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第30話「でこぼこファミリーと東スラム」

またアップが遅れてしまいました……ごめんなさい_:(´ཀ`」∠):_


「押しの強い教会だったな」


 もしかしたらユーティスが連れてきたくなかった理由はこれだろうか? だが彼女はそこまで事情を知らないはずなのだが。


「あー、さっきの話なんだけどよ……」


 さてなんと説明したものかと後ろ頭を掻いてしまう。


「新しい神がどうこうという話ですよね? 私には……その難しくて良くわかりませんでした」


 少し困ったようにはにかんで見せた。


 なるほど、どうやら彼女は俺が大分ヤバい人間だと判断してしまったのかも知れない。そりゃ神さまから頼まれてお手紙持ってきましたなんて話、誰がどう聞いてもイカレてるとしか思えない。普通に考えて電波男である。


 そう思われていた方がありがたいのだが、まったくもって嬉しくない。


「次はテルアミス教の教会に行かれるのですよね?」


「……はい」


 少し気の毒そうな視線がとても痛いです。はい。いっそ全部話してしまおうかとも思ったが、下手をすると彼女まで諸々に巻き込んでしまう可能性が出てしまうのでそれは却下だ。辛い……。


 テルアミス教の教会はヘオリス教会に比べるとだいぶ質素だった。それでもテッサのアイガス教会とは比べものにならないが。おそらくこの国で普及している宗教がへオリス教なのだろう。


 三日月と十三夜月を組み合わせたシンボルで、月の女神らしい。そういやこの世界の月は二つなんだよな。重力バランスとかどうなってるんだろうね。


 月や女神といったイメージだったので、なんとなく女性の神官が出てくると思ったが、出てきたのは満月みたいにまん丸の顔のおっさんだった。


 ……教会での出来事は省略する。なぜかって? そりゃへオリス教会で起きた事とほぼおんなじだったからな。違いと言えば、神官の顔が四角いか丸いかの違いくらいだ。お前らわざとじゃないよな?


 もっとも、へオリス教ほど押しは強くなかったので、話自体はスムースに進んだ。こちらでも依り代の話はしておいたので、もしかしたら何か情報が得られるかも知れない。


 へオリス教で秘薬と呼ばれていた薬の話をすると、治癒はテルアミス教の方が優れているからと、そこだけは強くアピールされてしまった。


 まぁどちらの教会も予備案であるので、あまり期待はしていない。自作の神さまも十分に当てにならんが、ここまでの実績を見れば、まぁ嘘はないだろう。治療薬と言い切っているのだから治るに違いない。


 むしろ問題は治療薬との引き換えになるスラムの再建の方だ。現状は驚くほどスムーズに行っているが、ここからが難所なのだ。


 昔会社のボランティアという名目で、無休無給で引っ張り出されてシャッター街再生を手伝わされた事を思い出す。あの時はまったく上手くいかなかった。


 大きな理由は2つ。一つは商店街の人間がやる気が無く非協力的だったこと。バブルの時代に生きてきたのか、何か意見を出しても「それで売上げは戻るのか!?」などと自分の事なのに他人任せで話しているだけでむかっ腹が立ったものだ。


 もう一つの理由はウチの会社の上司である。俺を含めた若手がアイディアを出しても受け入れず、型の古い無難な意見ばかり、そのくせ商店街との折衝は若手に任せるという状況だったので、上手くいくものも成功するはずが無かった。


 そういう意味では現状の方がマシかも知れない。何と言ってもスラムの住人は働く気満々なのだ。鏡の運搬でスラムの人間の考え方を知った限り、怠けや責任転嫁といった、根本的意識改革は必要かも知れないがそれでも元の世界でC国の人間を働かせるより千倍マシだろう。


