第23話「三匹と強行偵察」
こんにちは、忙しくて連載ペース落ちるかも。後書きにて詳細
「右だ! ヤラライ!」
「わかって、いる!」
ダンダンダンと頭の上から強烈な銃声が絶え間なく轟いていた。飛び跳ねて進むキャンピングカーの上から、M4カービンを連射しているのだ。セミオートを使っているはずなのだが、発射間隔は恐ろしく短い。そして宣言通り一発一殺。有言実行の男である。
俺も助手席から身を乗り出した状態で、害獣ゴブリンがもっとも団子状になっている場所へと空理具を向ける。ゴブリン共は涎をまき散らし、奇声(気勢ではない)を上げながらよってたかってこのキャンピングカーに襲いかかろうとしていた。
俺はヤラライの合図が出るまで害獣共が近づいてくるのを引きつける。
ハッグの超絶ドライビングテクニックで、ばらけていたゴブリン共が面白いように塊になっていく。
「今だ! アキラ!」
「おうさ!」
掴んだ空理具に力とイメージを流し込む。さすがに口にすることは無いが「マシンガン光剣」と内心で叫んだ。
小石大の輝く弾丸が荒野の乾いた空気を切り裂き、怒りの形相で走っていた害獣どもを肉片に変えていく。どうやら飛び道具としての破壊力だけなら俺が一番の火力になっているらしい。命中率は目も当てられないが、数をばらまくことでカバーしている。
っつーよりも、ヤラライはなんでこんなに揺れまくる車で必中なんだよ!
ちなみに無賃乗車娘のファフが何をしているのかというと……。
「ククク……、こんな小さな板に己らの活躍が収められるとはのう」
スマホでこの戦闘を動画で録画していた。
戦いに参加する気は無いらしいので、これをお願いした。
実際には彼女が撮影している姿は見えないが、どうせ揺れなど無いようにスマホを構えているに違いない。
「アキラ!」
ゴブリンが途切れたタイミングで、空になったマガジンを窓から車に放り入れるヤラライ。俺は急いで5.56mm弾をマガジンに詰めていく。870発追加購入した弾丸も、残りは2/3くらいか。想定より消耗が激しい。理由はただ一つ。
ゴブリンの数が多すぎるのだ。
「ハッグ! 進行方向に気をつけろ! タイヤが保たねぇぞ!」
「わかっちょるわい!」
こっちも宣言通り2時間でキャンピングカードリフトまで覚えたドワーフのハッグが、アクセルをベタ踏みのまま叫んだ。
「ハッグ! どうしてこうなった?!」
「わからん! じゃが! もしかしたら依り代を二人手に入れた可能性があるかもしれんの!」
「なんだって?!」
「元々ハザードはおきていたんじゃろう?! そこにエルフの娘が捕らわれたとなるとのう……!」
「……俺! 同胞! 助ける!」
「わかってる! だがまずは減らすことだけ考えろ!」
「「おう」」
「ククク……」
すり鉢状の廃坑からわらわらと沸き上がってくる害獣を確認して、セットしたマガジンをヤラライに返す。
どうしてこうなったのか……。
時は少しだけ戻る。
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洗面台で顔を洗って、朝食を並べる。ハッグは朝からトンカツ弁当など口内に放り込んでいる。ファフも似たようなもんだった。さすがに胸焼けするわ。
俺とヤラライはサンドイッチと珈琲で済ませる。
なお俺の服装は米軍装備一式だ。
ガソリンを20リットル購入してタンクへ。
前夜のブリーフィングで購入した物はM4用マガジンの30発装填済み(3万1800円)を9セット。合計28万6200円。さらに5.56mmを600発で合計24万円。
夕飯と朝食とガソリンなども差し引くと、手元にはほとんど残らなかった。
残金4万3480円。
これは3人で話合った結果だ。
この後しばらく稼げなくても、最悪はハッグとヤラライが貯金を崩しても良いという話になった。どんだけゴブリンを嫌いなんだと。
二人はこの殲滅にそうとうな意気込みがあるようで、金額を告げても一切文句を言わなかった。
だが、それでも購入出来た弾丸は870発。少々心許ない数だ。連射などしたら一瞬で使い果たす。
