第2話「でこぼこファミリーと無限の水瓶」
本日2話更新(1/2)
次の話の後書きにてお知らせがあります。
姉さんピンチです。所持金982円です。
もちろん姉なんぞおらんが。
「……というわけで、今朝の朝食やらなんやらで、残金が1000円を切った」
俺が運転をしながら宣言をする。
現在ヤラライは渋々ながら屋根には乗っておらず、キャビンと運転席を繋ぐ扉の後ろに立っていた。話自体は依り代たち以外は全員聞いている。
「えっと、アキラさんの能力は、お金で神さまから色々な物を購入する能力なんだよね?」
「ああ、どういうわけか基本的に俺がいた世界の品物が買える。こっちの世界の品は、一度コンテナに収めると買えるようになるみたいだな」
「なら、ボクのお金も使ってよ! ハッグおじさんも父さん……父もお金を預けてるんでしょ?」
「気持ちだけで十分だ。幸い金儲けするにはもってこいの能力だからな。なんとかする」
「でも、アキラさんは命の恩人だし、もう家族みたいなものじゃないか!」
「……!」
俺は思わずファフを見てしまった。彼女はクククと喉の奥で笑うだけだった。
「アキラさん?」
「ああ、いや、すまん、ちょっと驚いただけだ」
「家族ならお金を……あああ! そうだ! 家族!」
今度はラライラが声を上げた。彼女は父親であるドレッドエルフをキッと睨んだ。
「父さん! いつまで家を空けてるんだよ! 母さんが寂しがってたよ!」
「……ルルイルが?」
「そうだよ! いくらなんでも帰らなさすぎだよ! 何十年家を空けてるのさ!」
「……覚えて……いない」
「ああもう……! 父さんはいつもそうなんだから!」
「だが、ラライラ、家に戻る、問題無い」
「あるよ! 大ありだよ!」
「……、そ、そうか」
……なんだこりゃ?
唐突に始まった親子喧嘩に呆れるしか無かった。
「それで父さんの用事はいつ終わるの?!」
「それは、アキラ、三神教巡り、終わるまで……」
「ええ?! それって全部の本殿の事だよね?」
「ああ」
「……何年かかるんだよ……あ、でもこの乗り物なら少しは……」
「あー、ちょっと良いか?」
たまらず俺は割って入った。
「あ、うん」
「良くわからんが、ヤラライが帰れば問題無いんだろ? なら俺は置いておいて帰省するべきだろ」
「俺、男の約束、守る」
「アホ、そういうのは嫁さんを大事にしてる奴が言うセリフだ」
「……」
なんか珍しくヤラライをやり込めたな、ちょっとだけ気分が良い。
「だが……」
「お前の娘が正論だって。エルフの時間感覚がおかしいのはなんとなく分ったが、そのエルフが長いって言ってるんだ、大人しく帰れ」
「しかし……」
「えっと……なんだかそれも迷惑になってしまう気がするよ……」
「そんな事は無いけどな……そういえば故郷ってどこなんだ?」
「ここセビテスから北東に行くとレイクレルっていう大きな国があるんだけど、そこからさらに北東に行くと広大な森があって、そこの一角だよ」
「なるほど」
俺はしばし黙考する。
「だったらこういうのはどうだ? この国でしばらく……おそらく1ヶ月前後は足止めになっちまうが、その後に向かうのがレイクレルだ。そこでの用事は教会に寄るだけだから、その後で一緒にお前たちの故郷まで行くってのはどうだ?」
「え? でもそれだと」
「そのあとどうするかはお前たち家族で話合えばいいだろ。ハッグもそれで良いよな?」
「うむ。問題無いの」
「ククク……面倒な事よ」
「ファフはここで降りてもらっても構わねぇんだぜ?」
「ククク……つれないの」
「ふん」
「……良いのかな?」
「むしろ付き合ってもらってるのは俺の方だからな。徒歩で帰るよりは少しは早く戻れるんじゃ無いのか?」
「うん。それは間違いないと思うよ」
「なら決まりだ」
「う、うん」
そこで、ラライラの頬に朱が差していたことに、俺は全く気がついていなかった。
「ククク……難儀な男よ」
話がまとまったところで、俺は改めて議題を戻す。
「さて、結局金をどうにかしなきゃならないんだが、誰か良いアイディアは無いか?」
「俺、害獣狩りの仕事してくる」
「ふむ……ではワシは鍛冶屋にでも……」
「いや、ハッグにはちょっと手伝って欲しいことがある。ヤラライはそれでいいのか?」
「ああ、運命、共同体」
「……わかった。しばらくヤラライに頼ることになるかもしれんが頼む」
「任せろ」
「だったら! ボクのお金も受け取ってよ!」
そう言ってラライラが財布の革袋を突き出してきた。
俺は困ってヤラライに視線をやったが、野郎、無言で頷きやがった。
……まぁいざとなったら二人だけ別行動させればどうとでもなるか。
「わかった。有り難く預かる」
「もうみんなのお金だからね」
「ククク……ならばワレも仲間にいれてもらうかの」
「えー」
俺は感情の無い声を上げた。
「……ククク」
「わかったわかった。その代わり有り金出せよ」
「ククク、どこのチンピラじゃ。ほれ」
ドスリと置かれた革袋はかなりの重量を感じた。
俺は無言でその二つをコンテナに仕舞う。
ラライラ、13万2439円。旅をするには心許ない気がするが、こんなものなのだろうか?
