第21話「三匹と交渉」
一昨日、ミスで19話をアップしなければならい所を、20話をアップしてしまいました。
結果として2話更新となりました。
読んでいない方や不安な方はお手数ですが「前の話」からご確認ください。
「いや、君たちには別の仕事を依頼したい。この町の防衛だ。もちろん依頼料は相場の倍……いや3倍は保証しよう」
「お断りいたします」
俺は間髪入れずに返答した。
このハンション町のドドル・メッサーラ老け顔30歳町長は満足げに頷いて、そして動きを止めた。ゆっくりと顔を上げる。
「今、何と言ったかね?」
「お断りいたします、と」
おれは一言一句違えずに繰り返した。途端にドドル町長の顔にシワが寄る。なるほど、自ら30歳であることを強調する理由がわかったぜ。
「私の耳が病に掛ったのでは無ければ、私の直接依頼を断っているように聞こえるが」
「そもそも私たちが受けようとしているのは調査依頼なのですが、どうして防衛などという話に?」
「有名な武人が二人も現れたとなったら、誰でも出来る末端の仕事に割り振るのは非効率だろう? もっとも効率の良い場所に配置するのは町長としての義務だと信じているが」
町長の質問に答えず、誘導尋問の流れに成功した。
「なるほど、私は偶然出会ったこのお二人に護衛をお願いしているのですが、確かに得がたい武人ですからね」
「ああ。そういえば君があのとんでもない馬車の持ち主なのかね?」
「緊張で名乗るのを忘れておりました、旅商人のアキラと申します」
「ふむ……聞いたことがないな。この辺りの事情には詳しいつもりなのだが」
「ピラタス方面から参りましたもので」
「ああ、あの田舎王国か」
ドドル町長の言いように、片眉が上がる。たしかにあの豚王ではそう言われてもしょうが無いが、なぜかイラっとした。言動に影響しないよう気をつけよう。
「それにしては王侯貴族が持つような馬車ではないかね?」
「父の代で見つかったアーティファクトを譲り受けたのですよ。最近まで使い方がわからなかったので、知名度はありませんが。所でまさかと思いますが、私の馬車に何かしたりは……」
「失敬だな君は。指一本触れておらんよ。ただ、貴重なガラスの操車席から、中が覗けたと聞いたのでね」
「それは大変失礼しました」
しまった。カーテンでもしておけば良かったぜ。鍵は閉めてあるので、中を調べられたりはしていないだろうが。
「まったくこれだから商人という生き物は……、いやそれより何か誤解があるようだな。報酬3倍というのは安い防衛の依頼の3倍ではなく、偵察依頼の3倍……いや、もっと色をつけようという話だそれもそれぞれに払っても良い」
そうか、防衛依頼が1万で、偵察が3万だったか。こっちがそれを勘違いしたと思っているらしい。しかし聞きたい事はもう少し別だ。
「なるほど。しかし、町の防衛とはどういう事でしょう? ゴブリン程度ならば殲滅してしまえば良いかと? 依頼に無かったもので選べなかったのですが、これからご依頼であれば私どもで引き受けさせていただければと思いますが?」
するとドドル老け顔町長が眉間にしわを寄せる。
「……まぁ、確かに、ゴブリン程度であれば殲滅するに限るわけだが……」
「はい。私どもお任せいただければ豪傑で知られる二人で確実に壊滅を……最低でも、瓦解はお約束できますが?」
「……」
ドドルが花のお茶を優雅に啜る。だが、眉間の皺はほどけない。
「これは内密にしていただきたいのだが……」
「はい」
「実はゴブリンどもは一般的な集落ではなく、大規模なコロニー……ゴブリンハザードを起こしている……可能性が高い」
「なんと……!」
よし。一番聞きたかった情報を裏取りできた。きちんと町長が把握している事もな。
「場所は鉱山跡と噂になっておりますが、規模はどの程度になっているのですか?」
「……恐らく数百。もしかしたら千に届くかもしれない」
「それは……」
まさに苦虫を噛みつぶした表情で語る町長。
「ならば余計に偵察にはそれ相応の腕が無いとダメなのでは?」
「まあ、確かにその通りなのだが」
「酒場で感じた事なのですが、それが出来る腕利きは商人護衛についてしまったと存じますが」
「……」
「そうですね……、それではこういたしましょう?」
「なんだね?」
「偵察依頼の件、予定通り私どもで受けましょう」
「それは……」
「そして、戻り次第、防衛依頼をお引き受けすると言うことで。ああ、もちろんお約束の金額は頂きますが」
「なるほど……商人、最初からそれが狙いだったな」
「ははは、欲深いもので」
「正直なのは美徳だが、嫌われるぞ」
言葉とは裏腹にドドル町長には小さな笑みが戻っていた。
「それでは契約書を交わしてしまいましょう。ああ、防衛依頼の方は金額のみの覚え書きで構いませんよ?」
「うむ。後は家人に任せる」
「わかりました」
お互い笑顔で手を握り合う。交渉成立だ。
そこで話は終わりかと思ったのだが、町長の視線が俺の身体を捉えて放さない。俺にその気はねぇぞ?
