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第28話「でこぼこファミリーと秘密の訪問」


「アキラさん、鍛冶ギルドからミシンの大まかな値段は聞きました。それで、確かアキラさんは既にミシンをいくつか保有しているのですよね?」


 細身のユーティスと話している間に、急いで他のメンバーが椅子とテーブル、そしてお茶を用意してくれた。ご厚意に甘えて二人で席に着く。


「ああ。あるぜ」


「それで先行で何台か購入出来ないかとギルド長から言付かっています」


「可能だけど予算は?」


「3000万ちょっとだそうです」


「ふむ……」


 SHOPで買えば5万ほどなので、いくらでも渡せるが、今後の事も考えるとどうしたものか。


「少し考えさせてくれ」


「わかりました。伝えておきます」


 金はあるにこした事は無いが、大儲けするつもりもないからな。むしろスラムの救済に結びつける方がいいだろう。幸い今は金に困っていない。


「それで、ここを見せた真意は?」


「ミシンの他に必要な物があれば入れるとの事ですのでアドバイスがあればとの事です」


「布と糸くらいしか思いつかないなぁ……むしろ服飾関係だとそっちの方が詳しい訳だからな。……ああそうだ。流通している布の種類は知りたいから、片っ端からサンプルを用意してもらえると助かる」


「はい。伝えておきます」


「他に何かあるか?」


「上の階に仮眠室を用意したのでいつでも使って良いそうです」


 ユーティスの説明に、ピクリと反応するメンバーたち。


 ……おい。それって……。


「俺は使わないぞ」


「わかりました。使いたくなったらいつでも利用可能だそうです」


 どうもユーティスにはその意味がわかっていないらしく軽く流していた。彼女までハニトラメンバーじゃなくて良かったぜ。


 まったく、商談自体はスムーズでもしれっとこういう罠を仕込んでくるあたり気が抜けねぇ。これが元の世界の海外出張だったら、泊まってるホテルの部屋に当たり前みたいに美人が来る流れだな。ま、上司の話だが。


 そしてその上司は美味しい思いだけして帰るわけだ。きっちり盗撮対策をしておいてな。ほんとクソしかいなかったな俺のまわりは……。


「とにかく場所はここで問題無い。外から見たら狭く見えたが、中は奥行きがあるからな。二階まで作業場に出来るって話だからしばらくの拠点には十分過ぎる……あと三階にはいかねーぞ」


 仮眠室とか言ってるが、馬鹿でかいベッドが鎮座しているのが容易に想像出来る。見たくも無い。


「ミシンの事は明日にでも返事をする」


「わかりました」


「さて……少し時間があるな」


 やるべき事は沢山あるが、時間が中途半端だった。


「そうだ。ユーティスは教会の場所を知ってるか? 三大神で大地母神以外の二つを探しているんだ」


「え?」


 ん? なんか変な事を言ったか? なぜかユーティスは目を丸くしてこちらを向いていた。


「いや、知らないなら良いんだ。人に聞いて探すからよ」


「いえ、あの、どうして探しているのかなぁと……」


「たいした用事じゃないんだけど、ちと寄らないといけなくてな」


 出来ればこの国で奉納が終われば万々歳だ。ダメなような気がするが試さない手は無い。


「いえその……そうです! この国の教会は小さいのでお祈りしてもご利益が小さいと言いますか……」


「???」


 なんじゃそりゃ?


「いや、別に信者だから行くって行くってわけじゃ無くて、何というか知り合い(・・・・)に頼まれごとがあってな……」


「いやその……でも特に急いで行かなくてもいいんじゃありませんか?」


「まぁ、間違ってはいないが後回しにしても気持ち悪い用事なんで早めにかたづけておきたくてな」


「そ……そうなのですか……」


「ま、知らないなら良いんだ。じゃあ俺はこれから……」


「そ! それなら私がご案内しますから! 一緒に行きます!」


「ん? ユーティスは準備で忙しいんだろ? 場所だけ教えてくれれば……」


「いえ! ミシンが入る訳ではありませんから! 私はギルド長からアキラさんのお世話をするように仰せつかっていますので!」


「いやでも……」


「そっ! それが仕事ですから!」


 妙に力説するユーティスに押される形で案内してもらう事にした。もしかしたらユーティスもハニトラ要員だったりするのだろうか?