ファフ、32万。
……予想通り多いな。恩着せがましい笑みを無視して「ありがとうよ」と礼だけ言っておいた。
残金45万3421円。
一見大金に見えるが全員の共用金な上に、依り代11人の命も預かる金だ。決して余裕のある金額では無い。
無駄使いは出来ないな。
……はぁ、タバコ吸いてぇ……。
残りの本数を思い出して、今吸うのは諦めた。
「さて、じゃあどう動くかね?」
「それを決めるのがお主じゃろ」
「なんでだよ。リーダーはハッグじゃねーか」
「ふん、そんなもんはとっくに終わりじゃ。あとは何とかせい」
「丸投げかよ……とりあえず、例の商業ギルドからの依頼? がありそうな場所に向うか」
「それなら、わかる。中央広場、近くの酒場。車で行ける」
「そりゃ助かるな」
コンテナに車を仕舞えない現状、出来るだけまとまって行動していたかった。
よく整備された石畳の道路の脇に、2〜3階建ての建物が並ぶ。木造と焼きレンガのハイブリッド建築がほとんどだった。ピラタスに比べると随分と建物の出来が良い。
「ふむ。レンガに使っている土の質自体はピラタスに劣るようじゃが、しっかり焼いてある分丈夫じゃな」
「よく一目でわかるな」
「ふん。それはワシが発明家じゃからじゃよ」
「さいで」
活気ある町中を進む。道路自体は直線で構築されており、よく見る市壁の中が迷路になっているような作りでは無いようだ。馬車が引っ切りなしに行き交うところを見ると、この国も商業重視なのだろう。
一度大通りを左折して数百メートル進むと、何やら凄い物が見え始めた。
「なんだありゃ?」
「あれがセビテス名物の無限の水瓶だよ」
「へえ、物知りだな」
「へへ、常識だよ」
身体をくねらせて照れるラライラ。そのまま続けて色々説明してくれた。
今俺たちが走っているのは、セビテスを真っ直ぐ南北に繋ぐ大通りで、さらにその中央にある大きな中央公園の手前になるらしい。セビテスの南側はリベリ河なので、道路の南側は港で行き止まりのようだ。
正面頭上に見えるのは、右に見える城から飛び出た物見らしきお立ち台。その下部に鎖で巨大な瓶がぶら下げられているのだが、その瓶から大量の水がどうと流れ続けているのだ。
車が進み、中央公園に入ると、円形の公園の中央が巨大な噴水となっているのがわかる。いや水が噴出しているわけでは無いので、正確には噴水では無いのかもしれないが……。
沢山の見学人が噴水の周りで飛沫を浴びて喜んでいる。水受けになっている箇所に入ることは許されていない様だが、溜まった水を排出する水路の水は自由に使えるらしく、各々喉を潤したり、水筒を満たしたりしていた。
広場には沢山の兵士も巡回しており、馬車の流れを誘導していた。俺たちのキャンピングカーを見て、目を丸くするも忙しさからか、普通に誘導して終わりだった。
公園を過ぎてしばらく行くとお目当ての酒場に到着した。
『麗しき水瓶亭』
もう少し捻れよ。