「ところで、その服なのだが随分と珍しいデザインだね?」
「ええ、町長にお会い出来ると言うことで、虎の子の衣装を引っ張り出してきました」
見ていたのは服でした。
……ゴブリン戦でYシャツが再起不能になったっていう理由なだけだけどな。
「最近廃れ始めた民族衣装を意識しつつも、斬新なデザインを取り込み、着易さを重視しているように見える。それを考えたのはよほどのデザイナーなのでは無いのかね?」
なるほど、この服に興味をお持ちのようで。
「これはヴェリエーロ商会という有名な商会のアイディアによる試作品なのですよ。少々ご縁がありまして、無理に売っていただきまして」
「ほう、あのヴェリエーロの……」
「ご存じで?」
「この地域で商売をするものか、行政に関わるもので知らぬものはおらぬだろう。あそこは塩を初めどの商品も質が良い。ピラタスの良心とも言えるだろう」
「それは彼女らが聞けば大変に光栄に思うことでしょう」
そこでピクリとドドル町長の眉が反応したのを見逃さなかった。
「あの女傑と面識が?」
「恐らくですが、そのご息女と運良く面識が出来まして」
「ほう……」
「この服も彼女のデザインなのですよ」
「親譲りの商才だけでなく、このような先進的なデザインまでこなすとは、噂以上の傑物のようだね。そのご息女は」
「そうですね。恐らくもっと大きな事を成し遂げる方でしょう」
「ふむ……たしかに一商人で収まる器では無いのかもしれんな。なにせあの魔女……いや、なんでもない」
ギリギリ聞こえましたよ。あれが魔女なのはまったくもって同感だぜ。
「ところで相談なのだが、その服を譲ってもらう事はできんかね? 幸い身長はそこまで変わらん様だし……」
「言われてみれば身長は同じくらいですね」
おや、これは……。
ダメ元でふっかけてみるか?
「私が着ている物では古着になってしまいますし失礼に当たりましょう」
「恐らくだが、清掃の空理具を使っているのだろう? それほど程度の良い服であれば、貴族とて古着とは思うまい」
「しかしこれは私の特別な一張羅でして……」
「なるほど、ではそれ相応の報酬を約束しよう」
このおっさん、なんていうか交渉は苦手みたいだな。空手形をばんばん切ってきやがる。そこで部屋や屋敷の様子を思い出す。もしかしたら金持ちのボンボンなのかもしれない。
「そうですね……これは内密にお願いしたいのですが……」
「なんだね?」
「実はこの服とほぼ同じ物を1着だけ所持しておりまして……」
「ほう! それは!」
「もっともこれと同じように試作品の一つであり、なに分流通して無い代物でして……」
「ふん。商人の口上はいつも同じだな」
「ははは、お見通しですか。それでも良ければ……お話をさせていただきますが」
「……良いだろう。物を見させてもらおうか」
そこで俺は少し考える。
SHOPに登録された民族衣装はまだ購入していない。どの程度同じ物が出てくるのか予想が出来ないことと、これを購入すると所持金が半額になってしまう。もしその状態で売れなければ、今後の作戦に支障を与えてしまう。
俺が悩んでいるのを、売り渋りと勘違いしたのか、町長の方から話を振ってきた。
「なに、後悔はさせぬよ」
どことなくせわしげに俺をせっついてきた。
ああ、これは買うな。
俺は3人に目配せで合図した。
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