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第33話「三匹とヒーロー戦隊」


「ぬおりゃあああああああああああ!」


 先陣を切ったのは2足歩行する重戦車、筋肉ドワーフのハッグだった。両手で振るう巨大な鉄槌が突然の乱入者に驚きの声を上げる緑色の害獣ゴブリンを次々とミンチにしていく。すでに見慣れてしまった自分に苦笑するしかない。


「……遅い!」


 続いて突っ込んだのは風の精霊を纏ったヤラライだった。ピッチングマシーンで撃ち出された軟球がごとく一瞬でゴブリンの土手っ腹に穴を空けたと思ったら、死体を蹴り抜いて極太のエストック、黒針を自由にすると、群がるゴブリンを叩き潰したり串刺しにしたりとバリエーション豊かに殲滅していく。


「ボクだって……赤く紅く燃え上がる炎よ踊れ! こより(・・・)となって敵を討て!」


 片手を突き出すラライラの正面に真っ赤な炎の矢が出現しては撃ち出されていく。さしずめ炎の矢といったところか。

 女の子に負けてらんねぇな。

 彼女は主にハッグの背中を中心に爆撃していた。戦陣を切っているハッグの方が手が回りきっていないのだろう。ならば俺は……。


「ヤラライ! 背中を預かる!」

「任せた!」


 自信は無かった。だが俺は宣言した。ヤラライはなんの躊躇も無く俺を信頼してくれた。だから俺には戦う理由も負けられない理由も出来た。

 今はそれで十分だった。

 すでにヤラライは動きを前方に振り分けている。横から飛び出して来たゴブリンが偶然ヤラライの死角に紛れ込み、歓喜の声を上げて彼の背中を狙っていた。


「やらせるかよ!」


 俺は波動全開でそのゴブリンに接近。その勢いのまま眉間を掌底で貫いた。骨の砕ける振動が手に伝わった。ゴブリンはそのまま4回転しながら吹っ飛んでいく。目鼻から緑の血を流して、口から泡を吹いて絶命していた。

 それを見届ける間もなく死角に潜り込んでくる2匹。

 いくらなんでも俺を信用しすぎだろ?!


 俺は右足を軸に身体を一周させる強烈な回し蹴りを放った。2匹同時に仕留めるつもりだったが、後にヒットした方が辛うじて生きていた。


「ククク……イメージが足りんの。もっと渦巻く螺旋をイメージするんじゃ」

「うをっ!」


 さっきまで瞬間移動もかくやという動きで各人物の活躍を動画撮影してたファフが、いつの間にか隣に立っていた。


「驚かせんな!」

「ククク……まあ聞け、ヌシは掴みかけておる。類い希なる螺旋の波動をの。そしてそれはこの実践で大きく伸びるじゃろう。イメージじゃ。どこまでも伸びる螺旋の力で天を貫いて見せてみぃ」

「ファフに見せる謂われは無いが……助言は感謝する」

「ククク……うむうむ。殊勝なのは良い事じゃ。ほれ、次が来たぞ」

「ぬおっ!」


 またもや2匹同時に、しかも前とほとんど同じ位置にゴブリンがこぼれ落ちてきた。

 螺旋。バネ、螺旋階段、DNA……俺の中でイメージする螺旋とはなんだ?

