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第27話「でこぼこファミリーと順調な日々」


「どちらに向かわれるんですか?」


 セビテスの街中を歩きながらユーティスが聞いてきた。


「商会だよ。アデール商会って知ってるか?」


「いえ、すみません。服飾関係以外の商会は疎くて……」


「ああ、そりゃあそうか。その後は警護本部って所に行くつもりだ」


「警護本部ですか?」


「ああ、知ってるか?」


「はい。わかりますよ」


「昨晩メモを見返して思い出したんだが、この街に来た時、寄ると良いとアドバイスされてたんだ。俺とした事がうっかりしていた」


「どんなご用なんですか?」


 それに対して少し小声で答える。人々が行き交う大通りだが念のためだ。


「依り代になった人間の身元がわからないかと思ってな」


「あ……それは盲点でした」


「ああ。彼女たちの現状ではすぐに家に帰せる状態じゃねーけどよ、身元がわかれば後々楽になるからな。なんでこんな大事な事を忘れてたんだか」


「しかたありませんよ。やる事が多かったんですから」


「そう言ってもらえると少しは楽だな」


 あんまり言い訳が出来る話でも無いがな。


 その話はそこまでにして雑談しながらアデール商会に向かう事にした。


「そうだ、この国で一般的な運動着ってどんなもんなんだ?」


「運動着……ですか?」


 どうやら通じていないらしい。


「うーん。身体を動かす時に着る専用の服なんだが」


「そういう目的で服を作る(・・)と言うのはあまり聞いた事がありません」


 そうか。この世界だと服=オーダーだからな。一般人が普段着以外を所持する事が珍しいのか。


「そうか、わかった」


「動きやすい服、というオーダーならたまにありますが、基本的には商人の方が多いですね」


「なるほど」


「ただ、やはり見栄えも気にしますので、装飾は凝ったりしますね」


「なるほどね」


 単純に運動着というジャンルの服は無さそうだ。ただ商人の服が動き重視というのは良いことを聞いた。


「既製服に駆け出し商人向けの服を入れても良いかもしれないな」


「駆け出し商人向けですか?」


「ああ、今この国は景気が良いだろ? 商人も増えてると思うんだ。そいつらが日頃着る服であれば、丈夫で動きやすく、見栄えもそこそこって服が良いだろ」


「良いかもしれませんね」


「それが新品で安く手に入るんだ。商人以外に街の人間にも少し良い服って認識で広がったら売れるかもしれないな」


「それならアキラさんが着ているその服が良いと思いますよ」


「……ワイシャツの事か?」


 俺はシャツを摘まんで見せるとユーティスが頷いた。


「最初は白単色というのは飾り気が無いと思っていたのですが、見慣れてくると逆に他の服が装飾過多に見えてきますし、何より動きやすそうです。それは長袖ですが、半袖にすれば布も少なくなりますし。そのズボンも履きやすそうです」


「ふむ……」


 そういやギルド長もワイシャツの作り方を知りたがってたな。この世界の服装は、中東っぽい膝まである緩い服を腰で縛っている印象が強い。もしかしたら上下で完全にセパレートになっている服装は珍しいのかも知れない。


