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第26話「三匹とエルフの娘」


【<新理>ラライラ】


 乾いた土の色に風景が統一されてからどれだけがたっただろう?

 生憎と西に向う馬車は少ない。独立都市セビテスに向う馬車はそれなりに多いのだが、どの馬車も車軸が折れんばかりに荷物を積んでいて、とてもでは無いが便乗させてもらうスペースが無かった。

 逞しいのか浅ましいのか、ボクには判断の出来ない事だ。


 それでもようやくセビテスに到着すると、独特の喧噪に講演回りをしていた頃を思い出した。

 もちろんこのセビテスに来たこともある。もっともその時は仕事仕事で、街をゆっくり見て歩くことなど出来なかったけれど。


 クスリと笑いながら、異国情緒溢れるセビテスの街を見て回った。もちろん要所要所で()の情報を集めることは忘れなかった。なにせ目立つ人だから、ある程度場所が絞れていれば足取りを追えてしまうのだ。

 実際、雑多な依頼が集まる酒場に寄ってみると、2ヶ月ほど前に父と思われるエルフが仕事をしていた事を聞いた。主にはぐれのバッファロー退治を受けていたようだった。

 ……ボクの父さんながら、いったいどうやってあの巨体を一人で倒せるのか理解出来ない。


 間違いなくエルフ種の中でも最高の戦士だろう。肉弾戦という意味では。

 空想理術や精霊理術であれば、ボクだってなかなかの腕前なのだ。特にエルフで空想理術を使える人は少ないので、そこは結構自慢だったりする。


「さて、セビテス自慢の無限の水瓶も観光できたし、そろそろ動かないとだね」


 酒場の人たちに聞き回ってみたところ、どうやら父はさらに西の荒野に向う予定だったと言う。

 ……。

 ぎらつく太陽を見上げて、いった何を好んでさらに荒野へ向ったというのだろうとあきれ果てる。

 昔から父はより面倒な方向へ進む癖というか習性があった。割を食わされるのはいつも母だ。

 ボクもあまり偉そうな事を言える立場では無かったけれど。


 うん、でもボクはちゃんとやるべき事をちゃんと果たしてきたからね!

 何が何でも父さんを家まで連れて帰らなきゃ!

 新たな決意を込めて、さらに乾いた大地に足を踏み出した。


 1日歩くと、事前に教えてもらったとおり、なかなかの規模の町があった。どうやらセビテスの三老会関係者が町長をやっているらしく、セビテスから色々と優遇されているらしい。

 貿易も盛んのようで馬車がひっきりなしに往来している。

 最初はそう感じていたのだが、しばらくして気がついた。馬車の大半はこの町からセビテスに向うものばかりだったのだ。


 宿に行ってみると、空室が目立つようだった。商人たちがこの町から逃げ出しているのだ。

 何から?

 ボクは部屋を取ると、急いで酒場へと向った。

 理由はすぐに知れた。ゴブリンハザードが発生したのだ。

 詳しい情報はまだわからないが、すでにキャラバンが何隊も被害に遭っているらしい。

 ボクは依頼掲示板に飛びついて、目的のそれを探す。


・調査:害獣ゴブリンの殲滅。要、先酒場受付(3万円)【ハンション町長】


 ボクがカウンターで依頼の事を尋ねると、ちょうどメンバーがテーブル2つで集まっているそうなので、混ぜてもらう事にした。


「こんにちは、ボクはラライラと申します」


 そこには強そうなリザード種の二人と、揃いの装備をしたヒューマン種の3人が座っていた。


「堅苦しい言葉はいらないさ。あたいはシュルラ。こっちの無口な奴がリーモ。一応旦那さ」


 シュルラさんは女性で、隣で会釈をしている方が旦那さんらしい。


「おれっちはホーン」

「俺はラッパ」

「私はバリトン。よろしく頼む」

「このメンツの他に、傭兵と害獣ハンターが何人か加わる予定さ。お嬢ちゃんを含めて20人を超えるさ」


 たかがゴブリンコロニーの殲滅にしてはずいぶんと戦力を集めているように見える。想像以上に大規模なコロニーなのかも知れない。


「しかし締め切る直前で精霊使いが来るとはついてるさ」

「ああ、これで完遂間違い無しだな」

「はっ! あたいらがいるだけで確実だったけどさ!」

「今回の仕事が割り勘で無くて助かったぜ」

「それだけ慎重なんだろうさ」


 それらの軽口を聞いて、彼らが場慣れしていることをしていることを知り安堵する。父が今、どのあたりにいるかは想像が付かないが、もしこの事を聞けばきっと急いでこちらに向かうことだろう。父がエルフの天敵であるゴブリンを放置するはずがない。