 なぜか。

 唐突に今までの生き方が走馬燈の様に蘇ってきた。

 ただ同じ所を回って良しとする生き方。毎日満員電車に揺られて、何も起きないことを願う毎日……。

 あれは……円だ。

 違う。

 再び走馬燈。いや、死んではないが。

 今度はこちらの世界に飛ばされてからのイメージだった。

 生きるために流されつつも、どこか楽しかった毎日。

 ……そうか、同じようで増えていったな。

 ハッグ、ヤラライ、ナルニア……チェリナ。

 俺の生き方は円から、螺旋になっていたんだ。

 ふと、身体から力が抜ける。肩に掛っていた余計な力が抜けてリラックス状態になった。

 ああ、難しい事なんてなんもなかったな。

 俺はふわり(・・・)と後ろ回し蹴りを放った。

 2つの緑の頭部が地平の先にすっ飛んでいった。

 ああ、俺は前に進んで良いんだ。


 気がつけば、俺たちは凄まじい数のゴブリンを屍の山へと変えていた。


===========================


「ぬう……突破のために最低限だけ倒す予定じゃったが、つい調子に乗ってしもうたの。ラライラ嬢ちゃんは大丈夫かの?」

「う……うん。でも、もう理術はほとんど出せないです」

「うむ。十分じゃ。こっからは坑道に突っ込むからの。ワシ、アキラ、お嬢、ヤラライの順でいくぞい」

「承知」

「ククク……ワレはアキラの後ろにつこう」

「好きにせい」

「ヤラライが殿(しんがり)なんだな」

「うむ。エルフはこういう地中の戦いに向かん。じゃがあやつなら殿くらいは十分役目を果たす。むしろ空想理術を使うお嬢ちゃんの方がここでは役に立つくらいじゃ」

「疲れてるんだから無理させるなよ?」

「うむ。その分お主がやるんじゃよ。この短い間に随分と腕を上げたようじゃしな」

「……見てたのかよ」

「仲間の状況を常に把握するのも大将の役目じゃからの。すでにゴブリンなぞお主の敵ではないわい」

「ならいいけどな」

「そうそう敵はお主が倒していくんじゃぞ」

「なんでだよ。ハッグの方が確実だろ?」

「阿呆、ワシが暴れたら金属鎧の音が響くじゃろ、敵は見つけてやるから、お主が音も立てずに倒すんじゃよ」

「俺はどこのアサシンだよ」

「大丈夫じゃ。お主のトルネードマーシャルアーツは静音性にも優れておる」

「冷蔵庫の宣伝文句かってーの」

「……?」

「……気にするな、やれるだけやってみる」

「うむ。では行くぞい」


 こうして俺たちは仄暗(ほのぐら)い地底へと足を踏み入れたのである。


「……蒸すな」


 おかしい、さっきまで灼熱の乾いた大地と戯れていたはずなのに、坑道に足を踏み入れてしばらくすると、異常に湿気が充満していた。


「地下では良くある事じゃ。ガスが出ていないだけマシじゃな。……ファフよ、スマホの明かりが漏れすぎじゃ、敵に見つからぬギリギリになるよう手で隠せぃ。お主なら楽勝じゃろ」

「ククク……今は敵がおらぬから安心するのじゃ」

「……ふん」


 暗すぎて動画が撮影出来ないファフに、スマホのLEDライトで最小限の明かりを確保するようハッグが指示した。嫌がるかと思ったが案外素直に従ってくれたが、やり取り自体は先ほどの通りだ。

 さらに奥に進む。いくつも枝分かれしているというのに、ハッグは迷うことなく進んでいった。


「なあハッグ、今更だが道は合ってるのか? 途中には太い坑道なんかもあっただろ?」

「ふん。足跡や空気で敵の位置など丸わかりよ……おっと、また(・・)来たぞ、お主の出番じゃ」

「へいへい」


 ファフが自然にLED光を手で覆い、ほぼ真っ暗に。

 坑道に入るときにハッグに教えてもらった、暗視能力が強くなる波動を意識する。覚え立てなのでまだかなり不安定なのだ。独特のリズムの呼吸で眼球を渦巻くような波動をイメージすると、ぼんやりと敵の姿が映った。

 1000回ダビングしたビデオテープよりも画質が悪い。

 ……え? ビデオテープを知らない? そうか……さいですか……。


 敵の影がゆっくりと近づいてくる。静かに深呼吸。敵の移動予想位置を確認してから、暗視をやめて身体に波動を纏って一気に飛び出た。


「ぎゃぅ——」


 ゴブリンは悲鳴らしい悲鳴を上げることも出来ずに、俺の掌底によってその命を絶った。頭蓋骨の砕ける感触に慣れてしまった自分がちょいとばかり嫌になる。

 今はあの沸き上がるような感情は襲ってこなかった。


「……うむ。手際が良くなってきたの」

「アサシンに転職するつもりはねーんだがな」

「ククク……ヌシの性格ではそもそも無理じゃな」

「うるせーよ」


 それはそれで俺がいい人みたいじゃねーか。うんざりするわ。


「無駄口はそのくらいでやめるんじゃ。……嬢ちゃん、少しは体力は戻ったかの?」

「うん、少しくらいなら、理術も出せると思うよ」

「うむ。今は必要がないからの、温存しておくんじゃ」

「わかったよ」

「……うーむ。本当にこれ(・・)それ(・・)の娘かの……」

「娘、優秀」

「……ヤラライ、恐らくだがラライラを持ち上げている訳ではないと思うぜ?」


 俺たちは適度な緊張感を維持しつつも、どこか間抜けに坑道を進んでいった。


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