第5話「でこぼこファミリーと子供たちの願い」
無事スラムでユーティスと合流出来た俺たち。ラライラが早速ユーティスに状況を聞いていた。
「それよりもユーティスさん、3人のご家族は……」
「はい、皆さんこちらに暮らしていました……ああ、あの子たちがそうですよ」
見ると高校生くらいの男女がこちらをのぞき見ていた。他の人間と比べるといささか服装が良いのですぐにわかった。
ユーティスが手招きすると二人は警戒しながらこちらにやって来た。
「ユーティス姉ちゃん、こいつら誰?」
「ギロ君、こいつらとか言っちゃダメですよ。皆さん凄いお方なんですから」
「そうなのか?」
「ええ、信じられない数のゴブリンハザードをやっつけたんですよ?」
「マジか?!」
それまで警戒していたギロという少年が表情をぱあっと明るくした。
「おっさん強いのか?!」
「ギロ君! アキラさんはおっさんなんかじゃありません!」
「アキラさんはおっさんじゃないよ!」
なぜか二人のセリフが重なった。いや、28歳は十分おっさんだからな。
「おっさんでもいいが、アキラって名前があるからそう呼んでくれ」
「わかったよおっさん!」
欠片もわかってねぇじゃねぇか。まあいいけどよ。ユーティスとラライラが妙にピリピリしていたが、気にせず話を聞いてみた。
「お前、自警団の……」
「……そうだよ。俺はラッパの息子だ。そっちがバリトンさんの娘でクラリ」
「こんにちは……」
ギロより少し年上に見える彼女がおっかなびっくりに頭を下げた。
もしかして俺って怖いのか?
「ラライラ、頼む」
若干凹みつつも、ここは彼女の出番だろうと会話を譲った。
「あの、ホーンさんの子供はいないのかな?」
「ホーンさんはもともと子供がいないから。結婚したばっかりだったし。ビオラさんずっと泣いてるよ……」
「……」
沈黙が心に痛かった。
「みんなは一緒にここに来たの?」
「そうだよ。メッサーラ町長に追い出されたんだよ! 俺! 悔しいよ! ……なあおっさん強いんだろ?! あの野郎をやっつけてくれよ! いや、俺を鍛えてくれるだけでいいよ! 俺が必ず……!」
ギロが強い意志を見せると、クラリも奥歯を噛んで俺を見上げた。気持ちは同じらしい。
「……お前たちの気持ちはわかった」
「え! それじゃあ!」
「俺も少々あいつらには頭にきててな、お仕置きしてやろうと思ってるんだ」
「ああ!」
「なあギロ、クラリ。ドドルの野郎が一番嫌がる事ってなんだと思う?」
「「え?」」
二人が同時に顔を上げた。
「そりゃ……殴られるのは……嫌だろ?」
ギロの言葉にクラリも頷いた。
「まぁ好きな奴は滅多にいないだろうよ。だがドドルみたいな奴はな、怪我が治れば怒るか忘れるかで後悔したり反省したり苦しんだりはしねぇんだ」
「それじゃあ……」
「だから俺が考えた最高の苦しみを与えてやるよ」
「おっさん……いやアキラ兄ちゃん、それってなんだ?」
現金だな。兄ちゃんに格上げか。ラライラだけでなく、車からヤラライやハッグが耳を傾けているのがわかる。
そしていつの間にか横に立っているファフ……。まぁこいつはどうでもいいけどよ。
「そりゃあ、ああいう手合いは金が無くなるのが最高の罰よ」
「……そんだけか?」
「まぁお前たちにはまだわかりにくいかも知れないが、金に恵まれ、金でなんでも解決してきた奴らは、金のない苦しみを知らない、そして絶対に耐えられない。そりゃあ惨めな人生を送ることになる」
実際そういう奴を何人も見てきたからな。敵対会社の重役とかな。ほんとおっそろしい会社だったぜ……。
「そう……なのか?」
「それで……あの町長さんは反省するの?」