「ならワイシャツやTシャツ。半袖シャツ。それにスラックス系の型紙を作ってみるか」


 そんな感じでユーティスとの雑談は意義のあるものとなった。


 ◆


「こんにちはアキラさん……おやそちらのお美しい方は?」


 アデール商会につくと、さっそく片眼鏡(モノクル)のロットン・マグーワが商人らしい挨拶をしてきた。


「ああ、この人はユーティスさん。色々とお世話になってるんですよ」


「それはそれは。私はロットン・マグーワと申します。お見知りおきを」


「は、はい。ユーティスです。よろしくお願いします」


 商人との挨拶に慣れていないのか若干ぎこちなくユーティスが答えた。


「品物は届いていますか?」


「はい。ただ……」


 ロットンは言いかけてユーティスに視線をやった。


「あ、私はここで待っていますので、お仕事をなさってください」


「悪いな、ちょっと待っててくれ」


「はい」


 ユーティスを残して奥に行くと、大切に大量の鏡がしまわれていた。その中の一つをロットンが持ってくる。


「あー、ヒビが入ってしまいましたね」


「ええ。荷運びの人は気がつかなかったようですが、毛布を開いたら」


「なるほど。その荷運び人は?」


「夜に報告すると言っていましたよ」


「それなら問題ありません。損失分は後日納品させてもらいます」


「はい。ありがとうございます。それでは今日の分です。100枚分あります」


「助かります」


 これで三枚目のロスト。思っていたより少ないくらいだ。


 残金1125万1842円。


 ああ、元の世界でこのくらい貯金したかったもんだぜ……。


「割れた鏡はどうしますか? 今回はバラバラになったわけではありませんので、十分売り物になりますよ?」


「いえ、これもそちらで上手く処理してください」


「良いのですか?」


「ええ。アデール商会とは懇意にしたいですから」


「それは私どものセリフですよ」


 お互いに和やかな笑みを交わすが、その内情は真っ黒だ。だが商人はそれでいい。


「そうだ。例の件、いつでもいけますよ」


「そうですか……まだ規定数の1000枚(・・・・・)には達していませんが?」


「現状の現物だけで十分ですよ。これだけ並んでいるのを見せれば、どうとでもなります」


「私は心強いパートナーと組めたようです」


「私は悪魔と組んだ気分ですよ」


 再び穏やかに笑い合う。


「それではそろそろ動こうかと思いますが、現金の方は?」


「十分に」


「わかりました。それではよろしくお願いします」


 それでは近日中にヤツの人生を終わらせに行くか。


 ◆


「待たせたな」


「いえ、それにしてもこの国に着いたばかりだというのに、もう懇意の商会があるのですね」


「ロットンさんがいい人だったからな。さて警護本部に案内してもらっていいか?」


「はい。もちろんです」


 大通りの目立つ場所に立つ堅牢そうな建物に案内してもらった。例の無限の水瓶のある中央広場の近くだ。


「てっきり城に付随してるかと思ったんだが」


「この国では別れていますね」


 この国の城は、ピラタス城よりもだいぶ小さめであった。王政でないからだろうか?


 どうでも良いことを考えながら警護本部に入る。


 ――。


 ――――。


「どうでしたか?」


「いや、手がかり無しだ。行方不明者自体はいるようだが、女性の特徴なんかを伝えた感じでは該当しないようだ」


「それは……残念です」


「一応何かあったら教えてもらうようには頼んでおいた」


 が、こういう世界だ。日本の警察と違ってそこまで親切にしてくれるとも思えない。自力でなんとかするしかないな。とにかくまずは彼女たちの治療が最優先だろう。正気に戻ればどうとでもなる。


「それじゃあそっちの用事に行こうか」


「はい」


「それで見せたいものってのは何だ?」


 ユーティスは少し周りに目を配った後、俺に顔を寄せてきた。


「ミシンを練習するための小さな工房を用意したので見て欲しいと」


「ああ、なるほど。場所は?」


「ギルドのそばです」


「了解だ。行こうか」


 ユーティスの案内で向かったのは服飾ギルドのすぐそばにある小さな建物だった。どうやら潰れた商会か何かの建物らしく、周りの喧噪とは切り離されるように静かだった。


 中に入るとミシンプロジェクトメンバーとして紹介された女性たちがせっせと掃除をしている最中だった。最初のメンバーに選ばれたプレリアナの姿も見えた。


「あ、こんにちはアキラ様」


「様はやめてくれって言ったろ?」


「そうでした……でも……」


「同じプロジェクトの仲間だ気楽にやってくれ」


「はい……アキラさん」


 綺麗どころが頬を赤らめて言うのだからたまらない。これは絶対に色仕掛け込みだなあのババアめ。絶対に引っかかってやらねぇ。



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