第22話「でこぼこファミリーとファフの手伝い」
朝から迷惑な珍客を迎えていたが、気を取り直してアデール商会に向かうと、すでにいくつかの鏡が納品されていた。
「日の出と供にすでに運ばれてますよ」
と言うロットンのセリフ。倉庫の見張りはハッグに任せてあったんだが……そうかそのハッグが許可したのか。ドワーフというと脳筋という言葉が浮かぶが、奴は割とその辺柔軟で的確だ。むしろヤラライの方が脳筋度は高いかもしれない。
……本人には絶対言えないが。
「損失は出ていますか?」
「今日はまだ無いですね。人が変わったように丁寧に運んでいますよ」
「それなら良かった。そうだ。申し訳ないんですが彼らと会えていないので、給金を渡して置いてもらえませんか?」
「お安いご用ですよ」
ロットンは鏡の代金300万から1万を引いた299万円分の硬貨を渡してくれた。ずっしりと重い。
残金167万6422円。
クエスト503万1010円。
やはりSHOPの反応は無いのでおそらく700万を超えなければ何も起きないのだろう。それにしても新しい商品ってのは何だろうね?
ま、順当にいけば明日には確認出来るか。また銃器じゃねぇだろうな……。
どうにもSHOPの承認される基準がわからねぇんだよな。レベルが高くなったおかげか、今は大抵の物は承認されるから困ってはいないが。
少々の雑談の後、俺はスラムに戻った。ハッグが増設しまくった基地では未亡人のビオラとラライラが、依り代になった女性たちを介抱していた。
「あ、アキラさん」
「いい。続けてくれ。任せっぱなしで悪いな」
「ううん。ビオラさんも手伝ってくれるから大丈夫だよ」
するとビオラがこちらに振り向いて頭を下げた。今は炊き出しの余った米を少し渡してお礼にしているらしい。極端に贔屓するわけにはいかないがこれくらいなら許されるだろう。
あまり贔屓するとスラムの中で孤立する可能性があるからな。子供たちは例外だと思いたい。
「今色々やってるからもう少し辛抱してくれ」
「うん」
俺を心配させないためか笑顔で答えるラライラ。元の美貌と合わさって心が和む。ええ娘やな。
そのまま奥の部屋に行くと、バラバラに分解された足踏みミシンを前に、手帳に書き込みをしているハッグの姿があった。
「よう、進捗はどんな感じだ?」
「ぬ? もういつでも大丈夫じゃぞ。図面自体は完成しておる」
そういってシステム手帳を見せてくれた。めくってみると事細かに絵図面と注意書き、それに長さや重さ、良くわからない指定が溢れていた。
……こりゃ手帳はもう一冊あった方がいいな。1300円の手帳を購入してコンテナに入れておく。
残金167万5122円。
クエスト503万1010円。
ハッグに渡していた手帳から、必要なページだけを移しておく。もっとも覚え書きがいくつかある程度だ。仕事関連のページはとっくにたき火で燃やした。もう見たくもねぇよ。
「今やっていた作業は?」
「気がついたところを追加していただけじゃ。そっちこそ進捗はどうなんじゃい」
「まぁまぁって所かな。せっかくだ一緒に服飾ギルド長の所へ行こう。鍛冶ギルドに話が通ってたらそのまま行けるしな」
「ふむ。ええじゃろ。じゃがここの守りはどうするんじゃ?」
「あ。その問題があったな……」
ラライラが強いのはわかっているが、彼女一人を置いていくわけにもいかない。ハッグを拠点から動かさなかった最大の理由だからなぁ。
「ククク……ならワレが留守番してやろうぞ」
「ファフ……」
一切の気配無く横にいたのは褐色角ロリ娘のファルナだった。実際はヤラライよりも年上らしく種族も謎。ハッグとヤラライを手玉に取れる武術の達人でもある。
「まぁお前がちゃんと残っててくれるなら安心ではあるが……」
どうにも自由気ままに動き回る彼女の事を信用しきれない。
「ククク……もちろん代償は求めるがな。例のドワーフ絶賛の酒でええぞ?」
「なんじゃと!?」
何超反応してるのよハッグ。
「あー。まぁそれでちゃんと警護してくれるんなら渡すけどよ」
護衛代と考えたら安い。しかもハッグとヤラライをまとめて雇うようなもんだ。
「ククク……なに、ワレらは家族じゃろ?」
「だったら見返りを要求するなよ」
「ククク……親しいからこそじゃろ」
「まあいいぜ。ファフならはぐれバッファローが来ても楽勝だろうからな」
「ククク、あんなもの小指で十分じゃ」
本当にやりそうで怖いわ。
俺はSHOPからシングルモルト12年2万9800円を購入する。
残金164万5322円。
クエスト503万1010円。
「ククク……なんじゃ一瓶か?」
人を馬鹿にしたような彼女の視線。
「はあ……じゃあ俺らがいない時は頼むぞ……」
残金161万5522円。
クエスト503万1010円。
ため息がてらもう一瓶購入して渡してやると、ファフはキャンピングカーの上に飛び乗ってさっそく一杯やり始めた。
ふと空を見るとうっすらと雲が流れている。西の果てでは雲すら見たことが無かったので、大分気候が違うのだろう。それにしても炎天下には変わらず、良くも熱された車の上で涼しい顔をしていられるものだ。
ぴぃよぉぉぉぉ!
青空から視線を逸らそうとした時、その空中から鳥のような鳴き声が聞こえて慌てて視線を戻した。
「なんだありゃ?」
街を横切るように、巨大な羽を持つ何かが横切ったのだ。高度は低く、恐らく街の外あたりに着陸したに違いない。
「ありゃあグリフォンじゃな。鞍もついておったし、旗も流しておった。グリフォン便じゃな」
「ああ今のが……」
少し古い話になるが、当時ピラタス王国で大地母神神殿とやり取りをするのにグリフォン便を使ったという話をレイティアがしてくれた事を思い出す。なるほど空を飛べば手紙が届くのも早いだろう。
ただそのグリフォン便があるのがピラタスから一番近い場所でこの国セビテスという事だった。つまりこの国まで馬で郵便を運び、その後ここからあのグリフォンで手紙を送ったのだろう。そりゃあ時間がかかる。俺たちは車でぶっ飛ばしてきたからあまり遠い印象は無いけどな。
「グリフォン以外にも、人が飼える飛ぶ獣はおるが、グリフォンは暑さにも寒さにも強いからの。一番普及しておるようじゃな」
「なるほどね」
思わぬ所で異世界を再認識してしまう。羽はあったが完全にライオンか虎なんかの大型獣の身体を持ってたからな。空力とかどうなってんのよ?
「なああんな危ない生き物が、この世界にはわんさかいるのか?」
「ぬ? まぁ場所にも寄るの。森や山岳には凶悪な害獣がいたりもする」
「バッファローみたいな?」
「あんなのは生やさしい方じゃ」
「まじかよ!」
「うむ。じゃからお主を鍛えておるんじゃろ」
当たり前のように腕を組むハッグ。
「そうなのか……?」
普通の奴は今の俺よりよっぽど弱い気もするんだが、まぁ身を守れるようになるのはありがたいか。あの特訓はやりすぎだと思うが。
そんなどうでも良いことを考えるのは終わりにして、俺たちは服飾ギルドへと向かうことにした。
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