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第18話「でこぼこファミリーとスラム救済計画」


「おっと、その前にギロ、クラリ。お前たち仕事するか?」


「仕事?」


「ああ。ただし二人で一人分の給金だな」


「クラリ、どうする?」


「……お金がもらえるんですよね? やります」


「アキラ兄ちゃん。やるよ!」


「わかった。じゃあデパスさん、悪いが4人ほど人を集めてくれ。出来れば力があって、信頼の出来る奴がいいな」


「このスラムで信頼を求めるのか?」


 デパスは腕を組んでため息をついた。


「まあ出来るだけって事だ。出来れば家族持ちで真剣に仕事を探している奴がいいね」


「注文ばっかりだな」


「頼むよ」


「……ふん。ちょっと待ってろ」


 デパスは席を立つとスラムに消えていった。


 ちなみにどうでも良い事だが、俺たちが話していたのはキャンピングカー横のに作ったスペースでタープで日陰になっている。普段俺たちが食事をするのもここだ。炊き出しの時はキャンピングカーを挟んで逆側でおこなっている。


「なあ兄ちゃん、この間からもらってる白パンを売ってる奴がいるんだ」


「白パン? ああ食パンの事か」


 昨日までは食パンを配ってたからな。


「まぁそういう奴もいるとは思ったが、パンなんて売れるのか?」


「あんなに美味いパンは滅多にないもん。買う奴はいるさ。ただ買いたたかれてたみたいだけど」


「そりゃあむき出しの食パンが一切れあったってなぁ……」


「でも今日からはこのべちゃっとした奴になったんだな」


 べちゃっととか言うな。


「口に合わないか?」


「そんな事無いよ! 最初は変に感じたけど、慣れたら美味いよ!」


「なら良かった」


(あわ)に似てるけど全然美味いや」


「粟があるのか?」


「最近レイクレルから入ってきて、少しずつ育ててるって聞いたよ。何人かスラムからも農夫として雇われたって」


「へえ……」


 そういえば粟は高温で乾燥した空気を好む植物だった気がするな。河から水を引ければ育ちそうだ。


「レイクレルから輸入もしてるみたいだぜ? 結構安いからスラムの人間はたまに買ってるみたいだ。あんまり美味くないけどな」


「米と混ぜたらそんなに悪くないんだけど、単体で食べるとちっとな」


 根本的にパン食に慣れているというのもあるのだろう、粟は口に合わないようだ。


「おっと、俺も準備してくるからちょっと待っててくれ」


「うん」


 俺はいつの間にか増設されていた基地の倉庫へ向かう。どこから拾ってきたのかきちんと扉までついているのだからハッグに感謝だ。現在は米などが隅っこに積んである。


「この辺でいいな」


 俺はまず床に一枚毛布をひく。これは今まで寝る時に使っていたものだ。それとは別に六枚の毛布を購入した。4990円×6=2万9940円。


 残金251万2978円。


 今度は毛布の上に100枚の鏡を購入しては並べていった。毛布は一枚では足りなかったのでもう一枚追加して購入した。


 残金250万7988円。


 鏡代は6420円×100個=64万2000円。だが、これは例のクエスト30万を元手に10倍にしろというクエストの為に、別途用意された財布に70万を突っ込んで購入した。30万しか入らないかとも思ったが問題無かった。少しわかりにくいが通常の財布(残金)とクエスト財布の二つになる。


 残金180万7988円。

 クエスト5万8000円。


 さすがに100枚ともなるとかなりの量だな。倉庫が埋まりそうだ。毛布5枚を鏡の上に置いておき、残りの一枚はキャンピングカーの寝床に放り込んでおいた。


 外に出るとちょうどデパスが男を四人集めてこちらに来るところだった。


「適当に声を掛けてきたぞ」


 デパスはそう言うが、四人ともスラム住の割には筋肉がしっかりとついていて、血色も悪くない。こちらの意図がしっかりと通じたようだ。実際仕事にそれほど筋肉は必要ないのだが、念には念をという奴だ。


