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第4話「でこぼこファミリーとノーライフ」

書籍化発表で、PVが跳ね上がりました。

お礼更新です。


……1日で13万PVとかカウンターぶっ壊れたのかと思いました……。


 麗しき水瓶亭のおっぱい給仕が教えてくれたスラム街は2つ。俺は新しく出来たという南西側のスラムに向った。


「なぜ、そちらを、選んだ?」

「南東のスラムは昔からあるんだろ? だったら新参者が住み着けるのは新しいスラムって当たりをつけただけだ。まぁ見つからなかったら移動すりゃいいしな」

「納得した」

「そろそろ雰囲気が怪しくなってきたな。ヤラライ、屋根の上からけん制と、通れそうな道を指示してくれ」

「了解」


 ヤラライは助手席の窓からスルリと車上にあがってしまう。身軽なもんだ。それを確認すると、キャビンにいたハッグが助手席にやって来る。どうやっても一緒にいようとしないのな、こいつら。


「それにしても……」

「うむ」

「なあハッグ、どこもスラムはこんなもんなのか?」

「場所によるのは間違いないがの……この規模の都市にしては酷いのぅ。むしろ街全体が似た雰囲気ならわからんでもないが、路地一本挟んでこの有様とはのう」


 俺たちが眉を顰めるスラムの様子は、想像以上に酷いものだった。それまで綺麗な街並みが一変、崩れたレンガや動物の骨の欠片が転がって、不衛生で目つきの沈んだ住人が徘徊しているのだ。

 乾いた地域だというのに、この辺りはぬかるんだ場所が点在し、それがまた泥を生み出し、汚れに拍車をかけている。


「なんで濡れてんだ?」

「臭いからすると、すぐ側に大河があるの。もっともはいがす(・・・・)の臭いが強くてハッキリとはわからんがの」

「そりゃ失礼」

「まぁしゃあないじゃろ。地面は地質的な問題じゃろう」

「湿度があるなら、畑でも作ればいいんじゃねぇのか?」

「市壁内でか? やってるところもあるがの。おそらくこの土ではまともな食物は育たんじゃろ。気になるならエルフにでも聞いてみぃ」

「いや、どのみち根本的解決にはならない気がする」


 そう、やることが多いが、キャビンの彼女たちを治すには、どうしてもクエストのクリアーが必要なのだ。メルヘスの思惑通りで業腹ではあるが、治してやりたいのは本心だ。

 そしてそのクエストの内容こそ、スラムの救済になる。


「アキラ、もう一度内容を説明せい。皆も耳を傾けておくんじゃ」

「わかった」


 俺は慎重に運転しつつ、コンテナから手紙を取り出すと、みんなに読んで聞かせた。日本語で明記されているので読み上げるしかないのだ。


【クエスト3

 現在、独立都市セビテスのスラム街は窮地に立たされています。

 貧富の差が激しく、立ち上がる手段がありません。

 どんな手を使ってでも、彼らの生活を向上させてください。

 信頼を勝ち取ったと思う住民に、メルヘスのシンボルを渡すこと。

 最低で100人以上に配ったと判断した場合、依り代治療薬の承認可能。

 さらに100人増加する毎にボーナス有り。


 成功報酬:依り代治療薬をSHOPに追加。

 達成条件:独立都市セビテスのスラム街住民から信頼を得て、メルヘスのシンボルを一人一つ、最低でも100人以上に配ること。さらに100人増加するごとに薬を1つ無料提供】


 改めて確認すると、難易度の高い依頼であることが良くわかる。腐った目で徘徊する彼らをどうやって立ち直らせろと言うのだろうか。

 仮にSHOPの力で金を稼ぎ、救援物質を配布したところで、「生活の向上」には当たらないだろう。


「ヘルモードの洋ゲーかっての」

「なんじゃと?」

「いや、なんでもねぇ」


 弱音を吐いている場合じゃねぇな。俺たちの手腕に依り代の彼女たちも、スラムの未来もかかっている。


 ……あれ?

 これ、とんでもない大事(おおごと)なんじゃねーの?

 今更気づいて天を仰いだ。残り少ないタバコに火を点ける。

 俺の人生本当にクソゲーだな! くそっ!


