第10話「でこぼこファミリーと忘れられたクエスト」
「ふー」
俺は肺一杯に不健康の元を吸い込むと空に向かって白い煙を吐き出した。
残金263万1117円。
無駄使いはしないと心に決めつつも、これだけはどうしても辞められない。珈琲とタバコの無い人生なんて死んだまま動いているのと変わらない。肺がんリスク? そんなもん知らんね。
俺が煙を吐いてると、ヤラライとハッグがにゅっと手を伸ばしてきた。
「何だよ?」
「ワシにもくれ」
「タバコ、買う」
「……まぁいいけどよ」
自分の小遣いをどう使おうが自由だからな。俺は金を受け取ってタバコを一箱ずつ渡した。二人はわざわざ離れた場所に移動してから美味そうに吸い始める。仲良くすりゃ良いのに。
少し休憩した後、ラライラの食事を手伝う。スープの香りに釣られてさらに周辺に人が集まってきた。
……よろしくない傾向だな。
俺はハッグとヤラライに視線で注意を促してから、配膳を手伝った。幸い二人の警備が効いたのかたいしたトラブルも起きずに配り終わったのだが、気がつくのが遅くなって後から来た人間などが「俺はまだ食べていない!」などと文句を言っていた。
「……まずいな」
すでに彼らの中に「与えられるのが当たり前」「与えられなければ文句を言う」という状況が根付いているとしたら、この配給はマイナスにしかならない。
だが……。
一杯の薄いスープを嬉しそうに受け取る子供たちを見たら、もう辞める事も出来なかった。
「ようやく一段落付いたな」
自分たちの食事も終え、夜の訓練も終えてから、シャワーを浴びて出てからのセリフだ。俺たちが訓練している間に依り代の女の子たちの食事をラライラと未亡人ビオラがやってくれていた。
「うん。あの子たちも眠ったよ」
「早く治してやらねーとな」
「うん」
さて……今まで伸ばし伸ばしになっていがが、いい加減確認しないとな。嫌だけど。
俺はため息をつきながら、無視していた【クエスト2=2万円】を購入した。
残金261万1117円。
猫のイラストの入ったピンクの封筒をコンテナから取り出す。頭が痛くなりそうだ。手で破って中身を取り出す。
【でんでんででーん! 貴方の愛しのメルヘスちゃんですよー☆
てへ☆
期待してた? 期待してたぁ?☆
さてさて少しはSHOPに慣れてきたかな?
でもアキラさまはあんまり使ってないですよねぇ?
そこでせっかくだからSHOPの商品で稼いじゃいましょうよ!
というのが今度のクエストです!
愛しのメルちゃんはですね、アキラさまに幸せになって欲しいのです!
ですので今回のクエストは、SHOPで購入した商品で10倍以上の利益を出す!
です!
でもそれだけだとあやふやだから、30万円の資金で300万円以上の利益を出してね!
難しい? 難しいかな?
愛してるって言ってくれたら負けてあげようかな~?
ね? ね?
言ってみて言ってみて!
やぁん! 照れちゃう☆
えへへ~☆
楽しみに待ってるからね☆
30万円をクエスト専用の財布にドラッグしたらスタートです!
一週間以内にクリアーしないと失敗ですからね!
ほら!
難しいよね?
ここは愛のセリフを囁いちゃうのがベストの選択ですよ、ダーリン☆
じゃあ頑張ってくださいね!
