第22話「三匹と執事」
すいません、タイトルだけ間違えてアップしました。
本文は同じです。
直ぐに修正しました。
気がつかなかった人は問題無いです。
俺は衣装を取ってきますと、一度馬車……ではなくキャンピングカーへと席を外させてもらった。すると小僧が馬小屋で藁を積み上げつつも、真っ白な異形の馬車を見つめていた。
「お疲れ」
俺は小僧に声を掛けて、さっとキャビンに乗り込む。念のため、運転席とキャビンを繋ぐ扉窓のカーテンを締めておいた。
今俺が着ている物が民族衣装オリジナルだ。購入出来るのは【テッサ民族衣装=13万2900円】となる。オリジナル表示が出る物は商売神メルヘスのシンボルだけだが、SHOP購入品は細かいところで変化があった。
まったく違う物が出てくる可能性が頭を過ぎるが、頭を振って購入した。念のため町長サイズで。
残金17万0009円。
9円が惜しかったな。
さてと、早速コンテナから取り出してみると、しっかりと立派な木箱が現われた。オリジナルより若干飾り彫りが少ない。箱を空けてみると丁寧に畳まれた民族衣装が輝いていた。
ただしカラーがオリジナルと違った。
オレンジを基調とした物に置き換えられている。意味があるのかはわからないが、今まで見た感じだと、オレンジは民族衣装に使われていたので、癖の無い流通カラーなのかも知れない。
これならば問題無いだろう。
俺は木箱を抱えると、急いで町長部屋へと取って返した。
「お待たせしました。品物はこちらになります」
「おお、見せてくれたえ」
恭しく木箱を受け取ったのは、俺がいない間に現われた初老の男性であった。おそらく執事か何かだろう。
町長に渡す前に、一度蓋を軽く開けて中を確認するあたり、優秀さを感じる。
「ほう……これは見事な」
「ヴェリエーロ渾身の作品ですからね」
町長は俺の許可を取らずに服を引っ張り出すと、自分の身体に当てている。執事がどこからか小さな手鏡を取り出すと食い入るように覗き込んでいた。
「悪くは……ないな」
「良くお似合いです」
当たり障りの無いおべんちゃら。
「ふむ。これはもっと在庫は無いのかね?」
「残念ながら試作品ですので」
「ほうほう。この世に2着しか存在しないわけか」
「そうなります」
もっともチェリナが現地で量産してなければの話だが、それがわからないほどこの町長はアホではあるまい。
「これは譲ってもらえるのだろう?」
「もちろんですが、一品物ゆえ、それなりに頂戴いたします」
「ふむ。どの程度だね?」
ふん、ぼったくってやるわ。
「見ての通り、この地域では珍しい最高級の素材をふんだんに使用し、また新しいデザインで、涼しさも両立しております。その上で太陽から肌を守るデザインと——」
「口上はいい。価格を言いたまえ」
「……それでは。本来であれば50万……と言いたいところですが、この度の依頼料を鑑みて、45万で構いません」
「よし、すぐに……」
「旦那様」
町長が飛びつこうとしたところに、執事が割って入る。
ちっ。
やっぱりこっちが伏兵だったか。
「あー、んっんっ。それは少々ぼりすぎではないのかね?」
わざとらしく言葉を濁してから価格交渉に切り替える町長。お前の無駄使いが結果町を守る事になると言えないのが辛いところだ。
「いえいえ、有名なヴェリエーロ商会の麗しき女性商人による最先端デザインの一点物ですよ? 確かに私とほぼ同デザインにはなってしまいますが、私はこれを一生物として使いますので、普段着ることも無く、実質このデザインを常用出来るのはドドル閣下だけになりますから」
「それはそうなのだが……」
ドドル町長がチラリと執事に視線を投げる、執事は小さく首を振った。
「あー。私としてはその価格に相応しい一品だと理解しているが、町長とはいえ薄給なのも確か。そして時に身分の高い人物と面会せねばならぬ時もある。どうだろう、この町を助ける気持ちを持ってもらえまいか」
どんな理屈だ、とも思わないが、まあわからないでも無い。どのみち執事を見た時点で交渉があるのはわかってたからな。
「そうですね……確かにこの規模の町を管轄する町長ともなれば、身だしなみもそれなりの物が必要になるでしょう」
「うむ。そうだろう」
「本来であれば売る事すら躊躇する一品ですが……わかりました。特別の特別、40万でお譲りしましょう」
「ふ、ふむ」
ドドル町長が再び執事に視線をやる。町長からは「もうこの辺でいいだろ?」オーラが漂っていた。だが執事は細い目をさらに細くして町長に視線を返すだけだった。
「あー、もう一声なんとかならんかね?」
もう交渉でもなんでもねーな。
仕方ない、そろそろ終わりにするか。
「それは……」
「町長というのは意外と金が無い物なのだよ」
嘘をつけと内心悪態をつく。
「すみません、これ以下ではとてもヴェリエーロ商会に顔が立ちませんので、この話は無かったことに……」
「さ! 35万でどうだね?! もちろん即金で渡そう!」
町長の叫びに、執事が小さくため息をついた。きっといつもの事なのだろう。
「……35万……ですか……正直利益にならないのですが」
「そこを曲げて頼むと言っている!」
頼む態度か、それが。まあ金持ちのボンボンならこんなものか。十分利益が出るしな。
「わかりました。本当に特別ですからね?」
「ああ、わかっている。よし、さっそく着替えてこよう。後のことは家人に任せる」
「了解いたしました」
その後、偵察依頼の契約と、防衛依頼の青写真だけ作成しておいた。防衛の方を使う事態にはならないと信じたい。
偵察依頼の方は、執事がシビアで、人数に関わらず、一グループで3万だと書類を見せてきた。元々の依頼内容のままなので、特に問題無いとサインして置いた。
合計38万を頂いた。普通後払いらしいのだが、そこは特別にということらしい。おそらく払いが渋いと思われて逃げることの方を警戒したのかも知れない。
そもそも逃げるのであれば、後払いにしたところで、諦められる金額だからな。防衛依頼の方が美味しいと思わせておけば十分と考えたのだろう。服の件はきっと想定外だったに違いない。
安心しろ、利益分は殲滅に使ってやるよ。
残金55万0009円。
そんなこんなを終わらせて外に出ると、オレンジを流し込んだ空色と化していた。しばらくしたら日が落ちるだろう。
ゆっくりと車を進ませながら、3人に言った。
「今夜の事なんだが、少し町を離れてこの車に寝泊まりするぞ」
「問題なかろ」
「ククク、了解じゃ」
「むしろ、贅沢」
「今夜は作戦を練りつつ、しっかり準備していこう」
「うむ。だが訓練はするぞい?」
「冗談……だろ?」
「ククク……訓練という物は毎日続けるもんじゃからな」
「同意。だが、軽くに、しておこう」
「おお! 珍しく話がわかるなヤラライ!」
「だから、俺の格闘に、名前、つけろ」
「うをーーい!」
一瞬でも感動した俺が馬鹿だったぜ!
まったく腹立つわ! こいつら!
町から少し離れると、腰高の岩がごろごろと転がっていて、まともに前に進めなくなるが、ヤラライが天井から時々ルートを指示してくれたので、十分に離れた場所にキャンプを張ることが出来た。
夜飯前の訓練を、ヘッドライトに照らされて終了する。
今夜は弁当で許してもらう事にして、俺はシャワーをゆっくりと浴びた。
「そんじゃブリーフィングを始めるか」
外の暗さとは対照的に、蛍光灯のまぶしいキャビンで俺が宣言した。
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