「ワシにも一本くれ」

「やらねーよ! ……ってキセルはどうした?」

「タネ切れじゃ」

「……大事に吸えよ」


 ハッグに1本恵んでやると、窓からヤラライの手がにゅっと出てきた。俺はため息を吐いて、吸っていたタバコを指に挟んでやった。

 新しい1本を取り出そうとしたら空っぽだった。俺は思いっきり空箱を握りしめて窓から放り投げた(反省)


 決めた。

 SHOPの能力全力で金を稼ごう。

 ノーシガレット! ノーライフ!


 ……冗談やってる場合じゃないな。

 だんだん住民の視線が危ない感じになっていた。それはよそ者に対する警戒心だ。治安の悪い地域に住んでいたのでこの辺の感覚には敏感なのだ。チーマー? カラーギャング? 妙な奴が近所を彷徨いてたもんだ。


 ヤラライが上からけん制しているおかげか、あからさまに手を出してくる奴はいないが、何かのきっかけで全員が襲いかかってきてもおかしくない雰囲気だった。

 害獣相手なら殺ればいいだけだが、彼らは金が無いだけの一般市民である、手荒なまねは出来ない。

 ……これって、ゴブリンハザードより防衛の難易度は高いんじゃねーのか?


 すでに建物と言える建築物はほとんど無く、バラックか掘っ立て小屋と形容するに相応しい、日差しを遮る事しか出来ない彼らの住みかの中を、のたのたと真っ白なキャンピングカーが進む様は、端から見れば滑稽にも見えるだろう。


 気がつけば川面の輝きが見える市壁沿いまで進んでいた。つまり行き止まりである。

 どうも火事でもあったのか、周囲は黒く焼け焦げていた。


「この辺を片付ければスペースは確保できるか……ちょっと話を聞いてみるか」

「アキラ、お主はすでにその辺の一般人にどうにか出来るような強さではないがの、油断はするんじゃないぞい」

「お前は降りないのか?」

「警戒させるだけじゃろ」

「……なるほど」


 金属鎧で身を包んだドワーフなんぞと一緒にいったら、確かに警戒させるな。まぁなんとかなるか。

 俺はゆっくりと車を降りる。

 ちなみに服装はチェリナにもらったテッサの民族衣装である。Yシャツは破れちまったからな……。


「アキラさん!」


 焼け焦げた地面に降り立ったところで思わぬ声をかけられた。


「……ユーティス?」

「ああ、やっぱり。変な馬車がやってきたと聞きまして」


 健康的に引き締まった体つきのユーティスがバラックの影から走り寄ってきた。


「助かった。これから探そうと思ってたんだ」

「何かお探しですか」

「お前さんだっつーの。面倒事を押しつけて悪かったな」

「わざわざその為に来たのですか?」

「それだけじゃねぇけどな」

「ユーティスさん!」


 二人で立ち話をしていると、キャビンからラライラが飛び出して来た。ユーティスに飛びつきそうな勢いで駆け寄ってくる。


「ユーティスさん! すみませんでした! ボクが我が侭言ったから……」

「そんな……頭を上げてください。命の恩人のお願いを聞くのは当然じゃ無いですか。それにお願いされなくても私は届けに来たと思いますよ」

「でもどこかに出掛ける予定だったんでしょ?」

「いえ、確認したのですが予定自体が無くなってしまったのでちょうど良かったんですよ」

「それなら良いんだけど……」

「それ、事実だろうな?」

「はい。例のハザード騒ぎの事を報告しましたら、移動は危険だと言うことになりました」

「なるほど。もともとこの国の住人だったんだな」

「今はこちらで仕事をさせて頂いています」

「へぇ、ちなみになんの仕事か聞いても良いか?」

「もちろんですよ。ただの針縫いですけれど」

なんだって(・・・・・)?」

「え? 何かおかしいですか?」

「いや、ちょいと考えてる事があってな……もしかしたら後で、ちと相談させてもらうかもしれんが、まだこの街にいるのか?」

「はい。夜なら時間が取れます」

「じゃあそん時は頼む」

「わかりました」


 俺の煮え切らない言葉に、ラライラが訝しげな視線を向けてきた。

 まだ確認しなきゃいけないことが多くて説明できねぇんだよ。だからそんな目で見るな。


金曜か土曜にもちゃんと更新予定ですのでご安心を。

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