第17話「でこぼこファミリーと新メニュー」
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「話は変わるが食材は足りてるか?」
「うーん。実はもう食パンが無くなっちゃったんだ。今日は半分に切ってなんとかごまかしたけど」
「消費が早いな」
「たぶん集まってる人数が増えてるんだと思う。ハッキリしないけど南東側のスラムからも来てるみたい」
「なるほど……」
現状色々考えてはいるが、正直南東側のスラムまでは手が回らないので、ある程度情報が向こうに流れる良い機会かもしれない。
「とりえず食材を出しておくが、今は配給に何人くらい来てるんだ?」
「たぶん300人は越えてると思うんだよね」
「なるほど……」
そりゃあ食材もなくなるってもんだろう。パンは日持ちの事も考えるとダメだな……。米にしよう。
一食当たり50gをめどにおかゆにすれば腹一杯喰えるだろう。今承認されている米が5kgで1872円。一袋でちょうど100人分だ。
一日2回炊き出しをやるとして、500人×2と仮定して1000食分なら50kgで1万8720円だ。
これにキャッサバ芋10kg5000円に、タマネギを20個(37×20=740円)を足せばスープには十分だろう。塩も必要になるか。塩1kgで399円
毎日凄い勢いでキャンピングカーの水が減っているので、料理用の水を別途確保する事にする。
【ポリタンク・コック付き(20リットル)=988円】
まずはこいつを四つ購入する。
残金260万4300円。
おかゆを大量に作るとなると鍋もいるな。スープ用の鍋をもう一つ買っておけば良いだろう。【業務用アルミ寸胴鍋(170リットル)=3万4470円】と【アルミお玉=561円】ももう一つ必要か。
残金256万9269円。
米50kg+キャッサバ10kg+タマネギ20個+水80リットル+塩1kg。これを一日に渡す分と決めてしまおう。
1万8720円+5000円+740円+8円+399円=2万4867円。
高いのか安いのか……。
いつの間にか増設されていた基地に商品を取り出して、ラライラと相談する。料理法を含めて問題無いとの事だった。
残金254万4402円。
「なんか任せっぱなしで悪いな」
「そんな事無いよ! ボクお金の事はあんまり得意じゃないから」
「俺も得意って訳じゃねぇんだけどな」
ともあれ、当面はこれで行く事になった。
「それじゃあ話がまとまった事じゃし、そろそろやるかの」
立ち上がったのはハッグである。今日のお相手はハッグらしい。
「食後のデザートとか作ろうかしら?」
「ふむ? 甘い物は良いが、訓練の後じゃな」
「ぜってー作らねぇ……」
俺の懐柔策は見事に失敗した。
ハッグとの訓練はヤラライの訓練と違い、実戦形式だ。ヤラライの場合は半分は型の確認や動きの反復を行うからだ。だがハッグの場合はのっけから戦闘である。殺す気か!
その辺の棒きれでばっしんばっしんと俺の身体を叩きつけてくるのだから洒落にならない。
「そんな避け方では死ぬぞ! すぐ死ぬぞ! お主は死にたいんか!?」
「ざけんな! くっそ速くて重めぇ!」
腕に螺旋の波動をまとって棒きれをはたき落とそうとするのだが、ハッグの波動がどっしりとそこにのし掛かってくるのだ。洒落にならない。
「おらおら! 真剣ならば100回は死んじょるぞ! もうちっと気合いを入れんか!」
「棒きれでも死ぬわっ!」
実際少しでも気を抜いたらマジでとんでもないダメージが来るはずだ。死なないまでも肋骨くらい軽くへし折れるだろう。本当に容赦ねぇなこの樽野郎め!
二時間近い猛烈ハードな特訓が終わると、その場に倒れ込んでしまった。
「な……なんかいつもよりきつくねぇか?」
「気のせいじゃろ?」
ハッグはすっとぼけて水を飲みに行ってしまった。
「ククク……」
全てを理解していますっていう感じのファフの笑いが腹立つな! ちくしょうめ!