成功報酬:新たなる商品をSHOPに追加
達成条件:クエスト予算30万円を専用財布に移動してから一週間以内に300万円以上にする事】
俺は思わず便せんを破り捨てたくなったが、それで失敗扱いになっても嫌なので、辛うじて折りたたみポケットにねじ込んだ。
「アキラさん、今のは?」
「ん? 例のクエストだな。前から出てた奴があるんだが、忙しくて確認出来てなかった奴だ」
「なんだか前のと雰囲気がずいぶんと違ったみたいだけど」
「気にしたら負けだ」
「うん……それでなんて神託だったの?」
「神託なんてたいそうなもんじゃねぇよ。条件付きで商売しろとさ」
「さすが商売の神さまだね。条件って何?」
「SHOPから商品を購入してそれを高く売りつけろだとさ」
「そういえばアキラさんはそれはあんまりやらないね。どうして?」
新しいタバコに火を点けて一息。
「ちょいと前にそれで失敗したからなぁ。やり過ぎるとこの世界の貨幣も減るしな」
「あ」
それだけで理解出来るのだからラライラもそうとう頭が良い。そういや学者かなんかだっけ。ついでだから聞いてみるか。車の中の雑談で少しは聞いていたが細かくは知らないしな。
「ラライラは学者なんだろ? どんなことをやってるんだ?」
「今は辞めてきちゃったけどね。本当は休暇にして欲しかったんだけど、人間基準で作られた学校だったから、辞めるしか無かったんだ」
「あー」
ヤラライの日付感覚を見ているとわかる気がする。
「ボクは理術研究をやっていたんだけど……あっ! そうだ! 聞こうと思ってたんだけどアキラさんって空理具の使い方無茶苦茶じゃない!?」
「え?」
「見た事の無い形だけど、あれって光剣だよね? 清掃の空理具を使う時も全身一気に綺麗にしたりとか、威力がとんでもないんだけど、いったいどうしてなの?」
「どうしてと言われても……チェリナともそんなやりとりをしたなぁ」
「チェリナ?」
「ん? 前に世話になった商会の遣り手だよ。話さなかったっけ?」
「何となくは聞いたかな。それって女性の名前だよね」
「ああ、そうだな」
「ふぅーん。女性なんだ……」
ラライラが唇を尖らせてどことなく不満そうにこっちを見る。何でだよ。
「話の本質はそこじゃねぇだろ。恐らくだけど、俺がより明確にイメージしているからじゃねぇのか?」
「どういう事?」
「俺のいた世界には、マシンガンっていう恐ろしい兵器があったんだよ。映画……あー、娯楽の一つで映像……そう、ファフに持たしてるスマホのでっかい奴があってな、そこに作り物の映像を映して楽しむんだが、戦争映画も多くてな。イメージしやすいんだわ」
「えっと、あの動画って奴だよね? ファフさんがやたら撮ってる」
「仕組みはそうだな。もっともSFXとか使って無い物をあるように見せたりする技術が進んでいたんだがな」
「暇だったのかな?」
「映画は当たれば儲かるんだよ。だから仕事だな」
「ふうん」
あまり興味無さそうだった。
「とにかく映像で何度もそういうシーンを見ているから現実化しやすいんじゃ無いのか?」
「確かにイメージはより明確な方が威力は増すと言うけれど……」
「ククク……それだけでは無いな」
「ファフ」
相変わらず気配を感じさせない奴だ。いつの間にやら俺らの背後から顔をにょきりと出す。
「それだけじゃ無いって別の理由があるんかよ?」
「ククク……あるの。理由はお主の波動が螺旋だからじゃよ」
「へ?」
「え?」
俺とラライラが同時に間抜けな声を上げる。
「そんな説聞いた事も無いんですが、何か根拠でも?」
「ククク……理力石の基本構造が螺旋構造なんじゃ。螺旋の波動とすこぶる相性が良い。一切の無駄なく力が伝わるからの」
ラライラが目を丸くしてファフを見た。
「それは……何かの論文で理力石が螺旋構造というのを見た事があるけど……それって……」
「ククク……じゃからアキラが理術を使ったとしても人並みじゃろうな」
なんだ。それは残念。俺のプチチートはアイテム専用らしい。魔法とか覚えてみたかったんだが。
「あの……ファフさんって何者なんですか?」
うん。それは俺も気になってた。
書籍発売まで後1ヶ月です。
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