第14話「荒野の紅い巨乳美女」
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「あら、朝お見かけした顔ですわね」
振り返って最初のセリフがそれだったから驚いた。
それを見て彼女が微笑む。
「そんな珍しい物をしていたら誰だって忘れませんわ。……とりあえず席にどうぞ」
「ありがとうございます」
初っ端から彼女のペースだった。
まさか顔を覚えられているとは思わなかった。
朝だって別にマジマジと彼女達を見ていたわけではないのだ。横目でチラチラと覗いてはいたが基本聞き耳を立てていただけだ。
……いや、彼女からしたら俺は異邦人。
その上で貴重品(だろう)メガネまでしていたのだ。白いYシャツも目立ったのかもしれない。
これではイニシアチブを取るのは難しい。
とにかくまずはペースを少しでも引き寄せよう。
席につき向かい合うと紅い女の美貌がよくわかる。
基礎化粧品などないだろうに張りのある肌とツヤのある燃えるような紅い髪。
重力に逆らって天を向く巨大な双丘。
どれをとっても一級品だ。
だからこそ絶対に気を許してはいけない。
相手が女でかつ美人であればあるほど信用してはならないのだ。
「いや、この国に辿り着いてこれほどの美人を見たのは初めてですよ。朝に偶然チラリと拝見しましたが、改めて見ると本当にお美しいですね。ああ失礼、まずは自己紹介からですね、私はアキラと申します」
まずはジャブ。
現状で女に興味が無いからこのような歯の浮くセリフも簡単に言える。
苗字を名乗らなかったのはハッグに苗字を持つものは貴族や王族、大商人などの権力者が多いと聞いていたからだ。地域によってかなり事情は異なるらしいが。
「お上手ですね。わたくしはチェリナ・ヴェリエーロと申します。僭越ながらこの商会の臨時責任者を務めさせていただいております」
ジャブは軽く流された。
「おお、お若いのにそれは凄い。知能と美貌を併せ持つとは羨ましい」
大仰な手振りで、もう一度ジャブ。
「あら、ほとんどの方は女の身で商人など身の程知らずの恥知らずと罵るのが普通だと思いますが?」
向こうもジャブを放ってきた。
「それは女性は家庭に入るもの、守るべきものという優しさが少々突き抜けた発言でしょう。気にすることはありません、愛されているのですよ」
「まあ、それは嬉しいお話です、アキラさまのお国では女性がご活躍していたのですか?」
フェイントが入るが、俺はあえてそれに乗る。
「ええ、さすがに男女平等とまではいきませんし、まだまだ男性社会ではありましたが、女性の活躍する場面は多かったですね。そういえば前に勤めていた商品開発部のトップは女性でした」
さて、どう出る?
「それは……凄い話ですね、聞いたことがありません。どこのお国の話なのですか?」
「日本という国なのですが、聞き覚えはありませんか?」
思ったより簡単にこの流れに入れた。
「いえ、まったく。商売柄大陸のほとんどの国は把握しているのですが……」
「ではやはり、私はこの大陸以外から流されてきたようですね」
「どういうことですか?」
ここで用意しておいたカバーストーリーを話した。内容は最初にハッグに話したものと大差はない。
船で大海に出たが沈んで辿り着いたのがこの国だった。幸い若干の金と商品が手元に残っている。
そんなストーリーだ。
「それは不運でしたね。しかし海運は常に危険と隣り合わせ、特にこの西ミダル海は難所中の難所、生きていたことに感謝すべきでしょう」
「それはたしかに。それでは気持ちを切り替えてこちらを見ていただきたいのですが……」
さきほど買ってきた袋に手を突っ込み中でペットボトルを一本だけ見えないようにコンテナから取り出す。それをテーブルに置くとチェリナは顔を寄せてそれを見た。
「ビン……ですわね?」
「いいえ、それはペットボトルというものです、手にとってください、ガラスと違って軽く割れません」
チェリナは手に取ると始めは骨董品を扱う手つきで、次に繊細なガラス細工を扱うように、最後は強く握ってその弾力に目を丸くする。
「これは、どういう材料で?」
「それは企業秘密と言う奴ですよ。ああ、それは差し上げる用なのでもっと手荒に扱ってもらっても構いませんよ。……こう」
「あっ!」
俺は彼女の手からペットボトルをひょいと取り上げると、そのまま指を離して床に落とした、水の入ったペットボトルは鈍い音を立てて一度弾んでから床に転がった。
「さすがにこれ以上勢いをつけたら裂けてしまいますが、ビンのように割れることはありませんね」
「傷がついてしまいましたわ」
俺はペットボトルを拾って彼女の前に置いたのだが、紅髪の女はペットボトルの底に付いた擦り傷を指差す。
