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第27話「三匹と自警団の誇り」


 ゴブリンハザードを確認した今、この人数で突っ込むのは無謀すぎる。

 コロニー殲滅から偵察に切り替えようと、リザードの女戦士であるシュルラさんの言葉に全員が頷いた。

 そこからはチームに分けて行動することになった。


 ボクとホーンさんとラッパさんとバリトンさん。おそらくリザード戦士の二人を除けば最大戦力だろう。シュルラさんが気を回してくれたのかも知れない。

 そのリザード戦士二人は分かれてチームに入ることになった。夫婦なのにその決断が出来るところが歴戦の戦士ということなのだろう。

 残りの自警団や害獣狩りの人たちで、6チーム作り、分かれて偵察することになった。

 ボクたちの担当は巣より離れた場所だった。


「いいかい嬢ちゃん。あんたは絶対に奴らに捕まっちまったらダメさ。だが仕事はしてもらうさ。おそらく広範囲に広がっているはずだから、それをきっちり調べてくる。それがあんたたちの仕事さ。わかったね?」

「はい」

「うーす」

「ああ」

「わかっている」


 シュルラはそれぞれの返答に満足そうに頷いた。


「それじゃ最初に決めた通りのルートで索敵して町に戻るように」


 それぞれの小隊が返事をすると、散っていった。

 ボクたちも巣を背にして移動を開始した。

 向かう方向としては町と直角方向に向かう形だ。


 砂の舞い上がる乾いた大地をひたすらに進んでいると、前方に動く物を発見した。おそらく種族的にボクが一番目が良いので、最初に見つけた。


「おそらくだけど、ゴブリンの一団がいるよ」

「おれっちでも見えないな、どっちに進んでる?」

「こちらに向かっていますね」

「そうか……」


 誰が指示するでもなく、その場に輪になって止まる。


「どうする?」

「俺たちで倒せそうな規模だったか?」

「30〜40くらいだと思うけど……障害物も多いから確実には言えないです」

「微妙な数だな」

「倒せる数だろう?」

「応援が無ければな」

「ぬ」


 ラッパさんの慎重な意見にバリトンさんが眉をしかめた。

 たしかに30〜40であれば、空想理術の先制があれば殲滅は確定だろう。だが、近くに別の団体がいたら? それが間断なく襲ってきたら?

 それはもういずれ力尽きて全滅するだけだ。

 危険は犯せない。


「しかたない。一度北上してやり過ごそう」


 ラッパさんの決断に全員が頷く。姿勢を低くして北上していると前方の空に砂煙が上がっていた。


「……! 前方にもゴブリンの一団です! かなりの数だよ! たぶん100弱」

「なんだって?!」

「……あれか、馬にでも乗ってんのか?」

「ううん、でもなぜか走ってるよ」


 ホーンさんが近くの岩にひょいと飛び乗ると、手で庇を作って砂煙を見つめる。


「んげっ! あいつらストーンコヨーテの群れを追ってやがるんだ! すぐにもここにたどり着くぞ!」

「なんだと?!」


 岩から飛び降りたホーンさんとラッパさんバリトンさんが数秒顔を見合わせてから、大きく頷いた。


「よし。俺とホーンは正面の奴らだ」

「わかった。私は戻ろう」

「え? みんな何を言ってるんだい?」


 思わず素の言葉が出るほど意味不明な事を話し出す3人。


「……俺たちが囮になってあいつらを引きつける。その間にラライラは逃げるんだ」

「え?!」

「おれっちたちに任せて置けばいいさ」

「そういう意味じゃ……!」

「なあラライラちゃん。エルフってのは依り代になる可能性が高いんだろ?」

「え? そ、そう言われているよ」

「ならラライラちゃんをあいつらに捕らえさせる訳にはいかねぇのさ」

「それならみんなで……」

「無理だな。全員だと隠れきれない。固まって見つかったら確実に全滅だ」

「だけど……」

「……私には娘がいてね。見た目だけだが君くらいの年齢なのだよ」

「……!」

「私たちには町を守る義務と責任があるのだよ」

「ボ……ボクが参加してなかったら……」

「違うぜラライラちゃん。それはおれっちたちが守った上で、それ以上の戦力になると判断したから連れてきたんだ。少なくともラライラちゃんのせいじゃねーな」

「せめて戻って少数部隊を叩いてから……」

「無理だ。もう位置的に挟み撃ちになる。それより時間が無い。いいか? ゴブリン共がばらけたら、とにかく隠れながら逃げるんだ。あいつら想像以上に数が多い上にばらけてやがるから、必死で逃げろ。わかったな?」

「そんな……」


 自警団の3人は、それぞれ何かを差し出してきた、枝を縦に割った物に、名前を書いたものらしい。


「これは割り符の一種で、自警団はみんなもっている。自警団本部に届けて欲しい」

「それって……」

「そしたら……家族に届くんだ。頼むよ」

「ああ……」


 ボクは言葉を続けられない。彼らの覚悟に傷をつける資格が無い。ボクが返せる言葉はこれだけだ。


「わかったよ……必ず……届けるから……安心して、でも無事に帰ってきて」

「はは、努力はするさ」

「おれっちはこれでも悪運が強いんだぜ?」

「俺は簡単には死なないさ」


 3人は力強く立ち上がると、それぞれの方向に走り出した。

 彼らに、精霊の加護を!

 大声を上げてストーンコヨーテの群れを誘導するホーンさんとラッパさん。散らばるストーンコヨーテと、人間二人に気がついたゴブリンたちが怒りの咆哮を上げた。

 単純な彼らはあっさりと誘導に引っかかって西の方角へと進む方向を変えていく。

 ボクはタイミングを見計らって南下を開始する。まっすぐ下るのではなく、やや巣の方向へと近づくルートだ。慎重に進むと、先ほどの一団が南に向けて移動していた。おそらくバリトンさんが誘導したのだろう。


 ボクは止まらない涙を無視して、歯を食いしばりながらひたすらに足を進めた。


明日も更新予定。


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