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閑話「最強はどっち?」

あけましておめでとうございます!

神さまSHOPでチートの香り一周年記念日でもあります。

記念更新です!


本日を含め3日まで連続更新予定です!


 それはいつもの訓練時間の事だった。


 細マッチョ金髪ドレッドエルフのヤラライにトルネードマーシャルアーツの型を考案してもらい、反復している最中、ヤラライの娘ラライラが父親に投げかけた一言がきっかけだった。


「そういえば父さんとハッグさんってどっちが強いの?」


 その瞬間空気が固まった。瞬間冷却とも言える。それまでやわやわだったバナナが液体窒素に放り込まれた様な化学反応だった。


「な……に?」


 ヤラライが目を剥いて自らの娘にゆっくりと振り返った。


「ククク……」


 キャンピングカーの上から高見の見物をしていた褐色角娘のファルナ、通称ファフが面白そうに声を漏らした。


「そんな、事は、決まって、いる。俺の方が、強い」


 ゆっくりと、噛みしめるように、ラライラに言い含めた。


「ほう……面白い事を抜かす耳長がおるようじゃのう?」


 もちろん。その言葉を聞き逃すような酒樽……発明家にして戦士であるドワーフのハッグでは無かった。心の底から聞き逃して欲しかった。


 煙が立ち上るようにゆらりと立ち上がったハッグの手には、もちろん巨大な鉄槌が握られている。


「……事実。述べた、だけ」


 目を細めて背の低いドワーフを見下ろしながら、ヤラライが背中の極太エストック、通称”黒針”を手にした。


「おいおいおい……」


 俺は型の稽古もそっちのけに、二人を諫めようと思ったのだが……。


「ククク……やらせてみるがええ」


「なに?」


 移動した気配も無く突然目の前に現われたファフが俺を片手で制してきた。俺がタイミングを逸すると、すでに二人はヒートアップしていた。


「なるほどの、貴様とは一度きっちりと勝敗を付けておかねばならぬと思っておったところじゃわい」


「後悔、するぞ? 金物、ドワーフ」


 ぴきりと額に血管を浮かしたハッグがまるで鉄槌の重量が無くなったかの様に、恐ろしいスピードで鉄の塊を振り下ろした。地面がえぐれ大地を揺らした。


「後悔するのは貴様じゃあ! この枯れ枝エルフがぁあ!!」


「泣いて、謝れ、アル中、ドワーフ」


 追い切れないほどの素早さで鉄槌を避けたヤラライが背後の死角から黒針を弾丸のように突き出した。殺す気か!


「甘いわぁ!」


 だがハッグはその場で半回転すると、黒針を巻き込む様に鉄槌ではじき返した。しかしそれを予想していたのか、黒針を遠心力に利用して一気に距離を詰めるヤラライ、低空から懐に潜り込むつもりだ。それに気付いたハッグも無理矢理身体をねじる。


 結果お互いの肩と肩がぶつかり合い、額同士がガチンコする。


「貴様は……殺す!」


「死ぬの、お前!」


 がぎぃいいん!


 黒針と鉄槌が火花を上げて打ち合い、一瞬でお互いの間合いに戻った。ハイスピード過ぎてついていけねぇよ!


「父さん無茶苦茶だよ……」


「何がだ?」


「わざわざ荒ぶる精霊ばっかり選んで身に纏ってるんだ。なんであれをコントロール出来るんだろう……」


「ククク……あやつの精霊理術の使い方は、むしろ波動理術に近いからのう」


「そうなんですか?」


「ククク……波動理術も精霊理術も大元はさして変わらぬよ。大きな違いは内向きか外向きと言う事じゃろ」


「え!? そんな話聞いたことも無いんだけど!?」


「ククク……人間どもは違う力だと思うておるからの。もっとも発動に必要なイメージが正反対じゃから、両方を使いこなすことはまず無理じゃろ。そういう意味ではヌシらの認識も間違ってはおらん」


「え……え?」


「ククク……理解せんでええわ」


「ううう……気になる」


 まぁ研究者気質のラライラに理解するなと言う方が酷だろう。先ほどまでどこか見物気分だったラライラが、急に二人の観察に熱心になっていた。


 ……これが狙いだったのか?