「ガラスよりは傷がつきやすいですが、そのくらいでは裂けません。軽くて丈夫、そして水をまったく通しません、透明で残りがわかりやすく、キャップがあるので開け閉めも自由です。中に入っているのはただの水です。わかりやすいかとおもいまして。全部出してみてください。軽さがわかりますよ」
チェリナが指を鳴らすと先ほど受け付けてくれた色黒の男性が飛んで来て、チェリナからツボを持ってくるように指示されるとすぐに動いた。ウチの会社の後輩に見せてやりたい素早さだな。まぁ後輩なんてもんは出来たそばからすぐ辞めていったので、俺が万年使いっ走りだった訳だが。
「随分と良い水ですね。まるで雨水そのままです」
「この辺では水は手に入りにくいのですか?」
「この国が大河沿いにありますので水自体は手には入りますが、土が溶けて常に濁っています。雨期でも無い限り、あまり手に入りにくいと思いますよ。リベリ河はご覧になっておられないのですか?」
そうか。透明な水自体が貴重だったのか。日本の感覚がなかなか抜けないな。
「はい、この街を囲む城壁北の入り口から入って来たのですが、海しか見えませんでしたね。リベリ河というのはどちらに?」
「町の南を走っておりますわ。対岸が見えないほど巨大な大河です。濁ってはおりますが雄大な景色ですから一度ご覧になられてはいかがかしら」
「それではこの商談が良い方向で纏まれば伺うことにします」
「まあ、それでは悪い方向になってしまったらどうなさるのです?」
「その時は大河の辺に涙を流しに行きましょう」
彼女は紅い瞳をこちらに向けて一瞬動きを止めた後、ゆっくりと笑い出した。
「それでこのペットボトルは何個用意でき、いくらで卸していただけるのでしょうか?」
笑みが一瞬で商談の顔に引き締められた。本当に油断のならない女だ。
ハッグはペットボトルの価値を「商人に売るなら3000円程度。そうしたら売値は7000円くらいになる」と予想していた。ならばスタートは……。
「数は全部で30本です。一本あたり7000円を考えております」
30本というのは始めから決めていた数だ。
SHOPの限界はわからないのだが、なんとなく金を出せばいくらでも買えそうな気がするので、やろうと思えば無限に売ることも出来そうだった。だがプレミア感を出すためと、そもそもペットボトルが受け入れられるかもわからない。それに麻袋をアイテムバッグとやらに偽装したとして、次から次に取り出しても不自然だろう。
一本3000円の値が付けば9万円手に入る。当面の資金は得られる。
その間にこの国での立ち回り方と商売の方法を改めて考える時間が出来る。
遭難した人間が珍しい商品を大量に持ってたらおかしいだろうしな。
ここで資金を作ったらとっとと別の町に移動して、行商人を装う方が細かく疑われなくて良いかもしれない。
教会とやらがこの町に揃ってるとも限らないしな。
彼女の僅かな黙考の間にそんな事を考えていた。なので次の言葉が一瞬理解出来なかった。
「わかりました。それでは30本全て購入いたしますわ。お支払いは銀貨がよろしいですか? 金貨でも真輝大金貨でもかまいませんわ」
「ぅへ?」
自分でもびっくりするほどマヌケな声だったろう。
値引き交渉もなくほぼ即決だ。
彼女が思考していた時間は5秒にも満たない。
「あ、ああ、ありがとうございます」
なんとかそれだけ言って手を差し出すのが精一杯だった。チェリナ嬢は俺の手を握り返した。
【神格レベルが5に上がりました】
【コンテナ容量が30個になりました】
うを、一気に2つ上がったな。
コンテナはレベル1つで5個増えるみたいだな。
チェリナはまた男を呼んで何かを持ってこさせる。男が持ってきた木箱には金銀の硬貨が詰まっていた。
「銀貨ですと210枚になってしまいますね、金貨なら21枚。この辺では両替が難しいですが真輝大金貨なら1枚と金貨1枚ですね」
貨幣にも色々種類があるらしい、しかしだったら100円にあたる硬貨があっても良さそうなんだがなぜないんだろう?
「それでは金貨でお願い致します」
「わかりましたわ」
俺はペットボトルを一本づつ取り出していく。
「この袋、アイテムバッグの扱いに慣れないもので……」
「わかります、初めは難しいですよね」
ようやく30本の空ペットボトルを取り出すと、彼女は金貨と小袋を渡してくれた。
「確認してください。そちらの小袋はサービスしておきますわ。ですので……」
俺は金貨の縁を爪で押して確認していたのだが顔を上げる。
【麻の小袋=420円】
「何か商品が取り出せるようになりましたらぜひ当ヴェリエーロ商会にお越しくださいませ」
怖い女だった。