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第1話「でこぼこファミリーと入国管理」

本日2話更新(2/2)

前話を読んでいない方は「前の話」で戻ってくださいね


 日が完全に落ちると、車列は脇に逸れて、野営の準備に追われていた。


 野営の準備が特に必要の無い俺たちは、道が空いている間に進めるだけ進むことにした。もっとも街道が空くと言っても、場所にもよるし、マナー違反で街道上に停めている馬車もいた。


 現代車の走破性をフル活用して、なんとか無理矢理躱して進み、日付が変わる頃の深夜に巨大な市壁が見える位置までやってこられた。


 さすがにこの辺までくると、明日の開門の為に列に並びっぱなしの馬車がほとんどで、俺はその最後尾にキャンピングカーをつけた。


 見張りをしていた護衛の人間が何事かと槍を向けてきたが、ヘッドライトを消して、笑顔で手を振ってやると、訝かしみながらも槍を降ろしてくれた。もっとも警戒は続けているようだったが。仕事熱心で関心な事だ。


 助手席を見るとハッグはぐーがーとイビキをかいて寝ていた。キャビンに通じる窓を覗くと、ほぼ全員が寝ている。さすがにヤラライも壁によりかかって眠っていた。


 依り代になってしまった女性たち11人が所狭しと寝ているので、余ったスペースで包まるように座り寝しているのだ。脚が伸ばせないのは辛いだろうがしばらくは我慢してもらうしか無い。


「金が無いのを辛いと思ったのは、もしかしたら初めてかも知れねぇな」


「ククク……その話、少々興味があるのう」


「……起きてたのか」


「ククク。こやつのイビキの横で寝られる奴がいるなら連れてくるんじゃな」


「確かに」


 さて、この爬虫類系金色瞳の謎少女に話すことなどあるだろうか?