「反省はしないな。すまんがそれは無理だ。俺が出来るのは精々生まれてきたことを後悔するくらい苦しめることくらいだ」
「……」
しばしの沈黙の後二人はお互いに頷いた。
「それでいいよ! お願いだから父ちゃんの仇を討ってくれよ! 頼むよ!」
「お願いします!」
俺に縋るギロと何度も頭を下げるクラリの頭に手を乗せた。
「わかった。任せろ。だが一つだけ約束してくれ」
「なんだ? 俺に出来る事ならなんでもやるぜ!」
「私も!」
「……この復讐が成功したら、その後はドドルの野郎の事なんて忘れるんだ。それが条件だ」
「え?」
「でも……」
「それが飲めなきゃこの話は無しだ」
俺は二人の目をしっかりと見つめる。ギロは何かを言いかけたが、グッと奥歯を噛みしめた。
「わかった……その代わり、絶対約束してくれよ!」
「ああ。任せろ」
こうして俺は子供たちに復讐を約束した。妙に力が湧いてくる気分だ。恐らく二人の思いがそれだけ強いのだろう。
「そうだ、これをやるよ」
俺はメルヘスのシンボルを二つ取り出して手渡した。
「これはなに?」
「ま、お守りみたいなもんだ。いらなきゃ捨ててくれ」
「捨てないよ! 大事にする!」
「そうか。まあ他に色々協力してもらうと思うが、下準備がいるからな、それまでは待っててくれ」
「ああ! わかったよ! アキラ兄ちゃん!」
「うん!」
「……そうだ、早速だが、この辺の代表者みたいな人がいたら教えて欲しいんだが」
二人は顔を見合わせる。
「特に代表っていないんだよね、みんな最近この辺にやって来た人が多いみたいで」
「でも、あえて言うならデパスさんじゃないですか?」
「ああ、デパスさんか。代表かわからないけどそれで良ければ案内するよ」
「頼む」
ギロの案内でバラックの一つに赴く。出てきたのは50代ほどの細身の男性だった。明らかに栄養不足だった。
「……誰だ?」
「あー、俺はアキラ。商人をしている」
「商人が何のようだ? 見ての通りここには小銅貨1つないぞ?」
「とりあえず商売する気はねぇよ。それより聞きたいんだが、あの焼け跡なんだけどよ、誰の所有地かわかるかい?」
「ああ? この辺にそんなのはいない」
「ならあの辺にしばらくやっかいになっても大丈夫か?」
「ワシに言われても困るが、住みたければ勝手に住めば良い、だが懐には気をつけるんだな」
「わかった。助かったぜ」
俺はキャンピングカーに戻ると、ハッグとヤラライに手伝ってもらって、焼け跡を整備していく。もっとも焼け残りなどほとんどないので、たいした苦労では無かったが。
「うーん。地面が黒いのは気になるなぁ」
「土を掘り起こしてしまえば良いじゃろ」
「なるほど……シャベルでも出すか」
俺はスコップをイメージする。
【承認いたしました。SHOPの商品が増えました】
さっそく購入しようとリストを確認してみる。
【3点折りたたみエンピ=2980円】
……なんでやねん。
購入してみると、自衛隊が使っているOD色の三つ折りスコップだった。ほんとなんでやねん。
残金44万0541円。
波動を纏ってサクサクと地面を均していく。
「すげー! 兄ちゃんすげー!」
妙な歓声を浴びながら、一帯を真っ平らにすると、空いたスペースにキャンピングカーを止めて、サイドのタープを広げた。
「相変わらずお手軽じゃの」
「便利だろ?」
「うむ。さて、これからどうするつもりじゃ?」
「ドドルのことは後回しだ。とにかくまずはこのスラムをどうにかしよう」
「俺も、協力、する」
「ああ、頼りにしてるぜ」
こうして俺たちはこの国での拠点を手に入れた。
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