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第3話「でこぼこファミリーとおっぱい給仕」

本日2話更新(2/2)

前話を読んでいない人は「前の話」から戻ってください。

後書きにお知らせがあります


『麗しき水瓶亭』

 イラストもまんま無限の水瓶のデフォルメだった。もしかしてこの街の店は似た名前だらけじゃないのか?

 どうでも良いことを考えつつ、馬車置き場ではなく、荷車置きにキャンピングカーを止めた。走り寄ってきた小僧があんぐりと車を見上げる。


「ちょいと変わった荷車だから、誰かが触らないようによく見ててくれ」


 俺は小僧に銅貨10枚……100円を握らせた。


 残金45万3321円。


 店の中は広いが熱気に溢れていた。13あるテーブルは満席だったが、ちょうど目の前で空いたので皆でそこについた。


「少し早いが昼飯にするか」

「うん。持ち帰りで車の彼女たちの分も何か頼むね」

「ああ。固形物は食べられるのか?」

「……難しいかな。いつも通りボクが料理するから大丈夫!」

「すまんな……?」


 そこで一つ疑問が浮かぶ。


「そういえば、依り代になった人間ってのは、あいつら(・・・・)に飯を食べさせてもらってるのか?」

「それは……」


 少し言いずらそうにしていたが、彼女は続けた。


「依り代になると、身体が少し(・・)作り替えられてしまうんだ……それは害獣にとって出産に適した身体に。そして栄養は……害獣の体液から摂取していると、一部の学者が発表しているよ」

「ククク……間違いないの」

「……ファフは知っていたのか?」

「ククク。うむ。人の学者もやるものよの」

「あの……聞くのは失礼かと思ってずっと黙っていたんですが、ファフさんとはどのような関係なの? ……あ! いや! 変な意味じゃなくてね?!」

「わーってるよ。こいつは……ただの無賃乗車だ」

「ククク……さらには無銭飲食もやっておる。が、金は出したろう?」

「金は、な」

「ククク……」

「あの、全然わからないんだけど」

「大丈夫だ。俺もわからん」

「うーん。納得いかないよ」

「ハッグとヤラライが手玉に取られる強さのお嬢さんだ。現状こいつの行動を止める術がない」

「え?!」

「ぬう、手玉に取られるとはいささか言い方にトゲがあるの」

「それ、不満」

「父さん……いえ、父が」

「ラライラ、そのいちいち父って言い直すのやめろよ、父さんで良いじゃねぇか」

「え?! でも……」

「家族なんだろ? 気にすんな」

「う、うん」


 正直ファフに関しては話しても無駄だと思うので、これで流せれば良いのだが。

 全員食事と、持ち帰り分を注文する。


 残金44万4521円。


 食事をさっと平らげて、掲示板を吟味して戻ってくる。


「あまり良いの無い」


 ヤラライは眉間に皺を寄せていた。


「何を狙ってたんだ?」

「はぐれ、または大型、害獣」

「ふん。この辺りになると人も多いからの、大物はハンターたちにすぐ狩られるんじゃろ」

「おそらく」

「それで、何かやるのか?」


 ヤラライが無言で1枚の羊皮紙を指差したので覗いてみた。

・代理狩猟:ストーンコヨーテ。要、血抜き処理。直接持ち込み(状態良:1万4000円)【商業ギルド】


「微妙じゃのぅ……」

「そうなのか? ハンションより安かった気もするが……」

「まずハンター人口が多いからの、この手の初心者向けの仕事では、獲物の数が少ない可能性があるんじゃよ」

「……ああ、なるほど。それだけか?」

「要血抜き処理とあるじゃろ、それが手間じゃ。一匹一匹やらねばならんからな。さらに直接持ち込みじゃ。お主はコヨーテを何匹持ち歩けると言うんじゃ」

「あー」


 ハッグの説明で、とてつもなく美味しくない仕事というのはわかった。


「食い詰めの旅者が、小銭稼ぎに狩ったりの、移動の途中で襲われて、たまたま手に入れたなどでもない限り、好んでやる仕事ではないの」

「じゃあヤラライが無理にやることは無いだろ」

「俺、頭使うの、苦手。それアキラと、ラライラに任せる。俺は、食べる分だけ、なんとか稼ぐ」

「ヤラライ……」


 相変わらず男前である。


「ま、今日は拠点を探そう。さすがにこの人数で宿に泊まるわけにはいかないからな」

「どうするつもりじゃ?」

「一度スラムの様子を見に行こうと思ってる。できればユーティスにも合流したいしな」


 本来西に旅をする予定だった旅の女性ユーティスだったが、諸処の事情で遺品を渡すためにこの国のスラムに来ているはずなのだ。本来彼女には関係の無い話なので、少しでも早く解放してやりたい。

