。


「いや、理術士ってのがこんなに厄介だとは思わなかった。今までは肉弾戦ばっかりだったからな。ピラタス王城でもいなかったぞ」


「アキラ、あの時は理術士も敵にいたぞ。だが俺か酒樽が速攻で潰してただけだ」


「マジか……」


 相変わらずぱねぇっすヤラライさん。


 あの複雑な王城の中、的確に理術士を狙い撃ちしていたと考えると、ご愁傷様としか言えない。しかしその理論でいったら、有事に最初に狙われるのはラライラって事にならないか?


「ラライラ、もっと相手の虚を突かないと一気に詰められる。アキラ程度の戦士はいくらでもいるぞ」


 おおう、なんかディスられてる……。いや、最初に狙われるのが理術士だからラライラに対して厳しくやってるだけか。


 微妙に釈然とはしないが、もともと俺はバイオレンスに生きるつもりはないからな。


「今日の訓練内容を良く覚えておくように。お互い感謝を」


「サンキューな」


「はい。ありがとう」


 お互いに礼はないが、お互いに感謝するのが礼儀らしい。俺が片手を上げて礼を言っているとハッグも寄ってきた。


「お主はまだ波動にムラがあるの。ちと特訓じゃな」


「まだやるのかよ!?」


「こういうのは忘れないうちにやるもんじゃ。向こうもやっておるわい」


 見ればラライラがひいひい良いながら理術を繰り出していた。


「と! 父さん! ほんとに! 限界だから!」


「敵はそんな理由で止まってはくれない。理術に無駄が多いからそうなる。効率的に、虚をついていかなければならない」


「理術の無駄に関しては父さんに言われたくないよ!」


「1つの術に無駄が多いのはわかっている。俺は理術が得意では無いからな。だがその分持続性の高い物を選んでいる。自分に合った術を選ぶことは無駄を無くす以上に重要だ」


「ううう……」


 あっちはあっちでスパルタだった。自分の娘に容赦ねぇなぁ……。


「アキラぁ! よそ見しておるんじゃないわぁ!」


「うおおお!?」


 ぶんと大ぶりされた鉄槌を紙一重で避ける。


「何しやがる! 死ぬぞ!」


「貴様はこういう咄嗟の時に波動に力を入れすぎじゃ! 確かに躱すことは出来ようが、次の行動に移れんぞ!」


 とまぁこんな感じで、その日は夜更けまで特訓に明け暮れた。


 ……神さまよ、友だちまでハードモードにする必要はねぇんじゃないか?



2巻、発売決定しました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