その懸念を漏らすとヤラライは胸を張った。
「一発で、確実に、一殺する。信じろ」
相変わらず男前過ぎる。
資金は弾丸で使い果たしたので、あとは作戦次第である。ハッグは前夜に宣言通り二時間で俺と変わらぬドライビングテクニックを見せつけてくれた。
……なんか納得いかねぇ。
流れとしては簡単で、まずは相手に気づかれない所までキャンピングカーで接近。キャンピングカーをそこで一度コンテナに仕舞ってから、徒歩で鉱山跡を一周して偵察。問題点を修正して、作戦通りに殲滅。もちろん町に報告に戻るつもりなどない。
偵察の時点で殲滅出来ないと判断した場合は、一度引き上げる。
朝方から動くのはゴブリンはどちらかというと夜の方が活発という理由だ。少なくともかなり夜目が利くらしいので、闇に紛れるメリットは余りない。それよりもこちらの視界が広い方が偵察に向いているという話になった。
なお、ドワーフはほぼ完全な暗闇でもディティールを判別出来るらしい。エルフも夜目はかなりきくとの事だ。つまり俺一人が足を引っ張っている……。
二人は問題無いから進めろと軽く流した。
そして予定通り、ヤラライがキャンピングカーの上から害獣共を確認する位置まで進み、車をコンテナに。それを見て、ファフは喉の奥で笑うだけだった。
身を低くして、鉱山跡の外周がギリギリで見渡せる距離を保って移動しながら、回りの地面を確認して回る。
「これならなんとかなりそうじゃな」
「走るだけなら大丈夫だとは思うが、速度を出したらえらい事になるぞ? ジェットコースター顔負けだぜ」
「なんじゃと?」
「いや、上下に飛び跳ねるぞって言ったんだ」
「なに、その程度ならそこのひ弱エルフでもなんとかなるじゃろう」
「ほう……? 今回、一番楽をする、ドワーフが、偉そうに……」
「はいはい、そこまでな。まだ半周だが、どうする?」
「もちろんもう半周確認するんじゃが、その前に、鉱山の中も確認したい所じゃな」
「確かに……」
現状、回りに目立ったゴブリンはいない。全員巣に引きこもっているのだろうか?
しかし好都合なことには違いない。
「……ハッグ、お前がリーダーだ。決めてくれ」
「うむ。確認した方が良いじゃろ」
「わかった。人を分けなくて良いのか?」
「それも考えたんじゃが、偵察としてはこのメンバーのバランスはかなり良え。大概のアクシデントにも対応できるメンバーじゃ」
「OKだ。行くぞ」
「アキラ、もっと、頭、下げろ」
「……了解」
砂まみれになりつつ、這うように露天掘りの鉱山跡にたどり着き、全員で中を覗き込む。
ファフ以外が同時に息を飲んだ。
「なん……じゃと?」
「こいつぁ……」
「ぬう……」
「ククク」
巨大な。とてつもなく巨大なすり鉢状の露天掘り鉱山にひしめく明るい緑色をした肌の人型生物。最初は地面が緑色に染まっているのかと錯覚したほどだ。その総数は……ダメだ、まったくわからん。だが500やそこらでは収まらないだろう。
「3000は、いる、な」
ヤラライが絞り出すように呟いた。
「これは……まずいの」
「多すぎねぇか?」
「うむ。これは……想定外じゃ。一度引き上げて、弾なり人なりを集めて出直した方が良いかもしれんの」
冷静な判断だと思う。ヤラライも奥歯を噛みしめつつも頷いた。
「ではいったん下が……アキラ、伏せるんじゃ」
ハッグの馬鹿でかい手で地面に顔を押しつけられる。反射的に声を上げそうになるが、ハッグも顔を地べたにくっつけて今来た道を睨み付けていたので、息と一緒に飲み込んだ。
「別の団体じゃ。これは……まずいぞぃ」
どうやら俺たちはゴブリンの軍勢に挟まれてしまったようだ。
こんにちは。
なんだか最近リアルが凄く忙しくなっています。
体調崩していたときのツケがまわってきたと申しましょうか……
連載ペースがしばらく落ちてしまうかもしれません。
やめるつもりなどは一切ありませんので、ぜひこれからも応援よろしくお願いします。
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