 俺は走り回っている給仕を捕まえると、スラムについて尋ねてみた。


「スラム? ああ、ここ数年どんどん広がってるねぇ」


 答えてくれたのは20そこそこの胸の大きな女性給仕だった。町娘の衣装が似合っていた。

 ただ、舌が滑らかになるには銀貨。千円が必要だった。ちゃっかりしてやがる。


 残金44万3521円。


「元々は街の南東にしか無かったんだけど、最近じゃあ大通りを挟んで南西側もスラム化してるんだよ。ああ、もちろん大通りの周辺は安全だよ。道沿いは人気物件だし、その裏道あたりまではどこも人気だからね。ただそれ以上進むと一気に治安が悪くなるから近づかない方が良いよ。この店の裏や北地区は安全だけど、北地区は金持ちの家が多いから気をつけな」


 そこで給仕は俺の残っていた安酒を勝手にあおる。ラライラがムッとした視線を給仕に向けた。

 別に飲み残しくらいで何とも思わねぇっての。


「東は言うまでも無いね。城やら議事堂やら、三老院なんかがあるから絶対近寄っちゃダメだよ。見学するなら大通りからにしておきな」

「助かったぜ、この街の事は全然知らなかったからな」

「ところであんた、今日の宿は決まってるのかい?」

「いや、これから探すところだ」

「だったら向かいの宿なら口をきいてやるよ? 最近は人が多くて部屋を取るのも大変だろ」

「そうなのか? まだ確認していないんだ」


 事実を言うわけにもいかないので適当にあしらっておこうとしたが、なぜかこの給仕、おっぱいを俺の肩に当てながら腕を取る。


「あんたなかなか魅力的な黒髪をしてるよね? どうだい? 今晩あたいと……」

「アキラさん! は! 忙しいんだよ! そんな暇は無いんだから!」


 がたりと椅子を鳴らして立ち上がったのは、なぜか怒り心頭のラライラだった。なんだろう、俺が誘ったようにでも見えたんだろうか?


「あー。美人のお誘いは嬉しいが、金も時間もないもんでね。営業なら……いてっ!」

「あたいは商売女じゃないよ! 鈍いねあんた! 自分がチャーミングな顔してるってわかってるのかい?」

「……初めて言われたぜ」

「まあ今日は諦めるよ、怖い姑さんがついてるみたいだからね」

「ボク?! なんで姑?!」


 給仕のジョークに過敏反応するラライラの腕を掴んで酒場から出ることにした。


「またおいで、オリエンタルな黒髪の兄さんー」

「気が向いたらな」

「つれないねぇ……」

「もう来ないよ!」


 給仕に噛みつこうとするラライラを半ば羽交い締めにして外に引っ張り出した。煽り耐性がなさ過ぎだろう……。

 荷車置き場に戻ると先ほどの小僧が、群がろうとしている商人や悪ガキ共を賢明に追っ払っていた。どうやら律儀に約束を守ってくれていたらしい。


「ありがとうよ」


 俺はもう100円と、口の中にあめ玉を放り込んでやった。


「噛んじゃダメだぜ?」


 最初驚いていた小僧だったが、その甘さに目を回し、蕩けるような笑顔になっていた。うん。子供の笑顔は良いものだ。

 ……そうだ。


「ラライラ」

「なに?」

「ほれ」

「え……んむ?!」

「噛むなよ? 口の中で溶かすんだ」

「ふぐぅ……ん……んん……ほれ! あまひ!」


 小僧と並んで笑みを浮かべている様は……ガキにしか見えないな。初めて見たときのあれ(・・)は気の迷いだったに違いない。うん。


 残金44万3421円。

お知らせです。


毎週土曜更新とお伝えしましたが、

金曜更新に変えようと思っています。

確実では無いので、もしかしたら土曜になるかもですが、

週末更新だと思っていてください。


よろしくお願いします。


あ、書籍化します。

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[良い点] 真面目に働く子供にあめだま。いいですね。 子供の笑顔は癒されます…
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