第8話「でこぼこファミリーとスラムのチンピラ」
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「……だぁ? てめぇは?」
クードと呼ばれた少年の襟首を掴み上げているそいつの腕を掴んだら、まんま三下のセリフを吐くゴロツキ。
「苦しそうだし服も破けそうだ。降ろしてやれよ」
「てめぇに指示される覚えあ……うぁあああぐああああ?!」
俺は掴んでいた右手の指の筋肉に、螺旋の波動を練り込み、ゆっくりと力を込めて男の腕を握りつぶしていく。
「ぐあっ! くそが! 離っ……いてえぇ! くそが! くそが!」
「その手を離せっての」
「くそがっ!」
呪詛を吐きながら男が少年を手放し、少年が地面に転がる。どうも腰が抜けていたらしい。それを確認して俺も手放してやると、くっきりと手形の付いた腕を隠すように押さえる男性。
「てめぇ! 何もんだ!」
「さっきも聞かれたな。その挨拶はこの辺で流行ってるのか?」
「ざけんじゃねぇよ!」
「やれやれ……」
どうもこの手の手合いは行動パターンが似通っている。地元を思い出すわ。
「俺はアキラだ。ただの行商人だよ」
「はぁ?! 商人だぁ?! こんな貧乏人しかいねぇ所に商人が来るわけねえだろ!」
「なるほど、あんたは自己紹介も出来ない非常識人な上に、目も悪いらしい」
「ふざけてんのかてめぇ?!」
「良くわかったな。ふざけてる」
真面目にやってられっかっつーの。息抜きの時間なんだから、遊んで何が悪い。
「よしわかった、死ね!」
男は渾身のストレートを俺の顔面に放ってきた。
……。
遅い。なんだそれは。顔面に到着するまでに30回は避けられるぞ? ヤラライと比べたらどんだけ遅いんだこいつのパンチは。ふざけてんのか? フェイントか?
やや用心しながらひょいと顔をずらしてパンチを避ける。追撃も搦め手も一切無し。どうやらこれが本気だったらしい。
おいおい、戦闘能力はゴブリン以下か?
避けられたことにショックなのか、愕然と俺を凝視する男。
「んで? 自己紹介は?」
今度は俺が相手の顔面にストレート(自動的に捻りが入る)を放つ。もちろん鼻先3mmの隙間が空くようにだ。
拳圧が男の頬筋を振るわせ、髪を激しくなびかせた。
お互いコブシを突き出したままの姿勢で静止している。男は顔中、身体中から止まらぬ汗を流しまくっていた。
「す……ストッド……俺の名はストッドだ」
「すっとこどっこい?」
「誰がすっとこどっこいだ! 死ぬか?! クソが!」
「悪い悪い」
流石神さまの能力だな。こんな言葉まできっちり翻訳してやがる。どういう変換してるのか、ちと知りたい。
「んであんたの何者かっていう質問には答えたと思うんだが、他に用事が? 何か買うか?」
「誰がてめぇなんぞと取引するか! それと名前を聞いたんだから名前で呼べよこんちくしょう!」
「そうか。じゃあ特に話は無いな。俺たちはここで遊んでるだけなんで、出来ればあんたらに消えてもらえると助かるんだが?」
「だから名前で呼べよ! 頭湧いてんのか?! そうじゃねぇよ! このスラムはな! <新月を駈けるシマウマ>のショバなんだよ!!」
「そうなのか?」
「そうだよ! そしててめぇは商人だ! それ相応の誠意を見せてもらわねぇとな!」
「誠意」
「ああ! その身なりならそうとう儲けてんだろうが! 今すぐ——んぐっ?!」
「あ」
最後のセリフはラライラである。俺がストッドの口に何を入れたのか分ったのだろう。うらやましそうに指を咥えるラライラ。なんかちょっとエロいからやめて。
「噛むなよ。それは口の中で溶かして味わうお菓子だ」
「なんらと……甘……甘ひ菓子?!」
もちろんストッドの口に放り込んだのはあめ玉だ。あと1個残ってるな。
「おい、クードとか言ったか? お前も口を開けろ」
「え……でも」
「いいから」
「うん……あむ……ん! んんん!」
「噛むなよ、下手すると歯が砕けるからな。舌で溶かすんだ」
「うん! ……うまひ」