 その後一時間にも及ぶ激戦でお互い汗だくである。あの二人があそこまで疲労している姿はゴブリンハザードですら見ていない。


 いつの間にやら大量の野次馬が集まってお祭り騒ぎである。スラムの人間たちには良い娯楽だろう。


「……ぬう……ひょろっこい……エルフの……割には……やるの……」


「……ふぅ! 鉄樽……の……割に……動く」


 お互い疲労困憊である。それでも軽口を叩き合うのだから呆れたものだ。


「なあファフ、実際あの二人ってどっちが強いんだ?」


「ククク……それを我に聞くか。まあよい。総合力という意味ならエルフの小僧じゃろ。奴は生粋の戦士じゃからの」


 それを聞いてラライラの耳がピクリと動き、少しだけ嬉しそうな顔をした。やはり親が強いと言われるのは嬉しい事なのだろうか?


「へえ。じゃあヤラライの方が強いのか」


「ククク……その問いは無意味じゃな。そもそも差はわずかじゃし、得手不得手、戦い方、状況で全てが変わるからの。例えばじゃがグランドロックタートルやゴーレムの様な硬ったい敵なら酒樽の鉄槌がよう効くじゃろうし、逆に素早い敵やレイスのような物理攻撃の効きにくい奴なら耳長の独壇場じゃろうよ」


 やばい、話の内容よりゴーレムやレイスなんて化け物が存在するという事実の方が気になる。絶対に遭遇したくないぞそんなもん。


「ククク……まぁあれほど波動を使いこなすのであればレイスだろうとゴーストだろうとそれなりにダメージは通るじゃろうがな」


 へえ、波動って幽霊っぽい奴にも効果があるのか。……もうちっと真面目に波動の修行しとこうかな。


「……二人とも、もの凄い話をしてるのに気付いてないよ……なんでそんなに正確にわかるのさ……」


 ラライラが何かを呟いたが、良く聞こえなかった。


 さらに一時間が経つ。いい加減飽きた観客たちはほとんどが戻り二つの月が綺麗に見える時間になっていた。


「……む……無念」


「あと……すこ……し」


 二人は絞り出すようにそう呟くとその場にぶっ倒れた。


「……あー、ダブルノックダウンだな」


「ククク……良い見世物じゃったわ」


 俺は波動を纏って二人をキャンピングカーの寝床に放り込むと、たき火に戻った。この地は荒野なのだが、夜は寒いのだ。


 いつも任せっぱなしの見張りがいなくなってしまったので、俺はアクビ混じりに起きているしか無かった。


 適当に余っている食材で夜食を作っていると、ファフがやってきた。手には酒を持ってだ。


「……まぁ小遣いをどう使おうと自由だけどな」


 ファフが無言の笑みで酒の陶器瓶を差し出してきたので、カップを取り出して注いでもらう。前ハッグにもらった酒より少しだけグレードが下といったところか。安酒では無いだろう。


「ククク……ヌシは元の世界に帰りたいとは思わんのか?」


「元の世界……?」


 それって日本か……まだ2ヶ月かそこらだってのにいたのが遠い昔に感じるぜ。


「まったく思わないな。たしかに向こうの世界は命の危険こそ無かったが……いや何度かあったが……普通は無いから安全な場所ではあるが……」


 うん。俺の人生が普通だった事は無かったな。


「いや、訂正する。こっちの世界よりちょっとだけ(・・・・・・)安全な程度で……退屈で……ああ、退屈な場所だったからな」


 退屈……。もっと他に最適な単語があると思うのだが、なぜか浮かばない。


「ククク……矛盾しておらぬか?」


「……かもな。だが俺はそんなに多くは望まねぇよ。この旅が終わったら……そうだなどこか海の見える街にでも定住するかね」


 タバコを取り出して咥えると、ファフが紅く熱された枝を差し出してくれた。タバコに火を点けながら、ふと頭に紅く長い髪が過ぎった気がした。


 きっと気のせいだろう。


 ふうと煙を長く吐き出し、酒をちびりと呷る。それだけでどうでも良くなっていく気分だ。


「俺は……この二つがあれば十分だ」


「ククク……」


 なぜかいつも以上に意味深にくぐもった笑いを漏らすファフが少しむかついた。


「……それで? 一番強いのは誰なんだ?」


「ククク……ワレに決まっておろ?」


 二つの月が照らす、荒野の夜に、少女の不敵な声が風に流れていった。



改めてあけましておめでとうございます。

なろうで連載を始めて丁度一年。

今日から二年目に入ります。

この切りの良いタイミングで、書籍化出来る喜びは何にも代えがたいものです。


今月17日「神さまSHOPでチートの香り」発売になります。

うだうだと正月を過ごしてしまえば、もうすぐです!

皆様応援よろしくお願いします!


今年も精一杯頑張って行こうと思います!

それでは今年も一年よろしくお願いいたします!

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