第35話「三匹と秘密の暴露」
今週は月水金で更新予定です。
【クエスト3
現在、独立都市セビテスのスラム街は窮地に立たされています。
貧富の差が激しく、立ち上がる手段がありません。
どんな手を使ってでも、彼らの生活を向上させてください。
信頼を勝ち取ったと思う住民に、メルヘスのシンボルを渡すこと。
最低で100人以上に配ったと判断した場合、依り代治療薬の承認可能。
さらに100人増加する毎にボーナス有り。
成功報酬:依り代治療薬をSHOPに追加。
達成条件:独立都市セビテスのスラム街住民から信頼を得て、メルヘスのシンボルを一人一つ、最低でも100人以上に配ること。さらに100人増加するごとに薬を1つ無料提供】
購入したクエスト3は、いつものふざけた封筒ではなく、一般的な白い事務的な封筒だった。
どこかで安堵しながら中身を取り出すと、上記の内容が記載されていた。
表記は相変わらず日本語だったので、全員に通訳した。ハッグとヤラライに先に確認したのだが、ラライラは信用出来る事と、ファフに関してはどのみちいつまでも隠しきれるものでは無いという結論からだった。
「ククク……神からの使命のう」
「ちげぇーよ。タダの気まぐれだ」
「し……使徒……神託……」
ファフの変わらぬ態度と正反対にラライラは目をぐるぐると回して倒れそうになっていた。突拍子がなさ過ぎて話について行けないのだろう。だがその割に素直に信じすぎている気がする。変なおじさんに騙されてホイホイついていきそうで怖い。
「そっ! そんな訳ないだろ! 父さ……父がいなかったら信じないよこんな話!」
「ああ、なるほどな」
「しかも別の世界からやって来たなんて……そんな……」
「へえ、そこは理解出来るんだな。どうもみんな遠い国からやってきたくらいの認識なんだけどな」
「可能性がないわけじゃないからね……でもやっぱり……ううん……でも……」
そのままラライラは思考の海に沈んでしまった。まぁ気持ちはわかる。
「ま、細かい話はあとだ。治せる可能性が出来たんだ、どうせここまで首を突っ込んだからな、俺はなんとかしてやりたいと思っている」
「うむ。やり方は後で考えるしかないがの、ワシに手伝える事があればやるぞい」
「協力、惜しまない」
「ボクだってこんなの放っておけないよ!」
「ククク……予想通りお前らは面白いのう」
「お前も少しは協力しろ!」
「ククク……」
その後、何往復かしつつ、なんとか坑道の外に彼女たちを運び出し、キャンピングカーに乗せた。テーブルなどを片付けて、毛布を敷くことでどうにか全員乗せることに成功した。
だが、彼女たちの状況を見て、喜べる要素など1つも無かった。
時々殲滅し切れていないゴブリンはヤラライの黒針で瞬殺されていた。こいつも怒りを覚えているのかもしれない。
看病はラライラに任せた。キャビンは鮨詰めなので、ファフとハッグは助手席に着いていた。ヤラライは相変わらず屋根の上である。
「とりあえず町に戻って、彼女たちの家族を探そう」
「うむ。それがええじゃろ」
俺は慎重にアクセルをふかしていった。
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「アキラ! 止めろ!」
ヤラライが突然に叫んだ。
「……ぬ? いかん! 町が襲われておる!」
「なんだって?!」
俺は急ブレーキならないように、車を止めた。ヤラライは車上から町方面を睨む。俺、ハッグ、ラライラ、ファフが車から飛び出した。するとヤラライがラライラに顔を向ける。
「ラライラ。この車、守れ」
「え? う、うん。わかったよ」
「おい、さすがにそれは……」
「大丈夫だ、今までのルート、敵、いなかった、もう、町襲ってるのが、最後の、集団」
「ふむ。確かに……ばらけてる奴らはまだおるじゃろうが、さすがに短時間でこの場所までたどり着く奴らはおらんじゃろう」
なるほど、念のための護衛というわけか。一瞬、人が乗った状態のキャンピングカーをコンテナに仕舞ってしまいたい衝動に駆られたが、死んでしまう可能性が1%でもある事を試すわけにもいかない。