 運が良ければ顔を合わせられるかもしれないと飛びついたが、残念ながら父は参加していないようだ。

 そもそも最後の目撃情報が2ヶ月以上前の物なので、まったく別の地域に向かっている可能性が高い。最初からそこまで期待して参加したわけではないからそれはまったく構わなかった。


 ボクだってゴブリンを放置しておける性格では無いのである。

 もっとも、荒事は得意では無いのだけれど。

 今回は頼もしい味方も多いので、この地域に発生するコロニーならば簡単に片付けられるだろう。


 その後細かい打ち合わせをして、明日の朝一に出立することになった。ボクからすると少々慌ただしいが、彼らは3日間じっくり人集めをやっていたらしい。総勢20名の大所帯になるようだった。


「頼りにしてるぜ魔法使い(・・・・)


 ラッパさんに肩を叩かれて、私はつい眉をしかめてしまった。冗談でも魔法使いとはあまり呼ばれたくないです……。


===========================


「冗談だろ?」

「洒落にならんさ……」


 すり鉢状に掘られた鉱山跡にたむろっていたのは、数え切れないほどのゴブリンだった。

 それは一見エルフがドワーフから廃鉱を譲り受け、緑化している最中にも見えるが、内容はまったく別物だった。背筋が凍る光景だった。


 物心が付く前から、何度もゴブリンやオークに近づいてはいけないと教わってきた事を思い出す。

 理術を得たボクは、今までに何度もゴブリンやオークを退治してきた。

 だがそれは、移動の途中で襲われた時や、誰かが襲われているのを助けた時の話だった。よくよく考えたら自分から討伐に参加するなど初めてなのだ。このような事態も考えるべきだったのだ。


 エルフの女性がゴブリンに捕まってしまったら……。

 今まで知識としてどこかよそ事だったそれが、目の前の害獣の群れを前に、自分の事として重ねて想像出来てしまった。

 頭から一気に血の気が引いて、倒れそうになってしまう。

 いや、ダメだ。エルフ一の戦士の娘としてそんな情けない姿は見せられない。

 ボクは自らの太ももを強くつねって、痛みで正気を取り戻した。


「こりゃ……噂に聞くゴブリンハザードって奴じゃね?」

「うん。間違いないよ。でもそれはおかしいんだ」


 自警団のホーンさんの疑問にボクが答える。そう。あり得ないのだ。


「ラライラちゃん、何がおかしいんだい?」

「ゴブリンハザード自体は依り代を手に入れられれば起こりうると思うんだけど、いくらなんでも依り代が一人ではここまで急激に増えると思えないんだ。それとも何ヶ月も放置していたとか……」

「いや、ゴブリンの襲撃が増えたのがここ2週間前後だ。幸い町に直接被害は無かったんだが、商人たちが結構な数襲われてる。もっとも護衛を雇っていれば返り討ちに出来る規模と聞いたが」


 私の質問にバリトンさんが答えてくれた。だとしたらやはりおかしい。


「ゴブリンハザードが起きる条件が2つあります。一つはもちろん依り代がいることだけど、もう一つは食料が潤沢であること(・・・・・・・・・・)なんだ。だからこの西の地域ではゴブリンハザードは起きないとされていたんだ」

「いやだが、実際に目の前に」

「うん。だから何か理由があるはず……っ!」


 ボクの中に湧いたゴブリンに対する恐怖で巣の中をよく見てられなかったのだが、もう一度しっかりと見渡すと、それを発見した。


「あれっ! 骨だよね? 動物の!」

「んっ? ……ありゃあ! はぐれだ! はぐれバッファローの骨だ! まだだいぶ肉が残ってるな。クソ野郎共が集ってたんで気がつかなかったぜ」


 ホーンさんが手で庇を作って目標を見つけた。


「しかも1匹分の骨じゃねぇな……おそらく2匹分だな、ありゃあ……」

「……十分過ぎるほどの食料だね」


 ボクは額を押さえる。きっと頭の中で、西の地域に発生するゴブリンコロニーなど、大した規模ではないと無意識に高をくくっていたのだ。そしてこれは罰なのだ。

 父さん(・・・)はいつも戦いの心得を口にしていた。真の敵は目の前にいるのではない。慢心した己の心に棲んでいるのだと。


「じゃあ、あの食料が切れたときはどうなるんだ?」

「あ」


 ラッパさんとホーンさんが顔を青くした。


「……たぶん、町が襲撃されると思う……食べ物を求めて」


明日、明後日も更新予定。


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[一言] 絶妙なタイミングのラライラの回想 素晴らしい構成だが果たして
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