 手を出す気は微塵も無いが、もしかしたら出来るだけ俺のそばにいるよう厳命されているのかも知れない。だとしたらここで無下に断ると罰を受けたりするかも知れないからという判断で一緒にいることにしたのだ。


 まったく世の中世知辛いぜ。


 ◆


 そんな訳で案内してもらったのはヘオリス教の教会だった。石造りの立派な教会でピラタスにあった民家に毛の生えたようなアイガス教の教会とは大違いの建物だった。とてもユーティスが言うように御利益の無い教会には見えない。


 ベースは荒野に転がっている大岩を切り出して積み上げたのだろう、レンガと違い木の柱が無く、まさに神殿といった出で立ちだ。表面は白く塗られ清楚さと高級感が醸し出されている。


 神殿の中央には巨大な太陽が彫り込まれている。俺からは日本語に見える文字で”太陽神ヘオリス教会”を記載されていた。相変わらずの謎翻訳である。


「結構混んでるな」


「そう、ですね」


 どことなくバツが悪そうに答えるユーティス。何か思うところでもあるのだろうか?


「後は俺一人でも大丈夫だから、戻って良いぞ?」


「いえ、テルアミス教にも行かれるんですよね? 案内しますから……」


 うーん。今日のユーティスはなんだか変だなぁ。


「わかった。じゃあちょっと行ってくるから待っててくれ」


「あ、私も行きます」


「そう? どっちでもいいけどよ」


 彼女の好きにさせた方がよさそうだ。


 時間が中途半端なせいか、人はなかなか多いが殆どはお祈りに来ている人がメインで、幸いに神官と思われる男性をすぐに捕まえることが出来た。


「はい何でしょう?」


 顔の四角さが少し気になる50代ほどの男性が応対してくれる。顔は厳つい感じだが、優しい細目をこちらに向けた。


「忙しいところ失礼します、こちらの教会に奉納したい物があるのですが、こちらで手続き出来ますか?」


 言ってから手続きという言葉は不適切だったかも知れないと思い当たったが、背中に大きな太陽の刺繍が入った神官服の男性は気にする様子も無く、笑みを返してくれた。


「はい。こちらでお受けいたしますよ。……ああ、こちらへどうぞ」


 四角い顔の神官に案内されて礼拝堂の隣へと移動する。10人程度が会議を出来そうなやや広めの部屋だった。


「ちょうど空いていますね。お茶をお入れしますからお待ちください」


「いえ、お構いなく。たいした物ではありませんのであまりお手を煩わせるのは忍びないですから」


「そうですか? それではこちらでお受け取りしますが、今お持ちでしょうか? それとも後日運び込む形で?」


 運び込まれるような物が奉納される規模なのかよ、ここは。確かに教会の規模を考えたらありえる話だ。もしかしたらこの部屋もそんな商人などとやりとりをする為の部屋なのかも知れない。


「いえ、これを御奉納させていただきたく」


 ポケットからあらかじめ用意していたメルヘス教のシンボルを取り出した。これはピラタスの商売時に100個単位で購入していた端数分だ。ギロとクラリに渡した物も同じである。


 漢字の”画”に見える稚拙な木彫り細工で、普通に考えたらわざわざ教会に奉納する物では無い。


 顔の四角い神官さんも首を傾げて木彫りのシンボルを持ち上げて覗き込んでいる。そしてユーティスもガン見していた。


 あ、しまった。ユーティスってこの辺の事情知らないんだった……。


 能力の事も神さまの事も教えてないのに、なに連れてきてるんだよ俺は……。今更帰れとも言えないし……いや、神官さんがこのまま何事も無く受け取ってくれれば問題は無いはずだ!


「失礼、これはどのような彫り物になるのでしょう?」


 だよねー。聞くよねー。


 俺は小さく咳払いしてから答えた。ユーティスにはあとで口止めしておこう。


「えー、それはですね、メルヘスという商売の神のシンボルとなります」


 神官さんは笑みのまま、片方の眉を3mmだけ持ち上げた。



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