◆
次の日、炊き出しを横目に朝の訓練である。はっきりいって良い見世物だ……。もしかして集まる人数が増えてるのってこのせいもあるんじゃねぇだろうな……。
ヤラライの自称軽い訓練を終えると、汗だくである。物陰でパンツ一丁になって清掃の空理具を使って身体の汗と服の汚れを落とす。訓練時は丈夫な米軍服を着ているが、そろそろ訓練用に何か考えた方が良いかもしれない。ちょっと目立ちすぎるからな。
いつものYシャツとスラックスという落ち着く格好に着替えて、すでに準備の終わっている食事をいただく。
おかゆとスープがあるので、おかずにキャンピングカーのキッチンで鮭だけ焼いてきた。
212円×7で1484円。え? どうして七枚かって? そんなのハッグとファフが二枚づつ食べたからに決まってんだろ。
残金254万2918円。
「アキラさん、おかゆ好評でしたよ。これ美味しいですね」
「そりゃ良かった」
今日のおかゆはかなり濃い8分がゆだった。これなら満足だろう。米自体は予定よりだいぶ余ったらしいのでそれは調整分として残しておいてもらう。
若干塩味の効いた味付けだったが、この辺りまで来ると塩も結構な値段がするらしいのでちょうどいいだろう。とにかくこの世界の人間は運動量が凄いからな。俺も無駄に運動しているので問題無い。
「アキラ兄ちゃん!」
さっきまで炊き出しの手伝いをしていた、ギロとクラリが大盛りの食事を食べ終わってこっちにやってきた。この二人はドドル村長の犠牲者の子供だ。
「よう、おはよう」
「おはようございます……」
ギロの背後からおずおずとクラリが挨拶をしてくる。やや引っ込み思案なのかも知れない。
「なあアキラ兄ちゃん。ドドルをやっつける作戦って進んでるか?」
「ギロ、あんまり大声出すな……安心しろ進んでる」
「マジか!? 俺何でも手伝うぜ!?」
興奮するギロの横でクラリも首を縦に振った。気持ちは同じらしい。
「言ったな? さっそく仕事がある。デパスさんを呼んできてくれないか?」
「うん! わかったよ!」
元気よく返事をすると弾丸の様にすっ飛んでいった。動機が復讐だとしてもそれで元気が出るなら悪くない。
「アキラさん。ドドル村長の居場所がわかったの?」
「ああ、取引先の商会に教えてもらった」
「復讐って……何をするの?」
心配そうな顔で俺を覗き込んでくるラライラ。……近いよ?
「別に? ただ商談するだけさ。お互い得になるな」
「アキラさん笑顔が怖いよ……」
「すまん。まぁ見てろって。ギロやクラリをあんなにした野郎を許す訳ねぇだろが……ククク……」
「ククク……」
「やっぱり怖いよアキラさん……」
どうやら怖がらせてしまったようだ。注意しよう。それとしれっと混ざってんじゃねぇよファフ。
「アキラ兄ちゃん! デパスさん連れてきたぜ!」
「ええい! 引っ張るんじゃない!」
このスラムで顔役になっているデパスがギロに手を引かれてやってくる。元気なギロに振り回されている感じだ。
「まったく……手が抜けるじゃないか……それで? 今度は何だ?」
デパスが嫌そうに俺に顔を向ける。頼むからそんな嫌わないでくれ。あんたにゃ色々やってもらわなきゃならんからな。
「いやなに、ちょっと人を集めてもらいたくてな」
「人? そんなもん炊き出しの時に声を掛ければいくらでも集まるだろう?」
「それじゃあダメなんだ」
「どうしてだ?」
「どうしてもだ」
デパスが胡散臭そうに胡乱な視線を向けてくる。デパスが音頭を取ってくれなきゃ俺たちがいなくなってから困るだろうとは言えなかったがまだ早い。
「頼むぜ……おっとこれはお礼だ」
渡したのは残っていた米の一部である。どうせ朝の炊き出しには来ていただろうから味はわかっているだろう。
「ぬ……」
「足りないか?」
「……まあいいだろう。だが何をさせるんだ?」
「なに、ただの人足集めさ」
デパスの瞳がさらに胡乱な物となった。
17日まであと5日!