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第37話「三匹とさらなる旅立ち」


「ドドル・メッサーラ町長が留守だと? どういうことだ?」


 強い口調で質問したのは自警団団長のウィストン・ガレットである。

 現在白亜の町長邸である。案内された客間で聞かされたのはこの町の最高責任者である町長の留守という事実だった。

 最初はこの緊急事態による多忙で、屋敷を離れているという意味だと思っていたのだが、例の執事を問い詰めたところ、どうもこの町にすらいないらしい。若干汗を流しながら執事が言い訳を口にする。


「いえ、ゴブリンの大群が襲ってきたという知らせを聞いて、このままでは町が蹂躙されてしまうと判断した町長は、セビテスに直接軍の派遣をお願いしに行った次第でして……」

「ふざけるな! この非常事態に町長がいないという事がどれだけの混乱を招くか……! 現に街道の封鎖など本来ならありえない命令まで……」


 激昂していた団長の声が次第に尻つぼみになっていく。ああ、たぶん正解だろうよ。俺とハッグ、それにヤラライも鋭い視線を執事に向けた。思いっきり殺気を込めて。


「つまり、町長が、この町を出るときに、街道を、封鎖したわけだな? 少しでも、確実に、セビテスに、到着するように」


 ウィストンが一言一句に怒気を込めながら執事を問い詰める。本来は知らぬ存ぜぬで通そうとしていただろう執事も、さすがにこの4人の殺気には耐えられなかったらしく、苦しい言い訳を続けた。


「そ、それは! 街道を空けておけばすぐに軍が通れるという町長の苦渋の選択であり……!」

「ならばなぜ西方面への街道まで封鎖した! 理由にならないではないか!」


 それは気になっていた。セビテス方面への封鎖は、100歩譲って言い訳通りだとしても、西方面の街道を封鎖する意味が分からない。


「ふん。町の人間を餌にしたんじゃろ。人間が多ければ多いほど囮にはもってこいじゃからな」

「なっ?!」


 なぜかそこで執事まで驚きの声を上げた。もしかしたら自分が捨て石にされたことに今更気がついたのかも知れない。


「いや……そんな……セビテス軍の派遣はメッサーラ様の悲願(・・)であり……」


 ぶつぶつと何かを呟く執事だが、軍の派遣が悲願ってのはどういう意味だ? 道々で聞いた限りだと町に取って「国」からの軍派遣は致命的と聞いていたのだが……。

 どうにも分からないことが多い。

 だが、一つだけ理解出来たことがある。


「つまり、町長は逃げ出したんだな。自分の町を」


 執事は絶句して立ちすくんだ。

 その様子を見て、俺たちは首を横に振って町長宅を後にすることに決める。

 団長だけはしばらく怒声を上げていたが、半ば無理矢理外に連れ出した。怒鳴るだけ無駄だからな。


 町長宅を離れて、宿に歩きながら4人で話す。人数は5人ではあるが、一人だけ非協力的な奴がいるからな。


「俺は信じられん……たしかのあの町長は自分勝手なところがある。だが、それでも町を見捨てるような人間では無いと思っていた」

「追い詰められなきゃそいつの本心なんてそうそうわからねぇよ」

「うむ。ワシらドワーフで責任者がそんな状況になったらタコ殴りじゃな」

「お前らは権力者にも容赦ねぇのな」

「そもそもワシらに取って責任者というのは外れクジみたいなもんじゃからのう。じゃが選ばれた人間はそれなりに気張るものよ」

「ああ……、面倒なのは嫌いそうだもんな」

「うむ。ワシらの大半は鉄を打っていれば満足する奴らばかりじゃからのう」

「良いのか悪いのか……」

「ま、生き方なぞそうそう変えられんわ」

「なるほどね」


 ならば町長も本来面倒があれば逃げ出す生き方だったのだろう。今までが幸運だっただけで。


「そもそも町長はセビテスの三老会の重鎮である、ゴゴン・メッサーラの三男だからな。生まれたときから権力者だ」

「三老会?」

「ああ。セビテスの政治はこの大陸でも珍しい形を取っている。セビテスに王がいないのは知っているか?」

「知らん」

「王がいないのに政治が回るシステムがあるんだが、基本的には都市議会と市民議会の合議制によって政治が決まる」


 へえ。てっきり全て王政かと思ってたぜ。面白い話なので続きを促す。


「都市議会と市民議会から提出された議題に対して、多数決を取る。都市議会が7議席。市民議会が4議席持っている。7:4で再審議。8:3以上で可決。4:7で廃案となる。6:5などの場合は、案件の修正が必要になり、後回しにされる。つまり賛成側が8議席以上になって初めて可決になるわけだ」

「随分と都市議会が有利なんだな」

「ああ、基本的には都市議会が権力を持っているが、必ずしもそうなるとは限らない。1議席でも反対に回れば、都市議会の提出案件と言えどもどうなるかわからんからな。さらに可決させるためには都市議会全員だけでなく、市民議会から1議席取らなければならないから、必ずしも有利とは限らない」