「本当ならファフがここを守ってくれると安心なんだけどよ」
俺が半目で睨むと、喉の奥で笑いつつ、スマホを振って見せた。はいはい。動画撮りたいんですよね。どこの光画部だよ。
「敵の数は?」
「おおよそ、1000」
「楽勝だな」
「うむ。作戦は特にないが、もう飛び道具は無いんじゃ、お互いの背中を守りながら突っ込むぞい」
「了解だ」
俺とハッグは波動を。ヤラライは精霊を纏って敵集団に突っ込んでいった。
……なんか戦う事に抵抗感がなくなってるぜ。
俺たちが砂煙を残して去った場所で、ラライラはこう呟いていた。
「父さん……どうしてこんな荒ぶる風の精霊なんて纏えるだろう……ボクなら身体がねじ曲がっちゃうよ……」
どうやらヤラライがやっている事の常識外れのようだった。
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戦いは1時間に及んだ。
もともと防衛用に集められていた戦力があったのだろう、50人ほどの守備隊が町を守っていた。しかしまともな壁の無い町である。防衛には向かない。
近づいて判明したのだが、元は100名以上の守備隊だったようだ。装備がバラバラなのは傭兵やハンターなどをかき集めたからだろう。
町は大混乱に陥っていた。幸い1000のゴブリンの内、大半は守備隊に襲いかかっていた。馬鹿なのだろう。
いや、守備隊は必死で音を出し、叫び、奴らの注意を引いていたのだ。出なければとっくに町の中にゴブリンは雪崩れ込んでいただろう。
「こいつぁヤバい状況じゃの!」
「どうする?! ハッグ!」
「ぬぅ……」
「俺! 町に行く! 二人! 奴らを!」
「確かにお主が一番動けるの……良し! それで行くぞい!」
「了解だ!」
疾風となったヤラライが町中に駆け抜け、守備隊を360度から間断なく襲いまくるゴブリンの一角に、俺とハッグで風穴を開けてやった。ざまぁみろ!
だが緑の害獣共はそれで怯んだ様子も無く、次々と物量で反撃してきた。こいつらに疲労って言葉は存在しないのか?
敵と味方の死体で埋め尽くされた大地を蹴って、俺たちはゴブリンを肉片に変えていった。
おかげで俺とハッグは妙に連携が上手くなっちまったぜ。
「はぁ……はぁ……いまさら……だが……助かった……」
「喋るな、水だ」
「たすか……んぐ……」
俺は生き残った38人の守備隊に水を配って歩いた。
40のペットボトルと水を購入して、2つ予備としてコンテナに仕舞っておく。2804円。
残金8658円。
水を胃に流し込んで落ち着いたのか、ばたばたとその場に仰向けに倒れていく彼ら。無理も無い、休憩無しで援軍の当ても無い防衛戦を繰り広げていたのだ。その疲労たるや俺には想像もつかない。
幸い、その彼らに注意が向いていたので、ゴブリンの殲滅自体は難しい事では無かった。
「それじゃあ俺たちは町に入り込んだ奴らを退治してくる」
「お、俺も行こう」
立ち上がったのは、守備隊の中でも頭2つくらい抜き出ていた波動使いだった。装備から自警団の隊長だろう。
「足手まといはゴメンだぜ?」
格好をつけてると思われるかもしれないが、実際生き死にがかかってるので、中途半端な決意ならお下がり頂きたい。
「あそこは俺の町だ。部下たちはもう動けんが、俺の波動はまだ立ち昇る!」
たしかに、他の奴らと違って、まだ足腰はしっかりしている。おそらくこいつがいなかったらとっくに守備隊は全滅していただろう。俺より遙かに強いのかも知れない。
「ハッグ?」
「かまわんじゃろ、じゃが行くのなら無理をしてもらうぞい」
「わかっている。俺は自警団団長のウィストン・ガレットだ」
「アキラだ」
「ハッグじゃ。のんびりしている暇はないぞ。行くぞい」
「「おう」」
俺たちは波動を纏って町に全力で向った。
……が、敵はほとんど残っていなかった。
「精霊に、場所を聞いて、シラミ潰した」
……ヤラライさん格好いい。