 すでに異世界からやって来た事は話したが、理解出来ているかはかなり妖しい。


「つまらない話さ、ガキの頃から親に恵まれなくてな。ずっと金の為に生きてきたはずなんだが……どういう訳か、その時よりも今の方が金欠が辛い」


「ククク……、それはあれじゃろ、当時は金を生きることにしか使っていなかったからじゃな。今は一人の金ではあるまい?」


「……」


 俺は絶句してファフを振り向いた。


 額から生える2本の角。


 猫か爬虫類を思わせる縦切れの猫目。


 巨大な手甲と金属ブーツ。それと釣り合いの取れないマイクロビキニと称しても問題の無い肌の露出。健康的な小麦色の肌を誇っているようだった。


 一見すれば、ちょっと変わった種族の少女でしか無い。それがたった一言で他人の本質に食い込んできたのだ。驚くなと言う方が無理だろう。


「そうか……俺だけの金じゃないか……じゃあこの金は誰のものなんだ?」


「ククク、そりゃあヌシら家族の金じゃろう」


「……家族?」


 俺は再度絶句して、ファフを見つめてしまった。


「ククク。惚れたか? なんならそこの茂みにでも行って……」


「それは御免被る……が。家族か……考えた事も無かったぜ」


「ククク……血のつながりが家族と信じている馬鹿でもあるまい?」


「根本的に家族の事なんて考えた事もねーよ」


 俺の答えに喉の奥で笑いを返すファフだった。


「……俺たちも寝ようぜ。オラ! ハッグ! 交代だ!」


「ぬがっ?!」


 俺はハッグを叩き起こすと、転がっていた毛布に身体を包んだ。


 エンジンを止めると急速に冷えてくる荒野の夜であった。


 ◆


「なんだこれは……」


 門番の最初の一言がそれだった。ああ、そう言いたい気持ちは良くわかる。


「見ての通り、アーティファクト馬車ですが?」


 俺が満面の笑みで答えると、門番は覿面に渋面を浮かべた。


「アーティファクトだって?」


 市壁を入ってすぐに、左右に広がる検問所。それぞれの場所で馬車や荷車、人間たちが持ち物をチェックされていた。

 そして空いた検問スペースにキャンピングカーを滑り込ませると、門番兼検問員が如何にも「外れが来た」という顔を見せていた。

 そして最初にこぼした言葉が先のそれである。


「ええ、西の果てにある国で発掘されたものですよ。最近ようやく動かし方がわかりまして、商売に活用し始めたところです」

「西の果てだと?」

「ピラタスと呼ばれていた(・・)国ですね」

「ああ……確かに西の最果てだな。あそこのオーパーツはとっくに掘り尽くされたと思っていたんだが……」

「幸運の女神が舞い降りたもので」

「ふん。個人でアーティファクトの所有とは剛毅なことだ。貴族では無いのだろう? 中を改めさせてもらう。荷はなんだ?」

「こちらに乗っているのは……大声では言えないのですが、隣のハンション町で発生したゴブリンハザードの犠牲者……依り代の方たちですよ」


 俺は思いっきり悲しそうな表情を向けた。面倒事はごめんなので同情を買う作戦だ。事実だしな。

 再び渋面を浮かべる門番。


「……確認はさせてもらうぞ」

「もちろんです。ああ、商売用の荷は、馬車の後ろに引いている荷車(・・)の方に乗せていますよ」

「荷はなんだ?」

「バッファロー干し肉ですよ。たっぷりあります」

「ああ、ピラタスの数少ない名産だな。しかしこの時期に珍しい」

「今年ははぐれの発生が多かった様ですよ」

「なるほど。では中を」

「はい」


 俺は一度降りると、キャビンの扉をそっと開けた。


「彼女たちは精神状態がかなり不安定です、そっと覗くようお願いします」

「……私は責務を果たすだけだ」


 いささか気分を害してしまったようだが、1歩中に足を踏み入れると喉の奥でうめき声を上げた。


「これは……」


 大量に横たわる女性たちが、それぞれ虚ろな目でうわごとを繰り返している様子は悪夢と言って良いだろう。


「……エルフ?」

「こ、こんにちは」

「君が看病しているのかい?」

「はい。でもみんなも手伝ってくれます」

「そうか……ちょっと失礼するよ」


 門番は手近な女性の横に腰を落とすと、瞼を親指で開いて瞳孔を覗き込んだり、脈を取ったりしてから立ち上がった。


「演技では……なさそうだな。しかに凄まじい内装だな」

「どれも高級品なので気をつけてくださいね」

「わかっている。……しかしどれがなんの役目を持っているのか……」

「さあ……私たちにもその辺が分らない物が多いのですよ」

「オーパーツとは良く言ったものだ。荷車の荷を改めさせてもらおう」

「こちらです」


 俺は内心、キャビンを荒らされないですんだことを安堵しながら外に出て、牽引しているカーゴトレーラーに門番を案内した。鍵を開けて中身を見せるが、それよりも、そのギミックの方に興味が向いていたようだった。


「これは……砂が入らなくて良さそうな荷車だな」

「ええ、荷物の質は保証しますよ」

「ならば入国税も期待していることだな……む、これはヴェリエーロ商会の印ではないか」

「ご存じで?」

「この仕事をやっていてヴェリエーロを知らぬ訳があるまい。西の果ての国を1商会で支えるとんでもない商会だ。もし国という足枷が無くなれば、どこまで伸びるか想像も付かない化け物商会よ。……うむ本物のようだな」

「もちろんですよ」

「……なるほど、ヴェリエーロと懇意の商人か。少々納得した」


 そう言ってジャーキーとキャンピングカーを交互に見やる。


「ジャーキーの税のみなら1割分だが、その馬車や入国税など考えると、ジャーキー2割分で全て手を打とう。どうせ中に色々隠しているのだろう?」

「こいつはまた……」

「ふん。商人ほど信用のおけんものはない。ご禁制の品は持ち込んでいないだろうな?」

「無論です」

「一つ気になるのだが、彼女たち(・・・・)はどうするつもりだ?」

「しばらくは面倒を見つつ、親族を探してみようかと。そうだ、行方不明者などの噂は聞いていませんか?」

「いや、特には無いが、気になるのであれば警護本部に行ってみると良い。状況を話せば少しは相談に乗ってくれるだろう」

「良いことを聞きました。落ち着いたらすぐにお伺いします」

「……言っておくが、当然この国でも奴隷の売買や、まして人身売買など厳しく罰せられるからな。しばらくは娼館に人をやるぞ」

「そんな事は決していたしません」

「……ふん。お人好しの商人など一番信用出来んな。現物か現金か選べ」

「現物で」

「よし、降ろせ!」


 門番が指示すると、10代半ばの少年たちが、わっと寄ってきて、あっと言う間に荷物を運び出した。俺は余分に持っていこうとする少年を、やんわりと邪魔するしか出来なかった。


 俺が馬車……ではなくキャンピングカーに戻って乗り込もうとした時だった。


「おい、商人」

「……はい、なんでしょう?」

「この国は依り代に強い偏見の残る国だ。重々気をつけろ」

「ありがとうございます」


 俺は深々と頭を下げた。

 意外と良い奴だったらしい。


 こうしてようやく俺たちは都市国家セビテスに入国を果たした。

 長かったぜ……。


 残金982円。


 ……あれ?

 ヤバくね?


お待たせしました。

ようやく再開です!


無理をしないように週一更新していこうと思います。

またお付き合いいただけたら嬉しいです。


次回更新は11月12日(土)


2話更新を予定しています。よろしくお願いします。

また本日より、感想欄を解放いたします。

合わせてよろしくお願いいたします。

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[良い点] 面白そうになってきた! クククもたまにはいい事言うねw
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