「なるほど」

「しかも2回再審議をして通らなかった場合は廃案となる。もっとも都市議会側の案はこの流れだが、市民議会からの提案が通ることはまず無い」

「酷い話だな」

「基本的には市民議会の独断を許さないためのシステムだからな」

「ああ、なるほどね」


 元はどうだったか知らないが、もともと都市議会が権力者の塊だったのだろう。それの独断を許さないシステムというのは、この世界において随分と優秀な気がする。

 そういえば、経済自由都市国家テッサのブロウ・ソーア復興大臣も、セビテスのシステムに関心を寄せていたらしい。もしかしたら王政の限界のようなものを感じていたのかも知れない。その割にチェリナを女王に据えることに拘っていたようだが。

 ……いや、思考が逸れたな。話を戻そう。


「で、三老会ってのはどこに出てくるんだ?」

「ああ、基本的に三老会は法案や審議に意見する権利がある機関だ。また提出された法案を突き返す権利も持つ」

「それって無茶苦茶じゃねぇの?」

「今のところそれでうまくいっているらしい。基本的によほどのことが無い限り法案を突き返すような事は無いらしいからな」

「うーん」

「だが、権力という意味では三老会が一番上だな。実際こじれそうな法案が出るときに根回しするのが三老会らしい」

「なんだかなぁ」

「それでもあの国は良く回っている。国民が納得しているのなら問題ないだろう」

「まあ、それもそうだな」


 確かに良いのか悪いのかの判別は俺にはわからん。とりあえずこれから行く国の政治システムを少しでも聞けたのは良かった。

 そんな雑談をしているとすぐに宿に到着する。


「父さん……」


 部屋に入ると顔面蒼白のラライラが振り向いた。


「どうした?」


 ヤラライが鋭く返す。


「それが……彼女たちは誰一人この町の人間じゃないって……」

「なんだって?」


 俺は思わず声を出したが、団長は眉を顰めるだけだった。


「……お前、気がついていたな?」

「すまん。誰一人として見覚えが無かったからな。だが俺の知らない人間と言うだけかもしれなかったから言えなかった。気になってすぐに部下に調べさせていたのだが、部下が知らせに来たのだね?」

「うん……自警団の人たちが……」

「どういう事だよ?」

「そもそもこの町で行方不明になった事件など一つも無かったからな。疑問には思っていた。だが、襲われたキャラバンもいたし、こちらが把握していない人間の可能性を考えていた」

「つまり、彼女たちはこの町以外から連れてこられたって事か?」

「その可能性が高い」

「……」


 沈黙が降りる。

 ならば彼女たちはどうすれば良いというのだ?


「アキラ、例のあれ(・・)をやれば全部解決じゃろ」


 ハッグの一言に、クエストの内容を思い出す。セビテスのスラム街を救えば治療薬が手に入るというあれだ。


「ああ……そうだな。その通りだ。やることは変わらねぇな」

「うむ。一つ問題があるとしたら彼女らの世話くらいじゃろ」

「それはボクがやるよ!」

「お前たち……それは良いが彼女たちが治る可能性は……」


 ウィストン団長が悲しそうに腕を組む。


「ああ……まぁ後はなんとかする。この町じゃいるだけでもまずそうだしな」

「……すまない。依り代の末路は大抵は悲惨だ」

「ちなみにどんな?」

「気分の良い話では無いが……安値で娼館に売られる事がほとんどだ」

「本当に胸くそ悪い話だな」

「そこでどんな扱いをされるのかは知らんが、少なくとも死なないような面倒は見てもらえるらしい。そういう(・・・・)女が好みの男も少なからずいるからな」

「ふん。ヒューマンはそういう所が碌でもないの」

「耳が痛いな」

「まぁどうなるかわからんが、この件は俺たちが預かる。お前さんはこの町の復旧に全力を尽くしてくれ」

「そう言われるとありがたいが、良いのか?」

「もう両足突っ込んでるからな。できる限りはやるさ」

「……助かる」


 ウィストン団長が深々と頭を下げた。俺は軽く片手を上げて答えた。


「さて、それじゃあ俺たちは出立するが、街道の封鎖は解けたのか?」

「私の権限で無理矢理解除させた。……町長が戻ってきた死刑もあり得るかもしれんな」

「……」

「いや、失言だった。忘れてくれ」

「お前、いい男だな」

「誰も守れない無能な男だ」


 それ以上交わす言葉は無く、黙々と彼女たちをキャンピングカーに移した。ラライラが新たに調合した精神を鎮静させる薬を飲ませたらしく、見た目には大分落ち着いている。もっとも意味不明のうわごとを繰り返しているのでお世辞にも正常とは言えない。


「ラライラ、すまないがもうしばらく彼女らの面倒を頼む」

「うん! 任せて!」


 明るく振る舞う彼女だが、介護というのは心を削る。早めになんとかしないといけない。


「よし、それじゃあセビテスに向おう」

「「おう」」

「ククク……今度はどんなトラブルとかち合うのかの?」

「……不吉なことを言うんじゃねぇよ」


 こうして俺たちは新たな土地……いや国へと旅立っていった。


 ちなみに朝食は彼女たちの分を含めて団長に奢ってもらった。

 ……どうにも締まらない出立だった。


 神さまよ、世の中もうちょっとイージーモードでも良いんじゃねぇか?


 —— 第二章・完結 ——


第二章完結です


第三章は現在プロット作成中です。

できるだけ早めに始める予定です。少々お待ちください。


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