「さて、まだ陽もあるし俺はちょっと東地区のスラムを覗いてから車に戻るよ」


 タバコを取り出して咥えながら、ユーティスに軽く手を上げた。


「え? スラムですか?」


「ああ、東のスラム連中はちょいとワンパクが多いらしいからユーティスはこのまま帰ってくれ」


「しかし……」


「たいした用事じゃないんだ。ちょっとした下見だな。だから気にしないでいい」


「東のスラムは危険ですから一人では……」


「おいおい、お前さんは俺の腕は知ってるだろ?」


 ちょっと格好良く言ってみたが本意では無い。悪く言えば足手まといになってしまうのでとっとと帰って欲しいのだ。


「そう……ですね。アキラさんなら大丈夫だと思いますけれど……」


 彼女は聡明なので、俺の戦いを知らなくても話と状況で十分想像がつくだろう。普通に考えたらたった4人(……と角娘)で大規模ゴブリンハザードを潰して回るなど不可能に近いとわかる。


「と言うわけでユーティスはユーティスの仕事をしていてくれ」


「……わかりました」


 新造神さまの話なんてしたくないし、今日は早めに分かれておくのが良いだろう。軽く手を振って歩み出した。


 ◆


 東スラムはまさにスラムだった。


 据えた下水臭、虚ろな目の住人が建物の影に座り込み、ここはこの世の終わりだとその目がこちらに訴えかけてきた。


 集団で固まっている人間の目つきは逆に鋭い。よそ者を警戒する深い意志が見て取れる。ああ、地元が懐かしくなる感じだぜ。


 さて、とりあえず様子を見に来たわけだが……。


「アキラ」


「うをっ!?」


 突然背後から良い声で呼び止められて飛び上がりそうになる。


「や、ヤラライか……驚かせるなよ」


「アキラ、もう少し、警戒必要」


「お前の気配がなさ過ぎるんだよ」


 これでもだいぶ気配なんか察知できるようになってんだがな。クソ。


「悪人、捕らえに、来たか?」


「悪人……? ああ、鏡をかっぱらったっていう奴か。単独かグループかくらいは知っておきたいな。何か掴んでるか?」


「皆殺し、か?」


「怖えよ!!! とりあえず実体調査だ!」


「そうか、こっち、だ」


 調査は丸投げしたが、詳細聞いてなかったからな……。つーか毎晩特訓とかよりその話の方が大事だろう。聞き忘れた俺も悪いが。


 奥に進むと、ゴミ溜めみたいな路地にボロ布を纏った男たちが大量に転がっていた。……こりゃ酷いわ。


「ここ、やつらの、根城」


 なるほどね。左右の狭い建物に無理矢理バラックをつなげたような、この世の終わりみたいな街並みである。悪党の根城には相応しい。


 ……?


「なぁヤラライ、あいつ見覚えないか?」


「どれ、だ?」


 俺が指したのはローブで全身を隠して進む男だ。掻きむしるようにローブを身に巻き付けて、いかにも身分を隠したいというのが見て取れる。


「……わからん」


「そうか……」


 確信は無いが、あれは恐らく……。


「都市議会議員のデジオン・サンデルにひっついてた取り巻きの一人だな」


 いきなり俺の事を殺そうとした野郎だ。一瞬目が見えただけだが、なんとなく確信がある。会社勤め時代の癖で人を見分ける目は鍛えられたからな。

 

 ……いやそれ以前からずっとか。


 いや、昔の事はどうでもいい。それよりもデジオンの取り巻きがいたのはちと気になるな。


「おい! お前なんでこんな所にいるんだ!」


 建物の窓からのぞき見でもしていたのだろう、飛び出して来たのは前に西スラムでちょっかいを出してきた少年のストッドだった。たしか<新月を駈けるシマウマ>とかいう痛いチーマーだったはずだ。


「よう。元気か?」


「なんでてめぇはそんなに気安いんだよ! 友だちか!?」


「元気そうでなによりだ。子分のクードはどうした?」


「だから話を聞けよこの野郎!」


 うんうん。やっぱ子供はこのくらい元気じゃないとな。子供って言うほど子供でも無いな。若者っていうのが適切か……。


 ……なんか急に歳を取ったみたいで凹むぜ。


「なんだ? またあめ玉……甘いお菓子が欲しいのか? 子供だなぁ」


「そんなこたぁ一言も言ってねぇだろうがぁ! 頭湧いてんのかこの野郎!?」


「あー、そうだ良かったらこの辺道案内してくれないか?」


「だから! おめぇは! 俺の! ダチかっての!?」


 どうもストッドの態度が硬い。やっぱスラムだとカルシウムが足りないのかね?


 やれやれと肩をすくめた。



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