「へめぇ! これは……どうひう……つもひだ!」
あめ玉を賢明に舐めながら気取って見せても滑稽なだけだぜスットコドッコイ。
そうだ。あめ玉を買い足しておこう。袋はあるから飴だけ足しとけばいいな。
残金276万0361円。
「砂糖をふんだんに使った高級菓子だぜ? なんか文句があるのか?」
「さ! 砂糖?!」
ストッドは思わず叫んで、あめ玉を吐き出してしまい。慌ててそれを掴むと、マジマジとそれを凝視した。汚いからやめなさい。
砂糖が高級品なのはチェリナに聞いてるからな。そりゃあ驚くだろう。SHOPだと1つ8円だったりするが。
「んじゃみかじめ料は払ったしどっか行ってくれ」
「え?! いや! でも!」
「おいおい……砂糖だぞ? ちゃんと味わって確認したろ? それともなんだ、てめぇの所はそれ以上を求めるってのか?」
俺はわざとらしい強面でストッドに近づく。相手の鼻先に顔を寄せると、彼は覿面に狼狽えた。
「く……くそが! 覚えてやがれ! クード! いつまで呆けてやがる! てめえも来い」
「え? あ、うん」
「……捨て台詞まで締まらねぇなぁ」
「うるせえ! てめえはぜってえに殺すからな! 絶対だ!」
「兄貴……殺したら金が取れないっていつも……」
「お前もうるせえんだよ!」
二人は漫才を繰り広げながら街の雑踏へと消えていった。
うん。日本に来たら良い漫才コンビになれることだろう。
俺はやれやれと肩をすくめると、とたんに周り中から歓声が上がった。
「おおお! シマウマの連中を追っ払ったぞ!」
「新人! よくやった!」
「お前たちはスラムの希望だ!」
「そうだ! あんたらがいればシマウマの連中も怖くない!」
「ずっとここにいて俺たちを守ってくれ!」
「ラライラさん結婚して!」
「あいつの名前は?」
「アキラだそうだ」
「アキラ……アキラ! アキラ!」
「「「アキラ! アキラ! アキラ!」」」
途中1つ変なのが混ざってたが、急にシュプレヒコールが始まってしまった。俺の名前で何してくれてんだよ。
……。
冗談はさておいて、これはよろしくない状況だな。
「ラライラ、戻るぞ」
「え? う、うん。いいの?」
「三十六計ってやつだ」
「わかったよ」
とりあえず俺たちは拠点まで逃げ帰ることにした。
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拠点戻った俺らは、建物作りに励んだり、看病に追われていた。建物に関してはさすがハッグで、たった1日で完成させてしまった。遠巻きに見ている住民たちも呆れた様子だった。
そして日が落ち始めるにつれて、その住民たちの数が増えていく。彼らの目には絶望と期待が入り交じっていた。
これは、本当にまずいかもしれない。
俺はハッグに声をかけて、建物に引っ込む。ハッグの鎧の一部を外して「照明」の空理具で光らせて置いた。この空理具は金属を光らせる効果がある。
「なんじゃか険呑な雰囲気じゃがどうするつもりじゃ?」
「あいつらに必要なのは炊き出しでも哀れみでもねぇよ。長く続けられる仕事だ」
「ふむ。ワシが今日小耳に挟んだ話じゃと、奴らの大半は職が無いか、日雇いで食いつないでるらしいの。運良く木場なんぞの日雇いで稼いだ金で何日も耐えるらしいの」
「まぁそんなもんだろう。これだけの都市だ。まったく仕事が無い訳じゃないだろうが……今のところスラムの人間が多すぎるし、何より雇うならもうちょっとマシな人間から選ぶだろうからな。ここの奴らはいつだって最後尾だ」
「嫌な話じゃのぅ……」
「まったくだ」
働く気が無いってんなら同情の余地も無いが、彼らは働く気満々なのだ。ただ、色んな意味で負け犬根性が染みついているから、全てが上手く回っていない。改善すべきはその根性だろう。
「とりあえず例の物を出す」
「うむ」
俺が取り出したのは足踏みミシンだ。
現在プロイラストレーターによるファンアート2枚を
ツイッター上で公開しています。
良ければご覧ください。
@s_sazameki