「じゃあ仕事の話をしようか」


 俺は手近な場所に座り込みながらタバコに火を点けると、四人の男とデパス。それにギロとクラリも手近な石に座り込んだ。


「仕事の内容はたいして難しいもんじゃ無い。そこの倉庫にある品物を街の北西にあるアデール商会まで運ぶだけだ」


「それだけなのか?」


 四人の男の内、スキンヘッドの男が眉を顰めた。


「一日で銀貨2枚でどうだ? やる気があるなら詳細を教えるぜ」


 銀貨一枚は千円なので二千円である。かなり重労働の日雇いで三千円くらいらしいので十分だろう。ギロとクラリも一人千円になるので、悪くは無いはずだ。


 男たちはしばらく無言で顔を見合わせた後に頷いた。


「じゃあこっちに来てくれ」


 俺は短くなったタバコを踏み消して倉庫に向かう。相変わらず仕事の無いギャラリーたちが遠巻きに見ていた。


「運んでもらうのはこの商品だ。見ての通り割れ物で高価な品物だから扱いには注意して欲しい」


 倉庫に入ってきた彼らは商品を見てギョッとする。


「おい、これは鏡という奴じゃないのか?」


 質問してきたのは先ほどのスキンヘッドだ。


「ああ。その通りだ。とにかく衝撃に弱いから慎重に運んで欲しい」


 割れると怪我するからな。


「ちょっ! ちょっと待ってくれ! たしか鏡ってのは凄い貴重品じゃなかったか!? 貴族なんかしか持ってないんだよな!?」


「そうらしいな」


「らしいって……あんた一体何者なんだ?」


「ただの商人だよ。外のキャンピングカー……あー、変な馬車は見ただろ? 貴重品を取り扱ってるんだよ」


「それにしたって……」


 どうやらこのスキンヘッドは物の価値が少しはわかる男のようだ。


「どうした? なら辞めるか?」


「……いや、是非やらせて欲しいんだが……」


 スキンヘッドは耳打ちしてくる。


「こんな高級品、俺たちが盗むとは思わないのか?」


 どうやらこの禿げ……スキンヘッドは良い奴の様だ。その気があるのなら黙って持っていく。


「まあ盗みたきゃ盗んでもいいが……」


「「え!?」」


 声を上げたのは年少二人組だ。


「どこで捌くつもりだ? その格好で」


 俺の指摘に彼らは自分たちの服装を見下ろした。ぼろ切れと変わらぬ服装で誰がまともに相手をしてくれるというのか。


「仮に裏組織なんかに売ったとしても随分と買いたたかれるだろうな。その上でもうここには住めなくなるかもしれないな」


 顔役であるデパスの信頼を裏切るのだ。少なくともこの南西スラムに居場所は無くなるだろう。どこに行ってもしがらみという物は付いて回るのだ。


 むしろ感心して聞いているのは年少二人組だ。逆に男たちは言葉の意味を噛みしめて額から汗を流している。


「どうする?」


「……やる」


「もちろんやるよ兄ちゃん!」


「OKだ。一人20枚が担当だが、一枚ずつ運んで欲しい。つまり20往復する事になるな」


 鏡自体はさして重くないが、この大きな街の端から端までを往復するのだからそれなりの仕事量だ。


「運ぶ時はこうやって……毛布に包んで運んでくれ。これなら見られないしな。とにかく鏡は割れやすいから、慎重に。どこかにぶつけたら割れると思ってくれ」


 男たちが揃って唾を飲み込んだ。


「ああ、もし割ったら素直に教えてくれ」


「……弁償しろと言われてもとても俺たちでは……」


「安心しろ。損害を求める気は無いが……ただ状況を聞いて扱いが雑だったり態と割ったりした場合は仕事を辞めてもらう事になるな。それよりも報告が無かった場合は問答無用でクビだ」


 この世界の基準からしたら鏡の方が人の命より価値が重いかも知れないが、俺にとっては食事数回分と変わらない。それよりも報連相(ほうれんそう)が出来ない奴の方が困る。


「そう言ってくれると気が楽だ。例え緊張させないための方便でもな」


 方便じゃ無いんだが、そう伝えても信じてもらえそうに無いな。


「ま、割らなきゃ良いんだよ。割れやすいのは理解してるから、割ったら教えてくれ。……そうそうその時は無理して拾わなくて良い。割れた鏡は良く研いだナイフよりも切れるから危ないんだ。毛布に包んだまま道の端に置いておいてくれ」


「それでは盗まれてしまうのではないか?」


「そんときゃそん時だ。まぁ大怪我しなきゃ良いけどな」


 出来れば近くの店とかに見てもらえば最高だが、その辺は個々の判断に任せた方が良いだろう。


「んじゃ始めますか」


 こうしてスラム救済計画の第一弾が開始された。



17(火)まであと4日!

胃が痛いです!


活動報告にネタバレ有りと、ネタバレ無しの感想ページを作成しましたので、もしよろしければ、活用ください。


書籍版は書下ろし有り。

ちゃんと主人公視点です。

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